• 検索結果がありません。

資本ストックの計測に関する考え方とIT 分析への応用 2 6

附論2−IT 化の経済分析の事例−

4.  資本ストックの計測に関する考え方とIT 分析への応用 2 6

もっと細かく分けることである。特に日本のような雇用構造をもっている国では、職 種間の硬直性や 移動性が労働生産性に非常に大きな影響を与えているはずだから、IT を考えるときに、労働市場 における移動性がどうなっているかということとの関連で考えないと、労働生産性に関わる部分は 正確に捉えられないと思う。

最後に、資本、労働、消費財、中間財も含めてIT関連を包括的に捉える統計的なフレームワー クが日本にはない。アンケート調査や個別の調査はあるが、体系的に IT を評価するにはフレーム ワークが必要である。できれば、IO や、それとリンクしたSNAに戻って、体系的な整理が必要だろ う。

研究会では、以上の報告に関して、次のような議論があった。

・  ソフトウェアについては、この段階では IO 表で投資として捉えられていなかったため推計して いない。新しい IO 表では一部を投資とみなすことになったが、それでもインハウスのものはデ ータが取れない。この部分は外の価格か何かを用いて帰属計算する、というようにせざるをえ ない。

・  法人企業統計でソフトウェア資産を調査するようになり、インハウスのものも含まれている。ただ し、評価については、取得原価によることができない場合には、たぶん費用面からアプローチ せざるを得ない。投入ベースだと、一次近似という意味はあるが、生産性を考える上ではあまり 意味がない。

・  インハウスのソフトウェアを費用の積み上げによって計上することが仮にできたとして、それを投 資としてカウントした場合、開発のために投入した労働の人件費は通常の労働投入の人件費 から除かなければならない。除いた部分を、外部から投資財を購入したという形にして、次の 年にストックになった時点で資本への報酬に入っていくという形にしなければならない。

・  結局、法人企業統計や財務諸表でインハウスのソフトウェアをどう評価するかが難しい問題だ。

自社で開発したソフトと同じソフトを市場で売っていれば同じ値段で評価することもできるが、

対応するものがなければ企業は評価できないのではないか。アメリカでは、会計のコンサルテ ィング・チームが同様のソフトウェアを作っている会社を数社比較して決めている。M&A や税 法等がその背景にありそうだ。

・  労働の職種の情報は、賃金構造基本調査から採れるのではないか。企業ベースのデータなら、

企業活動基本調査にセクション別の人員配置のデータがある。その時系列的な変化を見てい くと、やはり相当の構造変化を起こしている。そういう形で分析できるかもしれない。

4. 資本ストックの計測に関する考え方とIT 分析への応用2 6 

26 本資料は、平成13年11月1日の第5回研究会における宮川委員の報告を、事務局の責任に

資本ストックの集計量としては粗資本ストックと純資本ストックとがある。日本では『民間企業資本 ストック統計』で粗資本ストック、『国民経済計算』で純資本ストックが公表されており、民間のエコノ ミストは前者を使うことが多いが、理論的に使い分けているわけではないようだ。米国ではネット、オ ランダではグロスといった具合に、国によっても違う。

粗資本ストックの考え方は、設備の耐用年数がくるまではその価値が当初の水準に維持され、

耐用年数がきたとたんにゼロになるということを仮定している。そうして、実際に設備を捨ててしまう ことを除却といい、民間資本ストック統計では、除却率を法人企業統計季報のデータから推計して いる。これに対して、HultenとWykoff の2人が、中古資産の価格を使って固定資本減耗の率を推 計し、これが定率法で近似できるという結論を得た、という有名な研究がある。現在、米国の商務省 が公表しているネットの資本ストックは、彼らの研究をアップデートしたFraumeniの推計に基づいて 推計されている。企業会計上の減価償却は、税法上の特別措置などもあって、高めに出る傾向が ある。

実際のデータを見ると、民間企業資本ストックの除却率は概ね 4%程度で推移しているが、国民 経済計算の資本ストックの固定資本減耗率は 8%程度になっている。これに対して、米国の固定資 本減耗率は80年代に5%台だったのが、最近は8%に近くなっている。償却率は80年代には16%

くらいあったが、最近は13%台くらいに低下している。

IT化との関係で資本ストック統計の課題を考えてみると、ITの資本ストックは減耗が激しいので、

粗資本ストックではなく純資本ストックで考えたほうがよいと思う。また、日米比較をするときにソフト ウェアの取り扱いが異なるのは困った問題だ。もう一つの課題は、産業別・資産別の資本ストックの 必要性である。これはIT 化に関する分析の際に各研究者が自分で作っているが、最初からある程 度細かい資産別のデータが用意されていれば、IT の分析は非常にスムーズに進んだかもしれな い。政策的な課題として構造改革があるが、それは生産性の低い分野から高い分野へと資源を移 し、全体として効率的な経済を実現していくということだろうが、そういう意味でもセクター別の統計 が必要になってくる。

ITが成長に寄与するのはネットワーク外部性があるからだと考えるべきだろう。マクロの分析でIT 資本の収益性が高いといっても、資本蓄積が少ないときには高いのは当然で、それは蓄積が進む に従って必ず低下する。持続的な成長が達成されるためには、やはり外部性を生かすことが必要 であり、それを計測するためには産業別のデータが必要になる。

産業別の資本ストックのデータとしては、私が日本経済研究センターと共同で作った JCER、慶 応大学の黒田先生のグループの KEO、そして民間企業資本ストックである。JCER は純資本ストッ クで、22 産業 X5 資本財である。KEO はもっと詳しく、民間企業資本ストックは資産分類がない。

JCER は昭和 45年の国富調査をベンチマークとして、資産別の設備投資を国民経済計算からとり、

産業別には固定資本マトリクスの比率でバラしている。償却率としてはHulten-Wykoffの推計結果 を5資産に集約した林・井上両氏の減耗率を使っている。

る。

JCERを使った分析の結果を紹介する。IT投資の伸び率は90年代に入って金融・保険、運輸・

通信、サービスで高く、98 年の構成比は運輸・中心とサービスで全体の2/3を占める。日米のIT 投資を比較すると、22産業のうち建設を除く全産業で米国のほうが日本を上回っている。

労働生産性の要因分解をマクロでやる場合は普通、資本深化(capital deepening)とTFPの成長 率に分ける。産業別でこれをやれば、個々の産業の資本深化だけでなく、いわゆる efficiency

effect を分析することができる。個々の産業で資本深化によって労働生産性が上がるのは intra

sectoral capital deepeningというが、収益性の高い産業に資本が移動することによって経済全体の 労働生産性が上がる部分をefficiency effects of capital deepeningという。資本でなく労働が資本深 化の深い部門に移動することによる労働生産性の上昇をefficiency effects of labor shiftsで、残り がTFP の成長になる。

結果を見ると、バブル期を除いて労働生産性の上昇はほとんどが個々の資本深化によって生じ ていた。90年代前半から後半にかけては、資本移動のefficiencyがなくなり、労働移動についても 低下している。これは、金融仲介機能の機能不全や労働市場の硬直性を反映しているのではない かとも考えられる。ネットワーク効果、スピルオーバー効果の分析はいろいろなやり方があるが、私 の場合は、TFP の中に他産業のIT ストックが入っているというものである。あまり良い推計とはいえ ないが、90年代の製造業については、他産業のIT投資が自産業のTFPを増加させるという結果 が得られた。逆にアウトプット側の効果はマイナスになっている。これは、IT producing な産業では 需要側からの連鎖効果が働くが、IT using な産業では他産業の効果を自産業の生産性に十分結 び付けていないということを示している。

統計整備の課題としては、次のような点が挙げられる。

(a) 産業別・資産別の資本ストック統計を整備する体制を作る。

(b) 代表的な資産について、その減耗を計測するプロジェクトを作る。

(c) リース資産の取り扱いを使用者主義に統一するため、リースのデータを産業別に分割するため のデータを整備する。

(d) 価格の問題もある。

  研究会では、以上の報告に関して、次のような議論があった。

・ 米のIT 投資が大きく違うということについては、定義の問題もあるのではないか。たとえばロボ ットは、分類上はITではないが、プログラムやMPUが入っている。

・ 減耗率は時系列的に変化している可 能性があるが、米国でも実際のデータは固定されてい る。

・ ソフトウェアについては使用環境と耐用年数の関係や、メンテナンスの取り扱いという問題があ り、ストックあるいは減耗に関しては注意しなければいけないが、現状ではなかなか有効な方 法はない。ストックデータを作成するときに、概念付けを与え、その方法がわかるようにしておく ことが必要だろう。