5. 環境中の濃度とヒトの暴露量

5.2 一般住民の暴露

一般住民は、クレオソートそのものやクレオソート含有の消費者製品、あるいは通常の 暴露経路(空気吸入、食物や水の摂取、皮膚接触)で環境媒体や食物に蓄積または混入したク レオソート成分に暴露する可能性がある。

個人的使用者がクレオソートに皮膚または吸入接触するのは、庭の柵や動物小屋などの クレオソート処理時、柵・庭の備品・造園に用いる枕木などのクレオソート処理材構造物 の取り扱いや使用時、あるいは農薬として別の用法によるクレオソート使用時である。こ れら暴露源からの直接の暴露を制限するため、クレオソートやクレオソート処理製品の個 人的目的のための販売や利用を制限している国もある(RPA, 2000; ATSDR, 2002)。

クレオソート処理したケージに囲い込まれた、あるいは汚染水中で捕獲された魚類や甲 殻類(§5.1.4 参照)の消費者は、蓄積したクレオソート成分やクレオソート代謝物を食事か ら取り込む可能性がある。米国(ATSDR, 2002)では、保健当局がクレオソート汚染した川 (Bayou Bonfouca, Willamette River)の魚を摂取しないように勧告している。

クレオソート工場、クレオソート廃棄場、クレオソート処理材焼却場付近の居住者は、

汚染した空気を吸入、表面が汚染した果物や野菜などを摂取、あるいは汚染した地下水を 飲むなどして暴露する可能性がある(BKH, 1995)。

クレオソート処理した遊具で遊ぶ子どもたちは、木材表面に溶出し、周辺土壌に浸出し、

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あるいは空気中に蒸発したクレオソート(成分)に暴露する可能性がある。処理材に触れ砂で 遊ぶ小児は、強い皮膚接触のみならず、手から口への移行による経口摂取も考えられる (BKH, 1995)。

小児のPAHへの多経路暴露評価の調査で1-ピレノールの尿中濃度を測定すると、都市部 で大気中PAHが比較的高濃度の場合でも、小児における総ピレンおよび総PAHの主たる 摂取源は食物のようである(Vyskocil et al., 2000)。クレオソートへの職業暴露調査(§5.3 参照)では、皮膚暴露がもっとも重要な暴露経路であることが報告されている。

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飲料水のクレオソート関連汚染に関するデータはわずかしかない(§5.1.2.1参照)。

飲料水ではクレオソートそのものをモニターすることはないが、数種の構成成分(Table 4

の“優先PAH”など)を時にモニターすることがある。

5.2.1 暴露データ

クレオソートが複雑で暴露状況がさまざまに異なるため、暴露プロフィールには著しい ばらつきがみられる。詳細な測定値は不足している。遊び場の遊具で遊ぶ子どもたち(Table 21参照) (BKH, 1995; BMU, 1995; EC, 1999)や、クレオソート含浸工場付近の住民(Table

22)などの重要な暴露シナリオに関し、BaPを指標物質とした多少の推定値が公表されてい

る(BKH, 1995)。

小児の暴露量については3種の計算が使用されたが、結果は1~2.6 ng BaP/kg体重/日

(Table 21参照)と同程度であった。大気中クレオソートに汚染した園芸作物を消費する人々

の暴露量は、1~70 µg BaP/kg体重/日(Table 22参照)と推定されている。概して計算され た推定値は、代表的な測定データに欠けるため多くの仮説を立てねばならず、非常に不確 実である。クレオソート発生源付近の人々の高濃度暴露が考えられるその他の成分や物質 (フェノールやクレゾールなど)に関しては、公表された暴露推定値はない。

5.2.2 ヒトの体液・組織のモニタリング

ヒトのモニタリング調査がカナダ・ケベック州デルソンのクレオソート含浸工場付近の 住民に関して行われている。尿中のナフタレンおよびピレンの代謝物(1-ナフトール、2-ナ フトール、1-ピレノール)が、暴露のバイオマーカーとして用いられた。工場から50~360 m 風下の住民30人から朝晩の尿(1999年8月中旬の土曜日の晩と月曜日の朝)を採取し、対照 群は工場の1.9~2.7km風上にある隣接した市町村の住人30人とした。可能な交絡変数を 勘案した後の 1- および 2-ナフトール排泄量は、コントロールより暴露群で有意に高かっ た(

P

< 0.04)。暴露群および非暴露群の1-ナフトールの幾何平均濃度(または5/95パーセン タイル、算術平均)は、晩でそれぞれ 2.04 (0.55/6.00; 2.59)および 1.36 (0.39/7.02; 1.94) µmol/molクレアチニン、朝で2.49 (0.77/8.43; 3.03)および1.17 (0.37/6.88; 1.64) µmol/mol クレアチニンであった。しかし、暴露群とコントロールの 1-ピレノールの排泄量には有意 差はなかった(

P

> 0.5)。工場に起因するピレンの取り込みはごく少なく、1-ピレノールの排 泄に有意な影響を与えなかったが、ナフタレンのほうが高揮発性で大気濃度が高いため、

取り込みは 1-および 2-ナフトールによってモニターすることができた(Bouchard et al., 2001)。

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