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調査の方法と課題の種類の分析

第3章では、まず、研究の方法について説明する。続いて、調査結果の分析の一部を扱 う。本章の分析は、研究課題(1)の「人文系大学院では、どのような文章課題が課されてい るのか」という問いに答えるものである。この第3章の分析結果は、その後に続く、第4 章、第5章、第6章の分析の前提となる部分であり、第4章、第5章、第6章の分析とは 性質を異にするため、調査方法と併せて、本章で扱うこととした。

3.1. 調査の方法 3.1.1. 調査対象者

本研究は某大学の人文系大学院に在籍する留学生 10 名を対象とした。この研究科の専 門分野は、日本語教育学である。調査対象者は 2005 年 4 月、または、9 月にこの研究科に 入学し、同一の専門科目を履修していた留学生である。この科目を「科目A」とする。調 査期間は、彼らがこの科目を履修していた 2005 年 4 月、あるいは、10 月から始まる 1 学 期(おそよ5ヶ月)である。調査対象者を選定するにあたり、入学後1年未満であること を条件とした。調査の対象は、「科目A」で課された文章課題、およびに、調査対象者が履 修する他の科目で課された文章課題の遂行過程である。調査対象者の年齢は、第1回目イ ンタビューが行われた時点で、20 代前半から 30 代前半であった。調査対象者の概要を表 3-1 に示す。日本語学習歴、滞日歴についても、第1回インタビューが行われた時点での ものである。

大学院における調査対象者の属性には「大学院生」、「交換留学生」、「科目等履修生」の 三つがある。「大学院生」は、この研究科に正規に入学した学生であり、所定の単位を取得 し、この大学院から修士の学位を取得する予定の学生である。「交換留学生」は、自国の大 学院に在籍しながら、1年間(2学期間)この大学院に籍を置く者である。この大学院に

表 3-1:調査対象者の概要

対象者 属性 母語

(L2)

日本語 学習期間2

滞日歴 最終学歴 最終学歴の 専攻3 大学院生 朝鮮語

(中国語)

10 5 日本で大学院を 修了

応用言語学

科目等 履修生

キルギス語

(ロシア語)

9 3ヶ月 キルギスで 大学を卒業

日本語・日本 事情 科目等

履修生

ブルガリア語

(英語)

4 24

ヶ月

ブルガリアで 大学を卒業

日本語学

科目等 履修生

中国語 5年半 17 ヶ月

中国で大学を 卒業

科学技術 日本語 大学院生 韓国語 2 8年半 日本で大学院を

修了

応用言語学

大学院生 中国語 8 7 日本で大学を 卒業

経済学

交換 留学生

中国語 6年半 1ヶ月 中国の大学院に 在籍中

応用言語学

交換 留学生

中国語 5 1ヶ月 中国の大学院に 在籍中

日本語 教育学 科目等

履修生

韓国語 4 15 ヶ月

韓国の大学を 卒業

日本語 教育学 科目等

履修生

朝鮮語

(中国語)

8 12

ヶ月

中国の大学を 卒業

日本語学

おける取得単位は自国の大学院の単位として認められることになっている。しかし、本調 査の対象者のうち、「交換留学生」であるGとHについては、修了に必要な単位を自国の大 学院で既に取得しており、この研究科で履修する科目の単位は、課程の修了要件を満たす ためのものではなかった。

「科目等履修生」は正規に研究科に入学をしていないが、科目の履修が認められている 者である。科目を履修し、A以上の成績を取得した場合に限り、その単位が正規入学後、

課程修了に必要な単位として認められる。本調査の調査対象者のうち、「科目等履修生」で ある、B、C、D、I、Jは、全て、大学院生として正規に入学することを望んでおり、

彼らは正規入学準備の段階にあったと言うことができる。

2日本語学習期間とは、中学、高校、大学、大学の留学生別科、日本語学校などの教育機関 で、語学教育として日本語の授業を受講していた期間とする。調査対象者 E とFは、日本 で大学を卒業しているが、Eは大学

1

年次に、Fは 1、2 年次に 1 週間に 1 時限の日本語 科目を履修したということであったが、これらの期間は、学習期間には含めていない。

3交換留学生であるGとHに関しては、本国で所属する大学院の専攻を掲載する。

3.1.2. データ収集の方法

以下の手順でデータの収集を行った。

(1) インタビューで、調査対象者の背景をたずねた。この背景には、年齢、母語、日本 語学習歴、日本語以外の外国語学習歴、職歴、滞日歴、これまでに受けた母語の文章 表現教育の経験、日本語の文章表現教育の経験に関する事項が含まれている。

(2)調査対象者に、「科目A」に関して行ったこと、また、その他の科目の講義やレポー トに関して行ったことや、感じたこと、大学院で勉学をする上で気づいたことなどを 学習ダイアリー(宮崎 2002b)に記述してもらった。学習ダイアリーは、「科目A」

と、その他の科目の2項目について、日ごとに書き込むようになっており、1 週間分 の記述と感想がA4 用紙 1 枚に収まるようになっている(付録 1 参照)。

(3)調査対象者に、学期中から学期後に3、4回のインタビューを行った。このインタ ビューでは、リコール・インタビュー(村岡英裕 2002)と、学習ダイアリーの内容 に関するフォローアップ・インタビュー(ファン 2002)を行った。リコール・イン タビューでは、大学院の勉学全般に関することや、履修している科目の講義で行われ ている活動や課題などについて質問をした。調査対象者の意識や内省を重視し、柔軟 に対応できるよう、半構造化インタビューの形式を取った。

(4)調査対象者が共通して履修している科目、「科目A」の参与観察を行った。調査者は、

「科目A」に出席し、講義の内容、クラス活動、課題に関する指示、講義 担当 教員 、 調査対象者の言動などを、観察し、参与観察メモを取った。

(5)「科目A」の文章課題作成中のメモ書き、産出途中の原稿、ならびに、文章課題最 終原稿を提供してもらった。産出途中の原稿は、課題作成中に「レポート1」、「レポ ート2」、「レポート3」というように、ワープロの文書ファイル名を変えて保存して もらい、最終原稿と共に、作成途中のワープロ文書ファイルも全て提出してもらった。

(6) (5)の「科目A」の文章課題産出中の文章に関するフォローアップ・インタビュー を行った。具体的には、作成途中の複数の原稿を比べ、修正、加筆、削除が認められ た箇所について、その理由を質問した。また、留意はしたが変更しなかった箇所がな かったかについてもたずねた。さらに、調査対象者自身は、どのように自己の課題の 産出物を評価するかも質問した。

(7)「科目A」担当教員に対してインタビューを行い、文章課題の目的や評価の基準など について質問をした。

学習ダイアリーを記入する用紙は、調査対象者A、B、C、D、F、Hに関しては、事 前に手渡し、インタビュー時、あるいは、「科目A」受講時に回収したが、調査対象者E、

G、I、Jに関しては、本人の希望により、パソコンの電子メールに添付して毎週受け渡 しを行った。

インタビュー実施日とインタビュー時間は、表 3-2 の通りである。上段はインタビュー の実施日、下段はインタビュー時間である。インタビューは全て録音し、文字化を行った4。 また、「科目A」担当教員(以下、教員Aとする)へのインタビューは、前期と後期、それ ぞれ学期終了後に行った。

表 3-2:インタビュー日程と時間

対象者 調査対象期間 1 回目 2 回目 3 回目 4 回目

A 2005/5/9

(NA)

2005/6/13 (1:09:17)

2005/7/11 (1:11:01)

2005/8/24 (59:28)

B 2005/5/9

(1:09:19)

2005/6/13 (1:10:58)

2005/7/11 (1:06:04)

2005/8/24 (1:50:32)

C 2005/5/11

(1:07:33)

2005/6/8 (53:12)

2005/7/13 (1:01:03)

2005/8/23 (1:38:56) D

前期

2005/4/11~2005/7/29

2005/5/10 (49:25)

2005/6/14 (54:45)

2005/7/12 (45:45)

2005/8/22 (2:50:09)

E 2005/11/7

(1:17:34)

2005/12/12 (1:17:25)

2006/1/30 (2:00:16) 2005/11/9 2005/12/19 2006/1/20 F (1:17:57) (1:10:18) (1:38:50)

G 2005/11/14

(1:14:31)

2005/12/12 (57:40)

2006/1/25 (1:55:40)

H 2005/11/4

(1:00:30)

2005/12/21 (1:12:50)

2006/2/22 (1:18:52)

I 2005/11/16

(1:24:46)

2005/12/19 (49:03)

2006/2/8 (2:03:35) J

後期

2005/9/30~2006/2/4

2005/11/7 (52:21)

2005/11/15 (56:23)

2006/2/15 (1:26:28) 教員A 前期・後期 2005/7/28

(31:36)

2006/3/20 (28:51)

本研究は、質的調査であるため、できる限り多くのデータを収集し、分析することを目 指した。本研究で収集し、分析と対象としたデータをまとめると表 3-3 のようになる。

科目Aについては、学習ダイアリーや調査対象者へのインタビューによる、調査対象者の

4調査対象者Aの第

1

回目インタビューに限り、機材の故障により、録音ができなかったた め、インタビュー直後、その内容の書き起こしをし、その内容を分析の対象とした。

表 3-3:データの種類と分析の対象

分析の対象 データの種類 科目A その他の科目

講義の参与観察 ○

担当教員へのインタビュー ○

学習ダイアリー ○ ○

課題の状況

調査対象者へのインタビュー ○ ○

課題遂行過程(マクロ過程)

調査対象者の行動 学習ダイアリー ○ ○

調査対象者の内省 調査対象者へのインタビュー ○ ○

文章産出過程(ミクロ過程)

調査対象者の行動 産出中の草稿 ○

調査対象者の内省 産 出 中 の 原 稿 に つ い て の フ ォ

ローアップ・インタビュー ○

産出物 草稿、最終原稿 ○

行動や内省報告に加えて、参与観察や担当教員へのインタビューによる、課題状況や、実 際に産出された文章など全9種類のデータを収集した。

しかし、その他の科目については、表 3-3 で示すように、調査対象者のダイアリーとイ ンタビューでの発話のみを分析データとしている。つまり、調査対象者の内省によるデー タのみを分析の拠り所としており、この点において、不充分であると認めざるを得ない。

これらの科目については、課題出題の意図や講義で行われた活動といった課題の状況は、

調査対象者の内省を通してしか見えてこないという問題がある。科目Aと同様に複数のデ ータを収集することが望ましかったのだが、調査対象者への心理的負担や時間的制約に対 する配慮、ならびに、調査者自身の時間的制約から、学習ダイアリーとインタビューから 確認できた行動と内省の報告のみを収集することとした。本来、質的調査には多面的なデ ータが必要であり、データの客観性といった観点において問題はあるものの、なお、多く の興味深い情報を提供していると考え、これらも分析の対象とした。

3.1.3. 分析の枠組み

第1章で述べたように、本研究は「アカデミック・インターアクション」(ネウストプ