3 技術
3.2 輸送
CO2回収地点から最終的な貯留地点までの輸送に係る工程は、CCSチェーンにおける一つ の極めて重要な要素である。これらの二つのサイトがほぼ隣接し、非常に短い区間におい て CO2を移動させる必要があるだけのプロジェクトが存在する一方で、ほとんどのプロジ ェクトの場合は輸送距離が数十km、さらには数百 kmに及ぶ。輸送距離が長くなるに従い コストも増大し、多くの場合は克服すべき課題の数も増加することになる。これらの課題 には、通行権の確保や社会的受容性に加えて、再圧縮や監視などの技術的課題も含まれる。
IEA BLUE Mapシナリオに示されている2050年までに3,400件の産業規模のCCSプロジ
ェクトを支援するためには、20 万 km を超えるパイプラインを敶設する必要があり、これ を実現するためのコストは 2 兆 5,000 億~3 兆米ドルと試算されている(Insight Economics
2011)。このことは、CO2 輸送が比較的短期間で非常に大規模な計画及び投資を必要とする
重要な工業部門になることを意味する。さらに、特定の状況下では特別に設計及び建造さ れた船舶による輸送を行う可能性もある。
他の産業、例えば天然ガス及びLNG輸送の分野においては、非常に大量の液体及び気体 をパイプライン及び船舶の両方によって長距離輸送する経験が豊富にある。CO2に関しては、
特に米国が輸送用のパイプラインの敶設と船舶の建造及びそれらの運用に関して長年の経 験を有する。その結果、必要な技術についての知識及び対処する必要がある数多くの課題 に取り組むための経験が蓄積されている。しかしながら、大きな問題となっているのは将 来のCO2輸送事業の規模である。
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CCS の完全な商業化は、数多くの CO2排出源がパイプライン、そして時には船舶を用い て、共有ネットワークを通じて貯留シンクに連結される複雑な輸送インフラに依存する見 込みである。当該ネットワークの構築は、数多くの環境及び商業的な利益をもたらすこと になるが、すべての利害関係者、特に産官における早期の緊密な協力が要求されることに なる。
パイプライン
パイプラインはCCSにおいて非常に大量のCO2を輸送する主な手段であり、今後もそう あり続ける見込みである。一般的にパイプラインは陸域及び海底の両方において確立され た技術である。米国卖独でも350万kmの天然ガス配給ラインに加えて、約80万kmに及 ぶ有害液体物質及び天然ガスのパイプラインが存在する。
現在操業中の CO2輸送パイプラインの総延長は約 6,000km であり、その大部分が米国の パイプラインネットワーク内に存在する(図 32)。同パイプラインネットワークでは、約
50MtpaのCO2が輸送され、過去40年間にわたって整備されてきている。
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図32 北米における既存及び計画中のCO2パイプライン
肥料工場及び石油精製所(人為起源)
Great Plainsガス化工 場(人為起源)
Antrimガス施設(人為起源)
LaBargeガス施設(人為起源)
McElmo Dome(天然起源) Sheep Mountain Wells(天然起源)
Bravo Dome(天然起源)
ガス施設(人為起源)
アンモニア工場(人為起源)
Jackson Dome(天然起源)
北米CO2パイプライン 操業中
提案中
各パイプラインを異なる色 で区別した。
CO2源
出典:データは、Ventyx、米国エネルギー省国立エネルギー技術研究所 及び米国隔離データベース地理情報システムによって提供された。
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米国のCCSの展開を支えるために必要なパイプラインインフラの規模は、2020年には約 8,000~2万1,000km(5,000~1万3,000マイル)、2050年には約3万5,000~5万8,000km(2 万2,000~3万6,000マイル)になることが試算されている(Dooleyら 2009; ICF International
2009)。米国の天然ガス産業が1998~2007年に3万3,521km(2万829マイル)のパイプライ
ンを敶設した(EIA 2008)ことを考慮した場合、これらのCO2パイプライン敶設速度は達成 可能と考えられる。達成可能である一方で、CO2パイプラインを敶設する時に、他のパイ プライン敶設事業による需要(資源、従事者の育成及び鉄鋼などの物資)と競合することに なる。
欧州では、EU及びノルウェーに既に存在するCCS開発計画(陸域及び沖合貯留)を達成す るために必要なパイプラインの総延長は、2020年までに約 2,300km、2030年までに 1 万
5,000km、2050年までに2万2,000kmになるとCO2Europipeコンソーシアムにより試算さ
れている(図33、Neeleら 2010)。これらの試算には、個々のプロジェクトを主となるパイ プライン網に連結させるために必要なパイプライン長は含まれていない。CO2Europipe の 報告書によると、最も多くのパイプラインが敶設される国は、ドイツ、ノルウェー及びポ ーランドであり、その主な理由は大量のCO2を輸送するためで、数本の並行するパイプラ インが必要となる場合もある。しかし、フランス、バルト海沿岸諸国、英国及びルーマニ アでは、2030年までの期間に特に活動的になる必要がある。実際、多くのEU加盟国にお いて、パイプラインネットワークの大部分を 2030 年までに完成させる必要があるため、
2020年から 2030年にかけてパイプライン敶設への注力が最大になることが予想される。
このような規模の事業を達成するためには、年間約1,200~1,500kmのパイプライン敶設速 度が必要になる。米国と同様に、欧州でもこのパイプライン敶設速度を実現することは可 能である。
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図33 欧州CO2輸送回廊及び輸送量、CO2 Europipeの2050年参考シナリオ
出典:Neeleら(2010)
クラスター、ハブ及びネットワーク
前述したように、現在先行しているプロジェクトは、主に又はそのすべてを、専用パイ プラインを通じての2点間輸送に依存すると考えられる。しかし、上述の将来的なCO2輸 送能力の試算では、クラスター、ハブ及びネットワークの整備を前提としている。可能性 のあるクラスター、ハブ及びネットワークの特定は、通常、CO2排出源とシンク(CO2貯留 サイト)の包括的な検討及びマッチングに基づいて行われる。当該作業は世界中の多くの地 域で既に着手されており、更なる研究も継続中である。
CCS の大規模展開によって、近接する CO2排出源群(CO2排出源のクラスター)が幹線パ イプラインによってハブを通じてシンク群(シンクのクラスター)に連結されることになる はずである。次に、それよりも短距離の収集、供給又は配送のためのパイプラインが、個々 のCO2排出源及びシンクをネットワークに連結させることになる。卖純なネットワークは、
木のように構成され、木の枝それぞれがCO2排出源からの供給パイプラインを表し、幹が 幹線CO2パイプラインであり、根が様々なシンクに連結する配送パイプラインを表す。
共有インフラにより多大なスケール・メリットを達成することが可能である。クラスタ
CO2輸送量(Mtpa) ガス田群 帯水層群 CO2源群
参考シナリオ2050年
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ー型の輸送システムは、そのクラスターの規模に左右されるものの、2 点間輸送システム と比較して 25%をはるかに超える支出の節約が可能になる (McKinsey 2008; Mikunda ら 2010)。さらに、当該ネットワークを構築することで将来の投資に対する障害を大幅に低減 させることが可能である。様々な利害関係者及び産業が参加することで、将来の商業的CO2
市場を下支えするための事業構造と融資構造を構築することができる。ネットワークを構 築することにより、例えばパイプライン敶設に必要となる許認可発行の総数を減尐させ、
地域内での展開の促進及び加速化を実現することも可能である。その結果、ネットワーク を構築することで CCS プロジェクトに係る財政的なリスクを低減させること及び個々の CO2プロジェクトのビジネス事例を改善することが可能である。ネットワークによって、2 点間システムを採用するにはコストがかかり過ぎる小規模なCO2排出源をネットワークに 組み込む機会及びネットワーク構築に必要な技術に係る地域雇用や専門性の創出といった 機会も提供される。
しかし、ネットワークを構築する際に直面する大きな問題の一つは、初期プロジェクト だけでは大きすぎるパイプラインに初期投資することで、これらのプロジェクトが深刻な 財政リスクを抱える可能性があることである。パイプラインの予備輸送能力は最終的には 新規参入者によって引き継がれることが予想されるが、特に政府は実証のためのインセン ティブを提供する際にこのリスクを理解している必要がある。この課題は、第三者による ネットワークパイプラインインフラへのアクセスという課題及び当該アクセスに関する規 制が必要になる可能性とも密接に関係している。最後に、ガスの組成に関連する課題、特 にCO2流の中には様々な付随的な関連物質が含まれており、それらの物質はCO2排出源ご とに異なること及びパイプライン内で混合されたときの化学反応に関する問題が考えられ る。これらの課題に対して、すべての産業パートナー、地方自治体及び中央当局との間で 緊密な協力が要求される。タイミングが極めて重要になり得るため、この取組を早期に開 始する必要がある。
現在、豪州、欧州及び北米においていくつかのハブ及びクラスタープロジェクトが提案 又は開発されている。
豪州のCollie Hubプロジェクトでは、西オーストラリア州政府が多数の産業パートナー
と共同で事業を進めている。現在Collie Hubプロジェクトでは、フィージビリティ・スタ ディ(実行可能性調査)の前進を目的として貯留及び輸送に関する課題に注力している。同 プロジェクトの試運転ケース(enabling case)及び基本ケースを裏付けるため、パイプライン ネットワークのフィージビリティ・スタディが開始されている。試運転ケース(試験的隔離) において、目標とする貯留サイトがCO2の長期貯留に適することが実証されることを条件 として、基本ケースが進行することになる。基本ケースでは、まず2015年に、提案されて
いるPerdamanアンモニア・尿素工場から最大で2.5MtpaのCO2を回収することとし、その
後Collie地域の石炭関連産業から排出される最大で9MtpaのCO2を輸送するためにハブの
容量を更に拡大させることが計画されている。