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決まった分析素材とトピックの確認をする

第4章 課題遂行過程における管理プロセス(1)

4.2. 管理プロセスの分析

4.2.3. 分析素材を選定する

4.2.3.5. 決まった分析素材とトピックの確認をする

調査対象者は、素材を選定してからその素材とトピックで文章課題が遂行できるかどう かを確認するために、知人に相談するという調整を行っていた。調査対象者Bは、自分が 選んだ素材とトピックでレポートが書けるかどうかを、研究科の合宿に参加した際に同じ 研究室に所属する学生に相談した(Bの学習ダイアリー8/2 より)。インタビューでBは、

合宿に参加してこのような相談をすることができてよかったと、このような機会があった ことを肯定的に評価している。

調査対象者Bが、自分が選んだ素材とトピックが文章課題のトピックになり得るかどう かを知人に相談したのに対して、調査対象者E、F、Hは、自分が選んだ教材の不適切な 部分が本当に不適切かどうかを確認するために、日本人の知人に相談をしている。調査対 象者Eは自分が不適切であると感じた教材の会話を日本人の知人に見せて、不適切に感じ るかどうかの確認をした。その結果、不適切であるという確信を得ることができ、素材と トピックを決定したと述べている。

データ 4-62:調査対象者Eへの第3回インタビューより

406 E: (前略)いろんな人に聞いていたでしょ。聞いていたんですよ。いろんな人に聞いて、(その 人たちが)「おかしい」みたいな話だったから、やった、これでいいやと思って。

407 R: じゃあ、そういう日本人しか、見つけられないような微妙なニュアンスじゃないのを見つけた っていうのも、一つ、なんか自信になったっていうか、

408 E: 見つけたというか…

409 R: これなら、大丈夫だろう。みんな納得するだろうみたいな。そんな、

410 E: (そういう)ことはありますね。

調査対象者EとFの二人は、自ら志願をして口頭発表を行った調査対象者である。Eは口 頭発表後、自分が選んだ素材とトピックが適切であったと肯定的に評価をしている。そし て、「おもしろかったよっていう話はしていましたね。先生が求めるような、あれ(発表)

じゃなかったんですかね。(中略)きっとそうだっただろうなあ。」(Eへの第3回インタビ ューより)と述べ、教員Aの肯定的なフィードバックが得られたことを、その理由として 挙げている。

また、調査対象者Fも自分で不適切だと判断した部分について、不適切に感じるかとい う質問を日本人の友人にしている。Fの学習ダイアリーにある、日本人の友達に確認した という記述(Fへの学習ダイアリー12/25 より)についてたずねた。Fは友人の日本人に

その会話についてどう思うか聞いたのであるが、その日本人はFの予想に反して、不適切 ではないと答えたということである。

データ 4-63:調査対象者Fへの第3回インタビューより

85 R: 自分が疑問だと思うことを、まず書き出してみて、それを友達に聞いてみたんですね。

86 F: 聞いてみたんです。

(省略)

90 F: (前略)まず、普通の日本人として、もしこういう会話があれば、どういうふうに思いますかっ て感じで。

91 R: 反応はどうだった?

92 F: 反応は予想より普通でした。「そんなにおかしくないよ」みたいな。でも、なんていうんです か、確かに何箇所かおかしいって言ったんです。でも、全体的には大丈夫なんじゃないみ たいな。

93 R: で、それで、内容も変えようかなあって思いましたか。

94 F: いや、思っていないですね。ただ、確信なものは確認したんですよ。

このようにFは友人にたずねたが、友人の反応は予想外で、不適切ではないというもので あった。しかし、Fはいくつかの部分については確認できたと述べ、その後、その素材と トピックで文章課題を進め、口頭発表を行った。

調査対象者Hも同様に自分が選んだ素材について不自然かどうかを確認している(Hの 学習ダイアリー1/21 より)。このことについて、Hは「日本人の友達は、正しい、おかし くないって」(Hへの第3回インタビューより)と述べ、一度決めた素材とトピックが適切 なものではないとし、再び素材を探し始めることになる。そして、再度、寮の管理をする 日本人に、日本語教材の不適切だと思う部分について、不適切かどうかを聞いたというこ とである(付録2 補足データ 4-3 参照)。そして、その日本人の意見を参考にし、教材の どの課を素材として選定するかを決定する。

また、調査対象者Iも、素材とトピック決定の過程において日本人の友人に助言を求め ている。Iは日本語の不適切さについて助言を求めたのではなく、「中心概念

A」の観点か

ら分析をするに当たり、教材の会話がどのような状況で行われていると思うかを聞くとい うものであった。Iにはトピックの候補が二つあり、そのどちらでレポートを書くか、長 い間迷っていた。その間、日本人に確認するという調整を行っている(Iの学習ダイアリ ー1/24 より)。この行動についてたずねたところ次のように答えている。

データ 4-64:調査対象者Iへの第3回インタビューより 131 R: えっと「日本人の友達に確認する」これは?

132 I: (前略)ちょっと日本 人の友 達に聞いてみて、内 容じゃなくて、このAとBの会 話 がどこで行 われていると思うって、聞 いてみたらやっぱりいろいろな場 面が出て、人それぞれで、一人 で 2 個ぐらいずつ全然違うのが出るから、やっぱり場面が設定するのは難しいんだって(確 信できた)。

調査対象者Iは、何人かの日本人の友人に、教材の会話がどのような場面で行われてい ると思うかをたずねたところ、様々な場面が出てきたため、やはり「中心概念

A」という

観点から見て問題があると確信できたと述べている。

以上のように、調査対象者は文章課題の素材とトピックを決定する過程において、その 素材、トピックの選択が適切であるかどうかを確認するために、日本人の意見を聞くとい う調整を行った。

4.3. 結果のまとめと考察 4.3.1.結果のまとめ

以上、4.1 では、科目Aの講義と課題の概要を説明し、4.2 では、文章課題を書き始め る前に起こった管理のプロセスを分析した。分析からは、課題要求を解釈し、その上で素 材とトピックを決定することは、調査対象者にとって容易なことではなく、さまざまな問 題が発生していた。素材とトピックの選定が課題を遂行する上で最も困難なことであった と報告する調査対象者もいた。

では、実際にどのような問題が発生して、調査対象者はどのような調整を行ったのであ ろうか。以下の 9 点にまとめる。

1.課題要求を解釈するためには、講義を聞き、その中心概念を理解することが必要であ ったが、この過程に問題が生じ、調整が遂行されていた。

課題要求を解釈し、適切な素材とトピックを選定するためには、講義を聞き、教員がど のような考え方に基づいて講義を行っているのかを知る必要がある。しかし、講義の中心 概念や講義で紹介された理論が理解できないなど、理解上の逸脱が発生したと報告する調 査対象者が少なくなかった。このような逸脱の発生に対して、次のような調整が計画され、

遂行された。

(1) 担当教員に相談する

(2) 担当教員が書いた書籍や論文を読む (3) 他の受講生に相談する

(4) 他の受講生にわからないことの説明を求める (5)インターネットや辞書などを調べる

2.課題を遂行する上で、必要なリソースへのアクセス上の問題が発生していた。

この研究科に入学して間もない調査対象者には、素材を選定する上で第一のステップと なる、必要なリソースへのアクセス上の問題が発生していた。このような問題を訴えた一 人の調査対象者は、友人から偶然情報を得ることによって、問題を解決することができた が、この問題の原因として自らの人的ネットワークの希薄さを挙げていた。この調査対象 者は、オリエンテーション資料や、図書館資料、ホームページなど、情報を得ることがで きる物的リソースが多数存在したにもかかわらず、その膨大な情報の中から自分が必要な 情報を得ることは難しいと報告している。

3.過去に類似の課題を経験したことがある調査対象者は、課題要求の解釈をするのに、

過去に経験した類似の課題をモデルとする行動が見られた。

この科目の課題である教材分析を過去に行ったことがある調査対象者は、その経験が、

課題要求を解釈し、素材とトピックの選定の過程において大きな影響を与えていた。この 調査対象者には、過去の経験により、教材分析とはこのようなものであるという、強いイ メージが確立していて、それが、この科目で行う教材分析の素材やトピックのスムーズな 選定を阻んでいた。しかし、本人もそれを逸脱の原因として認識をし、この調査対象者は その後の講義におけるインターアクションを通して、この科目に適切な素材とトピックの 選定へと調整することに成功した。

4.素材を選定しトピックを決定するのに、他の受講生が行った口頭発表とその発表レジ ュメは重要なリソース(モデル)となっていた。

課題要求を解釈し、素材を選定するのに、他の受講生が行った口頭発表を参考にしたと 報告する調査対象者が多数いた。他の受講生がどのような素材を選択し、どのような分析 を行うのか、確認してから、自らの素材を探し始めるという調整も行われた。