第 5 章 レール小返り解析モデルの低弾性支持レール締結装置への適用
5.4 載荷試験に関する日欧の試験方法の比較
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一方,当該レール締結装置については4.2.4節に示したレール小返り理論を適用し,
小返り抵抗係数 𝐾′ =121(𝐾1𝑏12+ 6𝐾2𝑏22) …(4.3) 第3軌道係数 λ =𝐾′𝑎
𝐶 …(4.4)
載荷点直下のレール傾斜係数 𝑡0 𝜆 =2+25𝜆+50𝜆5+20𝜆+21𝜆2+35𝜆2+8𝜆3+10𝜆3+𝜆44+𝜆5 …(4.5)
が成立する.ここで,これらの式が成立する際,締結装置一組への作用であるレール小返りモー メントは𝐾′ ∙ 𝜃0として算定することができる.
したがって,表5-4に示したレール締結装置の諸元,および軌道パッドの幅:𝑏1=140 mm,レ ールのねじり剛性:C=2.35×108 kN・mm2/rad(JIS 60kgレールの場合)を適用してレール小返 り角を算定すると,鋼板有りの場合に得られたレール小返り角0.00499 radに小返り抵抗係数を 乗じて得られる小返りモーメントは260.0 kN・mmとなる.また,鋼板無しの場合のレール小返 り角に小返り抵抗係数を乗じて得られる小返りモーメントは27.1 kN・mmとなる.
ここで,荷重条件より得られる小返りモーメントの算定結果と試験で得られたレール小返り角 より得られる小返りモーメントの差がレール端部とタイプレートの接触により生じる摩擦力に起 因して失われたモーメントに相当すると考えると,モーメントの差分はレール・タイプレート間 に生じる鉛直方向の摩擦力𝐹𝑇とレール底面中央とレール端部の距離𝑑の積,すなわち
∆M = 𝐹𝑇∙ 𝑑
と表すことができる.また,摩擦力 FTはレールからタイプレートに伝達されるレール横圧力 H とレール・タイプレート間の摩擦係数μの積であることから,上式を書き換えて
∆M = μ ∙ 𝐻 ∙ 𝑑 と表すことができる.
こ の 式 を 用 い て 鋼 板 有 り の 場 合 の レ ー ル ・ タ イ プ レ ー ト 間 の 摩 擦 係 数 を 算 定 す る と , d=145/2=72.5 mm,𝐻=𝐹𝐴 𝑀𝑎𝑥∙ cos 𝜃𝐴− 𝐹𝐵 𝑚𝑖𝑛∙ cos 𝜃𝐵=38.1 kNより,μ=0.48となる.また,鋼 板無しの場合についてはμ=0.56であり,鋼板無しの場合と比較して摩擦係数が大きくなっている ことを確認した.
ここで,摩擦係数については潤滑状況や表面状態,物質の種類によって変化することが知られ ているが,文献[5-4]では鉄と鉄の摩擦係数として0.52が示されており,今回摩擦の調整を目的と して使用した金属板(ステンレス鋼)と鉄の摩擦係数もほぼ同等であることが推測される.よっ て,試験結果より算定した摩擦係数はいずれも金属同士の摩擦係数として妥当なものであるとい える.
以上の結果より,タイプレート式のレール締結装置ではレール・タイプレートが接触して生じ る摩擦力に起因してレール小返り角が減少する,とした仮説が妥当なものであることを確認した.
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いては,表4-2に示したように日本では二方向からの100万回の交互載荷により行うこととして おり,繰り返し載荷試験の前に実施する静的な交互載荷において締結ばねの応力およびレールの 頭部左右変位の限界値に対する照査を行うこととなっている.
これに対し,欧州規格が定める繰り返し載荷試験では,レール締結装置の種類(カテゴリ)お よび要求性能に応じて定まる荷重や角度といった載荷条件で単軸の300万回の繰り返し載荷を行 うこととしている.また,試験後のレール押え力の低下割合が規定値に収まることを確認するこ とが定められているが,日本で実施しているような静的載荷試験時の応答値による疲労破壊に関 する照査は実施しない.
このように,いずれの試験もレール締結装置の疲労耐久性を把握する目的で実施しているが,
両者の隔たりから試験結果を比較することができず,載荷方法の差が試験結果に及ぼす影響につ いては過去に定量化されていなかった.一方,日本と ENそれぞれの試験方法の差がレール締結 装置の疲労耐久性に及ぼす影響を比較し明らかにすることは,今後,繰り返し載荷試験の試験方 法に関する規格審議において,日本の設計思想を反映した国際規格開発の面で有意義である.
そこで,本検討では載荷試験時のレール締結装置の応答値のうち締結ばね応力に着目し,疲労 耐久性の観点から両者の比較・分析を行いその関係を明らかにした.
5.4.1 検討内容
前掲の課題に対し,EN の試験方法に準じた繰り返し載荷試験を実施した場合の締結ばね応力 に着目し,日本の性能照査で締結ばね応力の設計限界値として用いられているばね鋼の耐久限度 線図上で比較することにより,日欧の試験方法を疲労耐久性の観点から比較することが可能であ ると考えた.そこで,同一のレール締結装置を対象として日本と ENで実施されているそれぞれ の試験方法を適用した載荷試験を実施し,その際に得られたレール締結装置の締結ばねの発生応 力について比較を行った.
表 5-6 に使用したレール締結装置の主な諸元を示す.検証対象としたレール締結装置の諸元を 示す.日本と欧州のそれぞれで実績のあるレール締結装置より,新幹線のスラブ軌道で実績のあ る板ばね式締結装置(JIS 60kgレール用直結8改(低)形,以下「直8改(低)形」),および在 来線のバラスト軌道に適用される線ばね式締結装置(JIS 50kgNレール用e2009形座面式,以下
「e2009形」)の2種類を選定した.
これらのレール締結装置を用いて,日本の試験方法および欧州規格に基づく試験方法のそれぞ れについて静的載荷試験を実施し,応答値のうち締結ばね応力を測定した.表 5-7 に載荷条件を 示す.日本の試験方法では軌道構造標準に順じ,直結8改(低)形については新幹線条件,e2009 形については在来線の曲線半径600m以下の条件の設計作用を算定し,直結8改(低)形につい ては FEM レール小返り解析モデルを用いて,e2009 形については性能照査の現状を踏まえ,従 来のレール小返り理論に基づく手法を用いて荷重条件を算定した.一方,EN の試験方法につい ては,欧州規格で定義するレール締結装置のカテゴリより,直結 8改(低)形を高速鉄道のバラ ストレス軌道用のカテゴリD締結装置,e2009形を在来線のバラスト軌道のPCまくらぎ用のカ テゴリC締結装置とし,さらに表5-6のレール締結装置の諸元のうちレール下ばね特性を考慮し たうえで荷重条件を選定した[5-5].
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図5-16に試験概況の例として,ENに基づき実施した試験の状況を示す.試験の実施にあたっ ては,図に示すように実レールの載荷点付近に加工を施した試験レールを制作し,EN の荷重条 件での載荷が可能となるようにした.一方,日本の試験方法については,荷重条件と併せて算定 される最適な載荷点高さを実現する試験用レールを用いて載荷を実施した.
表 5-6 対象レール締結装置の諸元
形式 直結 8 改(低)形 e2009 形
締結ばね 板ばね 線ばね
レール種別 JIS 60kg レール JIS 50kgN レール
レール支承体 軌道スラブ PC まくらぎ
レール下ばね[MN/m] 27.9 123.7 先端ばね[MN/m] 0.58(柔) /5.95(硬) 1.0 横方向ばね[MN/m] 243.9 72.5 支承体ばね[MN/m] 300.0 33.3
レール締結間隔[mm] 625 625
表 5-7 各試験方法の載荷条件
(a)直結 8 改(低)形
項 目 日本の試験方法※1,2 EN の試験 荷 重 軌間内側:64.9kN
軌間外側:35.5kN
軌間内側:
60kN 角 度 軌間内側:36.3 度
軌間外側:46.5 度
軌間内側:
64 度
※1 軸重を 170kN として設計作用を算定
※2 試験レールの載荷点高さは 80mm
(b) e2009 形
項 目 日本の試験方法※3,4 EN の試験 荷 重 軌間内側:57.7kN
軌間外側:41.4kN
軌間内側:
75kN 角 度 軌間内側:31.6 度
軌間外側:41.4 度
軌間内側:
57 度
※3 軸重を 150kN として設計作用を算定
※4 試験レールの載荷点高さは 70mm
61 5.4.2 結果と考察
日本と ENの試験方法それぞれで載荷した際に,応力が大きくなる傾向にある軌間内側の締結 ばねの,最も変動応力が多くなる測点で得られた応力について耐久限度線図上で比較を行った.
図5-17に試験結果の比較を示す.ここで,e2009形については使用しているばね鋼材(56SiCr7
modified)に対応した耐久限度線図を用いた[5-6].また,図中には日本とENそれぞれの試験方
法で実施する繰り返し載荷の目標載荷回数に相当する時間強度線を併せて示した.
直結8改(低)形とe2009形のいずれについても,平均応力については日欧の試験で大きな差 は認められなかった.一方,EN の試験方法における載荷回数300万回の時間強度線に対する変 動応力の割合は,日本の試験方法における載荷回数100万回の時間強度線に対する変動応力の割 合と比較して小さいことが分かった.直結8改(低)形レール締結装置で得られた変動応力は,
日本の試験方法では159 N/mm2,100万回時間強度線に対して52%に相当するのに対し,ENの 試験方法では79 N/mm2,300万回時間強度線に対して31%に相当する.また,e2009形レール
(b) e2009 形
図 5-16 EN に基づく載荷条件での試験状況
(a) 直結 8 改(低)形 載荷角度
64 度 荷重:60kN
載荷角度 57 度 荷重:75kN
26 度
ゲージコーナー 中心 15mm
60kN
軌間内側 軌間外側
(載荷点付近の拡大)
33 度
ゲージコーナー 中心 15mm
75kN
軌間内側 軌間外側
(載荷点付近の拡大)
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締結装置で得られた変動応力は,日本の試験方法では238 N/mm2,100万回時間強度線に対して
99%に相当するのに対し,ENの試験方法では140 N/mm2,300万回時間強度線に対して70%に
相当する.このように,特にe2009形については,日本の試験方法で得られた平均応力と変動応 力の組み合わせがほぼ100万回時間強度線上にプロットされており,時間強度の面から余裕のな いことが分かる.このような結果が得られた原因として,日本の試験方法で実施している二方向 載荷によりレールが軌間内側と外側の両方に小返る挙動を示し,これに伴い締結ばねに生じる変 動応力が単軸載荷を行う ENの試験方法で得られる変動応力よりも大きくなることが考えられる.
以上の結果より,検討対象としたいずれのレール締結装置についても,ばね鋼の耐久限度線図 上の時間強度線と変動応力の関係より,日本の試験方法で実施した場合に疲労耐久性上より厳し い評価をしていることが分かった.
0 100 200 300 400
0 500 1000 1500 2000 変動応力(N/mm2)
平均応力(N/mm2) 測点
0 100 200 300 400
0 500 1000 1500 2000 変動応力(N/mm2)
平均応力(N/mm2)
測点
100万回時間強度線 300万回時間強度線
日本の試験方法 ENの試験方法
図 5-17 締結ばね応力と時間強度線の関係 (a) 直結 8 改(低)形
(b) e2009 形