• 検索結果がありません。

i ) FTA効果に格差が現れた中国の日本・韓国・ASEANとの貿易

日本は 2002年にシンガポールとのFTAを発効させたことを手始めに、メキシコや他の

ASEANとの交渉を2005年頃から順次進めていった。その結果、日本は2005年にはメキ

シコ、2006年にはマレーシア、2007年にはタイ、2008年にはブルネイ・フィリピン・イ ンドネシア、2009年にはベトナムとの間で2国間FTAを発効させた。

日本のASEANとのFTA(日ASEAN包括的経済連携協定、AJCEP)は、2008年4月 に全加盟国での署名が完了した。これにより、同年12月には、AJCEP の枠組みのもとで、

日本はシンガポール、ラオス、ベトナム及びミャンマーとのFTAを発効させた。オースト ラリアとはEPAを署名済みで、2015年1月15日に発効することになっている。

また、日本はモンゴル、ニュージーランド、カナダ、コロンビア、トルコ、などと FTA を交渉中であるし、TPP や RCEP(東アジア地域包括的経済連携協定)、日中韓 FTA、日 EU・FTAの交渉を行っている。この中で、モンゴルとのEPAは大筋で合意に達している。

この他には、湾岸協力会議(GCC)とは交渉延期中であるし、韓国とは交渉中断中である。

一方、韓国はFTAの締結を積極的に進めてきた。韓国は、2004年にはチリ、2006年に はシンガポールとEFTA(欧州自由貿易連合)、2007年にはASEAN、2010年にはインド との間でFTAを発効させた。

また、韓国は2011年にはEUとペルー、2012年には米国、2013年にはトルコとの間で FTAを発効させるに至った。これに加えて、オーストラリア、コロンビアとのFTAは署名 済みである。韓国のニュージーランドとカナダとのFTAにおいては交渉が妥結しているし、

中国とは実質的な合意が行われている。しかし、韓国と日本との間では、前述のように2003 年にFTA交渉が開始されたものの、翌年には中断することになり、いまだもって再開され ていない。

一方、中国がアジアと締結した主なFTAには、ASEANと中国とのFTA(ACFTA)があ るし、FTA に相当する台湾との中国台湾海峡両岸経済協力枠組み協定(ECFA)、がある。

この他にも、中国はシンガポール、パキスタン、マカオ、香港、ニュージーランド、チリ、

ペルー、コスタリカ、との間でFTAを発効させている。これらの中国のFTAは、ほとんど が2005年以降の発効になる。

また、中国は特恵関税協定であるアジア太平洋貿易協定(APTA)を韓国・バングラデシ ュ・インド・ラオス・スリランカとの間で締結している。これにより、中国は加盟国との間

で4,000品目以上の特定品目について関税削減を実施している。

そして、中国はスイス、ノルウエー、アイスランド、湾岸協力会議(GCC)との間でFTA を交渉中であるし、オーストラリアと韓国とは合意ないし実質的な合意が行われている。

こうした日中韓やASEANを巡るFTAの動きは、当然のことながら互いの貿易に影響を 与えることになる。FTA の関税削減効果を見るためには、本報告書の4章以下で展開して いるように、EPA/FTAの関税削減効果を計測することや、FTAを締結している国同士の貿 易の伸びを見ることで検証することができる。

図2-7と図2-8は、2005年~2013年における中国の輸出入の年平均成長率を国別に計測 したものである。これらの図によると、「中国の世界との輸出入」の年平均成長率の方が、

「中国の日本及び中国の韓国との輸出入」の年平均成長率よりも高かった。中国とFTAを 締結した国を含む世界との輸出入の方が、FTA が未締結の日本と韓国との輸出入を上回っ たということだ。

図2-7:中国の輸出の年平均成長率(2005-2013年)

0 5 10 15 20 25 30 35(%)

中国の輸出

年平均成長率(2005年~2013年)

図2-8:中国の輸入の年平均成長率(2005-2013年)

実際の中国の世界への輸出における 2005年~2013年の年平均成長率は14.2%であり、

世界からの輸入では14.5%であった。これに対して、中国の同期間における日本への輸出の 年平均成長率は7.5%、日本からの輸入は6.2%であった。また、中国の韓国への輸出の平均 成長率は12.7%、輸入は11.4%であった。

一方、中国はインドネシア、マレーシア、タイのASEAN3カ国との貿易を世界平均以上 に拡大している。中国のASEAN3カ国への輸出の年平均成長率はいずれも20%前後、輸入 で13%~18%に達する。この結果、2005年以降、中国のASEAN3カ国との貿易の伸びが、

中国の日韓との貿易の伸びよりも大きく拡大している。

中国は ACFTAを通じて、ASEAN3カ国との間で2005年から関税の削減を実施してい

る。ACFTAの発効が、中国のASEAN3カ国との貿易の伸びと日韓との貿易の伸びの間に 格差を生んだ大きな原因と考えられる。また、近年の ASEAN の経済成長率が日本や韓国 よりも高いことも、ASEAN3カ国と中国との貿易を拡大させた要因であると考えられる。

実際に、ACFTA の関税削減効果を分析したところ、2014 年のインドネシア、タイが中 国からの輸入でACFTAの利用により削減できた関税額はそれぞれ13億ドル20億ドルに 達した。これは、これら2カ国の中国からの輸入額の5.0に相当する。つまり、ACFTAに より、これら 2 カ国の中国からの輸入に課せられる関税額は平均で 5%も減るのであるか ら、関税の削減効果が働いていることは明白である。品目によっては、20%や30%の関税

0 5 10 15 20 25 30(%)

中国の輸入

年平均成長率(2005年~2013年)

削減効果を得られる場合がある。ちなみに、中国の ASEAN10 からの輸入で削減した関税 額は53億ドルで、関税の削減効果は平均で2.7%であった。中国はASEANの1カ国当た りでは5.3億ドルの関税削減額となり、インドネシアとタイの関税削減額よりも少ないこと が窺える。

この関税額の削減効果は、全品目の輸出入に ACFTA を利用するという前提で計算され ているので、実際よりも過大に見積もられている。しかし、ACFTAで関税が削減されたこ とで、さらに新たな輸出入が誘発されるので、それを毎年積み上げていくと最終的には大き な効果に結びつくことになる。つまり、この関税効果を考慮すれば、中国のASEANとの貿 易の方が、中国の日本・韓国との貿易よりも、確実にFTA効果の分だけ増加圧力を受けて いる。

また、中国の日本と韓国との年平均成長率を比較すると、輸出入ともに韓国の方が日本を 上回っている。これは、中国と韓国との間で、中国と日本よりも貿易の流れを促進する要因 があることを示唆している。具体的には、中国と韓国との間の特恵関税協定である APTA

(アジア太平洋貿易協定)の影響があるものと思われる。

さらに、中国の日本との輸出入を財別に見てみると、2013年の中国から日本への輸出の 37.4%を占める中間財の年平均成長率(2005-2013年)が8.3%であり、中国の日本からの

輸入の67%を占める中間財の平均成長率が5.7%にとどまっている。一方、中国の韓国への

輸出の56%を占める中間財の年平均成長率(2005-2013年)は13%の増加であり、中国の

韓国からの輸入の78%を占める中間財の伸びは12%の増加であった。中間財という主力な 財における中国の韓国との輸出入の伸びが日本よりも高かったことが、中国の日本と韓国 との成長率格差を生んだ要因である。

この中間財における中国と日韓との間の伸び率の違いは、韓国の対中投資の拡大に応じ て韓国は中間財の輸出入を増加するビジネスモデルを推進し、日本は対中投資の進展によ り、中国との輸出入を現地生産・現地販売に切り替えていることが背景にあるのかもしれな い。

また、中国は日本とは輸送機器用部品の輸出入において、他の財と比較して2005~2013 年の年平均成長率が高い。中国の米国・EU・韓国からの輸入では、産業用資材と消費財の 年平均成長率が高い。中国の米国・EU・韓国向けの輸出では、輸送機器用部品の成長率が 高い。したがって、中国は2005年以降において、産業用資材や輸送機器用部品などの貿易 を日韓や米欧との間で大きく拡大している。

ii ) インドネシア・タイとの貿易で中国・韓国よりも相対的にFTA効果が低い日本

ASEAN自由貿易地域(AFTA)においては、1993年から共通効果特恵関税(CEPT)が

導入され、関税削減が進展している。インドネシアはASEANの一員であるため、このFTA の恩恵を受けている。また、インドネシアはACFTAを通じて、2005年から中国との間で 関税の自由化を享受している。

日本は2006年にマレーシア、2007年にタイ、2008年にはインドネシアと2国間のFTA を締結した。韓国は、2007年にこれらの国を含むASEANとのFTAを発効させている。

日韓とマレーシア、タイ、インドネシアとの間の FTA の発効年次には少しずれがあるが、

ほぼ同時期であると考えてもよいと思われる。

2013年のインドネシアの世界への輸出は1,826億ドルで、輸入は1,866億ドルであった。

また、インドネシアの日本への輸出は 271 億ドルであり、インドネシアの韓国への輸出の 2.4 倍であった。インドネシアの日本からの輸入は 193 億ドルであり、韓国からの輸入の 1.7倍であった。

一方、図 2-9、図2-10のように、インドネシアの世界への輸出における2005年-2013 年の年平均成長率は9.9%、輸入は15.8%であった。インドネシアの他のASEANへの輸出 の成長率は 12.5%であり、輸入は 15.3%であった。インドネシアの中国への輸出では、

16.5%であり、輸入は22.6%と高い成長率を示した。

図2-9:インドネシアの輸出の年平均成長率(2005-2013年)

0 5 10 15 20 25(%)

インドネシアの輸出 年平均成長率(2005年~2013年)