5.4. 結果の分析
5.4.4. 評価への影響による言語形式の分類
スタイルの誤用には、項目によって評価値の差が見られ影響の大きさが項目によって異 なることが§5.4.2からわかった。しかし、これらの差が偶然の差なのか、それとも影響の大 きさによって分けられるかということを考察していく。影響の大きさによって、習得優先 項目とそうでない項目を分けることができると考える。文法同様、日本語母語話者の規範 の習得を目指すのは変わらないが、優先順位を考えることは重要である。その点を有意差 検定と、クラスタ分析によって、探っていく。
表 5-10は対教授会話のスタイルの誤用(会話B)の平均値と、項目間のクラスタ分析の 結果のデンドグラムである。平均値を高い順から並べたときに、差がある可能性が見られ る点は「ケド節の普通体(2)」と「間投表現ホラ(9)」である。またその他に、差は小さいが
「確認要求表現デショウ(5)」と「応答表現ウン(14)」である。項目をクラスタ分析にかけた 結果、「ケド節の普通体(2)」とそれよりも評価値が高い項目「カラ節普通体(8)」「間投助詞 ネ6)」「裸の普通体(11)」、「間投表現ホラ(9)」とそれより評価値が低い項目は、別のカテゴ リとして分けることができる。
また、同時にMann-WhitneyのU検定にて、項目間の有意差を調べた(表5-10)。便宜的 に評価値が最も高い「間投助詞ネ(6)」と、数値に意味のある差があると見られる「ケド節 の普通体(2)」「間投表現ホラ(9)」の間でそれぞれ検定にかけたところ、「間投助詞ネ(6)」と
「ケド節の普通体(2)」には有意な差が認められず、「間投助詞ネ(6)」と「間投表現ホラ(9)」
に有意な差が認められた。よって、「ケド節の普通体(2)」「カラ節普通体(8)」「間投助詞ネ(6)」
「裸の普通体(11)」はより母語話者の評価への影響が小さく、その他の項目は評価への影響
が大きいということができる。
さらに、評価の影響が大きい分類の中で数値が一番高い「間投表現ホラ(9)」と「確認要 求表現デショウ(5)」「応答表現ウン(14)」の間の有意差を調べた。その結果、「間投表現ホラ
(9)」と「確認要求表現デショウ(5)」の間で有意なが差が認められず、「間投表現ホラ(9)」
と「応答表現ウン(14)」の間で有意な差が認められた。つまり、「応答表現ウン(14)」とそれ より評価値が低い「質問のノ(17)」「ナンテイウノ(3)」「ナノヨ(15)」「ヨ(12)
」は著しく評価を下げる項目と考えることができると思われる。
グループを分けると、「弱い働きかけ・消極的な普通体の形式」は影響が小さいグループ、
「強い働きかけ・普通体の形式」は影響が大きいグループ、「強い普通体の働きかけ」は影 響が著しいグループとして分けられる。その結果を表5-11で示す。
図5-1 対教授会話・会話B「丁寧さ」評価値平均、クラスタ分析のデンドグラム
表5-10 項目間のMann-WhitneyのU検定の結果 比較項目 有意確率 比較項目 有意確率 6と2 0.1 9と5 0.065 6と9 0.004 9と14 0.014
表5-11 対教授会話の評価への影響による形式の分類 評価に著しく影響
評価に著しく影響 評価に著しく影響
評価に著しく影響 評価に大きく影響評価に大きく影響評価に大きく影響評価に大きく影響 評価に小さい影響評価に小さい影響評価に小さい影響評価に小さい影響
(強い普通体の働きかけ) (強い働きかけ・普通体の形 式)
(弱い働きかけ・消極的な 普通体の形式)
普通体疑問ノ 普通体ノ ケド節の普通体
普通体ヨ 間投表現ソウネー カラ節の普通体
普通体ノヨ 普通体ノネ 裸の普通体
間投表現ナンテイウノ 普通体カナ 間投助詞ネ 応答詞ウン 確認要求表現デショウ
間投表現ホラ
次に、対学生会話で、項目間の分類を試みる。表5-13は対学生会話B(スタイルの誤用)
の「丁寧さ」の評価値によるクラスタ分析の結果のデンドグラムである。デンドグラムが 示す分類と、平均値の順位には明確な対応が見られない。つまり、各項目に対する評価が 母語話者間で大きく異なるということが指摘できる。疎の関係である学生に対して、使用 してよいと考えられる形式は母語話者によって異なるのである。共通して評価が下がると 見られるのは、デンドグラムに上部にかたまり、評価値が低い、「普通体ヨ」「普通体ノヨ」
「ナンテイウノ」「質問文ノ」である。つまり、相手に働きかけが強い普通体の使用は、丁 寧調を使う場合に、どのような相手でも母語話者は不適切に感じると言える。さらに、「間 投詞ホラ」、「間投助詞ネ」、「確認要求デショウ」、「ケド節の普通体」、「カラ節の普通体」
の評価値がより高いことから、対学生では、「働きかけの言語形式」と「消極的な普通体使 用(終助詞ノも含む)」が許容されやすい表現であると言える。
図5-2 対学生会話・会話B「丁寧さ」評価のデンドグラム