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 カラーTV、乗用車、貨物自動車、自動車部品などの機械機器・部品 4 品目、あるいはプ ラスチック製の板・シート、T シャツなどの素材・衣類 2 品目は、FTA を利用して日本 から ASEAN への輸出の拡大が見込まれる品目である。さらに、この 6 品目は、現地生産 を行い中国・ASEAN 間の域内貿易の拡大が見込まれる品目でもある。

 電話機、集積回路などの電気・電子部品は、一般的な関税(MFN 税率)自体が低くなっ ているため、FTA を活用しなくても日本から中国・ASEAN 域内への輸出が見込まれる品 目である。

 日本から ASEAN への機械機器・部品 4 品目の輸出拡大には、日本と ASEAN との EPA/FTA が AFTA と同じ水準の関税削減効果を早めに実現することが求められる。

 牛肉、ミルク&クリーム、りんご、梨、緑茶、コメ、清酒などの農産物・食料品は、全体 的に見れば、FTA を利用して日本から ASEAN への輸出の拡大が見込まれる品目である。

 FTA 利用のメリットがあるにも係らず、日本から ASEAN への農産物・食料品の輸出実績 が上がらなかった原因は、価格が高い高級材であるため、一般的な消費者の購入に結び ついていないからである。

 日本産の農産物・食料品の輸出の拡大には、現地の上位中間層(アッパーミドル)など を狙った、手頃な値段の中高級品の開拓が求められる。

4. 2014 年における日本と中国・インドネシア・タイとの平均関税率

(1) ACFTA税率よりも低い日本の輸入におけるEPA/FTA税率

平成26年度の本調査報告書においては、ACFTA/AFTAの関税削減効果分析に加えて、

日インドネシアEPA(JIEPA)と日タイEPA(JTEPA)のEPA効果とともに日本の中国 からの輸入における特恵関税制度(GSP)の効果をも計測している。

ACFTAとAFTAの平均関税率と関税率差については、5章以下で説明しているが、4章

ではJIEPAとJTEPAの平均関税率(MFN税率とFTA税率)と関税率差(MFN税率-

FTA税率)を取り上げる。関税率差は通常支払う関税率(MFN税率)からEPA/FTAを利 用した時の関税率(FTA 税率)を差し引いたもので、その割合の分だけ関税削減効果が得 られることを表している。

表4-1のように、日本のインドネシアとタイからの輸入において、加重平均によるJIEPA とJTEPAを利用した時の全品目平均のMFN税率は0.9%と2.0%であった。FTA税率は 0.3%と0.6%であった。第5章ではACFTAの平均関税率を説明しているが、中国・インド ネシア・タイのACFTA税率は 1~3%の間にあり、日本の輸入におけるEPA/FTA税率よ りも高い。

つまり、日本の輸入におけるEPA利用時のFTA税率はAFTA並みに低くなっており、

関税の削減が進展していることが窺える。しかしながら、MFN税率も低いことから、関税 率差(MFN税率-FTA税率)は低率で、関税削減効果はACFTA/AFTAよりもかなり低く なっている。

具体的には、日本がインドネシアから輸入した時に、JIEPA を活用すれば、全品目平均

で0.6%(0.9%-0.3%)の関税率を削減することができる。日本のタイからの輸入では、

1.4%(2.0%-0.6%)の関税率を節約できる。

すなわち、日本がタイからある品目を100万円輸入した場合、JTEPAを利用すれば、平 均すると1.4万円の関税を削減することが可能だ。

これに対して、日本の中国からの輸入では、中国に対するGSPを活用すれば、MFN 税 率が2.6%のところをGSP税率が2.4%にまで下がることになり、平均で0.2%の関税削減 効果しか得ることができない。JIEPA と JTEPA と違い、日本の中国からの輸入に対する GSPの関税削減効果は全品目ベースでは薄まってしまう。

この結果、日本のある企業が中国からある品目を100万円輸入する場合、GSPを使うこ とによる関税削減効果は全品目平均で0.2万円しかないということになる。

(2) インドネシア・タイの日本からの輸入では関税率差が大きい

同じJIEPAとJTEPAの関税削減効果においても、表4-1とは全く逆の方向であるイン ドネシアとタイが日本から輸入する時の効果はどうなっているであろうか。

表4-1:日本の中国、インドネシア、タイからの輸入の平均関税率(2014年、加重平均)

表4-2:インドネシア、タイの日本からの輸入の平均関税率(2014年、加重平均)

表4-2によれば、インドネシアの日本からの輸入のMFN税率は6.2%、FTA税率は2.0%

であったので、インドネシアの日本からの輸入におけるJIEPAの関税率差(関税削減効果)

は4.2%であった。同様に、タイの日本からの輸入のMFN税率は8.5%、FTA税率は2.5%

であったので、関税率差は6.0%に達している。

したがって、表 4-2のインドネシアとタイの日本からの輸入における関税率差(EPA 効 果)は、逆である表4-1の日本のインドネシアとタイからの輸入の場合よりもかなり大きい ということが明らかになった。

表4-2の2014年のタイにおける日本からの輸入でのEPA効果が高い背景の1つとして、

JTEPA における自動車部品の段階的な関税自由化の促進が挙げられる。JTEPA を利用し

たタイの日本からの輸入において、2012年4月にギアボックス、クラッチ、シートベルト などの自動車部品115品目、2014年4月には同31品目の計146品目の輸入関税が撤廃さ れた。

JTEPAの下でのこれらの品目の関税撤廃は「AFTA完了が条件」とされていたものだ。

ただし、通常の品目と異なり、原産地証明書(C/O)を輸入時に提示するだけでは特恵関税 を享受できず、一定の条件をクリアしなければならない。すなわち、対象品目は「自動車組 み立て製造に使用される部品」に限られ、かつ輸入者は自動車製造会社もしくは自動車部品 製造会社に限定されている。こうした条件の適否を巡って、現場においては、日本企業とタ イ税関との間で、食い違いが発生しているようである。

表 4-2 の分析結果は、このタイの自動車部品における関税撤廃が全面的に実施されたと いう前提で計測されている。したがって、もしも税関で関税撤廃の条件に満たないと判断さ れたケースが多い場合は、表4-2や表4-6、表4-10 でのタイの効果分析はその分だけ割り 引いて考えなければならない。

輸⼊側

⽇本

MFN税率 FTA税率 関税率差 中国 (GSP適⽤) 2.6% 2.4% 0.2%

インドネシア 0.9% 0.3% 0.7%

タイ 2.0% 0.6% 1.3%

輸出側

輸⼊側

インドネシア タイ

MFN税率 FTA税率 関税率差 MFN税率 FTA税率 関税率差

輸出側 ⽇本 6.2% 2.0% 4.2% 8.5% 2.5% 6.0%

5章で展開しているように、ACFTAの関税削減効果は中国で 2%台、インドネシア、タ イでは4%台である。したがって、「ACFTAの効果」の方が表4-1における「日本のインド ネシアとタイからの輸入のJIEPA/JTEPAの効果」よりも倍以上も高いことになる。まして や、「日本の中国からの輸入におけるGSP効果」と比較すると、「ACFTA効果」は10倍以 上の効果を持っていることになる。

ところが、表4-2における「インドネシアとタイが日本から輸入する場合」は、「JIEPA 利用の関税削減効果」は5章における「ACFTAの効果」に近い大きさであるし、「JTEPA 利用の関税削減効果」はむしろ「ACFTAの効果」を上回っている。つまり、このインドネ シア・タイが日本から輸入する場合の「EPA効果」は「ACFTA効果」と同等かそれ以上の 大きさを持っているのである。

しかしながら、この「インドネシア・タイが日本から輸入する場合」のEPA効果が高い にもかかわらず、日本企業のFTA利用率はむしろ「日本がインドネシア・タイから輸入す る場合」の方が高い。これは、日本が輸入側である方が、EPA の関税削減効果は日本企業 の直接的なメリットに結び付くためである。

これに対して、日本が輸出側である場合は、直接のEPA/FTA効果は輸入相手企業に属す ことになる。このため、例え日本からインドネシア・タイへの輸出の方がEPAの関税削減 効果が高くても、EPA の利用率ではむしろ日本のインドネシア、タイからの輸入の場合の 方が高くなるのである。

日本とインドネシア・タイとの貿易の現状を見てみると、日本の親企業とインドネシア・

タイの子会社間の貿易(親子間貿易)の全貿易に占める比率は半分以上であるし、最新の研 究によると、FTAを使って貿易する場合は、輸出側は輸出価格を4%ほど引き上げるという 計測結果も出ている。

つまり、親子間貿易を利用してEPA/FTA 活用のメリットを最終的には親企業(輸出側)

に利益を還元するだけでなく、FTA を使った時の輸出価格を引き上げることにより、輸出

者もEPA/FTA効果をより多く受け取ることが可能だ。

日本企業としては、今後のグローバル戦略を考えるならば、日本からの輸出でEPAの活 用を増やすことにより、ASEANなどへの輸出拡大やサプライチェーンの増強を図っていく ことが不可欠である。特に、国際競争力がある中堅・中小企業の輸出促進が望まれる。

表4-3と表4-4は、単純平均によるJIEPAとJTEPAの関税削減効果を見たものである。

表4-3のように、単純平均による日本のインドネシアとタイからの輸入におけるEPA効果 は両方とも2.8%(4.9%-2.1%)であったし、日本の中国からの輸入におけるGSP効果は 0.8%(4.9%-4.1%)であった。したがって、単純平均によるEPAとGSP効果はいずれ も加重平均よりも大きく現れる。