本実験の目的は,動的メディア自体がどれぐらいユーザの集中力・注意に影響するかを 定量的に分析し,明らかにすることである.以下は,この実験の詳細,及び結果を述べる.
5.4.1 実験の設計
本実験では,動的メディア自体がどれぐらいユーザの集中力・注意に影響するかを定量 的に分析するために体験的タスクに着目した.ここでは,タスク中に動的メディアを表示 し,集中力への影響を分析するために,1)タスクの効率及び2)タスク中の被験者の視 線を分析するという2つのアプローチを取り,以下のように実験の設計を行った.
1. まず,タスクの効率の観点に関しては,動的メディアが体験的認知タスク中に表示 されるとき,どれぐらいそのタスクの解答エラー数,正答数に影響するかを分析す る.本実験においては,被験者に体験的認知タスクを与え,そのタスクを実行する 際に,タスク領域の周りに動的メディアを表示し,タスクの集中力への影響を分析 して明らかにする.結果を比較できるように,基準として動的メディアが表示され ないときに同じ体験的認知タスクを行ってもらう.
2. 二つ目のアプローチとしては,被験者がタスクを実行する際に,彼らの視線の動き を分析することである.動的メディアがタスク中に表示されると,おそらく被験者 がその動的メディアの動きに気がとられ,メインタスクから注意がそがれて集中力 が減少する可能性があると考えられる.そのため,本実験においては,タスク中に 被験者の視線を記録し,被験者がどれぐらい動的メディアを見ているか(=タスク が阻害されるか)を分析する.
5.4.2 タスク内容
本実験で採用される体験的認知タスクは,以下の条件を満たさなければならない.
• 純粋に集中力への影響を分析するために,複雑な思考が含まれず,刺激的応答だけで 実行できる単純な体験的認知タスクが望ましいと考えられる.また,タスクへの学習 が容易にできるように,同じ作業が継続するタスクが望ましいと考えられる.
• 視線の分析が容易にできるように,常に被験者の視線が特定の狭い所に集中するよう な作業が望ましいと考えられる(視線が動的物体の方に移動した場合,すぐに観察で きる).
以上の条件を考慮した結果,本実験では,図5.1に示すように,性格検査などでよく使 用される内田クレペリン検査[内田クレペリン]のタスクを採用した.作業としては,図
5.1に示すように,「1桁の足し算を行い,その結果の下1桁をずっと書いていく」という 非常に単純な計算タスクである.
更に,本実験では上記タスクを行う際に,動的メディアが表示される,及び表示されな いという2種類の刺激モード(サブタスク)から構成され,全体的にそれぞれのサブタス ク3回ずつ行う.
2 + 7 = 9 7+9=16..
計算タスク:
計算領域のまわりに アニメーションを表示する 計算領域
開始日タン
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図5.1 本実験に採用した体験的認知タスク
(動的メディア表示サブタスク)
5.4.3 実験環境
実験環境に関しては,動的メディアの分析・作成,実験用 UI の設計・設定,及び実験 機器の設定に分け,以下にそれぞれの詳細について述べる.
5.4.4 動的メディアの分析及び作成
本実験では,できる限り得られる結果が幅広い動的メディアに適用できるように,動画 やウェブバナーのように,特定の分野で,何らかの情報を持つものを採用しないようにし た.そこで,我々は動的メディアを作成するために,一般的に使われるアニメーション効 果(表現・表示方法)を分析した.ここでは,3 人の被験者で主観的な実験を行い,被験 者にパワーポイント2003で設定できる80種類以上のアニメーション効果,及びMSNの ウェブページから抽出した 10 種類のウェブバナーを被験者に見てもらい,それぞれのア
その結果,被験者から合計54個のキーワードを収集し,その中から3回以上出現したキ ーワード(45個)を抽出し,動きの表示・表現方法のグループ化を行った.具体的な結果 を表5.1に示す.
まず,表5.1のなから,代表的なアニメーション効果を7つ選んだ(位置変化しない効 果の中から,1)点滅,2)ズーム,3)フェード,4)回転,及び位置変化する効果の中か ら,5)直線的動き,6)弾み,7)渦巻きの計7種).動きの向きや速度を組み合わせ,計 124個の動的メディアを作成した.図5.2に,作成した動的メディアのサンプルを示す.
表5.1.動的物体の動きの分類とそのキーワード
動きの分類 3回以上出現したキーワード
縮小・拡大 ズームイン,ズームアウト,接近する,膨張する,縮 む,等
フェーディング フェードイン,フェードアウト 物体が移動
しない場合
その他 回転,点滅
直線的な動き 直線に,昇る,沈む,通過する,落ちてくる,など 回る 回る,カーブする,渦巻く,など
物体が移動 する場合
弾む 弾む,飛び上がる,はねる 物体が移動しない場
合
遅: 少しずつ,徐々に
速: 突然,いきなり,すぐに,一瞬で,瞬間的,な スピード ど
物体が移動する場合 ゆっくり,速い
連続性 一回,往復する,繰り返す コントラスト 明るくなる,暗くなる
色 色の変化,グラデーション
弾み 直線運動
回転 渦巻き
弾み 直線運動
回転 渦巻き
図5.2 動的メディアのサンプル
5.4.5 実験 UI の設計及び実装
実験用のUIを図5.3に示す.計算領域を10×10のマスで構成した.最初の2つの計算 用数値は,以下の条件を考慮し,設定を行った.
• 同じ計算がすぐに出現しないように,1 個目の数値を奇数,2 個目の数値を偶数に設 定した.
• プロトタイプUIで数値の設定を検証した結果,60個,及び61個目のマスに必ず最 初の2つマスと同じ数値が出現するため,前半50個と後半50個の計算作業を異なる ものにした.
また,動的メディアが表示されるサブタスクでは,動的メディアは計算領域(10×10 の計算マス)の周りに表示される(図5.3).システムでは,次の動的メディアを表示する までの時間をランダムにし,およそ 3~10 秒の間隔で表示されるように設定した.更に,
手書き入力の場合,手で隠れて動的メディアが見えないケースがあるため,この問題点を 解決するために,動的メディアの表示場所は,手で隠れることがなく,動的メディアがよ く表示するワームゾーン(見やすいゾーン),及び手でよく隠れているため,あまり表示し ないクールゾーンの2つに分ける(図5.4).
図5.3 実験用UIのサンプル 図5.4 動的メディアの表示頻度の位置
5.4.6 実験環境の設定
本実験は,ペンタブレット液晶Wacom Cintiq1800を用いて実験を行った.また,被験 者の視線情報を獲得するために,Nac社製の視線検出装置EMR-8を使用し,被験者の両 眼中央からディスプレイまでの距離をおよそ40cmに保つようにした.実験環境の詳細を 図5.5に示す.
Set B
Set A
視線検出機
被験者 液晶ペンタブレット サイズ:18” (1280 x 1024)
NAC Inc.
EMR-8 NAC Inc.
EMR-8 コンピュータ
B
視線検出機用環境 視線検出装置から
のデータを記録
ディスプレイ Set A
実験実行用環境
40 cm
コン ピュ ー タA
Set B
Set B
Set A
視線検出機
被験者 液晶ペンタブレット サイズ:18” (1280 x 1024)
NAC Inc.
EMR-8 NAC Inc.
EMR-8 コンピュータ
B
視線検出機用環境 視線検出装置から
のデータを記録
ディスプレイ Set A
実験実行用環境
40 cm
コン ピュ ー タA
Set B
図5.5 実験環境の設定
コンピュータの画面が正確に記録できるように,ディスプレイと頭上にある視線検出装 置のカメラとの距離を40cm程度に設定し,タスクを行う前に毎回調整した.また,視線 情報が安定に記録できるように,実験中にできるかぎり頭を大きく揺らさないように被験 者に指示した.
5.4.7 実験手順及び計測項目
被験者は,15名で,全員が右利きである.ほとんどの被験者がペンタブレット液晶を使 用したことがないため,実験前に,5 分間の練習時間を与えた.その後,タスクのやり方 を説明し,できる限り“早く,正確に”ペンで記入するように指示した.
被験者はそれぞれのサブタスク(動的メディア表示あり・なし)を3回ずつ行い,終了 するまでの時間を5分間に設定した.サブタスクの順番は回数毎にランダムにした.また,
各回数の間に5~10分間の休憩時間を設けた.
動的メディアが表示されるサブタスクでは,回数毎に作成された124個の動的メディア の中からランダムに31個ずつ選び(ただし,3回のサブタスクで全ての7種類の動的メデ ィアの表示する回数,及び時間の合計が均等になるようにシステムで実験前に予め調整し た),3~10秒の間隔で順々に表示するようにした.
また,被験者の視線分析を行うために,15人の被験者の中から,視線情報がはっきり表 示される5名を選択し,実験中に視線検出装置を付けて実験を行うようにお願いした.ま た,この5人の被験者に対して実験の最後に簡単なインタビューをし,実験中に気付いた ことや,感じたことについて自由に回答してもらった.
計測項目に関しては,1)5分間で記入した解答,2)30秒間毎に記入された解答を記録 し,エラー率や正答数について分析する.更に,被験者の視線を分析するために,視線検 出装置から記録した画像情報を用いて分析する.視線分析のパラメータに関しては,5.5.3 項に述べる.