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7章においては、5章同様にACFTAの11カ国から中国、インドネシア、タイの3カ国 を選び、ACFTAを利用した場合の関税削減額、関税削減率を計算した。また、インドネシ ア、タイの 2 カ国においては、AFTA を利用した時の関税削減額、関税削減率も算出し、

ACFTAと比べてどちらの関税メリットが高いのかを求めている。

さらに、こうした関税削減額、関税削減率を全品目だけでなく、14 の業種別と代表的な 50品目について国・地域別に算出した。

本章においては、6 章と同様に、関税削減額を ACFTA3 カ国の相手先からの輸入額に

MFN関税率とACFTA関税率を乗じ、その差分を求めることにより計算している(関税削

減額=MFN税額-ACFTA税額)。

関税削減額は、別の言い方をすると、ACFTAの関税削減によりどれだけ輸入額を節約で きたかを示している。また、6 章と同様に、この関税削減額を総輸入額で割ることにより、

業種別の関税削減率を得ている。これは、例えば ACFTA による乗用自動車の関税率差

(MFN 税率-ACFTA税率)の分だけ節約できた関税削減額は、乗用自動車の輸入額全体 の何%であるかを求めたものである。

表7-1:ACFTA3カ国の関税削減額及び関税削減率

(注1) 関税削減額は、品目毎の削減額(MFN税額 - ACFTA税額)を積み上げて算出した。品目毎の関税削 減額がマイナスの場合、その品目の削減額は0としている(注記のない限り、本章の以下の図表、同様) (注2) 中国はASEAN10カ国から輸入する場合、インドネシア・タイは中国から輸入する場合の関税削減 額と関税削減率について算出。

(資料) 各国関税率表、各国TRS表(Tariff Reduction Schedule)、Global Trade Atlas(GTA)GTIより作成 (注記のない限り、本章の以下の貿易データの図表、同様)

表7-1は2014年に実施されているACFTA関税率を2013年の輸入額に適用し、中国と インドネシア、タイの関税削減額と関税削減率を算出したものである。つまり、2014年の

ACFTA関税率はわかっているが、それを適用した関税削減額を計算するためには、2014年

通年の輸入額が必要である。しかし、本稿の調査時点では2014年の年全体の輸入額は集計 されていないので、やむを得ず2014年のACFTA税率を2013年の年計輸入額に適用して 求めている。

(単位:USドル) 輸⼊額 関税削減額 関税削減率

中国 (ASEAN10カ国からの輸⼊) 199,008,152,161 5,308,748,323 2.7%

インドネシア (中国からの輸⼊) 29,841,720,268 1,296,671,845 4.3%

タイ (中国からの輸⼊) 37,618,194,532 2,044,370,651 5.4%

表7-1のように、2014年の中国のASEAN10カ国に対する「MFN税額からACFTA税 額を差し引いた関税削減額」は53億ドルであった。一方、中国のASEAN10カ国からの輸 入総額は1,990億ドルであった。したがって、ACFTAを活用した場合の中国のASEAN10 カ国からの関税削減率は、2.7%(53億ドル÷1,990億ドル)ということになる。

同様に、インドネシアの中国からの輸入に対する関税削減額は13億ドルで、関税削減率 は4.3%であった。タイは20億ドルで5.4%となり、いずれも中国よりもACFTAを用いた 関税削減率は高かった。

したがって、関税削減率というACFTAの関税削減効果の面では、インドネシア、タイの

ASEAN2カ国の方が中国よりも大きいことが明らかである。

しかも、インドネシア、タイのASEAN2 カ国における関税削減額の平均は 16.5億ドル {(13億ドル+20億ドル)÷2}であり、単純に10倍したASEAN10全体の関税削減額は165 億ドルとなる。中国のASEAN10からの関税削減額は53億ドルであるので、関税削減率と いう割合の面だけでなく、ACFTAの関税削減額はその絶対額でも中国を上回っていると見 込まれる。

関税削減額を計算するために用いられている MFN 税額は、ACFTA がなければ中国と

ASEANとの貿易で通常に課税される関税額である。また、ACFTA税額はACFTA税率を

輸入額に乗じたものであり、他のACFTA加盟国からの輸入に課税される関税額である。

関税削減率は、「関税削減額(MFN 税額-ACFTA税額)÷輸入額」である。また、「MFN 税額=輸入額×MFN税率」であり、「ACFTA税額=輸入額×ACFTA税率」である。した がって、関税削減率の式は、「関税削減率=(輸入額×MFN税率-輸入額×ACFTA税率)

÷輸入額」と変形され、最終的には「関税削減率≒MFN税率-ACFTA税率」となる。

すなわち、関税削減率を高くするには、関税率差(MFN税率-ACFTA税率)をできる だけ大きくする必要がある。このためには、当たり前のことだが、MFN税率を高くするか、

ACFTA税率を低くしなければならない。インドネシア、タイの関税削減率が中国よりも高

いのは、表5-1のようにACFTA税率にはあまり差がないので、インドネシアとタイのMFN 税率が中国よりも高いからである。つまり、インドネシア・タイは中国よりもMFN税率を 高く設定し元々の輸入障壁を引き上げている。ACFTA税率は中国並みかやや高めの水準ま で引き下げているので、結果としてインドネシアとタイの関税削減効果が中国を上回って いる。

② ACFTA3カ国の業種別、及び代表的な品目の関税削減効果

表 7-2は、ACFTA3カ国の業種別の関税削減額及び関税削減率をまとめたものである。

関税削減額においては、中国の場合は全体の関税削減額(53 億ドル)の中で、最も金額が 高かった業種は、「プラスチック・ゴム製品」で9.7億ドル、次いで「農水産品」の9.4億 ドルであった。「鉱物性燃料」、「化学工業品」、「電気機器・部品」も高い。

インドネシアでは、関税削減額が高い業種は、「繊維製品・履物」、「窯業・貴金属・鉄鋼・

アルミニウム製品」、「機械類・部品」で2.5億ドル前後、「電気機器・部品」の1.8億ドル であった。タイでは、「窯業・貴金属・鉄鋼・アルミニウム製品」、「電気機器・部品」、「農 水産」、「繊維製品・履物」が高く、2億ドル~4億ドルの関税削減額である。

関税削減額においては、インドネシア・タイでは「繊維、窯業・鉄鋼、電気機器・部品」

で高いが、中国では原料・燃料及び農水産の関税削減額のシェアが大きいという特徴が見ら れる。

関税削減率を見てみると、中国においては「食料品・アルコール」の11.2%が最も高く、

次に「繊維製品・履物」が10.1%、「輸送用機械・部品」の 8.3%と続く。つまり、当たり 前のことであるが、関税削減額という絶対額と輸入額削減率という割合では結果は異なる。

インドネシアの関税削減率においては、「繊維製品・履物」が9.5%、「雑製品」が8.4%、

「農水産品」が6.6%、「窯業・貴金属・鉄鋼・アルミニウム製品」が6.4%、と関税削減率 が高かった。

タイでは「皮革・毛皮・ハンドバッグ」が27.7%、「農水産品」が25.5%、「食料品・アル コール」が16.7%、「雑製品」が15.8%、「繊維製品・履物」が12.4%、と関税削減率が高か った。

すなわち、中国、インドネシア、タイのACFTA利用において、2014年の関税削減率が 高かった業種は、「食料品・アルコール」、「農水産品」や「繊維製品・履物」、「輸送用機械・

部品」、「雑製品」、であった。ACFTAでは、「輸送用機械・部品」の関税削減率が高いもの の、関税削減額の絶対額はそれに見合うほど大きくはない。

表7-2:ACFTA3カ国の業種別関税削減額及び関税削減率 中国 (ASEAN10カ国からの輸⼊)インドネシア (中国からの輸⼊タイ (中国からの輸⼊) (単位:USドル)輸⼊額関税削減額関税削減輸⼊関税削減額関税削減率輸⼊額関税削減関税削減率 農⽔産品12,884,640,664945,804,7857.3%946,803,62362,478,5156.6%1,016,464,942259,434,51625.5% ⾷料品・アルコール1,690,850,461189,448,31011.2%608,532,58216,440,0152.7%387,151,83664,670,95016.7% 鉱物性燃38,077,108,002630,043,0361.7%438,043,0077,512,6711.7%233,765,5542,174,7270.9% 化学⼯業12,058,966,624595,858,6754.9%3,155,017,13099,811,3483.2%2,975,581,31187,993,0353.0% プラスチック・ゴム製品21,103,272,172973,754,9344.6%1,241,946,71545,878,6063.7%1,691,565,656127,758,2317.6% ⽪⾰・⽑⽪・ハンドバッグ等513,108,42834,654,4986.8%176,143,6537,949,2234.5%255,889,78870,891,19227.7% ⽊材・パルプ6,610,910,1279,276,7950.1%328,310,7844,732,7191.4%513,989,3748,810,0281.7% 繊維製品・履物4,133,927,749418,842,77410.1%2,799,800,344265,438,0439.5%1,842,524,551228,995,22112.4% 窯業・貴⾦属・鉄鋼・アルミニウム製品6,638,290,571275,702,0974.2%3,968,201,682253,385,0956.4%5,980,041,244388,553,1706.5% 機械類・部品21,129,317,351286,439,1851.4%7,186,854,721258,116,4413.6%7,742,056,111178,508,5922.3% 電気機器・部品68,489,738,764591,813,0490.9%6,779,544,674175,827,8722.6%11,215,180,440292,220,2782.6% 輸送⽤機械・部品624,774,08852,105,3688.3%1,062,680,28216,934,9401.6%2,026,266,588157,379,7267.8% 光学機器・楽器4,537,522,041273,353,3786.0%428,360,07021,664,5815.1%953,748,45753,416,8945.6% 雑製515,725,11931,651,4406.1%721,481,00160,501,7758.4%783,968,680123,564,09115.8% 全体199,008,152,1615,308,748,3232.7%29,841,720,2681,296,671,8454.3%37,618,194,5322,044,370,6515.4%

表7-3は、表7-2の14業種よりも細かな商品を取り上げており、ミルク、Tシャツ、カ ラーテレビ、乗用車などの代表的な50品目に関する関税削減額と関税削減率を求めたもの である。HSの6桁を加重平均で4桁に積み上げている品目が多いが、テレビカメラやカラ ーテレビのように6桁ベースの品目もある。

ミルク及びクリーム(甘味料を加えたもの)においては、中国の関税削減率は10%、イン

ドネシア5%、タイが18.4%と高く、関税削減メリットが生じている。例えば、タイが中国

からACFTAを活用してミルクを100万円輸入すれば、18.4万円の関税を削減できること

になる。

注目されるのは、タイを中心にしてばれいしょ、トマト、玉ねぎ、かぼちゃ、メロン、り んご、梨のACFTA3カ国の多くで関税削減率が5%~125%に達していることだ。このため、

ミルク及びクリーム同様に、関税削減効果が高い品目になっている。

イチゴにおいては、ACFTA税率は中国、インドネシア、タイともに関税は撤廃されてい る。しかし、中国ではASEANから、タイでは中国からの輸入実績がないため加重平均を計 算することができなかった。インドネシアでは中国から1.2億ドル輸入しているが、関税削

減率は5%であった。緑茶では、タイの中国からの輸入における関税削減率はで60%の高率

であり、中国のASEANからの輸入では15%の関税削減率であった。

米(コメ)においては、中国の関税削減率が15%であり、タイでは22%であった。イン ドネシアでは中国からのコメの輸入実績が無く加重平均により関税削減率を計算すること ができなかった。コーヒー牛乳等の甘味飲料においては、中国の関税削減率が 35%と高い が、タイで0%、インドネシアでも5%であった。清酒・りんご酒・梨酒などの発酵酒では、

中国が40%、タイでは60%であり、ACFTAの関税削減効果が大きい品目の1つになって

いる。

感光性の写真プレート等では、中国の関税削減率は16%で、インドネシアでは5%、タイ

では0%であった。プラスチックの板等は、中国、タイでそれぞれ6%、5%であった。Tシ

ャツにおいては、中国とタイの関税削減率がそれぞれ14%、30%であり、ミルク、玉ねぎ、

清酒などと同様に、関税削減のメリットが大きい品目である。

鉄のフラットロール製品や鉄鋼製のネジでは、中国とインドネシアの関税削減率が5%~ 12.5%であるが、タイは0%であった。

手工具、ブルドーザー等、印刷機・部分品、マシニングセンター、射出成形機、絶縁テー プ巻付け機、金属鋳造用鋳型枠、電動機及び発電機などの関税削減率は、3カ国とも5%~

10%の間にあるか0%である場合が多い。

電話機、ディスク・テープ等、テレビカメラ、カラーテレビ、ダイオード、集積回路につ いては、中国のテレビカメラ、カレーテレビ及びタイの集積回路を除いて 3 カ国とも関税 削減率は低い。これは、電気・電子分野の域内の相互調達を容易にし、サプライチェーンの 形成につながる政策が反映されているものと考えられる。しかし、電気制御用・配電用の盤 では中国とインドネシアでは関税削減率が5~10%の間にある。