3.7 比較実験結果の分析と評価
3.7.1 タスク 1 の分析と評価
実験の設計で述べたように,思い浮かんだアイディアは素早く入力しなければならない.
ここでは,手書きの有効性を明らかにするために,まず入力速度について分析を行う.ま た,入力ミスは入力速度を大きく影響すると考えられるため,最後に入力エラー箇所数に ついて分析した.
3.7.1.1 入力速度に関する分析
タスク1では,メモの入力速度を分析するために,まず,各入力文(手書きとキーボー ド,それぞれ2セット,60文)の入力時間をログし,集計する.その結果,図3.17に示 すように,全体的にキーボードの場合は一分間で平均51.3文字程度入力できるということ が分かった.この入力速度は,日本語ワープロ検定試験において2級と同等の入力速度(表 3.4を参照)に相当するものであり,一般ユーザの入力速度(3級に相当すると言われる)
よりも早いということが分かった.それに対し,手書きの場合は,全体的に一分間で入力 できる文字数は平均59.3文字程度であり,キーボードの入力速度より13.5%程度速かった ということが分かった(図3.17).t検定を用いて調べた結果(各15人の平均入力速度で,
分散が等しくないと仮定した2標本による検定),キーボードと手書きの間に有意水準5%
で有意差が認められた(t(14)=-2.405, p <.0.05).また,図3.18は,キーボードの入力速 度から手書きの入力速度を引いた値を被験者ごとにまとめたグラフである.図3.18から分 かるように,15 人の被験者の内,12 名がキーボードより手書きの方がメモの入力速度が 速いということが分かった.
次に,15人の被験者が入力した120文の平均入力速度について分析した結果を図3.19 に示す.分析した結果,まず120文の内85(71%)文がキーボード入力より手書きの方が 速く入力できたということが分かった.t検定を用いて調べた結果(各120入力文の平均 入力速度で,分散が等しくないと仮定した 2 標本による検定),キーボードと手書きの間 に有意水準1%で有意差が認められた(t(119)=-6.761, p <.0.001).その後,各グループ(10,
20,30文字)の入力速度を分析した結果,図3.19に示すように,手書き入力の入力速度
は文字数が増加すると共に,入力速度も速くなる傾向が見られた.一方,キーボード入力 の入力速度は,文の長さを問わず,一定であることが分かった.この結果より言えること は,手書きでは入力が簡単かつ自然であるため,文字を入力している内に学習を行い,そ の結果,入力速度がどんどん速くなるに対し,キーボード入力では複雑な入力プロセスが 必要なため,学習ができなくなり,一定となる.
以上の結果をまとめると,全体的に手書きの方がキーボードより速く入力できるという 結果が得られた.また,手書きではキーボードと異なり,入力しているときに学習を行う ことができるため,入力速度がどんどん速くなる傾向が見られた.
59.3
51.3
40 45 50 55 60 65 70
手書入力 キーボード入力
平均入力速度 (文字/分)
図3.17 平均入力速度(タスク1)
-25.0 -20.0 -15.0 -10.0 -5.0 0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0
Fj Ina Ino Kk Kt Kz Og Sd Sh Td Tkd Tky Wd Ym Zk
平均入力速度 (文字/分)
図3.18 手書きとキーボードの入力速度の差(タスク1)
[“手書入力速度”-“キーボード入力速度”]
61.0 57.5 58.2
50.7 50.7 50.7
40.0 45.0 50.0 55.0 60.0 65.0 70.0
10文字 20文字 30文字
平均入力速度 (文字/分) 手書き入力 キーボード入力
図3.19 各グループの平均入力速度(タスク1:10,20,30文字)
3.7.1.2 入力エラーに関する分析
手書きとキーボードの入力エラー箇所数を分析するために,まず,手書きの入力エラー 箇所数を,1)間違って書いた文字をすぐに二重線などで訂正する「削除グループ」,2)
間違って書いた文字を後で気付いて二重線などで訂正し,正しい文字をその付近に書く「削 除-挿入グループ」,3)書き忘れた文字を後で気付いて挿入する「挿入グループ」,及び4)
間違って書いた文字の上に上書きする「上書きグループ」に分けて,入力エラー箇所数を 集計した.図3.20に,手書きによる訂正のサンプルを示し,丸く囲んだ部分をそれぞれ1 箇所として計算した.また,キーボードの場合は,図3.21のように訂正キー(Backspace,
及びDelete)が押下された箇所を一箇所として集計した.その際に,連続して訂正キーが
押下された場合は,1箇所として計算した(図3.21).
サンプル3:削除 サンプル1:削除
サンプル2:削除+挿入
サンプル4:上書き サンプル3:削除 サンプル1:削除
サンプル2:削除+挿入
サンプル4:上書き
図3.20 手書きによる訂正の例
<Shift>CDI<Backspace><Shift>U<Enter>
ha<Enter>
zakusnenn<Backspace><Backspace><Backspace>senn<F7>s<Enter>
huude<Space><Enter>
53<Enter>
<Shift>%<Enter>
1箇所
1箇所
<Shift>CDI<Backspace><Shift>U<Enter>
ha<Enter>
zakusnenn<Backspace><Backspace><Backspace>senn<F7>s<Enter>
huude<Space><Enter>
53<Enter>
<Shift>%<Enter>
1箇所
1箇所
図3.21 キーボードによる訂正の例
入力エラーの箇所数を分析した結果,キーボード入力によるエラー箇所数は手書き入力 よりも14 倍多いということが分かった.また,タスク1の各入力文の長さ(120 文)と その文内の入力エラー箇所数の関係について分析した結果,図3.22に示すように全体的に 文の長さを問わず,キーボードの方が手書きより入力エラーが多かったということが分か った.
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0
10 15 20 25 30 35
文字数/文(120文)
平均入力ミス箇所数(15人)
X
手書き入力 キーボード入力
図3.22 タスク1の各入力文の平均入力エラー箇所数
(被験者15人×120文)
このように,キーボードの入力エラー箇所数は手書きよりも多いため,キーボードの入 力ミスが入力速度の低下の原因になる可能性があるといえる.また,キーボードの訂正作 業は手間がかかるため,認知的負荷の増大にも影響を及ぼす可能性があるといえる.
3.7.1.3 タスク1の結論
以上の結果をまとめると,まず,全体的に手書きの方がキーボードより速く入力できる という結果が得られた.また,手書きではキーボードと異なり,手書きで入力していると き学習が行われ,入力速度は文字数が増加すると共にだんだん速くなる傾向が見られた.
最後に,入力エラーに関しては手書き入力と比べたら,キーボードの方が十数倍も多いこ とが分かった.このように,手書きの方がキーボードより入力効率が高いといえる.
しかし,以上の結果は被験者が正しく入力したかどうかによって評価が左右される.そ のため,被験者が手書き,またはキーボードで入力した文を主観的に確認し,評価した結 果,全ての被験者が正しく文を入力したことを確認した.また,図3.23は良い手書き入力 サンプル,及び悪い手書き入力サンプルを示す.このように,手書きで入力した文は,被 験者だけでなく,第三者も読める程度に入力したことを確認できたため,結果の分析を行 う際に,両サンプルを同じように扱った.
a) 良い手書き入力サンプル
b) 悪い手書き入力サンプル
図3.23 手書き入力のサンプル(タスク 1)