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他の受講生の発表を参考にする

第4章 課題遂行過程における管理プロセス(1)

4.2. 管理プロセスの分析

4.2.3. 分析素材を選定する

4.2.3.1. 他の受講生の発表を参考にする

分析対象となる素材を選定し、文章課題のトピックを決定するのに、他の受講生の発表 を参考にするという調整が行われた。調査対象者DとEは、課題の準備は他の受講生の発 表を見てから始めるという計画を述べた。調査対象者Dは、「これからレポートを作るので、

材 料 収 集 を 急 が な き ゃ と 思 い ま す 。 最 初 の 二 人 の 発 表 を 見 て か ら 作 り 始 め よ う と 思 いま す。」(Dの学習ダイアリー5/18 より)と記述し、何人かの発表を聞いてから、文章課題遂 行に着手しようと計画している。そして、1回目の発表を聞いた後で「意外と短くて内容 もそんなに難しくはなかった。自分も発表したくなった。2番目の人の発表を聞いて、も うちょっと発表の形式を理解してからレポートを作り始めよう」(Dの学習ダイアリー5/25 より)と考えを述べている。また、調査対象者Eも口頭発表をするかどうかは未定だが、

最初の数人の発表を見てから判断したいと計画を述べている。

データ 4-20:調査対象者Eへの第1回インタビューより

535 R: A先生のレポートに関しては、まだ具体的に何か始めなくてもいいかな?

536 E: いいかなっていうか、とりあえず、どんな形式でやっているのかとりあえず最初の人たち…

537 R: ああ、発表?

538 E: うん。見て、わかったら、手を上げるかわからないですけど。最 初 からだったら、わからないか ら、ずれてきちゃったら恥ずかしいし。

このように、調査対象者Eは、もし最初に発表をした場合、教員が意図することと、ずれ が生じる恐れがあるため、他の受講生の発表を見て確認をしてから、課題に取り組みたい と述べている。

また、調査対象者Gは、課題を文章化する過程で、発表のレジュメなどを参考にするこ とはなかったが、毎回の発表を通して無意識に影響を受けたであろうと報告している。

データ 4-21:調査対象者Gへの第3回インタビューより

466 R: 今までの学生の発表とかレジュメで、参考にしたものってありますか。

467 G: あの、A先生の授業で…

468 R: 出してきて、真似してみたとか、

469 G: これを書いたときには、特に、なかったんですけど、たぶん、授業のときに読んだから、…ま あ、意識せずに、少し、…

調査対象者が、どのような素材を選び、どのようなトピックで書くかといった大きな枠組 みの決定において、他の受講生の発表を参考にしたことがわかる。

次のデータでは、調査対象者Cはどのような内容をどのように書くかといった面や、ど のような資料を用いるのかといったことを知るために、他の受講生の発表が参考になった と述べている。

データ 4-22:調査対象者Cへの第3回インタビューより

162 C: (前略)他 の学 生の発 表がなかったら、もしかして、すごく悩 んだと思 います。どう書けばい いかとか、何を書けばいいかとか。でも、今もういろんな発表とか聞きましたから、あと、資料 も見ましたから、だいたいわかっています。

163 R: それは、やっぱり、先生がずっと講義を続けているよりもよかったですか。

164 C: 先生の講義はいちばんいいと思いますけど、学 生として何を、先生 は先 生の…もちろん先 生ですから、よく説明とかしてくれるんですけど、学生の発表(分析)はどんなものかは…

165 R: 学生のレベルでどんなことをしたらいいか?

166 C: そうですね。はい。

167 R: ああ、なるほど。

168 C: 資料もいろいろ例とかがあって、説明とか文献とかはすごく参考になりました。

調査対象者Cは、もし受講生の発表がなかったら、何を書いたらいいかわからずに悩んだ であろうと報告している。Cは他の受講生の口頭発表を参考にすることによって、文章課 題を遂行することができた。第3章の 3.2.3 のデータ 3-1、3-2 で見たように、調査対象者 Cは科目Gの文章課題遂行過程において問題が発生し、調整が行えずに、課題を放棄して しまう。しかし、調査対象者Cは、後に他の受講生の口頭発表を見ることによって、一旦 放棄した文章課題を遂行することができた。特に、調査対象者Cにとって、他の受講生の 発表を参考にすることが、どのような素材を選び、どのような分析をし、どのような内容 を文章課題に含めるかといったことを決定するのに、役立っていたと言うことができるだ ろう。

しかし、教員Aも講義で5回教材の分析をしている。教員Aの分析を参考にしようと思 わなかったのであろうか。調査対象者Cがデータ 4-22 の 164 で「学生として何を(すれば いいのか)」、「学生の発表とはどういうものかは…」と述べていることから、教員Aが講義 で行った分析を参考とするよりも、他の受講生の発表を参考としようという姿勢がうかが える。

次のデータからも、調査対象者のこのような捉え方をうかがうことができる。調査対象 者Hは、教員Aの分析と受講生の発表の分析を比較して、教員Aのレベルは受講生よりも 高く、自分は受講生のレベルを目指そうとしても、なお難しいと述べている。

データ 4-23:調査対象者Hへの第2回インタビューより

304 H: 先 生のようなものは、例えば、ターゲットはこのところ(手を上に上げて)、学生 はこのところ

(手を胸のところまで下げて)、今は私まだ…(笑い)

305 R: (笑い)ああ。

306 H: 学生のところでも、やはり結構、難しいねえ。

これらの調査対象者CとHの発話からは、教員Aが行った分析に対して、より身近で実現 可能な到達目標として、他の受講生の発表を捉えていると分析できるのだろう。また、教 員Aは、分析を行うのに教材のコピーをハンドアウトとして準備し、分析は適宜板書をし ながら進めていった。これに対して、受講生は教材のコピーの他、分析項目を書き出し、

参考文献の情報などを載せた発表レジュメを用意するものがほとんどであった。このよう に受講生の発表は、教員Aの発表と違い、手元に詳細なレジュメが残ったため、自分の課 題を準備するときに参考にしやすかったためであると考えられる。

また、自分の文章課題の素材、トピック選定に役立ったものとして、特定の発表を具体 的に挙げる調査対象者もいた。以下のデータ中のPは、口頭発表者を指す。

データ 4-24:調査対象者Bへの第3回インタビューより

305 R: この、毎 回 の発 表っていうのは、ヒントになりますか、自 分 のテーマとか、その、自 分 のレポ ート。

(省略)

308 B: そうですね、なりますね。たとえば、P5 さんの。

309 R: あー、参考にしたり。

310 B: 参考に、先生が書いた、A先生とかD先生の『XX表現』という本を基にこういうことですって 説明してます。そういう説明ができるように。私はそう思いますということ(だけ)じゃなく、なん でそう思 いますか、どこに書 かれてあるかっていうこと。私 たちにとっても探 さなきゃならな い、難しいかもしれないけど、いちおう探してみて…。

調査対象者Bは、発表者 P5 が教材の不適切な部分の分析を、教員

A

が書いた『XX表現』

の枠組みを用いて行ったことについて、自分もそのようするべきだと述べている。発表者

P5 が自分の意見を言うだけではなく、教員Aが執筆した文献を用いてその裏づけを提示し ていることを肯定的に評価している。また、調査対象者Cは受講生の発表には、高く評価 できるものとそうではないものがあり、高く評価できるものとしてBが述べたのと同じ発 表者 P5 の発表を挙げている。

データ 4-25:調査対象者Cへの第3回インタビューより

155 R: あのう、毎回学生が発表していますけど、あの発表はどうですか。

156 C: うん、すごく役に立ちます、発表は。やっぱり、わかりやすい発表とか、あの、んー…

157 R: あまり、わかりやすくない発表?

158 C: うん。それもありますけど、この前は、欠席しましたけど、前の前のD先生の研究室の方です けど、「断り」だったかな、いや、「依頼」じゃなくて、「申し出」?

159 R: あ、「申し出」。

160 C: おもしろかったとおもいます。

データ 4-22 でCが、他の学生の発表がなかったら、非常に悩んだであろうと述べてい るように、モデルとなるものの存在が、課題の遂行に大きな役割を果たしている可能性が うかがえる。教員がその課題のトピックとしてどのようなものを期待しているのかに確信 が持てなければ、受講生は進むべき方向性がわからずに、何も行動できないということが あるだろう。もし、他の受講生の口頭発表のようなモデルとなるものがなければ、経験の 浅い留学生は悩み、課題を放棄するという可能性もある。

このように、他の受講生の口頭発表は、調査対象者が課題を遂行する上で、非常に有効 なリソースとなっていたと言うことができる。その反面、この調整行動によって、受講生 の自由な発想が妨げられ、課題のトピックが一律的なものになってしまったとも考えられ る。後期の講義では口頭発表や文章課題のトピックに偏りが見られ、このことは教員Aの 期待に反するものであった。教員Aは、4.1 で示したデータ 4-1 からわかるように、後期 の講義では、受講生の発表は会話の構造の観点による分析を行う受講生がほとんどで、こ れは教員Aの意図に反するものであった。教員Aが自ら分析しているように、これは後期 に「中心概念B」の説明が強調されたことが一因であると考えられる。しかし、教員Aが 第 9 回講義の受講生の発表後に、「(これまでの発表は)会話の視点からの議論があったが、

できれば文法よりの発表をしてもらいたい」(後期第9回参与観察メモより)とコメントを 述べたにもかかわらず、学期終了後に提出された文章課題も、口頭発表と同様に会話の構 造の観点からの分析が多かったという。これは、後期の講義で、会話の構造を分析する口