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9. 実験室および自然界の生物への影響

9.2 自然界

9.2.2 水生生物

入手できる研究はない。

9.2.2.2 無脊椎動物

クレオソートをはじめとするコールタール誘導体が極めて近くに存在する河口で育つコ ケムシ

Schizoporella unicornis

の卵室の過形成が観察された。この変化は、正常なコロニ ーを汚染された場所に移動させる実験によっても、7~9 日以内に誘発することができた (Powell et al., 1970)。

フィンランド中央部のクレオソート汚染されたJamsanvesi湖で、かごに入れて10ヵ月 間置いたイシガイの一種

Anodonta anatina

について、クレオソートの長期暴露の影響の生 態エネルギー指標として閉殻筋中のグリコーゲンおよびタンパク質を分析した。汚染地域 にもっとも近いイシガイは、総PAH濃度がもっとも高く、閉殻筋中のグリコーゲンおよび タンパク質濃度はもっとも低かった。この有害作用は、クレオソート成分による化学的ス トレスに起因するものと考えられる(Hyötyläinen et al., 2002)。

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Little Scioto川(米国オハイオ州)のクレオソート汚染された底質に、野外現場(暴露チャン バ内)でニセネコゼミジンコ(

Ceriodaphnia dubia

)(甲殻類)を48時間暴露した。生存率は、

14~82.5%(平均45.5%、

n

=7サンプル期間)で、上流の非汚染対照地点での生存率は75~

98%(平均85.7%、

n

=7)であった(Sasson-Brickson & Burton, 1991)。このように、野外現 場での毒性は、対応する実験室での試験よりいくらか低い結果であった(§9.1.2.2 参照、

Sasson-Brickson & Burton, 1991)。

Tagatz ら(1983)は、河口の大型底生性動物群集を、非汚染底質および人工的にクレオソ

ートで汚染させた底質の水槽内に8週間移植した。使用した濃度は0、177、884、4420 mg/kg 砂(名目、海洋仕様クレオソート)であった。クレオソート濃度が上昇するにつれ、固体およ び種の数が少なくなり、対照群集との差が大きくなった。多数の棘皮動物、環形動物、節 足動物が全濃度で影響を受けたが、軟体動物はもっとも低い濃度では影響を受けなかった。

種の多様性および優占度の指標の変化は中および高濃度で生じた。

ある川(Bayou Bonfouca; §9.2.1参照)のクレオソートで汚染された地点の底生性メイオ ファウナ(線虫、貧毛類など)はクレオソート汚染濃度が高いほど群集が有意に縮小していた。

著者らは、この反応は、底生微小生物の活動低下と関係があるとしている(Catallo &

Gambrell, 1987)。

9.2.2.3 脊椎動物

エリザベス川(米国バージニア州)の主としてクレオソート成分の PAH で高度に汚染

(2200 mg/kg乾燥底質)されている地点に生息するメダカの一種、小型定住型河口種のマミ

チョグ(

Fundulus heteroclitus

)は肝臓および肝外の腫瘍の高い有病率などさまざまな病理 学的異常を示していた(Vogelbein et al., 1990; Vogelbein, 1993; Fournie & Vogelbein, 1994, およびそれらの参考文献)。

Vogelbein ら(1990)は、マミチョグ(

Fundulus heteroclitus

)成体の 93%(56/60)に肉眼で 見ることができる肝臓病変があることを報告している。33%(20/60)で肝細胞がんを、73.3%

(44/60)で細胞変性巣を検出した。それらの魚の大部分には、中等度から重度の肝細胞リピ ドーシスおよびセロイドーシスがみられ、それらはより低汚染(61 mg/kg乾燥底質/PAH)の 地点でもみられた(n=30)。腫瘍性病変は、低汚染地点および汚染がほとんどない対照地点 (PAH 3 mg/kg乾燥底質、

n

=15)では検出されなかった。高度に汚染された地点から2年間 にわたって(1989年10月~1991年)採取した1300匹のマミチョグでは、肝病変に加えて、

20例の膵外分泌腺腫瘍が認められた。サブサンプルにおける膵腫瘍有病率は3.3%(8/240、

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1991年10月採取、サイズ不同)および6.7%(8/120、1991年10月採取、全長>75 mm)で あり、腺腫は5%(6/120)、がん腫は1.7%(2/120)であった。膵腫瘍があった魚すべてに肝細 胞の病変もみられた。そのほかの観察された増殖性病変(数不記載)には、胆管、脈管系、腎 臓、リンパ系組織の腫瘍がある(Fournie & Vogelbein, 1994)。さらに、この地点で採取され たマミチョグの肝病変では、隣接する正常肝組織に比べてCYP1A1レベルが低かった(Van Veld et al., 1992)。

汚染されたエリザベス川のマミチョグ(

Fundulus heteroclitus

)は慢性的病変を示したが、

対照地点のマミチョグとは異なり、クレオソート汚染底質の急性作用には耐性を示した (Van Veld et l., 1991; Armknecht et al., 1998)。催奇形性(心奇形)を調査した試験では、高 度に汚染されたエリザベス川の地点および対照地点(York 川)の野外で採取し実験室で育て たマミチョグ胚は、地元の汚染底質への耐性が高まっていることがわかった(Ownby et al., 2002)。その他、いくつかの毒性学的エンドポイントを調べる最近の試験で、エリザベス川 の高度にクレオソートに汚染された地点で採取したマミチョグの感受性が低下しているこ とが確認された。また、これらの作用が最初の世代では明らかであるが、実験室の清潔な 条件下にある次世代では低減することがわかった(Meyer & Di Giulio, 2002; Meyer et al.,

2002, およびその参考文献)。エリザベス川の汚染地域で捕獲されたスポット(

Leiostomus

xanthurus

) および北米淡水カレイ(

Trinectes maculatus

)では、マクロファージ活性が減退 していることがわかった。腎マクロファージの走化性および食作用効率は、対照の川の魚 に比較して有意に低下していた(Weeks & Warinner, 1986)。同地域からのオイスター・ト ードフィッシュ(

Opsanus tau

)でも腹膜マクロファージの食作用活性が変化していた (Seeley & Weeks-Perkins, 1991)。

クレオソートによる汚染がきわめて高い沿岸環境であるプージェットサウンドの Eagle 港(米国ワシントン州)の魚類でも、肝腫瘍やその他の肝臓病変の有病率が上昇していること がわかった。1983~1984年に港の汚染(平均総PAH濃度:2.8~120 mg/kg乾燥底質)地点 3ヵ所からイギリスガレイ(

Parophrys vetulus

、底生性定住型海洋魚の一種)の成体を採取し、

調査した(Malins et al., 1985)。肝腫瘍(肝細胞がん、胆管細胞がんなど)27%(20/75)、およ び細胞変性性の病巣(前がん性と推定される損傷)44%(33/75)などの影響がみられた。これら の病変は、対照地域の魚(n=40)では検出されなかっただけでなく、以前に調査した Eagle 港近傍の4地点(7~11 km離れた地点)の魚でも検出されなかったか、検出されても有病率 は低いものであった(1.1~2.5%) (Malins et al., 1984, 1985)。1986~1987年の産卵期に

Eagle 港で採取したイギリスガレイ(産卵前の雌、

n

=41~50/群)には生殖障害がみられた

(Johnson et al., 1988)。

クレオソート汚染地点の魚組織中のDNA-PAH付加物検出については§6.6で考察した。

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9.2.2.4 プランクトンおよび魚による野外ミクロコズム研究

下記のパラグラフで取り上げる試験は、野外の実験的ミクロコズムを用いて行われた。

ミクロコズムは灌漑用の池の淡水(約12000 L)と他所からもってきた底質を用意し、規定量 の液体クレオソートを加え、自然光と降雨に曝した(Karrow et al., 1999; Whyte et al., 2000; Sibley et al., 2001a,b)。

試験のひとつでは、淡水ミクロコズムにクレオソートを単回加えて動物プランクトン群 集への反応をみた(Sibley et al., 2001a)。海洋仕様のクレオソート(カナダ、ブリティッシ ュ・コロンビア州バンクーバー Stella Jones社)を名目濃度0.06~109 mg/Lで14のミク ロコズムに適用(表面下への注入)し、2 つのミクロコズムを対照とした(Bestari et al., 1998a; §4.1.2 参照)。大きく 4 つに分類した群(枝角類、カイアシ類、貝足類、ワムシ類) に属する総計86種が認められた。クレオソートは、動物プランクトンの存在量およびその 分類群の数に用量依存性の急激な減少を引き起こし、最大反応(個体群密度の50~100%低 下)は処置後5~7日後に生じた。多くの分類群では処置後の期間中に対照のレベルまで回復 したが、その程度と回復期間はクレオソート濃度と極めて強く相関していた。1.1 mg/Lを 超える濃度では、種の組成に著しい変化がみられた。名目濃度に基づいて推定した、総動 物プランクトン量に関する50%有効濃度(EC50)(95%CI)は,5日目および7日目で、それ ぞれ44.6(40.9~48.2)および46.6(45.8~47.4)µg/Lであった。相当する無影響濃度(NOEC) は、それぞれ13.9および5.6 µg/Lであった。測定した総PAHに基づくと、EC50は5.3(2.7

~5.9)および2.9(2.6~3.3)µg/L、NOECはそれぞれ7.3および3.7 µg/Lである。

上記試験(Sibley et al., 2001a)の一部として、淡水性植物プランクトン群集へのクレオソー トの作用も調査された(Sibley et al., 2001b)。植物プランクトン(総存在量の48~81%を緑 藻網[約200種]が占め、残りが藍藻網、ユーグレナ藻網、黄金色藻網、珪藻網、クリプト藻 網、渦鞭毛藻網)を処置7日および1日前、処置後7日および21日に採取した。総存在量 および分類群に基づくと、植物プランクトンへのクレオソートの直接的な有害作用はみら れなかった。逆に、大部分の処置群で、群集密度および分類群数が、対照に比較して勝っ ており、クレオソート濃度との関係において放物線状の関係を示した。この反応は動物プ ランクトン群集への深刻な影響で個体数が減ることによって、植物プランクトンへの捕食 圧が低下したことに起因すると考えられる(Sibley et al., 2001a, b)。

さらなるミクロコズモ試験では、クレオソート(製造者その他の詳細不記載)の魚類に対す る免疫毒性の有無(Karrow et al., 1999, 2001)、およびそのほかの影響(Whyte et al., 2000) が 調 査 さ れ た 。 ミ ク ロ コ ズ モ へ の ク レ オ ソ ー ト 添 加 後(103~108 日)、 雌 ニ ジ マ ス

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(

Oncorhynchus myskiss

)をミクロコズモに28日間止水状態で入れた。Karrowらは初期濃 度(名目) 0、5、9、17、31、56、100 µl/Lを用い、いくつかの免疫パラメータに有害な変性 を認めた(

n

=15/濃度、対照

n

=30)。濃度依存性の変化が免疫パラメータで観察された。これ らの免疫に関する影響のLOEC は 17 µg/L(名目濃度)であり、水中の総 PAH濃度611.63 ng/L(暴露15日目に測定)に相当する。クレオソート濃度100 µl/Lではすべての魚が3日以 内に死んだ。低濃度で観察された死亡は名目濃度に関係していないようであった(Karrow et al., 1999)。

追跡試験で、クレオソートに誘発された免疫の変調は、濃度のみでなく暴露期間にも依 存し、暴露初期に刺激あるいは抑制反応を示し、28 日後には対照レベル近くまで回復する ことが判明した(Karrow et al., 2001)。

さらに、ミクロコズモで 0、3、10 µL/L(水中の総PAH濃度0、1158.9、2030.6 ng/Lに 相当、暴露開始時に測定)に暴露したニジマス(

Oncorhynchus mykiss

)(

n

=10/群)の眼の傷害

(水晶体の光学的品質の変化)、および肝EROD活性を調査した。28日間暴露後、水晶体の

光学的品質(焦点の鋭さ)は、焦点距離のばらつきの増大に示されるように、対照に比較して 有意に低下し、EROD 活性は有意に上昇した。両作用はクレオソートの用量に依存して高 くなった(Whyte et al., 2000)。

ドキュメント内 62. Coal Tar Creosote コールタールクレオソート (ページ 140-144)