第 1 章 序論
6.1 緒言
本章では,「情報通信分野への応用研究」として,知の連結・統合の「ネットワーク基本 モデル」と情報通信産業界が主導する「ネットワーク型産業知」構成法について検討を進め る.
先進国市場の成熟化と新興国市場の勃興により,マーケットの多様性とビジネス環境変化 の激しさが増し,一つの技術革新,製品革新,サービス革新,ビジネスモデル革新によって 長期にわたって利益確保を継続することが不可能となってきた.多様化するマーケット毎に タイムリーに新しい価値創造・価値獲得を継続していくには,「知識創造活動をベースとす る組織能力向上」を図る必要に迫られている.
組織的知識創造活動においては「SECI (Socialization Externalization Combination
Internalization) モデル」がよく知られている[3].ここでは,「場」が重要な役割を持ち,「場」
の創造にあたって「情報」ではなく「人間」を起点としたアーキテクチャ形成の重要性が指 摘されている[5].
地域社会,国家に焦点をあてると,地球環境問題や資源・エネルギー問題が大きくクロー ズアップされるなか,世界各国では「サスティナブルな社会インフラ構築」が急務となって きた.すなわち,「市場経済原則下の激しいグローバル競争に勝ち抜く経済成長・経済発展」
と「サスティナブルな社会インフラ構築」の両立を目指すことが重要な課題となってきた[23]
[32].
一方,ネットワーク・システム・サービスは「多段階多階層型インターフェイス」でサー ビスを提供するNGN (Next Generation Network),NWGN (New Generation Network),LTE (Long Term Evolution),ユビキタスセンサーネットワーク,SaaS (Software as a Service),及びクラウ ドコンピューティング時代を迎え,ネットワークアーキテクチャ/システムアーキテクチャ
/ビジネスアーキテクチャのあらゆる階層において「階層革新(階層の連結・分離・新設・
統合)」を誘起させ,変化を加速していく[23].
上記の課題対処と,変化に対し一層の柔軟性と俊敏性を持つためには,基本に立ち返り,
社会の構成要素である「個人活動」,「企業活動」,及び「社会活動」をバランスよく支える
「社会基盤としてのネットワークシステムの働き」が求められている[23] [32].
これに対処するため,これまでに「ネットワークコラボレーション手法を活用した組織的 知識創造活動」の視点から,「ディジタルビジネス活動に基づく持続的な新しい価値創造・
価値獲得の仕組みづくり」を三活動分野(個人活動,企業活動,及び社会活動)の共通の価 値基準とした「個人知」,「組織知」,「社会知」,「ネットワーク型社会知」,「ネットワーク型 組織知」,及び「進化するネットワーク型個人知」に関して考察してきた.具体的には,「個 人知」,「組織知」,及び「社会知」の連結・統合と共有・分有の「場」を創造することによ って「ネットワーク型社会知」を構成する「ディジタルビジネス型地域社会ネットワークシ ステム」を考察した[23].更に,これを発展させて,ディジタルビジネス型地域社会のグロ ーバル化を目指す「社会知を基本としたネットワーク型グローバルディジタルビジネスコミ ュニティ」構成法について考察した[31].日本では世界に先行して超高齢社会が進行してい る.豊富な経験を持つ「シニア世代」が中核となって活躍する「第二ビジネス世界」を新た に創造していく必要に迫られている.シニア世代の「知識・技術・経験の豊かで体系的な個 人知」から仮想企業向け組織知である「ネットワーク型組織知」の構成法を考察した[32].
更に,ネットワーク層「知識創造活動支援型ネットワーク」,社会システム層「ディジタル ビジネス型地域社会ネットワークシステム」,及び企業組織層「ネットワーク型組織知」の 三層の組み合わせ構造は,人間を起点とした組織的知識創造のアーキテクチャを形成し,「絶 えざる新たな組み合わせ」の容易化を実現し,「三種類イノベーション(テクノロジーイノ ベーション,ビジネスイノベーション,及びソーシャルイノベーション)」の相互作用を引 き起こす「三層構造オープンイノベーション基盤」となることを考察した[32][33].第5章に おいて,「個人知」の空間軸と時間軸を総合力で統合する「進化するネットワーク型個人知」
構成法を考察した.
これまでの検討によって,当初設定した「二つの重要課題」に対処する共通の鍵とした「個 人知」,「組織知」,及び「社会知」の知識「連結・統合」構成法の研究を終えた.次に,「第 二の重要課題」として設定した,情報通信産業界を対象とする「情報通信分野トータル・ソ リューション企画・開発・提供問題」及び「新産業分野創造をリードする母体産業界への産 業進化問題」に対し検討する.この検討を進めるために上記の「個人知」,「組織知」,及び
「社会知」の知識「連結・統合」構成法の知見に,「情報通信産業界の優れたポジショニン グ」と「ネットワーク型産業知」の視点を加えて検討を進める.
本章では,「ネットワーク型産業知」を中心に議論する.なお,知の連結・統合の「ネッ
トワーク基本モデル」と情報通信産業界が主導する「ネットワーク型産業知」構成法の研究 においては,組織的知識創造活動を支える「ネットワークシステム」として,「三層構造オ ープンイノベーション基盤」を活用して検討を進める.
図6.1に,情報通信産業界が主導する「ネットワーク型産業知」構成法の検討枠組みを示 す.
第6.2節では,前章までに詳述している「組織的知識創造活動を支えるネットワークシス テム」に関して,本章の展開に必要となる部分を抽出して議論を進める.第6.3節では,本 章で提案する,「知の連結・統合のネットワーク基本モデル」を示し,ネットワークシステ ムによる知の連結・統合の「基本パターン」に対しその有効性を例示する.第6.4 節では,
本章で提案する,「知の連結・統合のネットワーク基本モデル」を応用した「ネットワーク 型産業知」構成法について考察する.更に,本章で提案する,情報通信産業界が主導する「ネ ットワーク型産業知」構成法とその効果について考察する.第6.5 節では,これからのネッ トワークに求められる,知の連結・統合を支援する「新しいネットワーク品質尺度」として,
「ネットワーク型社会知」[23],「ネットワーク型組織知」[32],及び「ネットワーク型産業 知」に関する品質尺度を提案する.第6.6節では,本章のまとめを行う.
図6.1 情報通信産業界が主導する「ネットワーク型産業知」構成法の検討枠組み