海外建設協会創立60周年、誠におめでとうござ います。また、当社の海外事業活動について、会報 OCAJIへの寄稿の機会を与えてくださり、厚く御礼 申し上げます。
1. インド・ゴア港岸壁築造工事の技術指導
五洋建設の前身である水野組は、明治40年(1907
年)に台湾の馬公に始まり、次いで朝鮮半島でも土木・
建築工事を施工するなど、古くから海外活動を行っ ていた。しかし本格的な海外進出は、昭和32年(1957 年)4月に、インド・ゴアの鉄鉱石積出港岸壁築造工 事に技術指導団を派遣したことに始まる。
この工事は日本の建設業界にとっても、商業ベー ス工事としては戦後初の海外工事であった(戦後、建 設業が初めて海外に進出したのは日本政府が工事代金を支 払う、東南アジア諸国への賠償工事であった)。
この海外工事の技術指導は当社にとって、その後 のスエズ運河改修工事などの海外工事施工の足がか りとして貴重な体験となった。
2. スエズ運河改修工事の国際入札
昭和33年(1958年)に日本政府から浚渫業界に、
エジプト政府がスエズ運河の改修計画を立案してい るので調査団を派遣するようにとの要請があった。
エジプト政府のスエズ運河改修計画は、1960年 を初年度とする工期10年におよぶ大規模なもので あり、運河全線162kmの複線化と、最大級のタン カーが通行できるように水深を深くしようというも のであった。これまでの水深は約10mであったが、
これを11.5mか13.2mに、やがては約14.5mにま で深めるという巨大な工事であった。
当社にとってスエズ運河進出は、未知なるものへ の挑戦とも言うべき冒険であると同時に、長年にわ
たり蓄積された技術力を試すチャンスでもあった。
3. タービンポンプ式5000馬力浚渫船「スエズ」の建造 スエズ運河改修工事の国際入札は、昭和36年
(1961年)6月5日に行われることになった。しかし 入札に先立って解決しなければならない多くの課題 があった。
まず、このような巨大工事には大型ポンプ船が必 要となるが、建造会社のおよその見積もりでは、ター ビンポンプ式5000馬力の場合、建造費が軽く10億 円を超えるだろうという回答であった。さらに現地 に回航する曳航費も億単位の費用を見込まねばなら ない。
また国際入札も未経験であった。ヨーロッパ諸国 の業者が日本からの応札を知れば、予想外の低価格 で応札してくることも考えられる。もし落札できな かった場合、新造船のエジプトまでの曳航費をはじ め、かけた費用は回収不能となる。そうなれば大き く経営の破綻をきたしかねない。
しかし当社は熟考の末、リスクを冒してでもこの 巨大工事に挑戦する腹を決め、5000馬力の超大型 新造船の建造に着手した。「スエズ」と命名された この新造船は、昭和36年3月に出航し、2カ月を要 して5月にエジプトへ到着した。
スエズ運河改修工事
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4. 国際入札初参加で工事を落札
スエズ運河の改修工事の入札は予定通り、昭和36 年(1961年)6月5日に行われた。入札前に億を超え る曳航費を負担して現地まで浚渫船を回航したこと は異例であり、何としても一番札を取らなければな らないという背水の布陣であった。
この国際入札には、アメリカやヨーロッパの有力 業者なども参加しており、予想通り入札の内容は厳 しいものであった。しかし当社はその競争に打ち勝 ち、一番札で落札した。それは日本の建設技術が本格 的に海外進出の第一歩を踏み出した快挙であった。
当社の落札価格は、これまでヨーロッパの有力業 者に独占されていたエジプト側の関係者にも新鮮な ショックを与えた。スエズ運河庁や住民たちも、大 型新造船を曳航して入札前に先乗りした当社の積極 的な姿勢を評価した。
5. 堅固な岩盤との戦い
スエズ運河には堅固な岩盤があり、工事は難航が 続いた。岩盤の掘削には手を焼き、カッターの改良 には苦心を重ねた。
炎暑の中で日夜作業に取り組む当社の社員たちの 工事の進捗状況は、内外の多くの人びとの注目を集 めた。同業他社の間では「水野は大やけどするに違 いない」と取り沙汰された。スエズ運河庁側でも当 社がコストを割って契約をしたことは分かっていた ので、工事半ばでギブアップして撤退するのではな いかとの危惧もしていた。
高性能のポンプを装備した「スエズ」はエンジン の音を響かせながら、強靭な特殊カッターで硬い海 底岩盤を次々に掘削していった。タービンポンプ式 5000馬力の新造浚渫船「スエズ」による硬い岩盤の 掘削工法は、世界の浚渫業界における一大技術革新
であった。
この実績から昭和39年(1964年)5月に、当社は第 2期改修工事を異例の随契というかたちで特命受注 した。当時でも国際入札で随契は希有のことであっ た。このことは当社が第1期工事を低価格で受注し、
しかも工事を成し遂げたことに対するエジプト側の 信頼の表れであった。さらに昭和40年(1965年)12 月には、第2期工事に続いて第3期工事も特命受注 で引き受けることになった。
6. スエズ運河改修第4期工事の入札
昭和42年(1967年)6月5日に、スエズ運河改修第 4期工事の国際入札がカイロで行われた。当社が落 札はしたものの、第3次中東戦争の勃発でスエズ運 河は閉鎖され、工事は未契約のままであった。しか し長い空白の期間があったにもかかわらず、ネゴシ エーションの権利は生き続けていた。7年あまりの 歳月が経過した昭和49年(1974年)10月に、当社は 506億円という超大型のスエズ運河拡幅増深工事を 受注することになったのである。
500億円を超える工事受注の報が国内に伝わると、
大きな話題となった。日本の建設会社が海外で受注 した大型工事で100億円を超える例はあったが、500 億円を超える工事はこれまでに例がなく、当時の日 本の建設業界では戦後最大の海外工事であった。
その後、昭和51年(1976年)11月には、先の4工区 に続き第2弾として、2工区(合計で19.65km、約330億
円)を受注した。さらに昭和52年12月には、もう1 工区(10.5km、約49億円)を受注した。これにより、13 工区のうち7工区を当社が受注することになった。
7. 50年の歴史が開花したシンガポール
スエズ運河改修工事に続き、昭和39年(1964年)
に「ジュロン造船所および岸壁工事」を受注したの を機に、当社はシンガポールの建設市場へ本格的に 参入した。その後、アジアのハブ空港となるチャン ギ国際空港造成工事や、受注額約700億円のチュア ス埋立工事、ポンゴール埋立工事、ジュロン島埋立 工事など大規模な海上土木工事を中心に、数多くの ビッグプロジェクトを施工し、シンガポール国内で 着実に実績を積み上げてきた。
淡路島とほぼ同じ広さの小さな島国シンガポール は、国土の22%を建国時からの埋立によって広げ てきた。そのうちの約10%は当社が創出したもの である。数多くの埋立工事によって国土拡張に貢献 したことが、シンガポールで“海上土木ナンバーワ ン”と言われる証である。
海上土木の分野からスタートした当社であった が、昭和58年(1983年)のシンガポールにおけるシ ム・リム・スクエアビルの受注以来、建築工事にま で広がってきた。1996年のシンガポールポストセ ンター、1998年のエスプラネードシアターなど数々 の大型建築工事を受注し、2006年にシンガポール 最大の繁華街オーチャード・ロードに「オーチャー ド・ターン・プロジェクト」(通称ION Orchard)とい う地上56階、地下4階、最高高さが218mの超高層 ビルを単独受注し話題となった。
また病院建築工事にも注力しており、2014年に はシンガポール保健省(MOH、Ministry of Health)か ら同国史上最大規模の病院となるセンカン総合病院 新築工事を受注した(受注金額は日本円換算で約959億 円)。2010年にマウントエリザベスノベナ病院と国 立大学病院(NUH)メディカルセンター、2012年に チャンギ総合病院を受注しており、シンガポールに おいて4件目の受注となった。
さらにシンガポールの国づくりに欠かせない地
下鉄工事も請け負ってきており、最近ではシンガ ポール陸上交通庁(LTA、Land Transport Authority)か らMRT(地下鉄・高架鉄道)トムソンラインを3工区
(T202工区、T211工区、T219工区)を受注している。ト ムソンラインで3工区受注したゼネコンは当社だけ であり、過去に受注したMRT建設工事を含めると 7件受注したことになる。
オーチャード・ターン・プロジェクト
8. 香港の歴史と実績
五洋建設といえば、海洋土木工事を得意とするマ リコンのイメージが強いが、香港でのスタートは建 築工事が中心だった。
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1986年に香港営業所を開設。初の仕事は、旧ラマ ダルネッサンスホテル(現ランガムホテル)の建築工 事で、その後、超高層のツインタワーの「ゲートウェ イ」をはじめ、超高層のオフィスビルや複合施設で 実績を重ねてきた。しかし発注者のディベロッパー が次第にグループ会社の建設会社を使うようにな り、参入の余地が徐々に減少してきた。
当社はその市場環境の変化に迅速に対応し、ここ 数年は教育施設や医療・福祉施設の分野に力を入れ、
多くの実績をつくり続けている。徹底したスタッフ のローカル化と“日本人の目”によって高い競争力 を発揮し「教育施設といえばペンタオーシャン(五 洋の英語名)」というイメージが定着している。
一方、土木分野は1990年代から頭角を現し始め、
セントラルワンチャイの埋立工事やストーンカッ ター埋立工事など、強みの海洋土木工事も多く受注。
10大インフラプロジェクトでは、空港跡地を大型客 船ターミナルにリニューアルする「カイタック・ク ルーズターミナル工事」(約158億円)、当社にとって 香港で初のシールド工事となる「広州−深セン−香 港高速鉄道建設事業825工区」(約180億円)の2件を それぞれ単独受注した。
9. その他の進出国における歴史と実績
マレーシアにおいて、平成3年(1991年)、世界有 数のリゾート地であるペナン島にて、ぺナン島南東 部工業団地用埋立地の、埋立面積300万m3、埋立土 量1,200万m3という大型造成工事を受注した。マ レーシアでは石油精製処理施設を充実させるため、
多くの関連施設の出件が相次いでおり、最近では、
ジョホール州のペンゲランにて石油備蓄基地用の桟 橋工事の1期および2期工事(2期はJV)と、関連す る埋立浚渫工事を相次いで受注した。
インドネシアにおいて、ジャカルタの東方約
200kmのバロンガンで、インドネシア国営石油会
社の石油精製プラント土地造成工事と架設桟橋工 事を受注し、その後、バリ島で埋立工事、パプア ニューギニアに地理的にもほど近いビントゥニに て、LNG桟橋工事などを受注した。1997年のアジ ア通貨危機によりインドネシアの政治経済は大きく 混乱し、多くの日系企業は事業縮小もしくは撤退を 余儀なくされたが、2008年のリーマンショックが 一段落した2010年頃から、自動車部品メーカーを 中心とした日系企業が再びインドネシアに進出する ようになった。当社はアジア通貨危機後も地道な事 業活動を継続しており、これが功を奏し、ここ数年、
倉庫や工場などを手堅く受注している。
ベトナムでは、首都ハノイの東に位置するハイ フォンにて、ハイフォン港改修1期工事を受注した のを皮切りに、ODA港湾案件を中心に工事の実績 を重ねてきた。最近ではラクフェン港建設計画に参 画し、埋立、地盤改良、護岸、防波堤を建設するパッ ケージをJVにて施工中である。
ミャンマーにおいて、MJTD社(Myanmar Japan Thilawa Development Ltd.)発注の、ティラワ経済特 区ゾーンA開発工事を、地元建設会社と共同で施工 していたが、2015年9月に第1期工事が概成した。
2013年12月に工事を開始し、雨季(5月〜10月)に は、月間最大800mmもの降雨のある厳しい自然条 件を克服し、2015年9月23日に執り行われた開業 式典に間に合わせることができた。発注者をはじめ、
両国の関係者より信頼と評価を得ることができた。
ミャンマー初となる経済特区の完成を機に、日系企 業の進出に弾みがつくと期待されている。
さらに当社は、造成工事と並行して8件の日系工 場・倉庫を同経済特区内で受注し、工事を進めている。