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第4章 課題遂行過程における管理プロセス(1)

4.1. 科目Aの講義と課題の概要

4.1.3. 課題の概要

4.1.3.2. 課題の評価

科目Aの評価については講義要項の「評価方法」の項に、期末レポートを評価対象とす るが、その他に「発表の明晰さ」や「討論への参加度」を考慮に入れることが述べられて いる。しかし、教員Aは口頭発表者を募るときに、「発表をしなくても、いいレポートを出 せば問題ない」と述べている(11/2 参与観察メモより)。この発言から、科目Aの成績は、

主に文章課題の評価によって決定されること、それ以外にも優れた口頭発表や講義での討 論への参加態度なども成績を決定する際に加味されるが、口頭発表をしなくても成績決定 のマイナス要因にはならないということがわかる。

文章課題の評価基準に関して、教員Aにどのようなものが高く評価されるのかたずねた ところ、次のような回答が得られた。

データ 4-6:教員Aへの前期終了後インタビューより

19 R: (前略)レポートを課して、どのようなものを期待しているか、理想的なものはどんなものか?

20 AS: やっぱり理想的なものは、確かにこの教科書のこういう部分はまずいよねえって、うまいとこ ろをピンと突いている(後略)

(省略)

27 R: 他にも例えば、よく勉強しているとか、よく調べたなとか、そういったこと、それから、授業の 内容が反映されていることとか、紹介された文献が引用されているとか、そういったことは?

28 AS: そういうことは、あんまり気にしていないですね。

31 R: ああ。

32 AS: だから参考文献がなくても、すごくおもしろいっていうのもあるんですね。なるほど、そこ来 ましたか、ああ、気がつかなかった、やられたなって。そうすると、参考文献は要らないって いうようなこともあるんですね。

33 R: そのへんの、オリジナリティーというか、

34 AS: そうそうそう。そういうところがね。(後略)

このデータからは教員Aがレポートを評価する際に、直感的に文法を考察する能力や独創 性を重視していることがわかる。教員Aが「おもしろい」と言っているのは、教員自身が 気づかなかった点を指摘するような、意外性、着眼点の独創性があるものである。一方、

受講生が分析のためにどれだけ時間を費やして、参考文献を調べたかといったことや、講 義の理解、講義で得た知識を課題に反映させているかといったことは評価する際のポイン トにはなっていない。データ 4-5 で教員Aが文章課題の目的を「文法センスを見るため」

と述べているが、これは、受講生が習得した知識や学習の成果をはかることが目的ではな いという発言と一致している。

また、高く評価できないレポートについては、次のように述べている。

データ 4-7:教員Aへの前期終了後インタビューより

41 R: これはちょっとって、低い評価をするものというのは、具体的にどんなものか?

42 AS: まず、目のつけどころが悪いというか、そんなことは誰でもわかっているわ。(笑い)初めて 知ったのはあなただけだよ、みたいな。(笑い)別のところ見たらどうっていうのとか、あとは 勘違いしちゃっていること。これ別に間違ってないんだけど、間違っているとか、おかしいと かっていうのとかね。

43 R: 文法の分析で勘違いをしている。

44 AS: ということですね。だから、まず、勘違いが一つと、それは、だからオリジナリティーの部分で 問題。で、あとはさっき言ったわかりやすさ。(後略)

教員Aが高く評価をしないレポートは、独創性のないもの、意外性のないもの、文法の 分析を誤り、問題のないところを問題として指摘しているもの、わかりにくいものである。

この発言からも、教員Aが受講生に最も期待しているのは一貫して、着眼点に優れた、意 外性のあるレポートを作成することであることが確認できる。

以上は課題の内容面に関することであるが、教員Aはその他に文章の構成なども、評価 を左右する要素であると述べている。これは、データ 4-7 の 44 で「わかりやすさ」と述べ ていることと関係する。次のデータ 4-8 は、文章課題の構成といった言語的な側面は、評 価に影響があるかという質問に対する回答である。

データ 4-8:教員Aへの前期終了後インタビューより

35 R: それから…形式的なこと、例えば文章の構成とか、読みやすさとか、主張の明解さ、正確 さ、そういったものは?

36 AS: それは、ある程度考慮します。読んでいて、いらいらするのはだめだってことだよね。構成 がいいかどうかは読んでいてわかりますよね。何が言いたいんだ、これは?とか、さっきこの 話だったのに、話が飛んじゃったぞとか、(中略)読みにくいのは、読み手のことを考えてい ない。(中略)人にわかってもらうために書く人っていうのは、くどいぐらいなんですよ。(中 略)思い込んじゃう人って結構いるんですね。自分がわかっているんですね。わかっている から、バーっとすっ飛ばしちゃうんですね。(中略)で、それはやっぱり読みにくいんですよ ね。読者のことを考えていない。(後略)

37 R: そうすると、1にオリジナリティー、目のつけどころ、2にその読みやすさという…

38 AS: そうそうそう。それをどうやって相手にわからせるかね。(中略)あのう、自分がオリジナルで 考えたことを、どうやって相手に伝えるかですね。

39 R: じゃあ、この 2 点と考えていいでしょうか。

40 AS: そうですね。だいたい、この 2 点が、私のレポートの AA もらえるかどうかですね、境目になり ます。

データ 4-8 の 36 で、教員Aは「構成の悪さ」について言及している。また、教員Aが「(自 分は)わかっているから、バーっと飛ばしちゃうんですね」と述べているのは、順を追っ た説明がなされていないという問題であろう。また、教員Aはこれらの問題は、読み手へ の配慮がないことに起因していて、そのような文章の要素は、評価の際の減点対象となる と述べている。

一方、次のデータ 4-9 は、文法の誤用などのより小さいレベルの問題点、例えば、助詞 の問題など、文法の不正確さといったことに関して述べている部分である。これらの要素 は評価に影響を与えないということである。その理由として、このような不正確さが理解 の妨げになっていないとことを挙げている。

データ 4-9:教員Aへの前期終了後インタビューより

59 R: (前略)あと、細かいところで、例えば助詞が違うとか、自動詞、他動詞が違うとか、

60 AS: それは、しょうがないね。

(省略)

62 AS: それは、私はあんまり気にしない。

63 R: 気にしない。

64 AS: はい。少なくとも、それで減 点をしたりはしない。だって、わかるもの。これは「に」じゃなくて

「で」だとかね。わかるもの。わからないのは、どうしょうもないですけどね。それほどの人はさ すがにいませんね。大学院レベルだから。

さらに、留学生が提出するレポートについて、次のように述べている。

データ 4-10:教員Aへの前期終了後インタビューより

46 AS: 共通する傾向…成功している人の多くは、自分の体験を基にしている。私は中国にいたと き、韓国にいたとき、これがどうしてもわからなかった。その理由が今回この授業を受けて考 えたら、わかったみたいなね。これじゃわかんないわ、それは、教え方が悪いとかね。教科 書が悪いとか、あと、自分の考え方が間違っていたとかね。(中略)そういうことがわかるっ ていうのは、これは日本人には絶対にできないことなのでね。だから、留学生がいるとおも しろいところですよね。われわれは勉強になる。こういうところがわかんないんだってね。なる

ほどってね。(後略)

47 R: じゃあ、留学生には、それがすごくアドバンテージになるという…

48 AS: そうそうそう。私はそれが強いアドバンテージになると思うんで、それをね、私は日本人じゃ ないから、わからないとか説明できないとか思わないで、自分にとって文法は何だったのか って考えてくれると、日本人よりも、逆に、はるかに豊かなレポートの種を持っているはずで すよね。

このように教員Aは留学生の文章課題で高く評価できるものの多くは、その留学生の自己 の日本語学習経験に基づいて書かれたものであり、その点において留学生は「豊かなレポ ートの種を持っているはず」であり、有利な立場にあると述べている。つまり、教員Aが 評価の基準として重視している着眼点の独創性という面において、留学生は決して不利な 立場にあるのではなく、有利な立場にある。L2 としての学習経験があるからこその着眼点 や内容が期待されていたということになる。

しかし、調査対象者からは、この課題を遂行するに当たって母語話者ではないことが不 利であると捉える発言が多く得られている。これは日本語母語話者が不適切である、不自 然であると感じるところが、母語話者の直感がない留学生にはわからないために、取り出 せないというものであった。教員Aは母語話者ではないからこそできる独自の経験による 観点を期待していたのに対して、調査対象者は日本語母語話者と同じ発想や観点による分 析を試みようとしたところに、教員Aの期待や意図とにずれが生じていたと言える。

教員Aが科目Aの文章課題に望むことと、その評価に関する考えをまとめると、次のよ うになる。第一に、評価の際に最も重視されるのは、独創性である。そして、その独創性 は、受講生の努力の結果というよりも、教員Aが「文法センス」と述べているように、直 感的な着眼点のよさによる。次に、重視されるのは、読みやすさである。いかに独創性が あっても、読み手への配慮の欠如からくる文章構成の悪さや、説明の不備といった問題に より、読みにくい文章になっていれば、減点の対象となる。その一方で、助詞の誤りなど は、理解の妨げにならないので、減点の対象とはならない。内容重視であることは言うま でもないが、その内容をいかにわかりやすく読み手に伝えるかといったこと、つまり、文 法外コミュニケーションの要素が、文法の正確さといった側面よりも、文章課題の評価に 影響を与えていると言うことができる。