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東アジアの貿易構造をより詳細に探るには、素材、中間財、最終財などの需要段階別・用 途別の分類でもって行うことが有効である。なぜならば、本章の前節で展開しているように、

東アジア域内においては、ASEANは互いに中間財を中心とした貿易取引構造を形成してい る。つまり、互いに部品や加工品を調達しながら最終製品を組み立てているのである。中国

とASEANとの間では、中国はASEANから主に素材・中間財を輸入し、中間財と最終財

を輸出するという貿易構造が見られる。

こうした、東アジア域内でのサプライチェーンが、ミャンマーとカンボジアではどうなっ ているかが、興味のあるところである。そこで、以下の表のように、ミャンマーとカンボジ アの需要段階別・用途別の輸出入を、国連のBEC分類に基づき、中国、インドネシア、マ レーシア、タイ、日本、米国、ドイツの7カ国の相手国側から逆推計により計算した。

なぜ逆推計を行ったかというと、現時点では、電子媒体によるミャンマーとカンボジアの 貿易データを入手することができないため、同じ業種分類で両国を比較しようとすれば、相 手国側から推計するしかないからである。また、ミャンマーやカンボジアの現地公表の貿易

統計では、品目別の貿易額は主要品目別で分類されているが、需要段階別・用途別の分類で は発表されていないためである。したがって、ミャンマーの国別財別の貿易構造を見るには、

HSの8桁ベースの詳細な品目を発表している国より、ミャンマーとの輸出入を相手国側か ら得ることが必要になる。なお、ベトナムに関しては、2013年のデータがなく、2012年の データが最新であったので、本稿では貿易相手国に加えていない。

つまり逆推計である以下の表では、「ミャンマーの中国への輸出」は「中国のミャンマー からの輸入」から作成されている。このため、通常の輸出はFOB(本船甲板渡し条件; Free On Board)、輸入はCIF(運賃・保険料込み条件、Cost, Insurance and Freight)であるが、

本章の表2-36以降の表では、輸出がCIF、輸入がFOBで表されている。

この他にも、①ミャンマー・カンボジアの輸出入額の逆推計は 7 カ国だけを対象にして いる、②輸出入額を計上する時点の違い、③年と年度の違い、④統計作成機関の違いなどの ため、現地政府機関公表と逆推計による輸出入額の合計は一致しない。

表2-36以降の表は、あくまでも、ミャンマー・カンボジアの貿易構造の分析を狙ったも ので、貿易額の規模を把握しようとするものではない。つまり、シェアや年平均成長率の違 いからミャンマーとカンボジアの輸出入構造がどうなっているのかを理解することが主眼 となっている。すなわち、素材、中間財、最終財という需要段階別・用途別の業種分類で貿 易動向を把握することで、両国の貿易構造がより理解しやすくなることが、逆推計のメリッ トであると思われる。

ミャンマーの7カ国への輸出においては(表2-36、表2-37)、素材が76.1%を占め、圧倒 的なシェアを示した。素材の中でも天然ガスを含む燃料・潤滑剤(原料)の割合は48%であ った。中間財のシェアは7.7%にすぎなく、最終財も16.2%にとどまった。最終財のほとん どは消費財であり、中でも縫製品・履物を含む半耐久消費財の割合は9%であった。

これに対して、カンボジアの輸出における素材の割合は5.4%にすぎなかった。カンボジ アの中間財の輸出も6.4%であり、ミャンマー同様に、中国やASEANへの輸出で中間財で ある部品・加工品のサプライチェーンを築いている数字を見出すことでできなかった。一方、

最終財の輸出割合は 88%にも達しており、そのほとんどは消費財で占められている。縫製 品・履物などから成る半耐久消費財と非耐久消費財のシェアは8割にも達している。

つまり、カンボジアの輸出構造は、最終製品である縫製品・履物の委託加工貿易でそのほ とんどを説明できるということである。化学品、輸送機械・部品、繊維製品などのような一 般的な業種別の分類でも、こうしたことは把握できるのであるが、素材、中間財、最終財と いう需要段階別・用途別の分類で比較してみると、より貿易構造の特徴が浮き彫りになる。

ミャンマーの輸出構造は、豊富な資源を背景にした素材輸出というモノカルチャー的な ところに加え、経済特区を利用した「食料・飲料」や「縫製品・履物」に代表される最終財 輸出の割合がやや高いのが特徴である。また、カンボジアは縫製品・履物という最終財のモ ノカルチャー的な輸出構造では、ミャンマー以上に強い特性を持っている。

表2-36:ミャンマー・カンボジアの7カ国へのBEC分類別輸出額(2013年、100万ドル)

(1) 輸入側は、中国、インドネシア、マレーシア、タイ、日本、米国、ドイツの7カ国の合計。

(注2) 下欄のBEC合計と総額との違いは、貿易の元データを国連BEC分類に変換した時に、財別の重 複や分類化できない等の理由で発生する。(以下BEC分類の表、同様)

表2-37:ミャンマー・カンボジアの7カ国へのBEC分類別輸出構成比(2013年、%)

輸出側

Cambodia Myanmar World

総額 5,118 7,966 6,881,937

素材 276 6,062 1,301,603

食料・飲料(原料、産業用) 17 160 87,890

産業用資材(原料) 259 2,080 354,588

燃料・潤滑剤(原料) - 3,823 859,398

中間財 327 614 3,047,963

加工品 139 606 1,799,681

食料・飲料(加工品、産業用) 16 3 41,927

産業用資材(加工品) 122 511 1,399,934

燃料・潤滑剤(加工品) 2 92 357,820

部品 188 8 1,248,645

資本財部品(輸送機器用除く) 117 8 890,639

輸送機器用部品 71 0 358,005

最終財 4,509 1,287 2,297,294

資本財 45 29 1,080,149

資本財(輸送機器除く) 45 29 962,054

産業用輸送機器 0 0 118,095

消費財 4,464 1,275 1,249,789

食料・飲料(原料、家庭用) 75 361 75,900 食料・飲料(加工品、家庭用) 107 64 170,159

乗用車 0 1 258,064

その他の非産業用輸送機器 186 0 12,617

耐久消費財 4 142 186,801

半耐久消費財 3,419 700 333,185

非耐久消費財 678 7 229,730

BEC合計 5,112 7,964 6,646,860

輸入側 7カ国計

輸出側

Cambodia Myanmar World

総額 100.0 100.0 100.0

素材 5.4 76.1 18.9

食料・飲料(原料、産業用) 0.3 2.0 1.3

産業用資材(原料) 5.1 26.1 5.2

燃料・潤滑剤(原料) - 48.0 12.5

中間財 6.4 7.7 44.3

加工品 2.7 7.6 26.2

食料・飲料(加工品、産業用) 0.3 0.0 0.6

産業用資材(加工品) 2.4 6.4 20.3

燃料・潤滑剤(加工品) 0.0 1.2 5.2

部品 3.7 0.1 18.1

資本財部品(輸送機器用除く) 2.3 0.1 12.9

輸送機器用部品 1.4 0.0 5.2

最終財 88.1 16.2 33.4

資本財 0.9 0.4 15.7

資本財(輸送機器除く) 0.9 0.4 14.0

産業用輸送機器 0.0 0.0 1.7

消費財 87.2 16.0 18.2

食料・飲料(原料、家庭用) 1.5 4.5 1.1

食料・飲料(加工品、家庭用) 2.1 0.8 2.5

乗用車 0.0 0.0 3.7

その他の非産業用輸送機器 3.6 0.0 0.2

耐久消費財 0.1 1.8 2.7

半耐久消費財 66.8 8.8 4.8

非耐久消費財 13.3 0.1 3.3

BEC合計 99.9 100.0 96.6

輸入側 7カ国計

ミャンマーの7カ国からの輸入においては(表2-38、表2-39)、素材の割合が4.4%、中

間財が 48.6%、最終財が 46.4%であった。中間財輸入のほとんどは産業用資材を中心とし

た加工品の40.7%であった。部品はわずかの7.8%にすぎない。最終財の輸入の内、資本財 は24.5%、消費財は22.1%を占め、同じような割合であった。

カンボジアの輸入では、素材の割合は1.1%にすぎなく、中間財は60.5%、最終財は38.4%

であった。ミャンマーと同様に、カンボジアでも中間財における加工品の比重が高く50.9%

であった。部品は9.6%であった。最終財の輸入では、消費財の割合が高いが、これは食料・

飲料(加工品・家庭用)のシェアが10.5%にも達していることが原因である。

ミャンマーとカンボジアの中間財の輸入割合がそれぞれ約5割と6 割ということで、他

のASEAN諸国と比較するとやや低いものの、それほど大きな差はない。ミャンマー・カン

ボジアは中国や他のASEANと同様に、中国・ASEAN域内から中間財を輸入する割合が高 く、中間財の輸入では他のASEANと特に変わったことはない。

大きく異なるのは素材の輸入割合である。2章で展開されているように、中国やASEAN 主要国の素材の輸入割合は 10%~20%に達している。ミャンマーとカンボジアの素材の輸 入シェアはそれぞれ1%と4%であり、両国の貿易構造は中国やASEAN主要国とは違って いる。

ASEAN主要国は、FTAを活用し域内で素材(産業用資材等)や中間財(加工品・部品)

を調達し、これらを加工し再び中間財として中国や他の ASEAN に輸出するという相互調 達構造を形成している。これに対して、ミャンマーとカンボジアにおいては、外資系企業が 中国や他の ASEAN から中間財や半製品を輸入し、関税が免除される経済特区にて加工・

組み立てを行い、最終製品として米国、EU、日本などに輸出をする構造となっている(委 託加工型の貿易構造)。

ミャンマーとカンボジアは中間財の輸入において、中国・ASEAN域内から調達している ものの、中間財として輸出する割合はかなり低く、中間財の東アジア域内のサプライチェー ン網には組込まれてはいない。ミャンマー・カンボジアでは、外資による経済特区の利用は 活発だが、域内調達でFTAを利用した関税削減にはまだ至っていないということだ。

経済特区では、持ち込んだ材料は組み立てられ、そのまま製品は外国に輸出される。これ に対して、通常の製造業投資では、材料を海外から輸入するだけでなく、国内からも調達し 製造する。完成した製品は輸出されるか、国内の流通サービスを活用して国内市場で販売さ れる。したがって、経済特区への投資よりも通常の製造業投資の方が、ミャンマーとカンボ ジアにより多くの付加価値をもたらす。

ミャンマーとカンボジアが、こうした経済特区を活用した貿易形態から中国・ASEAN主 要国型に変化するためには、委託加工貿易からFTAの活用を組み込んだ貿易構造に転換し なければならない。それには製造業投資をさらに呼び込む必要があるし、外資の誘致にはイ ンフラと法の整備、規制緩和などが不可欠である。