⑴ 制度の趣旨及び概要
グループ通算制度では、通算制度の開始又は 通算制度への加入に伴う資産の時価評価の対象 となる法人の要件が、組織再編税制における適 格要件に整合的な要件とされました。これによ り、連結納税の開始又は連結納税グループへの 加入に伴う資産の時価評価に比して、対象とな る法人の範囲が全体的に縮小されています。ま た、組織再編税制と同様に、時価評価の対象外 となった場合においても、共同事業性がない等 のときは、欠損金の持込み及び含み損について 一定の制限を課すこととされています。
このように組織再編税制における適格要件や 欠損金及び含み損の取扱いと整合的な制度とさ れたことについて、報告書では、上記1で引用 したほか、次のように記載されています。
「現行制度においては、単体で事業活動を行 って稼得した所得に対しては単体法人を納税単 位として課税を行い、企業グループで事業活動 を行って稼得した所得に対してはその企業グル ープを納税単位として課税を行うのが適当との 考え方により、連結納税の開始又は連結グルー プへの加入に際して、原則として、開始時の子
法人及び加入法人の資産の評価益・評価損の計 上を行うとともに、開始・加入前に生じた子法 人の欠損金は利用が制限されている。
グループ通算制度(仮称)では、制度の適用 開始前後で納税単位が変わるわけではないが、
企業グループをあたかも一つの法人であるかの ように捉え、その企業グループ内の各法人の所 得金額と欠損金額を通算するなどの調整を行う 仕組みであることから、租税回避防止等の観点 も踏まえ、新たな制度においても、一定の場合 は、開始又は加入に際して資産の時価評価課税 及び欠損金の利用制限は必要と考えられる。
他方、現行制度では、一定の法人について、
時価評価課税の対象外とされ、欠損金について も持ち込むことができることとされている(子 法人は自己の所得の範囲内で控除可能)が、こ の時価評価課税の対象外で、欠損金を持込み可 能な法人について、組織再編税制と整合的にな るよう見直し、公平・公正な税負担の観点を踏 まえつつ、対象を拡大することとする。
また、組織再編税制では、適格組織再編成の 時には譲渡損益課税を行わないが、一定の欠損 金の利用を制限するとともに、含み損が実現し た場合の損金算入を制限する類型が設けられて いる。グループ通算制度(仮称)においても、
同様の類型を設ける。」
「グループ通算制度(仮称)においては、組 織再編税制には合併後一定期間における合併法 人の特定資産譲渡等損失額に利用制限があるこ とを踏まえ、含み損の実現損を利用した恣意的 な税負担の調整を防止する観点から、加入後の 特定資産譲渡等損失額については、損金不算入 とする方向で検討することが考えられる。」
「また、欠損金を利用した恣意的な税負担の 調整を防止する観点から、親法人との間に支配 関係が生じた事業年度前に生じた欠損金の利用 を制限することとし、親法人との間に支配関係 が生じた事業年度前から有する資産の加入前の 実現損から成る欠損金の利用を制限する方向で 検討することが考えられる。
さらに、⑶イのうち構造的に損失(償却費 等)が発生する事業を行う法人については、損 失を利用した恣意的な税負担の調整を防止する 観点から、加入後に発生した欠損金については、
損益通算の対象外とした上で、SRLY ルールを 適用する方向で検討することが考えられる。」
次に、親法人の取扱いについて、報告書では、
次のように記載されています。
「現行制度では、親法人の欠損金は制限なく 連結グループに持ち込んで連結所得金額から控 除することができることとされているほか、一 定の場合に限り、連結納税開始前又は連結グル ープ加入前の子法人の欠損金を連結グループに 持込み可能とし、その子法人の所得の範囲内で のみ繰越控除ができることとされている。(欠 損金の繰越控除を自己の所得の範囲内に限定す ることを、以下「SRLY ルール」という。)
グループ通算制度(仮称)においては、前述 のとおり個別申告方式とすることを前提とする と、①法人格を有する各法人が納税義務者とな ること、②親法人において集約して申告を行わ ないため、現行の連結納税制度に比べて、新制 度へ移行しやすくなることから恣意的な税負担 の調整を行うおそれが大きくなること、③欠損 法人を親法人に仕立て上げることにより子法人 の SRLY ルールが実質的に機能しなくなるお それがあること、から、開始・加入前の欠損金 については、子法人に限らず、親法人も含めて 自己の所得の範囲内でのみ繰越控除することが できる制度とすることが考えられる。
他方、一般的に親法人はグループ経営に特有 の機能を担う等の負担が大きいので、グループ 通算制度(仮称)においても、欠損金を制限な く企業グループの所得から控除できるようにす ることも考えられる。」
この考え方を踏まえ、通算制度の開始又は通 算制度への加入に伴う資産の時価評価並びに欠 損金及び含み損の制限は、以下のような全体像 とされています。
① 通算制度の開始又は通算制度への加入に伴
う資産の時価評価(下記⑵及び⑶参照)につ いて、時価評価除外法人が次の法人とされて います。
イ 通算制度の開始に伴う資産の時価評価の 対象外となる法人
イ いずれかの子法人との間に完全支配関 係の継続が見込まれている親法人 ロ 親法人との間に完全支配関係の継続が
見込まれている子法人
ロ 通算制度への加入に伴う資産の時価評価 の対象外となる法人
イ 通算法人が通算親法人による完全支配 関係がある法人を設立した場合における その法人
ロ 適格株式交換等により加入した株式交 換等完全子法人
ハ 加入直前に支配関係がある法人で、次 の要件の全てに該当する法人
A 通算親法人による完全支配関係が継 続することが見込まれていること。
B 加入直前の従業者の総数のおおむね 80%以上に相当する数の者がその法人 の業務に引き続き従事することが見込 まれていること。
C 加入前に行う主要な事業が引き続き 行われることが見込まれていること。
ニ 通算親法人又は他の通算法人と共同で 事業を行う場合に該当する法人
② 時価評価除外法人以外の法人(時価評価法 人)の通算制度の開始又は通算制度への加入 前の欠損金は、ないものとされています(上 記3 ⑵①イ参照)。
③ 時価評価除外法人の通算制度の開始又は通 算制度への加入前の資産の含み損等について、
次の措置が講じられています。
イ 支配関係発生日以後に新たな事業を開始 した場合には、支配関係発生日の属する事 業年度(以下「支配関係事業年度」といい ます。)前の事業年度において生じた欠損 金額及び支配関係事業年度以後の事業年度
において生じた欠損金額のうち特定資産譲 渡等損失額に相当する金額から成る部分の 金額はないものとされる(上記3 ⑵①ハ参 照)とともに、通算承認の効力発生日等か らその効力発生日以後 3 年を経過する日と 支配関係発生日以後 5 年を経過する日との うちいずれか早い日までの間に生ずる特定 資産譲渡等損失額は損金不算入とされてい ます(下記⑹参照)。
ロ 多額の償却費の額が生ずる事業年度に該 当する場合には、通算承認の効力発生日か らその効力発生日以後 3 年を経過する日と 支配関係発生日以後 5 年を経過する日との うちいずれか早い日までの期間内の日の属 するその事業年度に生じた欠損金額につい て、損益通算の対象外とされた上、特定欠 損金額とされています(上記2 ⑶及び3 ⑵
⑨ハ参照)。
ハ 上記イ又はロのいずれにも該当しない場 合には、通算承認の効力発生日からその効 力発生日以後 3 年を経過する日と支配関係 発生日以後 5 年を経過する日とのうちいず れか早い日までの間に生じた欠損金額のう ち特定資産譲渡等損失額に達するまでの金 額について、損益通算の対象外とされた上、
特定欠損金額とされています(上記2 ⑵及 び3 ⑵⑨ハ参照)。
④ 次の法人については、上記③の対象外とさ れています。
イ 通算親法人との間(通算親法人にあって は、いずれかの通算子法人との間)に支配 関係が 5 年超ある法人
ロ 他の通算法人と共同で事業を行う場合に 該当する法人
上記③の欠損金及び含み損の制限には、組織 再編税制には存在しない制限があります。組織 再編成(合併)の場合も、本来的には被合併法 人から引き継いだ欠損金は被合併法人由来の所 得のみから控除するべきと考えられますが、一 つの法人の所得を被合併法人由来分と合併法人
由来分に分解するのは相当に困難であることか ら、欠損金を引き継ぐ(切り捨てる)か否かと いう 2 類型とされています。一方、グループ通 算制度においては、各法人の所得を認識した上、
通算制度の開始又は通算制度への加入前の欠損 金を特定欠損金とすることで、通算前の欠損金 が他の法人の所得から控除されないため、上記 のような懸念はありません。しかしながら、通 算グループ内では完全支配関係があり所得の金 額を一体的に計算していることから事業の移転 が容易であり、欠損金又は含み損を有する法人 を買収して通算グループに加入させると相前後 して従前通算グループで行っていた黒字事業を その法人に移転すること又は新たに黒字事業を その法人において行うことによって特定欠損金 の制度を潜脱することが考えられることから、
上記③イの制限が設けられています。また、欠 損金や含み損がない場合においても、通算制度 の開始又は通算制度への加入後にキャッシュア ウトを伴わない損失を生じさせて他の通算法人 の所得と通算させるために、法定耐用年数が経 済的耐用年数より短い等の理由により多額の償 却費を生み出す資産を有する法人を買収する租 税回避行為も考えられることから、上記③ロの 制限が設けられています。一方、上記③イ又は ロのような事情にない場合について、法人ごと に所得が認識されることからすれば、組織再編 税制のように含み損の実現損を損金不算入とす るまでもなく、その法人の所得からのみ控除で きることとすれば足りると考えられることから、
上記③ハの制限が設けられています。
⑵ 通算制度の開始に伴う資産の時価評価損益
① 概要
通算承認を受ける内国法人(下記②の対象 法人に限ります。)が通算開始直前事業年度 終了の時に有する時価評価資産の評価益の額 又は評価損の額は、その通算開始直前事業年 度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金 の額に算入することとされています(法法64