5. 環境中の濃度とヒトの暴露量
5.3 職業暴露
5.3.2 作業員の体液モニタリング
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木材をクレオソートで加圧処理する作業員の暴露測定調査で、綿手袋付き受動型線量計 お よ び 作 業 着 の 下 に 装 着 す る 木 綿 の 全 身 線 量 計 に よ り 皮 膚 暴 露 量 が 評 価 さ れ た (Bookbinder & Butala, 2001)。作業サイクルの終了時に手袋および全身線量計が取り外さ
れ、9種のPAH(クレオソート成分、その他の詳細不明)についてGC-MSによる分析が行わ
れた。保護手袋を着装していない作業員、ならびにクレオソートに直接接触する作業員で、
皮膚暴露量が最高値を示した。皮膚暴露量(µg クレオソート/kg 体重/日)の大部分は手部 (104.6)にみられ、腕部25.1、胴上部21.8、胴下部14.8、脚部28.8であった。
更なる試験で、クレオソート暴露した木材処理作業員における吸入と皮膚暴露の関係を 明らかにするため、フルシフトの呼吸域大気試料が捕集され、ベンゼン溶解性画分、なら びに16種のPAHそれぞれの粒子状・ガス状画分についての分析が行われた(Borak et al.,
2002)。尿中1-ピレノールレベルがシフト後および次の日の尿サンプルで測定された。空気
中の濃度は低いと思われたが、一部の作業員がクレオソートに暴露していたことや、皮膚 経路を介する以外には考えられない全身吸収が生じていたことを示す有力な証拠が、尿中 1-ピレノールの測定(値)から得られた(Borak et al., 2002)。
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Jongeneelen, 1992; Van Rooij et al., 1993a; Viau et al., 1993; Elovaara et al., 1995;
Heikkilä et al., 1995; Borak et al., 2002)に関して得られたデータをTable 26にまとめてあ る。この調査は、カナダ、フィンランド、オランダのさまざまなクレオソート関連の作業 環境(木材含浸、処理木材取り扱い、クレオソート生産)の作業員について行われた。暴露し た作業員とコントロールあるいは他のバックグラウンドレベルには明らかな違いが認めら れた。
フィンランドの木材含浸工場作業員の尿中 1-ナフトール濃度の幾何平均値(Heikkilä et al., 1997)は、ポーランドのクレオソート含浸枕木にスイッチ部品をセットする組立工で認 められたもの(Heikkilä et al., 1995)と同程度であった(1350 vs. 1370 µmol/mol クレアチ ニン、Table 26参照)。木材含浸工場作業員では、ナフタレンのTWA濃度とシフト終了時 の尿中1-ナフトール濃度はかなり高い(
r
= 0.75)相関関係を示す(Heikkilä et al., 1997)が、組立工の場合、この相関関係は低い(
r
< 0.5) (Heikkilä et al., 1995)。木材含浸作業員の平均尿中 1-ピレノール濃度(64 µmol/mol クレアチニン)(Elovaara et al., 1995)は、組立工の場合(Heikkilä et al., 1995)の10倍を示した。他の木材含浸工場から 報告された 1-ピレノール濃度は、0.2 µmol/mol クレアチニン(Viau et al., 1993)~82 µmol/mol クレアチニン(Jongeneelen, 1992)であった(Table 26参照)。
クレオソート生産のコールタール蒸留工場作業員で、最大12 µmol/molまでの1-ピレノ ールの幾何平均値(中央値)が測定されている(Jongeneelen et al., 1986)(Table 26参照)。
高度にクレオソート汚染した土壌の清掃作業に従事している作業員の尿中 1-ピレノール のモニタリング(§5.3.1.1 参照)では、掘削機やトラクターの運転手(
n
=10)などに多少の暴 露発生が示唆され、濃度(クレアチニン量で補正)は、作業時間以前で<0.5~23.7 nmol/L、作業中で3.3~233 nmol/Lであった。濃度の上昇は、主として皮膚保護が充分でなかった
ためと考えられた(Priha et al., 2001)。
ピレンの呼吸域大気濃度と尿中1-ピレノールの相関関係は、木材含浸作業員(Van Rooij et al., 1993a; Elovaara et al., 1995)および組立工(Heikkilä et al., 1995)の両方で低い(
r
< 0.5) ことが分かった。枕木を加熱しクレオソートで加圧処理する工場のクレオソート作業員の グループでも、この相関関係は同様に低かった。ほとんどすべての体内用量が吸入暴露で はなく皮膚暴露に起因するものと考えられる(Borak et al., 2002)。喫煙により尿への 1-ピレノールの排泄は増加するが、クレオソート暴露作業員のピレン への職業性暴露量が比較的高いため、これら作業員の 1-ピレノール排泄に対する喫煙の交
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絡影響を検出するのは困難である(Jongeneelen et al., 1986; Viau et al., 1993; Borak et al., 2002)。
Van Rooijら(1993a)は、オランダ木材含浸工場の作業員の尿中1-ピレノール量を、保護
衣着用の有無によって比較した。作業員がカバーオール非着用の日、月曜日の朝 8 時から 火曜日の朝6時までに採取した尿への 1-ピレノール排泄量は、作業員がカバーオールを着 用した日より多かった(Table 26 参照)。尿への 1-ピレノール排泄量の差は、ピレンによる 皮膚汚染の差と充分な相関関係を示したが、呼吸空間のピレン濃度の差とは余り相関しな
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結局、上述した調査では、尿中代謝物は皮膚を含むすべての暴露経路を反映させること から、大気中のPAH濃度より優れた総暴露量の指標となった。
クレオソート作業員の尿中BaP代謝物がモニターされなかったのは、少量の分析が困難 であったためと考えられる(Ariese et al., 1994; Grimmer et al., 1997)。
通常、PAH代謝物はクレオソートそのものに特異的ではないことに留意する必要がある。
しかし、親化合物は一般的によく認められはするが(IPCS, 1998)、予想される交絡因子を考 慮に入れれば、1-ピレノールと1-ナフトールはクレオソートPAHへの職業暴露の指標とし て有用であると考えられる(e.g., Van Rooij et al., 1994; Quinlan et al., 1995; Yang et al.,
1999; Viau, 2002)。しかしながら、クレオソートは複雑であるため、PAH代謝物が健康リ
スクの指標としても適切か否かは不明である。
クレオソート油(詳細不明)に暴露した作業員のグループで、白血球における PAH-DNA 付加体が就労週の最初(月曜日)と最後(金曜日)にモニターされた。調査結果から、就労週中 の総付加体量の増加と、形成された付加体タイプにおける著しい個人差とが認められた (Roggeband et al., 1991、§6参照)。