1. はじめに
当社は、1997年8月から、ジャカルタのスディル マン通りの「バンク・ダルマラビル」の1室を借り て「ジャカルタ駐在員事務所」として活動を開始し た。同年11月、タイに端を発したアジア通貨危機の 影響がインドネシアに影響をおよぼし始め、翌年よ り各地でデモが広がり始めた。そして忘れもしない、
1998年5月12日に発生したジャカルタ暴動では、
多数の中国系インドネシア人が犠牲となったのであ る。数日後、多くの日本人は、ジャカルタ・ヒルト ンホテルに集合し、日本大使館が用意した空港への バスで脱出した。当社のひとりは、ジャカルタから 車でバリ島へ逃れ、そこから帰国。混迷するインド ネシア情勢と共にしながら、波乱の幕開けとなった。
2. スラマット・パギー(初めての海外赴任)
朝8時、現場事務所に出勤すると、現地スタッフ が「パギー(おはよう)」と声をかけてくれる。ここは、
ジャワ島中部の港町チレボン。1998年1月より、当 社が得意とする鉄道橋関連の上部工工事(ジャワ北線 改良工事)を下請けとして受注し、私は上部工エンジ ニアとして現場に赴任した。橋梁の製作は、ジャワ 島西部に位置するチレゴンのPT.Cigading Habeam Centreで、鉄道路線130km間に散らばった8橋梁 の活線架け替え(数時間、線路を閉鎖して古い橋梁と新し い橋梁を入れ替える作業)を行った。そのひとつである
「BH418」は、ワーレントラス6連を深夜2時間の線 路閉鎖を3回に分けて実施し、横取り工法によって 架け替えを行った。
当時初めての海外赴任だった私は、まずインドネ シア語を覚えようと、毎日10個ずつ単語を習得し ていった。インドネシア語は、他の言語に比べると 発音や文法が多少違っていても相手に通じること
もあり、半年程度で簡単な日常会話はできるように なった。
ジャワ北線改良工事BH418 トラス橋の横取り状況
3. 架橋ヒストリー
2005年に世界三大仏教遺跡のひとつであるボロ ブドゥールがあるジョグジャカルタを起点とした
「ジャワ南線改良工事」を施工した。この工事は、単 線の鉄道路線を複線化する工事で、当社は、4橋梁 を担当し、その中でも最大の現場である「BH2034」 は、78mのワーレントラスを送り出し工法で架設し た。その施工中の2006年5月27日、ジョグジャカ ルタ南方10kmを震源とするマグニチュード6.3の ジャワ島中部地震が発生し、約6,400人が建物の下 敷きなどで死亡者を出す甚大な被害があったが、幸 いにも現場に大きな被害はなく、その年の末に無事 竣工することができた。
2007〜2010年まで、中部カリマンタンの石炭運 搬用道路に架かる 「マルワイ橋梁(鈑桁)の補修」
と、その隣の「80mのワーレントラス橋の新設工事」
を施工した。しかし、この現場への道のりがとても 大変だった。まずはジャカルタから飛行機で2時間 かけて、オラン・ウータン(インドネシア語で森の人)
77 2015 10–11
が生息するカリマンタン島の玄関口の町バンジャル マシーンへ。そこから車で熱帯雨林のジャングルの 中を11時間かけて北上し、ムアラテウェーに到着。
さらに高速ボート(とは言っても釣り船の高速版のよう なもの)で2時間かけてマルワイ河を上流に上り、石 炭の積み込み場に上陸した後、陸路ランクルで1時 間移動したところに現場がある。ジャカルタを早朝 に出発して翌日の昼頃にやっと到着するのである。
現場では仮設住宅が建設され、そこで暮らした。水 は、ミネラルたっぷりの茶色い河の水を汲み上げ、
ろ過装置を通して供給する。しかし、完全にきれい
になるわけではないので浴槽に水を溜め、半日ほど 待ってから、その上澄みを使って水浴びをするので ある。近頃の日本では、しきりに熱中症が取り沙汰 されているが、昼間熱くなった体を水浴びして冷却 することは熱中症の対策にとてもよいと思う。イン ドネシア人が一日に何度も水浴びをするのは、そう いう意味もあるのかもしれない。
ジャカルタ市内の慢性化した交通渋滞を緩和する ための都市整備事業として、2007年にR=50mの曲 線箱桁橋「チプタット・フライオーバー」を施工した。
この曲線箱桁は、インドネシア国内で初めての製作
ジャワ南線改良工事BH2034トラス橋の送り出し状況
マルワイ新橋 トラス橋の架設状況
チプタット・フライオーバー 箱桁の架設状況
NSリンク 曲線箱桁のブロック架設状況
だったので、NC切断機や罫書機を輸入しなくては ならない上に、激しい交通渋滞の中での架設のため 大変苦労したが、無事に完了し、とてもよい製品が でき上がった。開通後、あまりにもカーブがキツイ ため制限速度を大きくオーバーしたバイクの運転手 が高架橋の外に飛び出すことがよくあると聞いた。
別名「ジャンピング・フライオーバー」とも呼ばれ、
そこを通るバイクは必ず制限速度を守るようになっ たそうである。
2012年からタンジュンプリオク・アクセス道路
(タンジュンプリオク港へのアクセス改善のための有料道 路)を施工した。当社は、NSリンク工区とE2A工区 を担当し、どちらも橋梁形式が曲線箱桁だったが、
チプタット・フライオーバーの施工実績もあったの で、激しい渋滞の中にもかかわらず、ブロック架設 や縦取り・横取り工法を多用しながら、無事に架設 を完了することができた。
4. おわりに
ジャカルタ駐在員事務所を開設してから18年の 月日が流れ、現在6代目の事務所長が駐在し、営業 活動に日夜奮闘している。また、事務所も「ヌサン タラビル」に移転した。偶然にもこのビルは、当社 が1966年の戦後賠償で鉄骨工事を施工したビルで もあった。
そしてインドネシアの国民生活も開設当時に比べ て裕福になり、車は2倍以上に増えたようだ。それ にともない当局は、3 in 1(1台の車に乗車人数3名)と いう対策を以前から実施しているが、効果はなく、
日に日に交通渋滞が激しさを増してきている。切り
札として、現在スディルマン通りに日本のODAに よるMRTが建設中で、これによって、この渋滞が 緩和されることを祈るばかりである。
さて私は、海外工事に携わってきて約15年、各国 を渡り歩いたが、それぞれの国の玄関口である国際 空港に降り立つと、その国の独特な香りが漂ってく ることに気が付いた。たとえば、ベトナムのハノイ・
ノイバイ空港では、ベトナム人にとっては、これな しでは生きていけないと言われる命の水「ヌックマ ム」の香り。そして、ジャカルタ・スカルノ・ハッ タ空港は、あのパチパチタバコで庶民に親しまれて いる「ガラム」の香りが漂ってくるのである。ちな みに他の国の人たちに言わせると、成田空港は「味 噌」の香りがするそうである。
飛行機がゲートに到着しボーディング・ブリッジ を渡り、それらの香りを嗅いだ瞬間に「スラマット・
ダタン(ようこそインドネシアへ)」と、脳の中が日本 からインドネシア・モードにパチッとスイッチが入 れ替わるのである。インドネシアの食物といえば、
ナシゴレンとミーゴレンが有名である。現在は、出 張ベースでのインドネシア滞在となり、ディープな インドネシアを味わう機会もなくなり、チレボンで 食べた「ウンパル・グントン(ココナツカレー)」が懐 かしい今日この頃である。
最後になるが、橋架け屋の私としては、今までの 蓄積された経験やノウハウが、愛すべき国インドネ シアの発展に少しでも役に立てれば光栄である。そ して、インドネシアの人たちが、日本やその他の先 進国を目標にして、これからも大きく発展していく ことを望んでいる。
79 2015 10–11 海外受注実績
月
2015年度 2014年度 伸び率(%)
*受注額による 件数 受注額 件数 受注額
4 本邦法人
35 7,854 18 10,254 -23.4%
現地法人 128 103,513 145 109,913 -5.8%
計 163 111,367 163 120,167 -7.3%
5
本邦法人 29 24,863 50 74,947 -66.8%
現地法人 124 135,649 97 56,902 138.4%
計 153 160,512 147 131,849 21.7%
6 本邦法人
52 51,869 60 31,825 63.0%
現地法人 111 24,125 112 86,370 -72.1%
計 163 75,994 172 118,195 -35.7%
7
本邦法人 29 9,623 42 90,273 -89.3%
現地法人 104 52,061 93 50,075 4.0%
計 133 61,684 135 140,348 -56.0%
8
本邦法人 45 11,809 36 162,974 -92.8%
現地法人 123 145,707 116 48,164 202.5%
計 168 157,516 152 211,138 -25.4%
累計 本邦法人 190 106,018 206 370,273 -71.4%
現地法人 590 461,055 563 351,424 31.2%
総合計 780 567,073 769 721,697 -21.4%
地域別
2015年度 2014年度 伸び率(%)
*受注額による 件数 受注額 構成比
(%) 件数 受注額 構成比
(%)
アジア 本邦法人 104 76,582 13.5% 123 345,250 47.8% -77.8%
現地法人 428 217,026 38.3% 444 190,082 26.3% 14.2%
計 532 293,608 51.8% 567 535,332 74.1% -45.2%
北アフリカ中東・
本邦法人 10 3,980 0.7% 2 2,366 0.3% 68.2%
現地法人 0 0 0.0% 0 0 0.0% 0.0%
計 10 3,980 0.7% 2 2,366 0.3% 68.2%
アフリカ 本邦法人 8 3,014 0.5% 4 3,729 0.5% -19.2%
現地法人 0 0 0.0% 0 0 0.0% 0.0%
計 8 3,014 0.5% 4 3,729 0.5% -19.2%
北米 本邦法人 7 2,876 0.5% 8 2,469 0.3% 16.5%
現地法人 87 209,492 36.9% 70 134,075 18.6% 56.2%
計 94 212,368 37.4% 78 136,544 18.9% 55.5%
中南米 本邦法人 44 10,155 1.8% 57 13,620 1.9% -25.4%
現地法人 10 3,669 0.6% 18 9,753 1.4% -62.4%
計 54 13,824 2.4% 75 23,373 3.3% -40.9%
欧州 本邦法人 2 386 0.1% 1 806 0.1% -52.1%
現地法人 28 2,216 0.4% 16 7,089 1.0% -68.7%
計 30 2,602 0.5% 17 7,895 1.1% -67.0%
東欧 本邦法人 0 0 0.0% 1 132 0.0% -100.0%
現地法人 33 10,502 1.9% 15 10,425 1.4% 0.7%
計 33 10,502 1.9% 16 10,557 1.4% -0.5%
大洋州その他
本邦法人 15 9,025 1.6% 10 1,901 0.3% 374.8%
現地法人 4 18,150 3.2% 0 0 0.0%
-計 19 27,175 4.8% 10 1,901 0.3% 1,329.5%
累計 本邦法人 190 106,018 18.7% 206 370,273 51.3% -71.4%
現地法人 590 461,055 81.3% 563 351,424 48.7% 31.2%
総合計 780 567,073 100.0% 769 721,697 100.0% -21.4%
2. 地域別海外工事受注実績 (単位:百万円)
1. 月別の海外工事受注実績 (単位:百万円)
3. 本邦・現法主要工事〈10億円以上〉
国 名 件 名 契約金額 会社名
台湾 N2社 工場新築工事 1,742 フジタ
シンガポ−ル データセンター建設工事 11,822 大林組
インドネシア A社新店舗 13,724 竹中工務店
インドネシア N社倉庫新築工事 1,670 三井住友建設
米国/カリフォルニア州 複合開発工事 1,934 大林組
米国/カリフォルニア州 住宅施設建設工事 4,529 大林組
カナダ 工場改築工事 1,131 大林組
〈7月受注分〉 (単位:百万円)
国 名 件 名 契約金額 会社名
中国/上海市 D社工場増築 1,293 竹中工務店
台湾 住宅新築 4,100 鹿島建設
フィリピン 工場新築 1,850 鹿島建設
ベトナム F社タンロン2工場建設工事 1,135 安藤・間
タイ 【設変】G社タイアユタヤA・B工場内装改修工事 1,823 安藤・間
タイ ショッピングール建設工事 20,219 大林組
シンガポ−ル P社工場新築工事 5,124 佐藤工業
ミャンマ− F社工場建設工事 1,438 五洋建設
インド H社新工場建設(その2) 5,379 清水建設
米国/カリフォルニア州 空港建設工事 3,095 大林組
米国/ハワイ州 駅舎建設工事 9,520 鹿島建設
米国/ノースカロライナ州 工場増強 1,150 鹿島建設
米国/ジョージア州 病院増築 3,650 鹿島建設
米国/ジョージア州 商業用地造成 2,040 鹿島建設
米国/ハワイ州 埠頭建設 2,530 鹿島建設
米国/フロリダ州 工場新築 2,880 鹿島建設
米国/テキサス州 アパートメント新築 8,190 鹿島建設
米国/サウスカロライナ州 工場増築 11,580 鹿島建設
米国/サウスカロライナ州 H社新工場建設 16,743 清水建設
米国/イリノイ州 S社工場増築 1,170 竹中工務店
カナダ 下水処理場改修工事 2,182 大林組
ポ−ランド 倉庫拡張 1,050 鹿島建設
ポ−ランド 倉庫新築 1,760 鹿島建設
チェコ 商業ビル新築 1,190 鹿島建設
ハンガリ− N社新工場 1,485 竹中工務店
オ−ストラリア アパートメント建設 6,040 鹿島建設
オ−ストラリア アパートメント建設 1,130 鹿島建設
オ−ストラリア データセンター建設 1,880 鹿島建設
オ−ストラリア 住宅新築 9,100 鹿島建設
〈8月受注分〉 (単位:百万円)