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生物蓄積と生物濃縮

ドキュメント内 62. Coal Tar Creosote コールタールクレオソート (ページ 59-63)

4. 環境中の移動・分布・変換

4.3 生物蓄積と生物濃縮

4.3.1 水生生物

野外モニタリング試験によって、クレオソート汚染場所に生息する無脊椎動物(Shimkin et al., 1951; Zitko, 1975; Dunn & Stich, 1976; Black et al., 1981; Malins et al., 1985;

Rostad & Pereira, 1987; DeLeon et al., 1988; Elder & Dresler, 1988)や魚類(Black et al., 1981; Malins et al., 1985; Pastorok et al., 1994)などの水生生物は、クレオソートに特有 である PAH および複素環式化合物を、基準値を上回る濃度で吸収していることが分かっ た(§5.1.4参照)。

無脊椎動物と脊椎動物の特徴的な違いが、Black ら(1981)のフィールド試験によって指 摘されている。昆虫およびザリガニ(

Procambarus

sp.)でのフェナントレン、1,2-ベンゾア ントラセンおよびBaPの濃度は、大部分の魚類(ブラウントラウト[

Salmo trutta

]、ホワイ ト サ ッ カ ー[

Catostomus commersoni

))よ り は る か に 高 値 で あ っ た 。 ヤ ツ メ ウ ナ ギ

(

Lampetra

sp.)は例外で、フェナントレンを底質の3.5倍増という高濃度で蓄積するとみ

られた。一般に、昆虫およびザリガニにおける PAH のプロフィールは底質でみられるプ ロフィールに近いが、魚類では低/高分子量PAHの割合がおおいに変化していた(§5.1.4 も参照)。

軟体動物および甲殻類の移転実験でもPAHの蓄積が示唆された。エリザベス川(米国バ ージニア州)沿いのクレオソート処理施設近くのPAH汚染底質で、産業汚染のない場所(米 国Piatatank River)から採取したカキ(

Crassostrea virginica

、総

n

= 約60)を用いて現地 暴露試験を行なった。暴露3日以内に、測定したPAH数種(ベンゾ[

a

]アントラセン/クリ

60

セン、ベンゾフルオランテン、BaP、フルオランテン、フェナントレン、ピレン)の濃度は 検出不能から 11.7 mg/kg 乾燥重量まで上昇し、その後 15 日間の観察期間中に安定した (Pittinger et al., 1985)。同様に、クレオソート汚染場所(米国フロリダ州Pensacola)近く の河口環境に6週間移転させたカキ(1群につき

n

= 5)では、軟組織でフェナントレン、フ ルオレン、ピレンの著しい増加がみられたが(図表示のみ)、ナフタレンの蓄積はなかった。

底質における最小の生物濃縮係数(BCF)はフェナントレンおよびフルオランテンで 0.3~

1.0と推定された(Elder & Dresler, 1988。比較的汚れのない場所からクレオソート流出現 場を通って流れる緩流河川(米国Bayou Bonfouca)へ移転させた二枚貝(

Rangia cuneata

; 1群につき

n

= 3~4)のむき身を4週間にわたって観察したところ、数種のPAH濃度の緩 やかな上昇がみられた。ベンゾピレンでの上昇がもっとも顕著で、暴露前(バックグラウン ド)濃度の87 µg/kg湿重量から2週間後の132 µg/kg湿重量、4週間後の600 µg/kg湿重 量への上昇であった(DeLeon et al., 1988)。脱皮直後および脱皮間期のカニ(ワタリガニ [

Callinectes sapidus

])におけるPAHの蓄積について、クレオソート流出現場に近いエリ ザベス川(米国)で調査が行なわれている。脱皮前と脱皮間期のカニのペア(1群につき

n

= 9

~12)を脱皮が完了するまで3日間かごに入れたのちの、総PAH(シクロペンタ[

def

]フェナ ントレン、フルオランテン、ピレン)の平均濃度は、両成長段階で肝膵および筋肉中で検出 不能値から有意な蓄積量まで上昇し、脱皮直後(肝膵/筋肉:9560/1380 µg/kg乾燥重量) のほうが脱皮間期(3360/498 µg/kg 乾燥重量)よりも高濃度であった。アセナフテン、ジ ベンゾフラン、フルオレン、フェナントレンなどの低分子量化合物は、コントロール、暴 露カニの両方で認められた(Mothershead & Hale, 1992)。

成熟アメリカウミザリガニ(アメリカンロブスター[

Homarus americanus

]、

n

= 詳細不 明)に、研究室での致死試験中にクレオソート(詳細不明)を0.3~2.5 mg/Lの濃度で暴露し たところ、肝膵においてコントロールに比べて相当高濃度の“クレオソート”が認められ た(3220~47500 mg/kg脂質vs. 670 mg/kg脂質、蛍光測定による)。肝膵でのクレオソー トの残留濃度は、暴露濃度(0.3, 1.3, 2.5 mg/L)に伴い、また非致死濃度0.3 mg/Lでの暴露 では120時間までは暴露時間に伴い上昇した(McLeese & Metcalfe, 1979)。クレオソート 汚染の小排水路から採取した底質を含んだ水槽に入れ、研究室で飼育したグッピー (

Poecilia reticulata

)の組織(肝臓を除く魚体全組織の混合試料;

n

= 不明)には、暴露後43 日に数種のPAH(アセナフテン、ベンゾ[

a

]アントラセン、ベンゾ[

b

]フルオランテン、ベン

ゾ[

k

]フルオランテン、BaP、クリセン、フルオランテン、フェナントレン、ピレン)がか

なりの量で残留していた。ナフタレンとフルオレンは魚組織中に検出されなかったが、底 質および水中では他のPAHと共存していた(Schoor et al., 1991)。ミクロコズム試験では、

ニジマス(

Oncorhynchus mykiss

n

= 10)の肝臓に、調べた16種のPAHのうち4種が認 められたが、暴露28日間でクレオソート量との関連はみられなかった。その一因として、

分析検出前の魚類での速やかな代謝が考えられた(Whyte et al., 2000)。

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クレオソート暴露に関連する生物濃縮係数(BCF)はほとんど算定されていないが、カキ と底質に関しては推定値が得られている(上述参照:Elder & Dresler, 1988)。近年、フィ ンランドのクレオソートで汚染した湖についてPAH数種の生物相-底質濃縮係数(BSAF) が算定された。ケージに入れたイシガイ科の二枚貝Duck mussel(

Anodonta anatina

)を4 ヵ所の実験場所の底質に 10 ヵ月間(1998~1999)暴露した。底質(有機質ベース)と Duck musselの組織(脂質重量ベース)のPAH(アセナフテン、フェナントレン、アントラセン、

フルオランテン、ピレン、ベンゾ[

a

]アントラセン)濃度から算出されたBSAFは0.79から 1.45 ま で 幅 が あ っ た 。 最 高 値 の BSAF(1.45)が ベ ン ゾ[

a

]ア ン ト ラ セ ン で 得 ら れ た (Hyötyläinen et al., 2002)。その他の試験においても、PAH、複素環式化合物、あるいは フェノール化合物など、数種のクレオソート成分に関する値がまとめられている(e.g., Lu et al., 1978; Southworth et al., 1978, 1980; Veith et al., 1980; Eastmond et al., 1984;

Sundström, et al., 1986; IPCS, 1995, 1998)。化合物、水生動物種、試験条件などによっ て、その値は広範囲にわたる。たとえば、BCF(生物/水(湿重量);IPCS, 1998)は、ナフ タレンでは19.3~10844(甲殻類で測定)、2.2~320(魚類で測定)、BaPでは458~73000 (甲 殻類)、12.5~4900(魚類)であった。一般に平衡濃縮係数は、同一化合物群内では分子量あ るいはlog

K

owの増加に伴って上昇した。たとえばオオミジンコ(

Daphnia magna)

におけ るベンゾ[

b

]チオフェンのBCF750とナフタレンのBCF50のように、一部の含硫黄複素環 式化合物はPAH対応物よりも高度に生物濃縮していることが分かった(Eastmond et al., 1984)。蓄積は共存物質の存在によっても影響を受けることがある。アントラセンの試験 で魚(ニジマス[

Oncorhynchus mykiss

])のBCFは、単一化合物暴露の場合と複雑な混合物 (オイルシェールレトルト水)暴露では異なっていた(Linder et al., 1985)。

水系食物連鎖内でのクレオソート PAH の生物濃縮は、魚類に関する限りはわずかなよ うである。その理由として脊椎動物では一般に無脊椎動物に比べてこれらの化合物に対す る代謝能が効率的なことがあげられる(e.g., NRCC, 1983)。

4.3.2 陸生生物

陸生環境では、クレオソート暴露後のその成分の生物濃縮に関するデータはわずかしか ない。

14C-アセナフテンおよび 14C-フェナントレンを用いたクレオソートのミクロコズム実験 で、ハイオハタネズミ(

Microtus canicaudus

)と土壌の間の蓄積(生物濃縮)係数が算定され た。計算( mg[14Cとして] /kgハタネズミ/mg[14Cとして] /kg土壌)の結果、係数はアセナ フテンでは31、フェナンントレンでは12となった(Gile et al., 1982)。

62 4.4 使用後の最終的運命

クレオソート構成成分の最終的運命は、成分の物理化学的性質、マトリクスの性質、分 解性あるいは蓄積性有機体の存在、環境条件に大きく左右される。成分は、移動の可能性 を伴って、大気に分配され(揮発性の高い画分)、水や土壌に浸出し(水溶性の高い化合物)、 あるいは土壌や底質粒子へ吸着される(

K

owの高い化合物)と考えられる。底質に吸着したク レオソート成分の移動も、コロイド状物質の移送を介して起きる場合もあると考えられる。

クレオソート成分のなかには、好気的・嫌気的生物的プロセスおよび非生物的プロセスを とおして容易に分解する成分もあるが、多くの高分子量化合物は難分解性で環境中に数十 年間も残留する。クレオソート成分の分解は親化合物よりも毒性や移動性が大きいと考え られる変換物質を生成する場合が多い(すなわち無機化されない)。海洋および陸生生物が クレオソート成分を生物蓄積する可能性もある。しかし、これは化合物のバイオアベイラ ビリティ、生物の摂食様式および代謝にかかっている。

前述のクレオソート関連の所見(§4.1~4.3)と一致し、底質および土壌はクレオソート成 分の中でもっとも難分解性の高分子量 PAH の主要な環境シンク(吸収源)である(IPCS, 1998)。しかしながら、再分配プロセスの可能性に注目すべきである。また、地下水は多 くのクレオソート構成成分の重要なシンク(吸収源)である(§5参照)。

クレオソートやクレオソート処理材を熱分解した際の、具体的な測定値はほんのわずか しかない(Marutzky, 1990; Becker, 1997;§2)。たとえば、小規模の焼却炉中でクレオソー ト処理材を燃焼すると、未処理材の場合に比べて、一酸化炭素、窒素酸化物、炭化水素の 放出値が上昇する(Marutzky, 1990)。実験室規模の燃焼実験におけるPCDDやPCDFの 分析では、予備段階の肯定結果が得られた(Becker, 1997)。さまざまな好ましくない燃焼 生成物が発生すると考えられるので、クレオソート残留物質は認可を受けた高温焼却炉で 焼却されるべきであると勧告されている(UNEP, 1995; HSDB, 1999)。とくに、250℃~

650℃の廃棄物焼却過程で発生するダイオキシンを破壊するには高温(~1000 °C)を要する (e.g., Tuppurainen et al., 1998)。

子どもの遊び場、その他公的あるいは私的な場所でクレオソート処理した枕木や電柱を 再利用することは、現在多くの国々で制限されている(RPA, 2000)。

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