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主な誤差要因

ドキュメント内 熊本大学大学院自然科学研究科 (ページ 112-116)

4. 衛星測位の補間のための 気圧高度履歴に基づく移動経路推定

4.3. 気圧高度推定手法

4.3.4. 主な誤差要因

基準局から近距離において計測される気圧高度に生じる誤差について論じられた ことはこれまでほとんどない。そこで、本節では、気圧高度と実際の標高の差を気圧 高度の誤差と定義し、影響の大きな要因について説明するとともに、式(4-1)を用いて 導いた影響の大きさの例を示す。

4.3.4.1. 気圧と気温の観測誤差

固定局および移動局における気圧と気温の観測誤差は移動局の推定高度に直接的 な誤差を生じさせる。例えば、海抜0 mにおいて1 hPaの観測誤差が生じた場合、

約8 m の誤差となる。なお、気温に関しては遮光シールドを設けることによって確

度0.5℃を実現するのはそれほど難しいことではない。気温に0.5 ℃の観測誤差が生

じた場合、気圧高度の誤差は海抜0 mを基準として標高差1000 mで約2 mとなる。

ところで、気圧センサの相対的な観測誤差をほぼ 0 hPa とすることは、センサの 校正により可能である。ただし、絶対誤差を0.5 hPa以下にすることは、気温・気圧 を調整できる恒温槽がなければ難しい。例えば、固定局と移動局における気圧の相対 観測値の誤差が0 hPaで、固定局の気圧の観測値に0.5 hPaの誤差があったとする

と、標高0–1000 mにおいて約0.5 mの誤差を生じる。また、標高1000–2000 mに

おいては約1.5 mの誤差を生じる。

4.3.4.2. 固定局の設置環境

地表面は太陽光や放射冷却により周囲の空気よりも加熱・冷却されやすい。そのた め、大気密度は昼間に小さく見積もられやすく夜間に大きく見積もられやすい。また、

図4-5に示す様に、地表で冷やされた空気塊は斜面に沿って下り窪地に滞留する。も し固定局が窪地に設置されていた場合、大気の密度をより大きく見積もってしまう可 能性がある。したがって固定局は風通しの良い場所に設置する必要がある。

図4-5 冷気の滞留

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4.3.4.3. 気温減率の誤差

気温減率は、水蒸気から放出される潜熱が原因で水蒸気量に大きく影響され、天候 や季節的な変動が大きい。その値は地域的な差はあるものの日本の山岳地域において

は概ね0.0050~0.0065 (K/m)の範囲である[14]。気温減率に0.0015 (K/m)の誤差が

生じた場合、高低差1000 mで約1 mの高度推定誤差を生じる。ただし、気温減率は 高低差のある 2 地点において気温を計測することにより精度のよい推定が可能であ る。

4.3.4.4. 気層の不連続

海では塩分濃度や水温の異なる層が広がっていることがあるが、大気も同様に気層 が広がることがある。例えば気温が上空に行くほど高くなる逆転層がそれである。気 層が形成されると気温減率の不連続面が形成され、大気の密度分布の推定に誤差を生 じてしまう。雲海は逆転層が発達していることを示すため、雲海が発生する地域にお いて本論文で提案する調査を行う場合は、雲海の境界付近とその上下において気温の 測定を実施すると精度の良い気温減率が得られると考えられる。

4.3.4.5. 重力波

水面に波紋が広がるように大気が波打つ現象を重力波という。重力波は地表の気圧 を変化させることがあり、固定局と移動局の距離が離れていると高度推定値に誤差を もたらす。大気の重力波の発生要因は様々であり、波長や位相速度も大きく異なる。

また、標高によって影響の大きさが異なることがある。国内におけるこれまでの観測 では、振幅が約2.0 hPaで波長が30 kmの重力波が観測されている[15]。この場合、

固定局と移動局との水平距離1 km当たり最大で0.27 hPaの差を生じる。ただし、

大きな振幅を持つ重力波の発生頻度は低いため本研究では問題としない。

4.3.4.6. 重力異常

地質構造の不均一性により重力加速度は正規重力よりも若干ずれており、その差を 重力異常という。特に観測される重力加速度を基に高さの影響を補正して求めた楕円 体面での重力加速度から正規重力を差し引いたものはフリーエア異常と呼ばれる。例 えば、根室付近でフリーエア異常として221 mGalが観測されている。国内では根室 の他に東北の太平洋側の一部および父島を除けばほぼ150 mGal以下である[16][17]。

もし200 mGalの重力異常が存在した場合、標高4000 mにおいて、気圧高度に約1

m の誤差を生じる。これは、追跡対象となる野生動物が利用する標高が比較的低い ことや、行動域内での標高差が小さいことを考慮すれば通常の運用では無視し得る誤 差である。

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4.3.4.7. 気圧の傾き

気圧には傾き(以下、気圧傾度)が存在する。この気圧傾度に伴い、式(4-2)から求 めた気圧高度には固定局と移動局の水平距離にほぼ比例した誤差が生じる。

気圧傾度の実例として、九州にあるアメダス観測点の宮崎-阿久根間と福岡-阿久 根間で2008年7月~2012年6月に観測された気圧傾度の頻度分布を図4-6および 図4-7に示す。気圧傾度は気象庁が推定した各地点の海面気圧から阿久根における海 面気圧を差し引き、それを2点間の水平距離で割ることで求めた。ここで、宮崎-阿 久根間を結ぶ線はほぼ東西方向であり、福岡-阿久根間ではほぼ南北方向である。宮 崎-阿久根間の気圧傾度の平均は–0.187×101 (hPa/km)で標準偏差は 0.137×101

(hPa/km)であった。同様に、福岡-阿久根間の気圧傾度の平均は 0.857×103

(hPa/km)で標準偏差は 0.790×102 (hPa/km)であった。宮崎-阿久根間の気圧傾度

で生じる標高の誤差は海抜0 mにおいて水平方向1 km当たり最大で約0.36 m(95%

値)に相当する。

なお、寒気団などが入り込むと地域的な大気密度に差が生じるため、固定局と移動 局の水平距離が離れている場合は気圧傾度の補正が困難となる。

図4-6 阿久根-福岡間の気圧傾度

図4-7 阿久根-宮崎間の気圧傾度

Barometric gradient (hPa/km)

Frequency (%)

-0.04 -0.02 0.00 0.02 0.04

0510152025

Barometric gradient (hPa/km)

Frequency (%)

-0.10 -0.05 0.00 0.05

0102030

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4.3.4.8. 台風の通過

台風の中心付近における気圧傾度は非常に高く、気圧高度の推定値に大きな誤差を もたらし得る。加えてその中心気圧は雲の形状や衛星を用いた風況観測等により推定 されており、精度が保証されていない。ただし、幸いにも台風の通過頻度は全体から 見れば極わずかであるため本研究では問題としない。

4.3.4.9. ジオポテンシャル高度と幾何高度の差

ジオポテンシャル高度𝑧 (m)は、単位質量の物質をジオイド面から鉛直方向へ𝑧 (m) 持ち上げた場合のポテンシャルエネルギを正規重力で割って求められる。重力加速度 は高度が高くなるにつれて減少するため、ジオポテンシャル高度は幾何高度と比較す ると小さい。その差は、標高2000 m以下ならば標高差500 m当たり0.3 m以下で

あり、2000 m以上3500 m以下ならば標高差500 m当たり約1.0 mである。標高差

が小さければ十分に無視可能である。

4.3.4.10. 大気潮汐

大気潮汐とは、大気が太陽光により日の出と共に急激に加熱され膨張するために起 こる圧力波である。この現象はほぼ毎日どこでも見られ、地表の気圧に対して約1~

2 hPaの周期的な変動をもたらす。図4-8に大気潮汐の例を示す。

大気潮汐の周期は半日および1日と長いため波長も長く、同標高においては経度差 が小さければその差は無視できる。ただし、気圧に対する影響の大きさは標高によっ て変わるため、固定局と移動局の標高差が開くと気圧高度に誤差を生じやすい[18]。

大気潮汐による影響を定量し気圧高度を補正するには、標高差のある固定局が2局以 上必要である。

図4-8 宮崎のアメダス観測点で観測された大気潮汐

1,007 1,008 1,009 1,010 1,011 1,012 1,013 1,014

6月29日 7月1日 7月3日 7月5日 7月7日 7月9日 7月11日 7月13日

海面気圧 hPa

観測日(2008年)

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