第3章 研究方法
第2節 質問紙の作成
中学生が保持する科学観(科学に関するイメージ)の実態を把握するため、
以下の手順で科学観調査ツール(質問紙)を作成した。
質問は、次の4つの観点で構成した。
(1)科学と社会に関する観点
(2)科学・科学者《の興味に関する観点
(3)実験と埋論の役割に関する観点
(4)科学的知識の性質に関する観点
(1)科学と社会に関する観点
中学生の価値観や科学の社会的役割などに関する意識を調査する目的で設定 した。しかし、この二日は、本調査だけで中学生の意識を特定するには無理が あると考えられるので、国際理科教育調査と1989年からわが国で毎年実施され ている理数長期追跡調査で使用された質問三口から7項目を選択した。これに より、本調査結果と全国的規模の調査結果との比較分析が可能となった。7個 の調査項目は表1のとおりである。それぞれの項目にっき、肯定・否定という 観点から、5肢の中から1つを選択させる形式とした。
表1 科学と社会に関する質問項目
① 科学は、よりよい生活をつくり出す。
② 科学は、益よりも害を多くもたらす。
③ 科学にお金を使うことは、十分に価値のあることだ。
④ 科学者は、自分の研究が、どのように使われるかについても責任がある。
⑤ 世の中の問題の多くは、科学が原因となっている。
⑥ 科学は、日常生活に深くかかわっている。
⑦ 一般市民でも、科学研究の内容に影響を与えることができる。
なお、授業実践後に実施したポスト調査では、表1の項目を全て割愛した。
(2)科学・科学者への興味に関する観点
科学や科学者への関心の程度や理論が生み出されてきた過程への興味などを 問う6項目を作成した(表2)。また、ポスト調査では、授業前後の変容を確 認できるよう6項目中4項目をそのまま使用し、意識変化の実態を補完的に見 るため新たに6項目を追加した(表3)。それぞれの項目にっき、興味の有・
無、または肯定・否定という観点から、5肢の中から1っを選択させる形式と した。ただし、印象に残る科学者についての項目だけは、いる・どちらでもな い・いない、の3件法とし、その理由も記述させた。
表2 科学・科学者への興味に関する質問項目(プレ調査)
① 科学について興味がありますか。
② 理科について興味がありますか。
③ 科学者について興味がありますか。
④ 理科の授業で、科学者の成功や失敗を取り上げてほしいですか。
.⑤ 科学的理論が生み出されてきた過程について興味がありますか。
⑥ 印象に残る科学者はいますか。 いる と答えた人は、その理由を。
(①③④⑤は、ポスト調査でも使用)
表3 ポスト調査での追加項圏
① 科学の話題を取り上げたテレビ番組や新闘記事をよく見ようと思いますか。
② 科学や科学者に関する本をよく読みたいと思いますか。
③ 科学的理論は完成された知識だと思いますか。
④ 観察や実験は科学を発展させると思いますか。
⑤ 科学の歴史を取り入れた授業は、電気の学習に役立っと思いますか。
⑥ ⑤の質問で、その答えを選んだ理由を書いて下さい。
(3)実験と理論の役割に関する観点
現行の学習指導要領においても、「…観察、実験などを行い、…自然の事物・
現象についての理解を深め、科学的な見方や考え方を養う」ことが目標とされ、
観察・実験が重視されている。また、この目標は、科学の本質についての理解 をめざすことを間接に表現したものと思われる。そして、科学の本質を理解す るうえで、科学的理論の役割や実験の目的や意義を考えることは、基本的要素 であり、科学の歴史はそのための豊かな題材を提供している。例えば、「(61)
=ペルニクス理論の限界を規定していたものが、観測手振の技術的制約であり、
プトレマイオス天文学と同じ測定値を共有せざるを得なかったところに円軌道 としての限界」があったことや、 「ガリレオが技術的なことがらから、ついで それを念頭に入れた思考実験という文字通り理論的活動の訓練を通じて、やが て物質的手段(実験手段)をそれに代位させていく過程jなどは、理論と実験 の関係を考えていく上で貴重な題材となっている。
英国のSolomonらは、科学の本質に関する要点を注意深く強調する教材とし て「Expioring the Na ture of Seieneejを作成した。そのイントロダクショ ンの (62)科学的理論はどのように発展するのか? の節で、次のように述べて
いる。
「全ての未開の時代と中世を通して、西洋のたいていの人は理論はまったく変化を必 要としないと考えた。古代ギリシャ人は、対象を熱心に思考することでその考えを持 っていた。…我々の多くがちょうどその精神で教育を受けた。我々は全て『正しい理 論』を学び、それらの理論が正しいことを前提に実験を繰り返しながめ行った。…そ れは子供たちにとっては退屈であり、また検証のための僅かな機会を与えるだけであ る。最:も悪いことは、…詮索溶きで思慮深い人々がいる時はいつでもそうせずにはい られないいろいろな説明が、どのように生じ変化するのか生徒にまったく何も示さな いことである。」
「理論は実験から直接生じるか?…フランシス・ベーコンは、ガリレオのように、古 い考えの思慮のない受け入れと格闘した。彼は、科学者たちが直接新たな理論を導く ようなより新しい実験をすることを望んだ。」
「(その精神は)学校教育で実行に移され、たくさんの生徒の探求に寄与する。まつ
たくそれは、科学をしばしば『問題解決学習』と呼ばれるものに変える。自然に関す る全ての疑問が、雷や稲妻の原因からアヒルになぜ水かきがあるのかまで実験で解決 する問題となる。それは、面白い科学の秘訣のように思われるかもしれないが、その 結果は大変失望させる。問題解決学習は、2種類の肥料のうちどちらが良いのかや、
なぜエンジンが動かないのかなどを見つけるには役立っが、それ自身説明あるいは理 論を提供することはできない。そのためには、実験と同様に想像力を必要とする。」
「科学者たちは有用な一片の科学的想像力を識別しようと考える。第一一に、それはす でに為された観察の感覚(自覚)を生み、第二に、以前にはまったく考えられなかっ た結果について予言することで、他のたくさんの実験を促進する。宥益な説明は広い 範囲に及ぶ。なぜなら、それは、新しい状況で何が起こるかを提案する精神で操作さ れた、特別な種類の想像力豊かなモデルだからである。」
このようにSolomonらは、科学的理論が不変ではないこと、自然に関する疑 問は単純に実験で解決しないこと、想像力豊かなモデル(理論)が新たな予言 を生み実験を促進することなど、実験と理論の関係を定式化し、1年半にわた る授業と調査活動に取り組んだ。そして、調査用紙と面接の両データから、科 学の本質に関する生徒の理解の状況を検討し、次のように結論した。すなわち、
「㈹データは、標準カリキュラムの範囲内で科学史を教授する我々のユニット が、科学の本質を生徒が理解することに貴重な貢献をした価値ある証拠を提供 する。特に、serendipitous empiricism(思わぬものを偶然に発見する経験主義)
から抜け出し、実験と理論の相互作用の本質の理解に向かうことは重要である。
実験が、解釈を十分試すために計画されることが理解され、そうだから何が起 こるかという予想をもたらす。生徒が抱く理論は今では、まさに事実ではなく、
実験のように解釈または予知と関連させられる。」
この調査用紙で採用された質問項目は、次の4項目である。
1.科学者はなぜ実験をすると思いますか。
(a)新しい発見をするため。
(b)ある自然現象がなぜ起こるかについて、自分の解釈をためしてみるため。
(c)人間に役立つ何かを生み出すため。
(d)その他
2.科学者は実験をする前に何が起こるかを予期していると思いますか。
〈a) はい (b> わからない (c) いいえ 3.科学的理論とは何ですか。
〈a) 多くの実験で証明された事実。
(b)事柄がどのように起こるかについての解釈,
(c)何が起こるかについての考え。
4.時おり、過去において、科学者のグループが異なった理論を持っていたのは、
(a)彼らは、異なった実験をしたから。
(b)ひとつのグループは間違いで、他のグループは正しいから。
(c>彼らは、異なった方法で実験結果を考察したから。
(d)ひとつのグループが実験で失敗をしたから。
理論と実験に関する生徒の意識を調査する上で、この中の1〜3の項目が適 当と判断し、本調査で使用することとした。なお、第4項目は、わが国の小学 校・中学校の理科教育の現状から、また本研究の授業実践での授業内容の範囲 で、生徒に判断を求めるのは困難と考え割愛した。
最後に、調査結果を検討する上で、「理論が先か実験が先か」というような 理論的活動と実験的活動を対立してとらえる立場に立たないよう注意する必要 があ6。前提となる理論は仮説であり、実験の繰り返しによる近似的データの 積み重ねが、仮説を法則に仕上げていく。したがって、実験装置や観測装置を 媒介にした実験活動は理論的活動の一環となっており、こうした全過程を科学 的活動として見ていくことが大切であり留意すべき点である。