第 1 章 序論
6.4 情報通信産業界が主導する「ネットワーク型産業知」構成法 .1 情報通信産業界の特徴と新しい可能性
6.4.3 知の連結・統合の「ネットワーク基本モデル」を応用した
「ネットワーク型産業知」構成法
以後は,第三段階の「産業の連結・統合を主対象とする産業IT化段階」に焦点を絞って議
論する.
現在の産業構造の特徴は,各産業を支える「コア部品・材料レベル」,「コアシステムレベ ル,及び「コアソリューションレベル」のすべてのレベルにおいて,研究・開発・生産・調 達・構築・サプライチェーンマネジメント,カスタマーリレーションマネジメント,及びデ マンドチェーンマネジメント等一連のビジネスプロセスが整然とした「多段階多階層バリュ ーチェーン」として構築されている.そして,その一つ一つの階層とプロセスにICTが織り 込まれてこれらの活動を繋げている.万一,この整然とした「多段階多階層バリューチェー ン」にほころびが生じると,産業界内部での勝者・敗者の入れ替えが素早く実行される.こ の修正が速やかに行われないと,ただちに他の産業界からの侵出を許してしまう.
当該産業が成長・発展し続けるためには,当該産業としての明確な「産業ビジョン」の持 続的な進化・発展,ビジョンを実現するための具体的な「産業戦略」の構築・革新,ターゲ ットとする「産業マーケット」の持続的な創造・獲得,産業構造の全ての階層を支える持続 的な「研究開発成果」の獲得・応用,及び当該産業で活躍する優れた人材育成・人材流入が 必須となる.産業の「産業ビジョン」,「産業戦略」,「産業マーケット」は当該産業毎にオリ ジナルなものでなければならない.歴史的にみると,産業構造の各階層を支える「研究開発 成果」の多くは,長く当該産業の固有の産業技術として発展してきた.しかし,その多くの 研究開発成果は普遍性を持ち,別の産業界においても全く新しい活用分野があり相互活用で きる可能性がある.
「産業分野ei」と「産業分野ej」間を知識「連結・統合」する際に考慮すべきことは,「産 業分野ei」,「産業分野ej」,及び「創造される新産業分野fij」の三方にとって,知識「連結・
統合」する狙いがあらかじめ明確になっていることが必須である.「産業分野ei」と「産業分
野ej」にとっては,当該産業毎のオリジナルな「産業ビジョン」,「産業戦略」,及び「産業マ
ーケット」基づいて,互いの産業分野から補強したい「新たな中核材料・部品技術」とは何 か,補強したい「新たな中核システム技術」とは何かが明確になっている必要がある.更に,
新たなオリジナル産業マーケットを創造するための「新たらしいコア事業ソリューション」
とは何かが明確になっている必要がある.「新産業分野fij」にとっては,既存の産業構造を 前提においた産業IT化や,既存の産業構造の延長上に解を求める産業IT化ではなく,全く 新しいIT技術の活用によってはじめて可能となる新産業創造の「産業ビジョン」,「産業戦略」,
「産業マーケット」とは何かが明確になっている必要がある.
異なる産業分野を跨った技術移転は極めて困難である.その理由は,使っている技術の目 的,コンセプト,技術用語,活用方法,維持改善方法,技術伝承方法,・・・全てが異なる.
技術成果物だけの移転では産業を跨った技術移転は成功しない.いわんや,移転先の産業分 野で当該技術を発展させ続けることは不可能である.当該技術の研究・開発・生産・運用・
維持改善のサイクルを,とりわけ最初の研究・開発思想を,「ディジタル情報化した知識・
技術・経験」として共有することが必須となる.そのためには,中核となる人材に関する「人 材流動・人材結合」が必須となる.
「産業分野ei」と「産業分野ej」の連結・統合には,「知の連結・統合のネットワーク基本 モデル」を適用する.即ち,「価値あるモノxi」=「産業知ei」,「価値あるモノyj」=「産業
知ej」と置き換える.ネットワークシステムを介して両者を連結・統合する.「産業知ei」は,
連結技術により,成長・発展した「一層の価値あるモノXi」=「成長・発展した産業知Ei」
へ変化する.「産業知ej」も同様に,連結技術により,成長・発展した「一層の価値あるモノ
Yj」=「成長・発展した産業知Ej」へ変化する.具体的には,双方の産業界は,自産業界に
おいて補強したい新たな中核材料・部品技術,補強したい新たな中核システム技術とそれら の中核技術をハンドリングできる中核となる人材に関する「人材流動・人材結合」を成し遂 げることである.両者は,統合技術により「新しい価値あるモノZ」=「新産業知Fij(新産 業の産業ビジョン,産業戦略,産業マーケット,新産業構造の各階層を支える「研究開発成 果」,当該技術の研究・開発・生産・運用・維持改善の仕組み,及び知識・技術・経験とし て共有し中核となる人材に関する「人材流動・人材結合」)を獲得する.
「成果物」の帰属は,両者において予め締結される「契約」にもとづいて決定される.具体 的には,両者において「共有」される,あるいは一方に「分有」される等である.しかし,
現実の「産業分野ei」及び「産業分野ej」には,特定の所有者が存在しない.実際は,それ ぞれの既産業界をリードしている代表的な企業同士が連結・統合により自身の産業を進化さ せることを狙うとともに,合同で子会社を設立して新産業分野を切り開く事業を開始し,
M&Aにより事業ごと取り込んでしまう.また,既存の産業界では収まりきらない戦略的な
活動をしている企業同士が合併して新産業分野を切り開いていく.
図6.10に,「産業知」と「産業知」の連結・統合を示す.
図6.10「産業知」と「産業知」 の連結・統合