第 5 章 レール小返り解析モデルの低弾性支持レール締結装置への適用
5.3 レール小返り解析モデルの低弾性締結装置への適用性の検証
5.3.4 レール小返り角に対する摩擦の影響の検証
前節に示したように,タイプレート式のレール締結装置ではレールとタイプレートが接触して 生じる摩擦の影響が無視できず,このためレール小返り角の推定結果と比較して載荷試験で得ら れるレール小返り角が小さくなると考えられた.そこで,タイプレート式レール締結装置を対象 として二方向載荷試験を実施し,レール小返り理論を用いて試験結果を分析し摩擦の寄与を算定 するとともに仮説の検証を行った.
a) 試験概要
直結 8改(低)形レール締結装置を用いたレール締結装置一組の二方向載荷試験において,設 計A荷重相当荷重での載荷に軌間外側のレールとタイプレートのショルダー部の接触箇所に金属 板を挿入し,挿入しない場合とのレール小返り角を比較し,レール小返り角に対する摩擦の影響 を検証した.図5-13に試験状況を示す.
(a)試験概況(二方向載荷試験)
(b)鋼板の設置状況
図 5-13 鋼板を挿入した状態での二方向載荷試験の実施状況
←軌間内側 軌間外側→
ステンレス鋼板
(厚さ 0.5mm)
試験レール
(載荷点高さ 60mm)
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(c)使用した金属板の外観
図 5-13 鋼板を挿入した状態での二方向載荷試験の実施状況(続き)
使用した金属板の材料はSUS(ステンレス鋼)である.厚さは0.5mm,表面に光沢がある平滑 な状態であり,鍛造品であるタイプレートのショルダー部表面と比較してより低い摩擦係数が期 待できるものとして採用した.
表5-4にレール締結装置の主な諸元を,表5-5に二方向試験の荷重条件を示す.鋼板の有無に 依らず,いずれもJIS 60kgレール用直結8改(低)形レール締結装置を対象として,弾性支承上 の梁理論より分散荷重(レール圧力,レール横圧力)を,レール小返り理論よりレール小返り角,
小返り抵抗係数,小返りモーメントを算定し,これらのつり合いより二方向載荷試験の荷重条件 を算定した.なお,荷重条件の算定過程で,試験用レールの載荷点高さは60 mmが最適であると の結果を得た.
表 5-4 レール締結装置の諸元
項目 単位 値
設計軸重 kN 170
軌道パッドばね定数 MN/m 27.94
横方向ばね定数 MN/m 243.92
支承体下ばね定数 MN/m 300.0
先端ばね定数 MN/m 0.58(柔),5.95(固)
レール押え力 kN/個 3.94
レール締結間隔 mm 625
レール押え点間隔 mm 116
試験レール中心からの輪重偏心量 mm 25
レール小返り角の実用解 rad 0.0295
小返り抵抗係数 - 55350
小返りモーメント kN・mm 1634.93
56 表 5-5 荷重条件
設計作用種別 荷重 [kN] 載荷角度 [度]
設計 A 荷重 相当荷重
最大 FA Max 54.7
33.9
最小 FA min 10.0
設計 B 荷重 相当荷重
最大 FB Max 40.0
43.4
最小 FB min 10.0
b) 試験結果
図5-14に鋼板の有無別に載荷時のレール左右変位,レール上下変位およびレール小返り角を示 す.同じ荷重条件でありながら,レール左右および上下変位ともに,鋼板を挿入した場合に増加 していることが分かる.また,レール小返り角に換算すると鋼板無しの場合では小返りがほぼ 0 であったのに対し,鋼板有りの場合は最大荷重作用時に0.0049 radのレール小返り角が認められ た.ここで,当該レール締結装置は60kgレール用であり,レール高さからレール頭部左右変位に 換算すると174 mm×0.0049 rad≒0.87 mmとなった.
(a) レール左右変位 (b) レール上下変位
(c)レール小返り角
図 5-14 レール締結装置の応答値・鋼板の有無の影響 10
20 30 40 50 60 70
-5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5
荷重[kN]
変位 [mm]
鋼板無(頭部) 鋼板無(底部)
鋼板付(頭部) 鋼板付(底部)
10 20 30 40 50 60 70
-5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5
荷重[kN]
変位 [mm]
鋼板無(軌間外) 鋼板無(軌間内)
鋼板付(軌間外) 鋼板付(軌間内)
10 20 30 40 50 60 70
-0.03 -0.02 -0.01 0 0.01 0.02 0.03
荷重[kN]
レール小返り角 [rad.]
鋼板無 鋼板付
57 c) 考 察
試験結果より,表面が平滑な金属板を挿入することにより,同じ荷重条件であってもレール小 返り角が増加することを確認した.したがって,レールとタイプレートショルダー間に生じる摩 擦の差がレール小返り角に影響するといえる.
ここで,レール・タイプレート間に生じている摩擦力について二方向載荷試験の荷重条件より 検討することとする.図5-15に設計荷重作用時の載荷点直下のレール締結装置における力および モーメントのつり合い状態を示す.ここに,
𝐹𝐴:レール締結装置一組に対し軌間内側から載荷する荷重(設計A荷重相当荷重)
𝐹𝐵:レール締結装置一組に対し軌間外側から載荷する荷重(設計B荷重相当荷重)
𝐹𝑇:レール・タイプレート間に生じる鉛直方向の摩擦力 𝜃𝐴:荷重𝐹𝐴の載荷角度
𝜃𝐵:荷重𝐹𝐵の載荷角度
e:試験レール中央から載荷点までの水平方向距離 h:試験レール底面から載荷点までの高さ
d:試験レール底部中央からレール端部(タイプレートとの接触位置)までの距離 M:試験レール底部中央を回転中心とするモーメント
である.
図 5-15 載荷点直下のレール締結装置での力とモーメントのつり合い
今,軌間内側から設計A荷重相当荷重の最大荷重が,軌間外側から設計B荷重相当荷重の最小 荷重がそれぞれ作用している場合について検討する.𝐹𝐴 𝑀𝑎𝑥を𝐹𝐴の最大値,𝐹𝐵 𝑚𝑖𝑛を𝐹𝐵の最小値と した場合,試験レール底部中央を回転中心とするモーメントは時計回りを正(+)として,
M = h ∙ 𝐹𝐴 𝑀𝑎𝑥∙ cos 𝜃𝐴− 𝐹𝐵 𝑚𝑖𝑛∙ cos 𝜃𝐵 + 𝑒 ∙ 𝐹𝐵 𝑚𝑖𝑛∙ sin 𝜃𝐵− 𝐹𝐴 𝑀𝑎𝑥∙ sin 𝜃𝐴
と表される.表5-5に示す荷重条件,および試験に用いた試験レールの寸法よりe=30 mm,h=60 mmであることから,モーメント𝑀を算定すると1579.0 kN・mmとなる.
θA
FA FB
θB
h e e
M
FT
←軌間内側 d 軌間外側→
試験レール
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一方,当該レール締結装置については4.2.4節に示したレール小返り理論を適用し,
小返り抵抗係数 𝐾′ =121(𝐾1𝑏12+ 6𝐾2𝑏22) …(4.3) 第3軌道係数 λ =𝐾′𝑎
𝐶 …(4.4)
載荷点直下のレール傾斜係数 𝑡0 𝜆 =2+25𝜆+50𝜆5+20𝜆+21𝜆2+35𝜆2+8𝜆3+10𝜆3+𝜆44+𝜆5 …(4.5)
が成立する.ここで,これらの式が成立する際,締結装置一組への作用であるレール小返りモー メントは𝐾′ ∙ 𝜃0として算定することができる.
したがって,表5-4に示したレール締結装置の諸元,および軌道パッドの幅:𝑏1=140 mm,レ ールのねじり剛性:C=2.35×108 kN・mm2/rad(JIS 60kgレールの場合)を適用してレール小返 り角を算定すると,鋼板有りの場合に得られたレール小返り角0.00499 radに小返り抵抗係数を 乗じて得られる小返りモーメントは260.0 kN・mmとなる.また,鋼板無しの場合のレール小返 り角に小返り抵抗係数を乗じて得られる小返りモーメントは27.1 kN・mmとなる.
ここで,荷重条件より得られる小返りモーメントの算定結果と試験で得られたレール小返り角 より得られる小返りモーメントの差がレール端部とタイプレートの接触により生じる摩擦力に起 因して失われたモーメントに相当すると考えると,モーメントの差分はレール・タイプレート間 に生じる鉛直方向の摩擦力𝐹𝑇とレール底面中央とレール端部の距離𝑑の積,すなわち
∆M = 𝐹𝑇∙ 𝑑
と表すことができる.また,摩擦力 FTはレールからタイプレートに伝達されるレール横圧力 H とレール・タイプレート間の摩擦係数μの積であることから,上式を書き換えて
∆M = μ ∙ 𝐻 ∙ 𝑑 と表すことができる.
こ の 式 を 用 い て 鋼 板 有 り の 場 合 の レ ー ル ・ タ イ プ レ ー ト 間 の 摩 擦 係 数 を 算 定 す る と , d=145/2=72.5 mm,𝐻=𝐹𝐴 𝑀𝑎𝑥∙ cos 𝜃𝐴− 𝐹𝐵 𝑚𝑖𝑛∙ cos 𝜃𝐵=38.1 kNより,μ=0.48となる.また,鋼 板無しの場合についてはμ=0.56であり,鋼板無しの場合と比較して摩擦係数が大きくなっている ことを確認した.
ここで,摩擦係数については潤滑状況や表面状態,物質の種類によって変化することが知られ ているが,文献[5-4]では鉄と鉄の摩擦係数として0.52が示されており,今回摩擦の調整を目的と して使用した金属板(ステンレス鋼)と鉄の摩擦係数もほぼ同等であることが推測される.よっ て,試験結果より算定した摩擦係数はいずれも金属同士の摩擦係数として妥当なものであるとい える.
以上の結果より,タイプレート式のレール締結装置ではレール・タイプレートが接触して生じ る摩擦力に起因してレール小返り角が減少する,とした仮説が妥当なものであることを確認した.