く,中国語や韓国語のような複雑な文字入力プロセスが必要とする言語は,すでに問題点 に直面しており,入力時に影響を受けているといえる.
3.8.2 訂正箇所の多さ
入力速度を低下させるもう一つ可能性のある原因は,キーボードによる入力ミスである.
その理由は,キーボードのキーの数が多いため,入力する際にミスをしやすくなることと,
入力ミスをした際に,訂正作業やカーソルの移動などの操作に手間と時間がかかるからで ある.タスク1の分析から分かるように,入力エラーに関しては手書入力と比べたら,キ ーボードの方が十数倍も多い(図3.33)ことが分かったため,この仮説は正しいといえる.
3.6
50.6
1.0 10.0 100.0
手書入力 キーボード入力
平均訂正箇所数
図3.33 平均訂正箇所数(タスク1)
このように,キーボードの入力エラー箇所数は手書きよりも多いため,キーボードの入 力ミスが入力速度の低下の原因になる可能性があるといえる.また,キーボードの訂正作 業は手間がかかるため,認知的負荷の増大にも影響を及ぼす可能性があるといえる.
3.8.3 仮名漢字変換の操作の複雑さ
キーボード入力の方が認知的負荷を増大するという結果に関しては,その原因はキーボ ード入力の仮名漢字変換操作である可能性がある.なぜならば,複雑な仮名漢字変換に高 い集中力,及び認知力が必要となるからである.また,複雑な仮名漢字変換を行った後に,
被験者が突然入力を止めて次の文に進んでしまうケースが実験中に多く観察された.
図3.34に,実際に1名の被験者がキーボードで入力した文を示し,仮名漢字変換をして いるうちに,途中で入力ができなくなっている例を示す.この例では,入力した「せいで」
から意図した漢字「星で」に変換するために,12回変換しなければならず,その度に,変 換候補の漢字を確認しなければならないため,認知的負荷が大きくなって記憶した内容を 忘れてしまい,その後,入力することができなくなっている.
提示文:
スピカはおとめ座のα星で,1等級の星である
入力文書:
スピカはおとめ座のアルファ星で
キー情報:
supikaha<Space><Enter>
otomeza<Space><Enter>
no<Enter>
arufa<Space><Enter>
seide<Space><Space><Space><Space><Space><Space>
<Space><Space><Space><Space><Space><Space><Enter>
...以下,内容を忘れてしまう
図3.34 仮名漢字変換で入力が阻害される例
3.8.4 無意識に視線がキーボードに向けられる
タスク4の問題を映像に関する問題と音声に関する問題に分けて正答率を分析した結果,
表3.18に示すように,映像に関する問題のキーボードの正答率が最も悪かったということ が分かった.また,t 検定を用いて分析を行った結果,音声に関する問題ではキーボード と手書きの間に有意水準5%で有意差が認められた(t(14)=-2.674, p <0.05)のに対し,映 像 に 関 す る 問 題 で は キ ー ボ ー ド と 手 書 き の 間 に 有 意 水 準 1%で 有 意 差 が 認 め ら れ
(t(14)=-2.674, p <0.01),映像に関する問題のみの方が手書きとキーボードの間の差がよ り明確であることが分かった(図3.35).
表3.18 タスク4における音声・映像問題別の正答率(タスク4)
手書き入力 キーボード入力 平均正答率 79.0% 66.2%
音声情報 からの出題
T-test t(14) = 2.634, p <0.05
平均正答率 66.2% 50.8%
映像情報 からの出題
T-test t(14) = 3.696, p <0.01
0.0200
0.0024 0.0000
0.0050 0.0100 0.0150 0.0200 0.0250
手書き入力 キーボード入力
有意差の値
図3.35 音声問題と映像問題における有意差の違い(タスク4)
このように,キーボードでメモを入力する際に,手書き入力と比べたら,視線の動きは コンテンツのある情報元(Media Window)及び入力元(Note Window)の他に,無意識 にキーボードに向けられることも多いため,重要な映像情報を見落とす可能性が高いと考 えられる.この問題はキーボードで取ったマルチメディア情報のメモの質を低下する原因 であると推定できる.
また,頭の中で思い浮かんだアイディアを入力する場合も同様,キーボードで入力する 際に,キーの配置や指の位置などを確認するために,頻繁に視線をキーボードに向けなけ ればならない.そのため,キーボードでアイディアを入力する際に,手書きで入力するよ り重要な情報が記録されている入力元に十分に集中できなくなってアイディアの展開など が困難になり,知的・創造的な活動が阻害される可能性があると考えられる.