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長期暴露と発がん性

ドキュメント内 62. Coal Tar Creosote コールタールクレオソート (ページ 105-110)

7. 実験哺乳類および in vitro 試験系への影響

7.3 長期暴露と発がん性

マウスを用いた古い実験で、局所適用によってクレオソートの発がん活性を指摘してい るものがある(Woodhouse, 1950; Lijinsky et al., 1957; Poel & Kammer, 1957; Boutwell &

Bosch, 1958; Roe et al., 1958; Table 28参照)。腫瘍の種類には、皮膚がん・乳頭腫のみな らず肺がんも含まれていた。しかしながら、これらの一部の実験では被験動物数が少ない、

対照群が設定されていない、用量情報が不十分である、クレオソートの詳細が不明である ことなどから限界があった。いずれの実験でも用量反応関係の報告はない。

BaP含量が異なるコールタールクレオソート2試料を用いて、78週間の皮膚発がん性試 験が行われた(Buschmann et al., 1997、Table 28およびTable 29参照)。試験した2種の クレオソート試料は、BaP を10 mg/kg含有のクレオソート1(CTP1)と、275 mg/kg含有 のクレオソート2(CTP2)であった。両試料はトルエンで希釈し、雄CD1マウス(各群62匹) に塗布された。塗布溶液中のBaP含量は、CTP1が0.2、0.5、1.4、4.1 mg/kg、CTP2が

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1.3、3.8、12.6、37.6、113 mg/kgである。マウスには、25 µLの溶液を週に2回、78 週 間にわたって塗布した。一部のマウスでは、潰瘍形成のため投与を中断せねばならなかっ た。高用量群(CTP2の113 mg/kg群)で生存期間が短縮した。同群での試験は274日で終了 した。

両調製液から、扁平上皮がんと乳頭腫が認められた。これらの腫瘍がみられたのは塗布 部位のみであった。他器官の検査は行なわれていない。CTP2では、腫瘍発生率が用量依存 性に、統計的に有意に(

P

< 0.05)上昇した。CTP1では、BaPとして4.1 mg/kgの最高濃度 になる用量で腫瘍発生率が上昇したが、これは統計的に有意とはいえない(Buschmann et al., 1997)。

本試験はドイツ環境省の依頼で行なわれた(Mangelsdorf et al., 1998)。リスクアセスメン トの算定根拠をAppendix 1に記載する。この分析によると、同一用量レベルでは潰瘍形成 の有無による腫瘍発生率の違いがなかったことから、潰瘍形成が腫瘍の第一原因ではない といえる。リスク算定には、潰瘍形成による投与中断がなかったマウスのみを考慮に入れ た。生存期間短縮を補正すると、観察された腫瘍発生率と両 CTP 試料の溶液中BaP 含量 の間に直線的関係が認められた。

両クレオソートの試料から4.9 × 10–3腫瘍/(動物×µg BaP)の曲線スロープが求められ、

このスロープでは対照と比べた場合の皮膚腫瘍数の増加と投与期間中の総BaP(クレオソー ト)塗布量の間に関連性があることを示している。

この試験から、皮膚がん発生率の生涯リスクはクレオソートで 10–4と算定されたが、こ れはBaP用量では1 ng/kg体重/日に相当する(CSTEE, 1999):

スロープファクター = 4.9 × 10–3腫瘍/µg BaP/全投与期間(546日) = 2.7腫瘍/µg BaP /日

= 1.3 × 10–1腫瘍/µg BaP/kg体重/日(マウス体重 0.02 kg) = 1.3 × 10–4腫瘍/ng BaP /kg体重/日

生涯にわたって暴露した場合に腫瘍発生率25%を誘発する1日用量 T25を用いても、同 一の結果が算出された。

BaP含量に基づくと、クレオソートの腫瘍発生作用はBaP単独で予測される強さの5倍 になるようである。この結論は、クレオソート溶液投与マウスの腫瘍発生率を、BaP 純品 溶液を並行して投与した陽性対照群のマウスの腫瘍発生率と比較して得られた。

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この長期試験で認められた非腫瘍性影響は、皮膚潰瘍形成、生存期間の短縮などであっ た(Table 28とTable 29参照)。

腫瘍発生試験で、雌 Sutter マウス(

n

= 30)に 1 滴のクレオソート原液(米国 Barrett Chemical Company製Carbasota)を週2回1ヵ月間局所投与した。1週間の間隔をあけて、

週2回のクロトン油(0.5%ベンゼン溶液25 µL)投与をさらに51週間行なった。対照群(対照

群1:クレオソートを1ヵ月間単独塗布し44週の観察期間を設ける、対照群2:クロトン

油を44週間単独投与)では腫瘍が発生しなかったが、試験群では46%のマウスで悪性皮膚 腫瘍が発生した(Boutwell & Bosch, 1958)。類似の石炭由来の液体も、CD-1マウスで腫瘍 発生活性を示した(Mahlum, 1983; Mahlum et al., 1984)。

クレオソートの数種の画分(化学的組成の詳細不明、担体:ベンゼン)を、雌マウス(

n

= 20) の皮膚に週2回、合計72~145回塗布したところ、皮膚腫瘍数と潜伏期間の双方について BaPの発がん作用を増大することがわかった(Cabot et al., 1940; Sall & Shear, 1940)。マ ウスによる皮膚バイオアッセイでは、クレオソートPAH 成分5種(アントラセン、クリセ ン、ピレン、フルオランテン、フェナントレン)からなる人工混合物を用いて、2 年間発が ん性試験が行われている。5種のPAH物質をそれぞれ0.1%含有するトルエン溶液は、73 週間の潜伏期間を経て23%のマウス(雄C3H/HeJマウス、

n

= 20)に腫瘍を発生させた。こ

の溶液に0.001%のBaPを追加すると、66週間の潜伏期間後に47%で腫瘍が発生した。ま

た、コールタールのトルエン溶液(BaPを0.0006%含有)は、73週間の潜伏期間を伴って51%

に腫瘍を発生させた。トルエン中の両濃度のBaPそれ自体は皮膚腫瘍を発生させなかった (Warshawsky et al., 1993)。その一方、BaPといくつかの石炭留出物を局所に同時投与し た結果、BaP単独投与に比べてマウス(雌Charles River CD-1、

n

= 27~30)での皮膚腫瘍 形成は増加しなかった(Springer et al., 1989)。

吸入あるいは経口/給餌暴露によるクレオソートの発がん性試験は行われていない。都 市ガス工場の廃棄物処理場のコールタール試料など類似の混合物を雌 B6C3F1 マウスに 2 年間混餌投与した結果、肝がん、前胃扁平上皮乳頭腫・がん、細気管肺胞上皮腺腫・がん、

小腸腺腫など、数種の腫瘍が用量依存性に増加した(Culp et al., 1998)。これらのコールタ ール飼料混合物中のBaP含量は、観察された腫瘍形成の部分的な指標に過ぎないことがわ かった(Goldstein et al., 1998; Culp et al., 2000; Gaylor et al., 2000)。

クレオソートの個々の成分のうち、ベンゾ[

a

]アントラセン、BaP、ベンゾ[

k

]フルオラン テン、クリセンなど少なくとも数種のPAHは、立証された発がん物質である(IPCS, 1998)。

カルバゾール(Weyand et al., 1993; IARC, 1999)、キノリン(La Voie et al., 1988; Weyand

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et al., 1993)、チオフェン (Tilak, 1960)など、一部の複素環式化合物でも発がん性が示唆さ れている。一部のフェノール化合物も発がん促進活性をもつと考えられる(IPCS, 1994, 1995)。

クレオソートに汚染された環境中では、肝細胞がん・腺腫が魚類で報告されている(§9 参照)。

ドキュメント内 62. Coal Tar Creosote コールタールクレオソート (ページ 105-110)