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ACFTAを利用して中国がASEANから輸入する場合の関税削減額は、2013年では46億 ドルに達する。これは、中国の ASEAN からの輸入額の 2.4%に相当する。これに対して、

インドネシア、マレーシア、タイ、ベトナムの4カ国の中国からの輸入における関税削減額 は、合計で48億ドルであった。これは、4カ国の中国からの輸入額の3.9%に該当する。

つまり、2013年に現地日系企業がACFTAを利用した時、中国でASEANから輸入する よりも、これら ASEAN4 カ国で中国から輸入する方が全品目平均で 1.5%(3.9%-2.4%)

も多く関税率を削減することができる。1,000万円輸入する場合は、15万円の差が生じた。

TPPの場合はまだ発効していないため、ACFTA やAFTAと違い品目別の細かな関税削 減リストがまだ出来上がっておらず、正確な関税削減額を計算することは不可能である。そ

こで、日本のTPPを利用した場合の関税削減額をごく簡便な方法(注1)で試算してみると、

それは55億ドルであった。日本企業がTPPを利用した場合の関税削減額が55億ドルと言 われてもイメージが湧かないので、日本の輸出企業1社当たりに換算すると(注2)、その関 税削減額は2,537万円となる。

この1社当たりの関税削減額は、日本企業のFTA利用率を3割として計算している。ま

た、1社当たり2,537万円というTPPの関税削減額はそっくりそのまま日本企業の収益に

なるのではない。なぜならば、日本はTPP交渉参加国の中で、既に7カ国(注3)とFTA/EPA を締結済みであるからだ。既にFTAを活用している国に対しては、TPPの関税削減効果は 割り引いて考えなければならない。

さらには、FTA の関税削減効果は一義的には輸入企業に発生する。日本企業が輸出企業 であった場合には、輸出拡大による間接的な効果しか享受できない。しかしながら、日本の 場合、輸出の半分は親子間取引であるため、少なくとも関税削減効果の2分の1以上の利 益を得ることが可能だ。

同様に、日中韓FTAにおける日本の関税削減額を試算すると、それは63億ドルとなる。

1社当たりの関税削減額は2,922万円となる。日本は中韓との間でFTAを結んでいないた め、日中韓FTAにおいては、関税削減効果は純増となり割り引く必要はない。

RCEP においては、日本の関税削減額は 110 億ドルである。1社当たりの関税削減額は 5,090万円となるが、周知のように日本はRCEP交渉参加国の中で、ASEANとインドの計 11カ国と既にFTAを締結済みである。すなわち、RCEPにおいては、日本は主に中国、韓 国、オーストラリア、ニュージーランドらの 4 カ国との間で新たに関税削減効果を得るこ とになる。この中で、中韓とは、日中韓FTAとRCEPの発効時点や関税自由化の度合いに よってどちらを主に利用するかが決まることになる。

以上のように、TPP、日中韓FTA、RCEPのようなメガFTAが発効すれば、日本は新た な関税削減効果を期待することができる。本稿のようなごく簡便な方法による試算では、既

(注1)関税削減額は、FTAを利用しない時に通常支払う関税額(MFN税額)からFTAを利用した時に 支払う関税額(FTA税額)を差し引いたもの、と定義できる(関税削減額 MFN税額 FTA 税額)

MFN税額 輸入額 × MFN税率、FTA税額 輸入額 × FTA税率なので、関税削減額 (輸入額 × MFN税率) - (輸入額 × FTA税率) 輸入額 × (MFN税率 - FTA税率)、とな る。つまり、関税削減額は輸入額(あるいは相手側の輸出額)に関税率差(MFN税率 FTA 率)を乗じたものになる。

以上のことから、本稿では、「日本のTPP利用による関税削減額」を、「日本のTPPへの輸出額」

に「(TPPMFN税率 - TPP税率)」を乗じて簡便的に求めている。「TPPMFN税率」は TPP12カ国それぞれの加重平均MFN税率を加重平均で求め、TPP税率」はACFTA税率や AFTA税率を参考に任意の税率を恣意的に仮定した。

(注2日本のモノの輸出企業数を6,503社(2012年経済産業省企業活動基本調査結果)とし、1社当 たりの関税削減額を計算。円換算の為替レートは、便宜的に1ドル=100円とした。

(注3日本を除くTPP交渉参加国11カ国中、シンガポール、ブルネイ、マレーシア、チリ、ペルー、

ベトナム、メキシコ、の7カ国とは既にFTA/EPAを発行済み。また、オーストラリアとは署名済 み。

に発効している国との関税削減額を割り引いて考えると、新たな関税削減額の大きいのは RCEP、日中韓FTA、TPPの順番ということになる。

これまでの日本の東アジアでの FTA 効果は、貿易の伸びという点では、中国や韓国、

ASEANと比べると相対的には低く表われている。日本の輸出を拡大するためにも、今後は

EPA/FTAの利用を促進することが求められる。

特に、中小企業の場合は、担当者に限らず経営者においても、必ずしもFTAに精通して いるわけではないので、その利用に関する支援策が不可欠である。官民一体となった FTA 活用の推進が望まれる。

③ TPP、RCEP、日中韓FTAの交渉開始への動き

ASEAN各国は、AFTAやASEAN+1のFTAを推進してきたが、新たに「ASEANと他 のアジア諸国との広域経済圏」の形成を進めている。こうしたASEANの動きは、ASEAN+6

(日中韓、インド、豪、NZ)とほぼ同じ地域を対象とするRCEPという地域経済圏の構想 に結びついた。

日中韓FTAやTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)が東アジアの地域経済統合として名 乗りを上げる中、RCEPはASEANの主導権を取り戻そうとする試みの1つである。ASEAN の中でもFTAに積極的なシンガポール、マレーシア、ベトナムはRCEPについても前向き である。RCEP による輸出拡大効果は限定的とする見方もあるが、やはり製品の輸出競争 力を高めると評価している。

これまでのASEAN+1がより広域な経済圏であるRCEPに包含されれば、それぞれ異な る原産地規則が統一され、かつ累積原産対象の範囲の拡大により、一層の輸出競争力の拡大 に結びつくことになる。例えば、ベトナムなどが繊維の生地などを中国から輸入しても、累 積原産規則により域内への輸出で関税削減の恩恵を受けることが可能になるのだ。

タイは日本の自動車の新技術や新モデルに不可欠な部品は日本からの輸入に頼っている。

これまで、タイからインド向けに自動車部品などを輸出する場合、ASEAN・インド FTA

(AIFTA)では、原産地規則を満たすことができない場合もあった。もしも、RCEPが発効 すれば、これらの部品は関税削減の対象になることが予想される。この意味で、RCEPはタ イにとって輸出競争力を高めると考えられる。

オーストラリアやNZは、RCEPのような広域な経済統合が実現すれば、日本や韓国に加 え、インドとも自由貿易を教授できるとして、基本的には賛成の立場をとっている。TPPと RCEPの2本柱は、APECにおけるアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)実現への一里塚と 考えている。

インドは RCEPへの参加により、中国製品のダンピング輸出を懸念している。それに加 え、元々インドは国内市場が巨大であり、RCEP の経済メリットが相対的に低いという現 実がある。

しかし、それにもかかわらず、インドは中国を警戒しながらも、基本的には参加の方針で ある。これは、RCEPへの参加により国内への投資を呼び込み、産業を活発化させ、輸出を 増やそうと考えているためである。

こうした各国の思惑は総じてRCEPの交渉参加には好意的であり、自由化交渉の難易度 がそれほど高くないこともあり、各国政府の前向きな交渉開始への動きにつながっている と思われる。

成長するアジアの市場を取り巻く主導権争いは激しさを増している。アジアでの経済統 合の流れは、明らかにTPPや日中韓FTA、RCEPに向かっている。

その中で、ACFTAは2014年の時点においては、中国との自由貿易における最大の架け 橋である。TPPや日中韓FTA、あるいはRCEPが機能するまでの間は、ACFTAは大きな 役割を果たすものと思われる。

表2-1:今後のアジアにおける主要な地域経済統合の動き

FTA 交渉開始 発効(域内全体) 内容

TPP 20103月、オーストラリア・

メルボルンでの第 1 回交渉会 合を皮切りに、これまでに 19 回の交渉会合が開かれた。日本 も含めて、並行的に各種交渉が 随時開催されている。

オバマ大統領は2013年内の合 意を目指すことを表明。しか し、カナダとメキシコに加え、

日本の交渉参加により、実際の 合意の時期は遅れることにな った。20144月末のオバマ 訪日でも、関税削減などを巡る 日米協議は妥結しなかった。

2014年内の包括的合意は達成 できなかった。したがって、

TPP 発効は2015 年後半から 2016年以降にずれ込むと見込 まれる。

2012年にカナダとメキシコが 交渉に参加。安倍総理は訪米後 20133月、TPP交渉参 加を表明。これにより日本は、

2013 7月に開催した第18 回会合(マレーシア)から TPP 交渉に参加。2014年に入って からのTPP会合では、知的財 産権、国有企業、医薬品のデー タの保護期間の問題等で最終 的な合意を目指した交渉が続 けられている。