3. LP ガス市場の現状
4.1 石炭の商品先物取引所への上場に向けた課題
4.1.1 過去における石炭の先物上場検討
平成20年(2008年)に独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
が一財)日本エネルギー経済研究所に委託して「世界の石炭市場の現況と市場の変化がア ジア太平洋市場に与える影響に関する調査」を実施している。
その調査において、我が国での一般炭の石炭デリバティブ取引普及の可能性と課題、方 向性、条件について詳しく検討している。以下に、内容を要約する。
尚、製鉄用原料炭は、市場に出てくることはほとんどなく、世界の商品取引所で取引 されている石炭はほとんどが燃料用一般炭である。
(1)石炭デリバティブ取引普及の可能性と課題 国内市場創設:
一般炭国内市場創設 → 実需家の参加による需給を反映した価格形成 → その価 格を参照した一般炭輸入価格決定 ⇚ 目的
国内市場の選択肢:
・現金決済型または現物決済型の2 種類の決済方法
・FOBベースまたはCIFベースの2種類の契約価格
・取引対象とする一般炭の産出地域をどうするか等 1)現金決済型市場
現金決済価格のベースとなる価格指標(インデックス)の存在が前提。
① 豪州炭(FOB Newcastle):globalCOAL のNewc インデックスが価格指標として 定着しているが、このインデックスをベースとした先物取引が既にICE Futures
Europe に上場されており、同種の市場を日本に創設することは、市場流動性の分散
と市場参加者の混乱につながると予想。
② CIF 日本一般炭:
・globalCOAL のNewcインデックスをはじめとする積み地価格の指標と、揚げ地価格 の指標であるCIF日本価格が両方存在することで、フレートまで含めた裁定取引が 行われる可能性があり、流動性が相互に高まることが期待される。
・国内価格であるため、比較的小口の国内一般産業の参加も見込めるため、より広い 国内ユーザーの需給を反映した価格が形成されることになる。
⇒ より多くの参加者の下、国内需給を反映した価格は、FOB 市場との裁定取引を通 じて、FOB 価格にもある程度国内需給を反映するようになることを期待。
⇒ 現金決済型については、現在、日本国内の一般炭の価格インデックスはない。CIF 日本の一般炭価格指標となるインデックスの開発が必要。どの港でどういった品位 の石炭を受渡した価格を対象とするかなど、調整すべき項目が多い。
68 2)現物決済型市場
取引対象となる石炭の標準的な品位や、受渡条件の設定等の検討が必要。
① 豪州炭(FOB Newcastle):
・ASX (Australian Securities Exchange)が2009 年4 月にFOB Newcastle ベースの 現物決済型先物上場を予定しており、同種の市場を日本に創設することは、市場流動 性の分散と市場参加者の混乱につながると予想。(2014年現在、ASXに一般炭は上場 されていない。)
・Newcastle 港のインフラ容量不足による現物受渡に制約が生じる可能性があり、現 物受渡しの円滑な履行に不安が残る。
② インドネシア炭(FOB Indonesia):
日本への輸入量が増加しているが、まだ少なく、品位のバラツキが大きく、標準と なる石炭品位の設定が難しい。現物決済型のデリバティブ市場の取引対象とするには 難がある。
③ CIF 日本一般炭:
取引対象として、日本に輸入されてくる一般炭の品位として標準的なスペックを設 定する必要がある。複数の積出港から日本に向けて輸出される石炭が対象となるため、
標準的なスペックの設定が難しくなるが、やはり輸出量の多さ、品位の均質性等から 豪州Newcastle 炭をベースとして、他の産炭国の一般炭品位やフレート、輸入費用等 を加算した価格が、CIF日本の価格指標としては最も有力な候補となる。
主な課題:
・大口ユーザーは、各社で船型によりフレートが異なり、且つ、どこから輸入して くるかでフレートが異なるため、創設するCIF日本市場の価格が、国内全体を代表 し得ないという見方。
・日本の電力会社や大手一般産業は、自社専用船あるいは専航船により低コストで 直接豪州から輸入し、自社施設の岸壁に直接荷揚げしている。これらの大口ユー ザーは一旦荷揚げされた一般炭を、さらに横持ち費用をかけて調達してくるニー ズに乏しいが、小口ユーザーに対する渡し方となる可能性はある。CIF 日本市場 での現物決済は大口ユーザーの在庫調整のための小ロットの受渡となる可能性も。
・国内に、フリーに誰でも受渡しできる場所が少ないため、基準となる受渡地点(荷 揚げ港)の選定と、そこからの距離に基づく価格調整等について、業界の合意を 得る必要があり、調整が必要。
(2)我が国における石炭デリバティブ取引普及の方向性
国内一般産業等の小口ユーザーは、取引単位等の問題もあり、海外市場への直接ア クセスは困難なので、国内市場であれば、大口、小口ユーザー共に参加できるため、
一般産業も含めた国内一般炭ユーザーの需給を一般炭価格に反映させることが可能と なる。
国内ユーザーにとっての市場利便性では、①需給調整の可否、②取引時間帯、③裁
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定取引の機会、④使用言語、⑤適用される法規制等、いずれにおいても国内市場のメ リットが大きく、国内にデリバティブ市場を創設することで、裁定取引を通じて日本 市場の価格発信力が高まるとともに、国内における石炭の安定供給、国内産業の活性 化にもつながることが期待される。
(3)我が国における石炭デリバティブ取引活性化の条件
活発なデリバティブ市場が形成されるためには、前提として、以下の要件が満たさ れるべきである。
条件1:「十分な取引量が見込まれること」
① 生産・流通構造が競争的であること:
国内にユーザーの専用船がフリーに入港して受渡しできる場所が少ないため、
受渡地点(コールセンター)を整備することで国内流通が活性化する。
② 現物の価格変動があること:
日本のユーザーは固定価格での長期契約で一般炭を輸入してくるケースが多か ったが、近年はインデックス・リンクの値決め方式の比率が増加しつつあり、価 格変動の影響を受けるようになっている。
③ 当業者のヘッジニーズがあること:
電力会社は、固定価格での長期契約が多いものの、生産者側の要請を受け、長 期契約であっても、契約期間中に定期的に時価に基づいて価格の見直しを行うイ ンデックス・リンクでの契約が増えており、基本的には価格変動リスクへの対応 が必要になりつつある。
【電力会社】
燃料費調整制度の下、石炭価格が一定水準を超えて変動した場合、超過変動分 を電力価格に転嫁できるため、実質的に価格変動リスクはほとんど負っていない。
燃料価格や為替レートを「事業者の効率化努力のおよばない」ものと見做して 同制度を維持するか、あるいは事業者が積極的に市場での取引を通じて価格への 影響力を高めていくために国内市場を創設するか、政策的な判断が求められる。
【国内一般産業】
国内一般産業の多くは、潜在的にヘッジニーズはあるが、一般炭の購入量が小 ロットで、ヘッジコストの方がヘッジできるリスク額を上回ってしまう傾向にあ る。また、商社を通じて石炭を購入している企業は、ヘッジニーズが商社に転嫁 されている。
【商社】
商社は、鉱山会社への出資、生産者からの購入、国内ユーザーへの販売等、一 般炭の商流において、上流から下流までの取引における価格変動リスクを負って いる。商社によるリスクのヘッジ先としての国内デリバティブ市場へのニーズは ある。
条件2:「生産・流通の円滑化に資すること」
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① 生産・価格・流通政策との整合性が図られていること:
燃料費調整制度と、企業のヘッジニースに対してヘッジ手段を提供しようとす る国内デリバティブ市場創設は両極に位置する政策であり、これらを同時に推し 進めるには、政策の整合性を図る必要がある。
② 当業者の利用があること:
【電力会社】
輸出国のシッパーとの直接交渉によって長期の相対契約を結び石炭を調達して いるケースが多く、スポット市場から購入してくる量はまだ少ない。しかしなが ら、日本に現物決済型のデリバティブ市場ができれば、輸入してきた一般炭の余 剰分が生じた場合、国内の一般産業に販売できることから、在庫調整のための市 場としてのニーズはあると思われる。
【国内一般産業】
一般産業のほとんどは小口ユーザーであり、商社を通じて調達している。国内 に現物決済型のデリバティブ市場ができれば、そこから直接調達することもでき るようになり、選択肢が広がるため、潜在的なニーズはあると思われる。
既に国内金融機関のなかには、相対取引で国内一般産業に対して変動価格と固 定価格のスワップによる価格ヘッジ・サービスを提供している企業もあり、一般 産業のヘッジニーズの存在を示唆している。
【商社】
商社はすでにビジネスとして相対での取引を行っているところもあり、デリバ ティブ市場が創設されれば、相対取引でのリスクのカバーに加え、海外市場との 裁定取引により収益を上げることも可能となる。
③ 価格指標としての利用見込みがあること:
現在、日本のユーザーの需給を反映した価格指標がなく、国内の一般炭ユーザ ーは、海外市場の影響を強く受けた豪州の価格指標を受け入れざるを得ない状況 にあり、価格指標へのニーズは高い。
◆我が国において一般炭デリバティブ市場が創設される場合に備えるべき条件について 検討した。各項目それぞれにおいて、潜在的な市場創設に対するニーズはあると判断 される。
◆それぞれの項目における条件が、どの程度までそろうのかについては、現状において 未知数の部分が多い。
◆今後のアジア太平洋市場で一般炭のコモディティ化が進展し、一般炭デリバティブ市 場が発達する過程において、我が国の石炭ユーザーや商社、また金融機関などがどの ような対応をとるのか注視すると共に、その対応についてともに考えていかなければ ならない。