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課題遂行過程における管理プロセス(2)

‐文法外コミュニケーション行動・文法行動‐

第4章では、科目Aで課された口頭発表と文章課題の分析対象となる適切な素材を選定 するまでの過程における行動を「社会文化行動」とし、この過程で行われた管理プロセス の分析を行った。

第5章では第4章に続いて、科目Aの口頭発表と文章課題の遂行過程で行われた「文法 外コミュニケーション行動」と「文法行動」に関する管理プロセスの分析を行う。「文法外 コミュニケーション行動」と「文法行動」は文章課題遂行の言語的側面に関連する分野で ある。本章では、調査対象者の産出途中の文章課題の原稿、最終原稿、ならびに、それら の原稿をもとにして行ったフォローアップ・インタビューにおける発話を主なデータとし、

調査対象者が課題の遂行過程において、言語的問題をどのように認識し、管理しているか、

その管理プロセスの分析を行う。

5.1. 文法外コミュニケーション行動

ネウストプニー(2003:140)は、文法外コミュニケーション能力の対象は、「コミュニケ ーションの決まり」であるとし、「いつ、誰が、どこで、どのようにコミュニケーションを しているのか」という内容であると述べている。本研究の文章課題遂行過程においては、

学術的な課題の文章として、ふさわしい述べ方に関する管理がこの項目に分類されるだろ う。

本調査の課題遂行過程で、文法外コミュニケーションに関して行われた調整は、大きく 分けて「内容」、「構成」、「表現」の三つであった。このうち、「内容」と「構成」に関して は、文章の全体にかかわる「全体的」なものと、一部分にのみにかかわる「局所的」もの に分けることができた。また、表現に関するものは、「詳細化」、「繰り返しの回避」、「緩和 表現の使用」、「書き言葉の使用」、「学術用語の使用」、「長い文の回避」、「日本語らしい表 現の使用」、「対人関係への配慮」、「語彙の選択」の九つの項目に関する管理が行われてい

た。以上の文法外コミュニケーション能力に関連して行われた調整を表 5-1 に示す。

表 5-1:文法外コミュニケーション能力に関する調整行動

全体的 局所的

内容 全体的な内容の検討 内容の訂正

構成 全体的構成の検討 部分的構成の検討

表現 詳細化

繰り返しの回避 緩和表現の使用 書き言葉の使用 学術用語の使用 長い文の回避

日本語らしい表現の使用 対人関係への配慮

語彙の選択

次に、「内容」、「構成」、「表現」それぞれで行われた調整について、例を挙げながら、

分析を試みる。

5.1.1. 内容

まず、全体的内容の調整を、次に局所的な内容に関する調整行動を見ていく。

5.1.1.1. 全体的内容

調査対象者が産出した最終原稿には、どのような内容が含まれているのかを分析した。

この科目の文章課題に書かれている内容は、「レポートの目的」、「テーマ選定のきっかけ・

理由」、「背景」、「分析教材の情報」、「文型・文法の意味・機能・用法」、「問題点の指摘」、

「問題点の原因」、「教材の改訂案」、「文型・文法の導入・練習案」、「まとめ」、「結論」、「今 後の課題」、「参考文献」の 13 項目であった。調査対象者が最終原稿に含めた内容を表した ものが表 5-2 である。

「レポートの目的」というのは調査対象者がレポートで行うことを明示的に述べるもので ある。例えば、「本レポートは、日本語初級レベルで指導される~を、【中心概念A】によ り、以下の日本語学習者用の教材でどう提供されているかについて考察したものである」

(Bの最終原稿より)、「本稿は~を2種類の日本語教科書で検討し、用法に関する誤用や 理解しにくいことなどを明らかにすることを目的とする」(Cの最終原稿より)といったも

表 5-2:各調査対象者の文章課題に含まれている内容

前期 後期

A B C D E F G H I J

レポートの目的 ○ ○ ○ ○ ○

テーマ選定のきっかけ・理由 ○ ○ ○

背景 ○

分析教材の情報 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 文型・文法の意味・機能・用法 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 問題点の指摘 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

問題点の原因 ○ ○ ○

教材の改訂案 ○ ○ ○ ○

文型・文法の導入・練習案 ○ ○

まとめ ○ ○ ○ ○ ○

結論 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

今後の課題 ○

参考文献 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

のである。

「テーマ選定のきっかけ・理由」というのは、どのようなきっかけ、理由でこのテーマ を選んだのかを述べるものである。例えば、自己の日本語学習や教育上の経験などから、

当該の文法や文型が教材でどのように提示されていているか疑問や問題意識を持ったとい うような内容がこれに当たる。

「背景」というのは、テーマをレポートで取り上げ、分析することの必要性を訴えるた めの記述である。例えば、日本語教育や学習論における傾向や動向とそれによってどのよ うな観点や議論が必要になったかを述べる部分である。以上の三つは、実際の分析に入る 前に述べられるような内容で、通常、「はじめに」や「序論」の部分に含められる内容であ る。

「分析教材の情報」とは、分析の教材に関する情報である。分析対象となった教材の書 名や著者、出版年、出版社といった基本的な情報や、教材の全体構成や特徴、使用されて

いる地域などの情報、分析対象となった課やその課で扱っている文型・文法事項は何であ るかといった情報である。著者、出版年、出版社などの基本的なもののみを載せた調査対 象者と、後者の教材の特徴まで言及する調査対象者がいた。

「文型・文法の意味・機能・用法」というのは、分析対象とした文型や文法の意味や、

どのような機能で使われるか、使用上の注意点などに関する内容である。「問題点の指摘」

は、教材の不適当な部分の指摘とその理由である。「問題の原因」とは、なぜ指摘した問題 が発生したのか、その原因を分析するものでる。「教材の改訂案」というのは、指摘した問 題の部分を、どのように修正すれば適切になるかという案である。また、「文型・文法の導 入・練習案」というのは、教材の不適切な部分を修正するのではなく、その文型や文法導 入に適切な会話文を別途作成するものや、文型の練習に適切なクラス活動案を提案するも のである。以上の五つは、文章課題の実質的な分析部分である。

「まとめ」とは、分析の結果をまとめたもので、分析の結果、このようなことが明らか になったという部分である。「結論」というのは、分析をまとめた結果から導かれた自己の 意見や主張を指す。「今後の課題」とは、レポートでは明らかにできなかった点を述べ、今 後このような点を明らかにしたいといった展望を述べる部分である。これらの三つの内容 は、「結論」、「おわりに」といった部分に含まれるような内容である。「参考文献」は参考 文献の一覧を指す。

それでは、科目Aの内容に関して、調査対象者はどのような管理を行ったのであろうか。

インタビュー、学習ダイアリーから、全体的内容に関して言及している部分を抽出し、分 析を行った。全体的内容に関する調整行動は、どのような内容を課題に含めるべきかを検 討するというものであった。

この課題の中心的な部分は、教材の問題点の指摘とその分析である。表 5-2 からわかる ように、分析対象となる教材や文型の情報、問題点の指摘と分析、参考文献は、全ての調 査対象者が課題に含めている。この部分は課題の構成要素としては不可欠なものであると いう認識は、全調査対象者に共通であったと考えられる。調査対象者が課題遂行過程にお いて、管理を行っていたのは、「文型・文法の導入・練習案」を含めるべきか否かというも のであった。

(a)文型・文法の導入・練習案

「文型・文法の導入・練習案」を課題内容に含めるという管理を意識的に行っていたの

は、調査対象者E、I、Jの3名である。また、調査対象者Dは、課題遂行中にはこのよ うな調整を行わなかったが、課題遂行後に課題の自己評価を行う過程で、このような内容 を含めるべきであったと内省を述べている。

このような内容を課題に含めてほしいという指示は、後期の講義でのみ出された。教員 Aは、後期の第5回講義で、初めて文章課題の指示を与えたが、第 10 回の講義においても 文章課題の内容に関する指示を再び行った。その中で「会話の流れが不自然だ、文型的に おかしいというところを指摘し、できれば代案を出してほしい。じゃあ、どうすればいい のかを考えてほしい」(後期講義観察メモ 12/14 より)と述べている。調査対象者E、I、

Jの3名は「代案と解決」、「対策」、「文型にふさわしい会話」という言葉を用いて、教員 Aの言う「代案」を課題に含めるべきだと内省を述べている。

調査対象者Eは、課題に「代案」を含めるべきであると考えており、また、そのことを 他の受講生と話し、確認することによって、その考えが強化されたことがわかった。

データ 5-1:調査対象者Eへの第3回インタビューより

868 E: 他の人と話をして聞いていても、やっぱり入るのは、代案と解決じゃないかって、

869 R: ああ。

870 E: 私もたぶん、そういうふう思ったし、

実際にEが書いた文章課題を見てみると、「他の教材の扱いや導入方法」という節が設けら れ、分析対象とした「~たり、~たりする」という文型が、他の教材でどのような文型と 組み合わされて導入されているのかが述べられている。そして、Eが見学したことがある 教員Aが担当する初級のクラスで実際に行われた「~たり、~たりする」と他の文型を同 時に導入する方法を紹介している。この方法は、Eが独自に考案したものではなく、課題 の読み手である教員Aが実践している教室活動である。文型・文法の導入・練習案の提示 とはなっているが、元来教員Aの教育実践であるため、独自の導入案や教室活動案を提示 してほしいと考える教員Aの意図には合致したものであるとは考えられない。

また、Eはこの後、文章の最後に「代案」という節を設け、「~たり~たり」の文型導入 に関して、分析した教材が提示している「新聞だったり、雑誌だったりだ」といった、名 詞に接続させる文型は導入せずに、「掃除をしたり、洗濯をしたりする」というような、動 詞に接続する文型に限定して導入するという案を提示している。Eは教員Aの指示にあっ たように、「代案」を含めなければならないという意識を持ち、自己の文章課題に「代案」