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中尾 誠一郎 [(株) 竹中工務店 チ ャ ンギ空港ターミナル 4 作業所 総括作業所長]

ドキュメント内 10&11 OCAJI 60 OCAJI JICA MSHI40 TSUCHIYA TSUCHIYA (ページ 48-52)

1. シンガポールにおける当社の歩み

当社がシンガポールに拠点を構えたのは今から 41年前、1974年のことである。当初は日系企業の 海外進出を設計・エンジニアリング・施工を通して 支援する事業を行っており、同時に「シンガポール 社会や建築文化の発展に貢献したい」という大きな 志も持っていた。その当時のシンガポールは、マレー シアから独立して10年足らずで、自国民の生活環 境の向上、そして国際競争力を高めることが国とし て喫緊の課題となっていた。

Mt. Elizabeth Hospital1979年の外観)

最初の機会が訪れたのは、シンガポールで事業を 開始してからわずか4年目の1978年、市の中心部 に計画された「マウント・エリザベス病院」1979 竣工)であった。続いて同年、「チャンギ空港第1ター ミナルビル」(延床面積22m2、地下1階・地上5階)を 受注する好機に恵まれたことで、当社はさらに大き

く歩みを進めていくこととなる。

事務所開設時には10人程度だった組織は、この

「チャンギ空港第1ターミナルビル」が最盛期を迎 える頃には日本人社員約100人、ローカルスタッフ 約150人まで一気に拡張した。日本人社員の大半は 数年ごとに帰任・異動し、顔ぶれが変わってしま うのが海外事業の宿命だが、当時の新人ローカルス タッフの中には、現在勤続30年を越えて事務所の 要職に就いている者もいる。

シンガポールで初めて経験したこの大型公共工事

「チャンギ空港第1ターミナルビル」も着工から3年 後の1981年5月には無事に引き渡し、同年7月に ASEAN(東南アジア諸国連合)最大規模の新たな現代 的空港として運用が開始された。私どもが最も感謝 していることは、この引き渡しが当該プロジェクト の終わりでもあり、今日に至るまでの建築主との継 続的なお付き合いの始まりとなったことである。

その後、当社は35年間にわたって、チャンギ空港

Changi T11982年の外観) Changi T1 Upgrading (2011年外観)

Changi T2 Upgrading2006年外観)

47 2015 10–11

に関連するプロジェクトを15件手掛けている。

チャンギ空港第1ターミナルビル以外では、「第2 ターミナル駐車場ビル新築工事1988年竣工)」、「第 1ターミナルビル内装改修工事1994年竣工)」、「コ ントロールタワー改修・増築工事1998年竣工)」、

「第1ターミナルビル・フィンガーピア“C”増築工1998年竣工)」、「第1ターミナルビル・フィンガー ピア“D”増築工事2000年竣工)」、「第2ターミナル ビル全面改修・増築工事2006年竣工)」、「第1ター ミナルビル全面改修・増築工事2011年竣工)」、「第 2ターミナルビル・ギャングウェイ(搭乗橋)14橋交 換工事2013年完了)」。その他、既存の第1、第2ター ミナルビルにおける増改築に関わる6件である。

そして現在でも、16件目となる「チャンギ空港 第4ターミナルビル新築工事2016年竣工予定)」、17 件目の「第1ターミナルビル拡張工事2019年竣工予 定)」の対応をしている。

Changi T4 2015年工事写真)

2. シンガポールでの建設事情

時代と共にシンガポールの建設事情は大きく変わ り、「第4ターミナルビル新築工事」での発注形態は、

REDASReal Estate Developersʼ Association of Singapore シンガポール不動産開発協会)発行の契約約款REDAS Design and Build Conditions of Contractに基づいた、

空港プロジェクトとしては初めての設計施工契約と なった。当社の業務形態の本流である設計施工こそ が、高度な設計技術力を今まで以上に発揮し、延床 面積約25万m2のターミナルビルを25カ月という

超短工期内に完成させることができる唯一無二の手 法と感じている。

さらに、設計施工契約によって今までになかった 新しい現場組織体制がつくられた。まず、設計図書か ら施工図に至るまで、約18,000枚の図面を作成する ために、現場事務所内には100名以上の多国籍スタッ フで構成される設計図・施工図チームを配置し対応 している。また、当プロジェクトではLOD500とい う未経験のハイスペックなBIMBuilding Information Modeling、以下BIM対応が求められていることが大 きな特徴である。シンガポールでは政府主導により BIMが義務化されており、日本に比べて遥かに発展・

展開している。中でも空港施設は、常に増改築・規模 拡大・最新設備への更新を繰り返す必要があるため、

チャンギ空港では設計・施工・建物情報などのデー タを集約し一元管理する手法として、いち早くBIM を取り入れている。そこで当社もBIM対応のため、

現場事務所内に約20名のBIMチームを配置した。現 在、作業所では、設計・施工図チーム、工事チーム、

BIMチームが一体となり、総勢約400名のスタッフ が2016年竣工を目指して日々奮闘している。

41年間にわたる当社のシンガポールでの活動は、

日系企業の海外事業展開への支援に加え、当社の志 である「国家的プロジェクトやシンボリックなプロ ジェクトに参画し、同国の社会の発展や建築文化に 貢献する」を果たすという2本柱で進めてきた。そ の中で、一連のチャンギ空港プロジェクトが代表作 となったことは言うまでもない。それと同時に、そ の他の代表的プロジェクトへの布石でもあった。

3. 社会と文化の発展を目指して

当社は1985年に竣工したシンガポールの代表的 ホテル「Sheraton Towers」を皮切りに、オーチャー

LaSalle College of Arts 2007年外観)

ド通り沿いの大型複合商業施設「Forum Galleria」

1986年竣工)および「Wisma Atria」1986年竣工)、 そして1990年台には高層オフィスビルの建設ラッ シュを受けて、「Ministry of Home Affairs[内務省 本部]」2001年竣工)(地下5階、地上22階のツインタワー)

の建設に携わったほか、10年間で6本の高層オフィ スビルを建設している。

それらの実績を重ねて2000年代に入ると、当社は、

より社会性の高い環境配慮型の文化施設・商業施設 に携わるようになった。将来の芸術家を育成する芸 術学校「LaSalle College of Art」2007年竣工)、当時世 界最大の観覧車「Singapore Flyer」2008年竣工、高さ 165mは当社の代表作である。そして何といっても、

建国50周年記念行事の一環である「National Gallery

Singapore[シンガポール国立美術館]」2015年竣工、地 3階、地上7階、延床面積約75,000m2と、高さ242mの 環境配慮型超高層オフィスビル「CapitaGreen2014

年竣工)は外せない。「National Gallery Singapore」は、

1900年初頭に建てられた旧最高裁判所と旧市庁舎の 外壁を残し、地下とガラス屋根で連結した上で内部 に新しい構造体を構築するという、歴史的建造物の 保存・再生工事である。また、「CapitaGreen」は伊東 豊雄氏の想いでもある「かつてシンガポールに存在 した森を新しい建築によって再生したい。生命体の ように呼吸する建築をつくりたい」というデザイン コンセプト・基本設計に基づいた建物である。同国 内では初めてとなる超高層事務所ビルにおける外装 壁面緑化、そして中間階に5カ所あるスカイテラス

Ministry of Home Affairs

2001年外観)

Sheraton Towers1985年外観)

National Gallery Singapore2015年外観)

Singapore Flyer 2008年外観) CapitaGreen 2014年外観)

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と40階屋上の屋上庭園には高さ5mを超える樹木を 200本以上植樹し、デザインコンセプトをねらい通り に実現しただけではなく、各所に省エネの最新技術 を駆使した。「CapitaGreen」は、BCA Green Mark

(シンガポール建設省主幹の省エネ・環境指標)で最高ラン クのPlatinumを取得したほか、同省計画局BCAが BIMの先進的活用を評価する「BCA BIM Award」で も最高賞にあたるPlatinumを受賞した。さらにアメ リカの高層ビル・都市居住協議会CTBUHによる 2015年度アワードでアジア・オーストラリア地域の 最優秀作品賞に選ばれた。当プロジェクトは「チャン ギ空港第4ターミナルビル」同様、REDAS発行の設 計施工契約約款に基づいた設計施工プロジェクトで あり、当社としてシンガポールで初めてBIMを導入 し、設計段階から生産段階に至るまでフル活用した 事例である。

2000年以降に当社が取り組んできたこれらのプロ ジェクトは、シンガポール国民や海外からの訪問者が 多く利用する社会的・文化性の高い施設であり、当社 の志である「シンガポールの社会と文化の発展に貢献 する」ことへ大きく近付いていると自負している。

4. 揺るがない基盤構築のために

日々変わる世界の経済状況、各国の建設市場に対 し、足下の揺るがない「体力(人的基盤)」が海外事業 には求められている。そのため、当社は建築技術者・

技能者・現地協力会社の確保・育成にも力を入れて いる。その一環として継続的に実施しているのが、現 地スタッフの「日本式建設マインド」のレベルアップ・

スキルアップを目的とした、「The International Staff Development Program」である。当社の設計・建設技 術、施工管理、品質確保などを現地スタッフに教育し 習得・実践させることで、当社の国際競争力強化を

図ると共に、当地の建設文化発展にも寄与するもの である。そうして建設事業者としての当社への信頼 を高めることで、社会とお客様に新たな価値を提供 できると考えている。とはいえ、「日本式建設マイン ド」を現地スタッフに継承・伝承し育成していくこ とは、一朝一夕にはできない。長い目で、気長に、時 間をかけて、着実に教育していくことが大切である。

2014年、当社はシンガポール・タイ・インドネ シアで事業を開始してから40周年という節目を迎 えた。アメリカ、ヨーロッパにおいては40年以上事 業展開している。「継続は力なり」と言われるが、一 時的な景気の波に左右されることなく着実にグロー バル化を図るため、今後もグローバル人材の育成、

現地スタッフへの「日本式建設マインド」および建 設技術の伝承を継続して行っていく。

5. 結びに

私は1978年に初めてシンガポールに着任し、短 期的に離れた時期がありながらも、現在は通算滞在 期間30年目を迎えた。小さな島国・シンガポールが、

建国50周年を迎えた今年、国家としてここまで成 長・発展していることは誰も想像しなかったと思う。

この37年間に遂げた目覚ましい発展をこの目で見、

肌で感じ、建設事業者として立ち会うことができた ことを、私は幸せに感じている。

常に世界に先駆けた先鋭的なフューチャービジョ ンを持ち、それを着実に実践していくエネルギッ シュな国・シンガポール。当社はチャンギ空港をは じめ数々の施設と歩んだ41年の歴史を糧に、そこ で培ったノウハウやネットワーク、日系企業にしか できない「きめ細やかな配慮」を最大限に発揮し、

シンガポールのさらなる発展に貢献しつつ、今後も この国と共に歩んでいきたいと考えている。

ドキュメント内 10&11 OCAJI 60 OCAJI JICA MSHI40 TSUCHIYA TSUCHIYA (ページ 48-52)