第4章 課題遂行過程における管理プロセス(1)
4.2. 管理プロセスの分析
4.2.3. 分析素材を選定する
4.2.3.3. 探し方を検討する
分析素材を見つけ、トピックを決定することは、全ての調査対象者にとって容易なこと ではなかった。調査対象者は、以下に見るように、図書館などで日本語の教材を見ても、
教員Aが講義で分析したような不適切な箇所を見つけることができなかったと報告してい る。
「テキストを何遍も何遍も探してみても、思ったよりですね、立派な間違いが出なかった んですね」(Aへの第4回インタビューより)
「問題になっているところがあるか見てますけど、(中略)問題になる点がまだ、見つか らないですね」(Bへの第3回インタビューより)
「教科書を読み、テーマを考えた。なかなか選べない。日本語として変なところは見つけ にくい」(Cの学習ダイアリー8/8 より)
「日本語のテキストいっぱいあったので、探したらみんな正しいと思うんですよ。(中略)
テキストぱっと見たら全部正しいんですよ。いいんじゃないですか、これはすばらしいっ て。ミスはあんまり発見できない。だからそれがちょっと心配していて…」(Fへの第1 回インタビューより)
「やっぱり問題を探す。一番難しい」、「読むと、なんかさんざん迷っちゃう感じがします。
最初に変だなあって思っても、もしかしたら言うかもって」(Gへの第3回インタビュー より)
「難しいよ。なんか見て、変なところが見つからない」(Hへの第2回インタビューより)
「見つかったんだけど、あんまりよくないと思う。間違ったところが、これでもいいんじ ゃないかなって、曖昧な感じがしていて」(Jへの第2回インタビューより)
「(トピックを決めるのに)すごく時間がかかりました」(Jへの第3回インタビューより)
このように、全ての調査対象者が分析対象となる素材、具体的には日本語教材の不適切な 部分を探し出すのが非常に難しかったと報告している。
調査対象者Dは、かなり早い段階から教材の不適切な箇所を探し始めている(Dの学習
ダイアリー4/23)。しかし、思うように教材の不適切な箇所を見つけられずにいた。そして、
偶然友人宅で不適切な箇所の多い教材を発見するまで、何度も図書館に足を運び、日本語 教科書を見たり、出身国の友人に電子メールを書いて、自分が大学の学士課程在学中に使 用していた日本語の教科書を送ってもらえるよう手配をしたりする(Dの学習ダイアリー 6/29)。また、科目Aを聴講している他の受講生に、不適切な箇所が多い教科書の情報を得 て、それを図書館で探すということも行っている。この間、調査対象者Dは自分が不適切 な箇所を探せない原因を、自己の知識の欠如、特に日本語教育の経験や知識の欠如にある と分析している。調査対象者Dは、学習ダイアリーに次のように記述した。
「今日昼間3階の図書室で調べたが、問題の教科書テキストが発見できなかった。いった い自分は、今、何を中心にして勉強したらいいかを考え直すべきだと思います。」
(Dの学習ダイアリー6/8 より)
調査対象者Dは学習ダイアリーのこの記述内容に関して、次のように述べている。
データ 4-28:調査対象者Dへの第2回インタビューより
240 D: (前略)日本人の学生たちは、もう質問をしたり。あれは能力の差かなと思います。やはり自 分が、日本 人 の学 生たちはたぶん、日 本 語を教える、日 本 語 学 校 とかで、教えたりして経 験 があって、あるいは、教 育 学 部 から、学 部 から大 学 院 に入ってきて、僕 は大 学 でただ日 本 語を勉強した、あまり文 法とかの問 題を深く研 究したことがありませんので、自 分が履 修 生としてこの 1 年間、何か知識を補わなければならないのかなと思うようになりました。本を 読んだり、ちょっとこの問題 について。今、A先生のゼミの授業も聞いていますので、もし時 間があれば、先生にちょっとうかがいたいと思います。
241 R: じゃあ、そういう日本語 教育 の知識かな。文法はたぶん学習者 としてね、勉強してきたから
…たぶん教える側の知識、そういうのが自分に足りないから、教科書を探してもなかなか見 つからないのかなあと?
242 D: 見つからないんです。
243 R: じゃあ、そこのところを、まず、しっかり知識をつけてから探さなければいけないのかなあと思 ったんですか。
244 D: そうです。
データ 4-29:調査対象者Dへの第2回インタビューより
266 D: 自 分が文 法 の対する理 解 も、あの、文 法 をどのように学 生に、将 来 、先 生 になったら、どう やって学生に教えるか、あの、ポイントとかは、まだ自分がよく理解していないという、足りな
いと思います。
267 R: なるほど。そうすると、これから後は何をしたらいいんでしょうかね。
268 D: レポートを、資料…問題のある教科書を探し続けますね。それをやりながら、これからたくさ ん文 献を調べたり、たくさん論 文を、先 生が書 いている文 献を読み始 めると思います。(後 略)
調査対象者Dは教材の不適切な部分が見つからないのは、自分の日本語教育面の知識や経 験が欠如しているからだと分析し、その問題を解決するために、自分の勉強方法を考え直 さなければならないと述べている。これは科目Aの文章課題を遂行するという目的に限っ た発言ではない。Dは科目等履修生であり、大学院への正規入学を目指し、準備をしてい る。まずは、大学院への正規入学を果たし、その後も、大学院生として勉学を続けていく 上で、日本語教育の視点や知識、経験が必要となってくると考え、そのために、どのよう に勉強を続けていかなければならないのかを模索している。
また、調査対象者Dは教材分析の素材となる不適切な部分を見つけることができないと いう問題を解決するために、不適切な部分がある教材を探し続けることの他に、教員Aの 書いた論文や書籍を読むという調整を計画し、実行している。具体的には、『XX表現』を 買い、読んだということである。そして、文章課題では、教科書の不適切な部分を『XX 表現』から得た待遇的な観点による分析を行った。
また、このインタビューの時点で、分析素材の探し方について教員Aに相談してみたい と調整の計画を立てているが、実際にこの後、教員Aに相談をしたということだ。この相 談に対して、教員Aから「自分が気づいた不自然なところを指摘して取り出して、分析す ればいい」との助言を得たということであった(調査対象者Dへの第4回インタビューよ り)。
調査対象者Cからも、素材の探し方を検討するという調整の計画が述べられた。調査対 象者Cは教材の不適切な部分を探す前に、教員Aの論文を読むという調整を計画した。C は、ただ不適切なところを探すのではなく、教員Aの論文を読むことによって、どのよう な観点をもって教材を見ていけばいいのかが明白になり、探しやすくなるだろうと述べて いる。
データ 4-30:調査対象者Cへの第2回インタビューより 275 R: 教材なんかはまだ見ていない、見てみていない?
276 C: どう探せば…3 階の図書館で、教科書をこう…それしかない。
277 R: そうですね。テーマもぜんぜん?これにしようかなとか、
278 C: 最 初 は、先 生 の論 文 をちょっと読 めば、アイディアが出 てくると思 いますね。どういうことが 問題になるか、
279 R: なるほどね。
280 C: だから、次のステップは論文を読んで・・・
281 R: ああ。じゃあ、それから、教科書を見てみようかなと。
282 C: だから両方。
このインタビューの時点で、Cはまだ教材を探し始めてはいなかったのだが、教材を探す 観点のヒントを、教員Aの論文を読むことから得られると考え、実際にこの調整を実行し、
素材を見つけ出すことに成功している。
また、調査対象者AとBは、最初は不適切な部分を探すという分析素材の探し方をして いたが、途中からこのような探し方から、自身の文型や文法に関する疑問点や他の講義で 扱った文法項目について、教材でどのように扱われているのかを見るという方針に転換す る。Aは不適切な箇所がなかなか見つからず、また、本章の 4.2.2 のデータ 4-19 で見たよ うに、図書館の夏季休暇中の閉館を知らずにいたため、事前に借りておいた教材の中から 分析素材を探さなければならなくなる。しかしながら、事前に借りた教材からは、不適切 な箇所を見つけることができないという問題が発生する。この時点で、Aは不適切な箇所 を探すのをあきらめ、自分が実践の授業を通して疑問に思った文法項目について書くこと にする。
また、Bも途中で不適切な部分を探すという方法を止めて、自分が科目Eで論文要約の 文章課題としてまとめた文法項目について、教材ではどのように扱われているのかを検討 するという方針に変更する。
調査対象者Jは、インタビューで教材の不適切な部分をなかなか見つけることができな いという困難を訴え続けていた。そこで、調査者は興味のある文法、文型がどのように教 材で扱われているのかを検討するという方法もあるのではないかと助言してみた。この助 言に対して、Jは他の受講生の発表が常に不適切な箇所の指摘から始まっていたため、そ こから始めるという固定観念が作られていたと内省を述べている。
データ 4-31:調査対象者Jへの第2回インタビューより
476 R: 例えば、この文法については前から疑問を持っていたとか、授業で習った通りに使ったら間