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第4章 課題遂行過程における管理プロセス(1)

4.2. 管理プロセスの分析

4.2.1. 課題要求を解釈する

課題を遂行する上で最初のプロセスとなるのが、課題要求を解釈することである。本研 究の調査対象者たちは、課題要求の解釈に問題が発生し、この問題を管理していた。

第1回インタビューで、調査者は調査対象者Iに、科目Aの文章課題のために現在して いることや、しようと計画していることは何かと質問した。Iは、一つにはどのような課 題が出されるのか予測を立てることだと述べ、また、もう一つは、担当教員の「傾向を知 る」ことだと述べている。

データ 4-12:調査対象者Iへの第1回インタビューより

194 I: あと、先 生 の傾 向 を知 るために、書 いた本 とかを見 たり。先 生 が重 要 としているのはこの部 分だから、この部分に関して他の本を読んだりとかしたら、ちょっと授 業を1回、2回見ても、

この先生のポイントはここだと(わかるはずだ)。

上記のデータ 4-12 に見られるように、調査対象者Iは、教員Aの「傾向」、「重要としてい ること」、「この先生のポイント」、すなわち、教員が主張したいことやアプローチを知るこ とが重要で、そのためには、その教員が書いた本や論文などを読む必要があると考えてい ることがわかる。また、それは、講義を何度か受ければ明白になってくるものだと述べて いる。そして、実際に教員Aの研究室のホームページを閲覧し、教員Aが書いた3編の論 文をダウンロードし、読んだということである(Iの学習ダイアリー10/18、10/19、10/25

より)。このように、Iは、まず教員Aの傾向、つまり、中心概念を知ることが、文章課題 に取り組む上で必要だと考えていることがわかる。これは、講義の中心概念を知ることに よって、課題要求を解釈しようとする行動であったと考えられる。

当然のことであるが、文章課題を遂行するためには講義を理解しなければならない。講 義の理解に問題が生じれば、その科目の課題を遂行するのに支障が生じることが予想され る。このことに関して、調査対象者Bは、次のように話している。次のデータは、第1回 インタビューで、Bが全ての科目に関して、授業を理解し、課題を遂行できるかを不安に 思っていると述べた後の会話である。

データ 4-13:調査対象者Bへの第1回インタビューより

242 R: 今取っている授業で不安なことっていうのは、レポートのこととか発表のこととかいろいろある と思いますけれども、何がいちばん難しいと思いますか。

243 B: 何がいちばん難しいか…その授業のときにやっている、意味が理 解できない場 合 は、後で レポートが出せないかもしれないって。

244 R: 課題、レポートじゃなくて、その前にいまクラスでやっている、

245 B: ときが、あの、全部が全部 100%わかるっていうことはないです。もちろん、例えば科目Fの ときは、私にとって難しい授業です。いまは、この授業 で理解できなかったら、論 文(レポー ト)どうやって書きますかって。

Bは、科目Aに特定して述べているわけではないが、講義や課題の内容が理解できないこ とから、課題が遂行できないのではないかという不安を抱えていることがわかる。

科目Aの講義の理解に問題があると報告しているのは、調査対象者B、D、F、G、H、

Jである。これらの報告は第1回インタビューで、大学院での勉学において不安に感じて いること、難しいと感じていることは何かという質問に対する回答に現れた。これらの調 査対象者のうち、D、G、J自身は、この問題を、理論的な背景知識の欠如から理解の問 題が発生していると分析している。次のデータ 4-14 で、調査対象者Dは、教員Aの話す速 度についても触れているが、理論的な知識の欠如によって理解に至るまでに時間を要する のが問題であると、自己の問題を分析している。

データ 4-14:調査対象者Dへの第1回インタビューより

204 D: 一番不安に思っていることは、最初のとき、科目Eと科目Aの授業を聞いたとき、ちょっと全 部聞き取りが、全部聞き取れますが、内容についてちゃんと理解するまでには、時間がか かったというところですね。話を聞いて、頭の中で反応してから、先生のほう、もう次の話、

過ぎました、という場合もあったんです。(後略)

(省略)

208 D: (前略)A先生の授業は、A先生の話し方が、ちょっとスピードが速いので、一生懸命聞き 取ったんですが、もう、聞き取れるのはできますが、ときどき理解するのに時間がかかると思 う。

209 R: それは、例えば文法の内容ですか。

210 D: はい。ちょっと理論的な知識があったら、…ちょっと…。頭の回転がちょっと日本の方々に ついていっていないという感じ。

また、調査対象者Gも同様に理論的知識が足りないために、講義の理解、特に敬語を考 える枠組みと「中心概念A」についての理解に困難が生じたと報告している。中国の大学 院からの交換留学生である、調査対象者GとHはこの問題を留意し、解決のための調整を 試みている。GとHはこの問題について、教員Aに相談をするという調整を遂行した。次 のデータ 4-15 からは、調査対象者Gが講義理解の問題を基礎知識の欠如が原因であると分 析し、この問題を教員Aに相談するという調整を試みたことがわかった。

データ 4-15:調査対象者Gへの第

1

回インタビューより

448 G: うーん…難しいことといえば、わたし達(GとH)の、基礎理論が足りないという、感じで。

(省略)

454 G: 特にA先生の授業。

455 R: A先生の授業。

456 G: はい。そして、A先生の敬語の…以前は聞いたことがないので、最初のときにすごく難しい と思ったので。

(省略)

462 G: (前略)最初の、何か、【中心概念A】、先生の授業の【中心概念A】も。

463 R: わかんなかった?

464 G: はい、最初のとき、全然わからなかったです。【中心概念A】って何でしょうって。

465 R: 今はどうですか。

466 G: 今は、まあ、あの、なんとなく。

467 R: なんとなく?

468 G: うん、わかるけど、まー…まだ、あの、先生の、『XX表現』っていう本を読んでいるところなん ですけど、勉強中。

469 R: 勉強中、ふーん、そっか。例えば、【中心概念A】についてなんですけど、最初、確かに、

わかりにくい、ちょっと抽象的な、感じだから、これが、だんだん、理解できるようになってき たっていうのは、そのために、【中心概念A】に関する先生の論文読んでみたとか、ちょっと 周りの人に聞いてみたとか、そういうことはしましたか。

470 G: はい、しました。特に、あの、『XX表現』の本。

(省略)

473 R: じゃ、【中心概念A】の問題を解決するのに、『XX表現』の本っていうのを読んでみたって いうこと?

474 G: はい。実は、最初の授業の後、個人指導の時間があって、そのときに、先生に聞いたんで す。「どうしたらいいでしょう」って。先生が『XX表現』の本を読んでって。

上記のデータからわかるように、調査対象者Gは講義の理解上の問題、具体的には、待 遇表現を分析するための枠組みと、【中心概念A】について理解上の問題が発生し、それを 教員Aに相談している。それに対して、教員Aは『XX表現』を読むようにと助言した。

『XX表現』というのは、同じ大学院の理論科目である、科目Dの教科書に指定されてい るものである。教員Aはこの本の著者の一人である。科目Aと同時に科目Dを履修してい る調査対象者A、B、C、E、F、J、ならびに、L2 としての日本語科目として、教員D が担当する科目を履修していたIも、この本を読んだと報告している。また、教員Aから 助言を受けたGとHもこの本を読んだと報告している。また、この書籍と関連のある科目 を履修していなかったDも、この本を購入し、読んだという。つまり、10 名の調査対象者 全てがこの本を読んだということになる。

調査対象者Jは、科目Aと科目Dを同時に履修していた調査対象者の一人であるが、科 目Dの内容や『XX表現』が、科目Aの講義理解の助けになっていると報告している。

データ 4-16:調査対象者Jへの第2回インタビューより

506 J: 二つ同時に取っているんだけど、A先生とD先生。A先生とD先生、なんか関係がある んじゃないかと思います。つながりがあるっていうか。

507 R: そう。(後略)

508 J: D先生の授業でも、必ずA先生の話が出て、そう感じます。

509 R: で、もし一つだけ取っていたら、A先生の授業に出て、科目Dの本を全然読んでいな かったら、わからない…

510 J: わからないことがたくさんあります。

511 R: そう、わからないことがあると思うんですね。だから、そういう、

512 J: 行 動 展開 表 現 とかも、そのテキストにはちゃんと書 いてありますから、A先 生 が授業 を するときには、なんとかイメージができるんです。

講義理解上の逸脱を留意した調査対象者GとHは、教員Aに助言を求めるという調整行 動を遂行し、『XX表現』を読むという助言を得て、それを実行し、講義理解上の問題が解 決したと報告している。このようにGとHは教員Aからの助言によって問題を解決したが、

他の受講生も、教員Aの助言からではなく、自主的に『XX表現』を読む、他の講義の内 容を参考にするという調整行動を遂行し、問題を解決したことがわかった。

また、調査対象者Jは講義理解上の逸脱を、さらに他の調整行動を遂行するによって解 決したと報告している。Jは講義を受け始めたときに「中心概念A」や「中心概念B」と いった概念の理解に問題が生じたが、その後、同じ講義を受けている友人に聞く、辞書や インターネットを用いて調べるといった調整を行い、その結果、理解ができるようになっ たと報告している。

データ 4-17:調査対象者Jへの第2回インタビューより

34 J: (前略)科目Aの授業もすごく納得できないところが、いっぱいあるし、それも自分で授 業以外で資料とか調べて納得しないと、わかんない。

35 R: 具体的に言うと、納得できないところっていうのは、どんなところでしょう。

36 J: はじめに、A先生が講義した【中心概念A】についてとか、【中心概念B】とか、講義す る時は初めに触れたから、全然わかんなかったんです。それで、いろいろ調べてちょっ と納得できました。

37 R: ああ、そうなんですか。どんなものを調べたんですか。

38 J: え、辞書とかも調べたり、あと他の友達にもどう思っているか聞いたり、ネットでもちょっ と見たり。

39 R: なるほど。じゃあ、先生の説明だけではわからなかったけど、自分で調べて、だんだん わかるようになったってことですね。

40 J: はい。

「中心概念A」や「中心概念B」という用語の意味を理解するのに、調査対象者Jが述 べている「辞書を調べる」という調整行動は、適切な調整行動であるとは言えない。「中心 概念A」や「中心概念B」という語は教員Aが講義や論文で定義を行い、用いているもの である。調査対象者Jはこの調整で問題を解決することができずに、他の受講生に聞く、

インターネットで検索するといった他の調整を試み、解決に至ったと考えられる。

以上、見てきたように、調査対象者の多くは、教員Aの教材分析の中心概念である「中 心概念A」や「中心概念B」、待遇表現の分析の枠組みについて理解上の問題が生じた。こ の問題の原因は、基礎理論や知識の欠如にあると考え、この問題を解決するための調整を 計画した。二人の調査対象者は、担当教員に相談するという調整を試みている。この相談 に対して教員Aは自分の執筆した本を読むことを勧め、調査対象者はそれを実行し、問題 を解決することができた。また、同様に基礎理論や知識の不足から、理解の問題が発生し