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ACFTAの域内貿易の割合は2割強であり、EUやASEAN域内と比べて相対的に低い。

もしも、ASEAN域内を除くならば、その割合は半分にまで低下する。

その理由の1つとして、ASEANと中国との貿易が「素材や電気電子部品」を輸出し、「繊 維製品や電気製品」を輸入するというように、まだ異なる業種間で行われていることが多い ためと考えられる(垂直的分業)。もしも、「一般・工作機械」や「自動車部品」などの同じ 業種内で貿易が進展すれば(水平的分業)、ASEAN と中国との貿易はさらに拡大するもの と思われる。

また、分業体制だけでなく、関税削減スケジュールでAFTA(ASEAN自由貿易地域)に 比べて遅れていることも、現段階で ACFTA 域内貿易の割合が相対的に低い原因と考えら れる。AFTAの共通実効関税制度(CEPT)は93 年から発効し、2010年には先行 6カ国

(ブルネイ、インドネシア、マレーシア、シンガポール、タイ、フィリピン)の域内関税は 例外を除きほぼゼロになっている。

これに対して、ACFTAは2005年に発効したばかりである。このため、中国とASEAN

先行6カ国は、ACFTAでは、表2-2のようにまず初めに早期に関税を引き下げるアーリー

ハーベスト品目(EHP、主に農水産物やその加工品)の関税を2006年にゼロにした。

次に、2010年には、一般スケジュールどおりに関税削減を実施する自由化品目(ノーマ ルトラック、NT)の関税をゼロにした。NT品目は、規定通りに関税を削減するNT1品目 と、その例外であるNT2品目に分かれる。2012年には、中国とASEAN先行6カ国はNT の例外品目であるNT2の関税を撤廃した。

ACFTAでは、依然として一般スケジュールよりも自由化を遅らせる品目「センシティブ

トラック品目(ST品目)」に関しては、中国とASEAN先行6カ国でも関税撤廃はこれか らである。ちなみに、ST品目は、やや早めに関税を削減するセンシティブリスト品目(SL 品目)とそれよりも遅れる高度センシティブリスト品目(HSL品目)に分かれる。

ACFTA の関税削減スケジュールにおいて、CLMV(カンボジア、ミャンマー、ラオス、

ベトナム)の関税削減は、少し遅れることになっている。EHP 品目は2010 年に既に関税 は撤廃済みであるものの、NT1品目の関税撤廃は2015年からスタートになる予定である。

中国とASEAN先行6カ国は、2012年にはNT2を0%にしただけでなく、同時にSL品目

の関税を20%以下に削減した。

また、2015年には、中国と先行ASEAN6はHSL品目の関税を50%以下にし、CLMV ではSL品目の関税を20%以下にすることになっている。2018年には、中国と先行6カ国 ではSL品目を0-5%に引き下げ、CLMVではNT2品目の関税を撤廃し、HSL品目の関 税を50%以下にすることになっている。2020年にはCLMVでSL品目が0-5%に引き下 げられる。

表2-2:ACFTAの関税削減スケジュール

削減品目 中国およびASEAN6 CLMV

EHP:アーリー ハーベスト品 目 (原則HS01-08、

動物、肉、魚、乳 製品、植物、野菜、

果物・ナッツ+他 HS品目)

HS01-08、他の HS 追加品目

2006年から関税0%

ベトナム2008年、ラオス・ミ ャンマーは2009年、カンボジ アは2010年から関税0 フィリピンはHS01-08 の中から

209品目をEHP品目に指定、そ の他を例外品目としている EHP の例外品

マレーシア:対象がASEANのみ 22品目

カンボジア27品目、ラオス56 品目、ベトナム15品目

EHP の追加品

タイ2品目、フィリピン5品目、

インドネシア20品目、マレーシ 19品目、ブルネイ・シンガポ ール:他国の追加品目全て NT:ノーマルト

ラック品目(段階 的に削減し、最終 的には0%にする 品目)

NT1 2010年から関税0% 2015年から関税0%

NT2 (NT1 の 例外品目)

HS6桁で150品目以下 HS6桁で250品目以下

2012年から関税0% 2018年から関税0%

ST:センシティ ブトラック品 目

(ある期間までに 一定の関税率 ま で引き下げる こ とを猶予され る 品目)

SL

ST品目全体:HS6桁で400品目 以下、輸入額の10%以下

ST品目全体:HS6桁で500 目以下

2012年から20%以下 2015年から20%以下 2018年から0-5% 2020年から0-5%

HSL

ST 品目全体の 40%以内か HS6 桁で100品目以下

ST品目全体の40%以内かHS6 桁で150品目以下(ベトナムは 140品目)

2015年から50%以下 2018年から50%以下 (資料) ACFTAの枠組み協定書と物品貿易協定書及びその修正議定書から作成

したがって、今度の動きとしては、2015年と2018年、及び2020年が次の関税削減の節 目となる。ACFTAを使いこなすには、まずは関税削減スケジュールをしっかりと把握する 必要がある。しかしながら、そのスケジュールは複雑なので、一度ではなかなか覚えきれな い。表2-2を参考にしながら、その都度チェックすることが不可欠である。

⑤ ACFTAにおける原産地規則の特徴

原産地規則は、AFTA(ASEAN 自由貿易地域)のケースで例えるならば、取引品目が

ASEAN 原産と認定され、関税削減のメリットを受けられるために設けられたルールであ

る。AFTAの原産地規則においては、製造過程でASEAN域外の原料を使っている場合は、

「40%以上の付加価値基準」と「関税番号変更基準」のいずれかを選択できる。

AFTAでは、当初は原則として付加価値基準だけであったが、2008年8月1日から関税 番号変更基準が追加された)。これは、日系企業などから、選択可能な一般規則に変更する ように、要望があったためであった。

なぜ日系企業が選択制にこだわったかというと、例えば、為替レートや原材料費の変動、

あるいは電気製品などの製品サイクルの短期化に伴い、急速な価格下落により原産地比率 も変動してしまい、40%の付加価値基準をクリアできなくなる場合があるからだ。

さらには、家電の場合、原産地証明書はモデルごとに取得する必要があり、売値や材料価 格の変動があった時、定期的に原産地証明を見直す必要があるが、間に合わないケースも発 生する。このような場合、付加価値基準だけではなく、関税番号変更基準でもって原産地基 準を満たす道が開かれていれば、企業には心強いということになる。

ACFTAの原産地規則では、域内で完全に生産される産品を原産とする完全生産品基準が

設けられている。この他に、域外の原料を使用した場合の非完全生産品基準として、40%の 付加価値基準が定められている。

また、特定品目基準が設けられており、指定された品目に関する原産地規則が決められて いる。特定品目基準は、排他的基準と代替基準に分かれる。排他的基準は、完全なACFTA コンテンツを求める基準であり、ACFTA域内で育てられた動物から生産された獣毛9品目 を指定している。

代替的基準は、関税番号変更基準と加工工程基準から成る。ACFTAでの関税番号変更基 準は、輸入した原材料・部品に生産工程を加えることにより、HS6 桁レベルの関税番号の 変更を求める基準である。関税番号変更基準が適用される品目として、プラスチック、皮、

毛皮、履物、鉄鋼などの129品目がリストアップされている。

加工工程基準は、ACFTA域外原産の原材料・部品に、ある特定の加工工程が施されるこ とにより域内原産とする基準である。ACFTAでは、繊維・衣類などの427品目が指定され ている。

したがって、ACFTAでは、非完全生産品の場合、一般原則として40%の付加価値基準を 満たすことが求められる。40%の付加価値基準による原産品判定の計算式は以下のとおりと なる。

{(非ACFTAの原材料・部品価額+原産地が特定できない原材料・部品価額)× 100%}

÷ FOB価格 < 60%

(ただし、非ACFTA原産の原材料・部品の価額は、輸入時のCIF価額)

また、ACFTAにおいては、特定品目基準における代替的基準の対象品目は、40%の付加 価値基準か代替基準かを選択できる。AFTAでは、一般原則として付加価値基準か関税番号

変更基準を選ぶことができたが、ACFTAでは、代替品目に指定された特定品目だけが、付 加価値基準との選択が可能である。

ACFTA では、物品貿易協定第 2 修正議定書の「原産地規則の運用上の認証手続き

(Operational Certification Procedures、OCP) 」において、日本企業の関心が高い仲介貿 易を認める条項が盛り込まれた。

これは、ACFTAにおいてはリインボイス(Re-invoice)と呼ばれ、AFTAではバック・

ツー・バック(Back to Back)とされ、商流・物流ともにシンガポールなどの第3国経由で 行われる取引形態を示すものだ。

例えば、中国からタイにACFTAを使って輸出する場合、当該製品が一旦シンガポールの 物流倉庫に保管され、タイ側の発注に応じて発送されるとする。その際に、原産地証明書も 中国政府発行のオリジナルを基に、シンガポール政府が分割して発行することにより、タイ での特恵関税を受けられるシステムのことを指している。

ACFTAにおいても、AFTA同様に、日本企業にとって一般的な流通システムが、原産地

認定に盛り込まれた意義は大きい。