第三部 総論(スピーチスタイル教育の試案) 総論(スピーチスタイル教育の試案) 総論(スピーチスタイル教育の試案) 総論(スピーチスタイル教育の試案)
12.4. まとめ
本章では、スピーチスタイル教育試案として次のことを提案してきた。
A)普通調と丁寧調、その他の言語形式の運用規範を初級段階から確実に提示する。
B)普通体の産出に抵抗がなくなるように初級段階で運用練習を行う。
C)中級では会話全般として自然なスピーチスタイルを身に付ける練習を行う。
D)中級段階で一度評価に影響する言語形式を規範から逸脱して使用しないように指導する。
E)上級段階では学習者のニーズに合わせて、特別丁寧調、スピーチスタイルシフトを指導 する。
第 第 第
第 13 章. 章. 章. 章. 本論文のまとめ 本論文のまとめ 本論文のまとめ 本論文のまとめ
13.1. 各章のまとめ各章のまとめ各章のまとめ各章のまとめ
ここまでの各論をまとめる。
まず第 2 章では、研究概要として、研究の位置づけや研究意義、研究対象を述べた。こ れまでは、スピーチスタイルに関わる言語形式の扱いについて詳細に検討されてこなかっ たことを述べ、それがコミュニケーションにおいて重要であることを述べた。また、本研 究の方法とその背景となる日本語教育観などについて説明した。さらに、研究を行う上で 前提となる研究対象と言語能力観について説明した。
第 3 章では、学習者へのスピーチスタイル教育を考えるために、日本語母語話者のスピ ーチスタイルの運用を「伝達機能」により、整理することにより、スピーチスタイルのど のような側面に教授可能性があるのかを示した。日本語母語話者は、まず社会的に慣習的 な普通調と丁寧調と特別丁寧調の選択をすることを整理し、その選択プロセスに関してフ ローチャートを作成することで、日本語母語話者の丁寧調と普通調の選択をわかりやく提 示した。そして、丁寧調・普通調・特別丁寧調を選択した後に、「親しみ・くだけ」「改ま り・丁寧・上扱い」を表すために、丁寧語以外の敬語、応答表現、間投表現、確認要求表 現、自称詞、対称詞、音韻転訛形、その他の語彙・表現、を操作することを記述した。
第4章では、学習者のOPIデータ『KYコーパス』『日本語学習者会話データベース縦断 調査編』から、学習者のフォーマルな場面での会話のスピーチスタイルの問題点を体系的 に記述することで、学習者のスピーチスタイルの問題把握を行った。その結果、日本語母 語話者のスタイル運用に関わる言語形式、丁寧体と普通体、応答表現、関東表現、確認要 求表現、自称詞、対称詞、縮約形、卑下表現、感謝表現などの問題が見られた。
第5章では第4 章で明らかになった学習者のスピーチスタイルが母語話者との会話でど の程度問題になるのかを、母語話者評価実験により明らかにした。ニ場面(対教授・対学 生)の刺激会話として、正しい形と(会話A)、スピーチスタイルの誤用(会話B)の音声 を作成し、母語話者52名(学生29名、日本語教師9名、社会人14名)に対して評価実験 を行った。結果として、に関してフォーマルな場面に合わない言語形式の使用は対話相手 への評価を下げること、文法ミスに比べてもより評価を下げることが明らかになった。そ して、相手に働きかけが強い普通体(終助詞が付くもの)は特に使用に気を付ける必要が あり、親しくなる可能性がある相手には、働きかけの言語形式(確認要求表現、間投助詞 など)や一部の普通体(節末や裸の普通体、終助詞ノ)は使用が許容される可能性がある
ことが明らかになった。さらに、日本語教師は一般人より評価が厳しい可能性があり、教 師はその点に留意する必要があることが明らかになった。
第 6 章では、現状の教育において、日本語学習者がスピーチスタイルにどのような問題 を持つか、どのようなニーズを感じているかの意識を、文献調査、22 名の日本語学習者に 対する意識調査により明らかにした。その結果、日本語学習者は、次の A)場面間で異なる スピーチスタイルの規範を教示する必要がある B)特に問題となりうる言語形式は使用規範 を明確に教示する必要があるC)使用規範と共に十分な運用練習をする必要があるD)日本語 学習者のニーズに合わせてスピーチスタイルの運用による特定の機能を教える必要がある、
という教育への示唆を行った。
第 7 章では、旧南洋群島の話者のデータから、日本語の社会言語学的な規範意識が薄い 国外の日本語話者がどのようにスピーチスタイルを運用しているかを記述し、スピーチス タイルが自然習得に任せるのではなく、教授されるべきものであることを明らかにした。
旧南洋群島の日本語話者は、文法能力や談話構成能力は高いが、母語話者のように丁寧体 と普通体、自称詞を対話者に一定した形式を選択するのではなく、異なる要因から独自の スピーチスタイル使用の規則を作っている。それは学習者間で共通点があるものではなく、
それぞれの習得環境によるものであることが考察された。
第8章では、4章と同様にコーパスデータを使い、日本語学習者のスピーチスタイルの問 題形式の使用傾向を母語別傾向、レベル別傾向、また経年変化から考察した。日本語学習 者は、母語により問題形式の使用傾向が異なり、特に韓国語母語話者に問題傾向が見られ にくいことが明らかになった。しかし、その中でも学習者に共通して一部の普通体や間投 表現が使用される様子が観察された。また、レベルが高くなるにつれて問題傾向が減る様 子はなく、同一学習者が著しくスピーチスタイルを改善することもないことが観察された。
つまり、ここから指導の重要性や、母語の考慮の重要性が観察された。
第9章では、英語母語の日本語学習者6名の2場面でのスタイル変異形式の使用を考察 し、日本語学習者がスタイル変異形式の使用規則を形成していく過程を考察した。その結 果、次の過程で使用規則を形成していることが考察された。まずは、それぞれの学習者の 習得環境によって各スタイル変異形式を習得する。そして、個人のアイデンティティや社 会言語学的規範、各スタイル変異形式の規範の知識フィルターを通って、それらの場面ご との運用規範が形成される。そして、実際の運用時には、切り換え能力の問題から規範と 多少異なるスタイル変異形式が使用される。そこで、言語形式の使用規範を教示すること の重要性、教育の上で学習者の母語やアイデンティティを考慮する重要性を指摘した。
第10章では、第9章で述べた実験調査について、日本語学習者の中間言語の記述の観点
から考察を行い、学習者がそれぞれの習得段階でどのように丁寧体と普通体の運用をして いるかについて詳細な考察を行った。その結果、母語と日本語の体系、学習者の運用能力 が原因となり中間言語的なスピーチスタイルの切換えを行っていることが考察された。結 果から、丁寧体と普通体を中心に、言語形式の形態面と使用規範について教育を行うこと の必要性を指摘した。
第11章では、日本語初級教科書4冊に関して、スピーチスタイルの扱いを丁寧体と普通体 を中心にその問題点を考察してきた。その結果次のようなスピーチスタイル教育を行う上 での留意点が考察された。1)ダイアログでは、現実の母語話者の運用と異なるスピーチ スタイルを使用させない。2)ダイアログの対話者の関係性を示す。3)丁寧調選択時に カジュアルな言語形式を混ぜる場合はその理由を示す。4)提示順序を考えすぎて、無理 にカラを使用させない。
第12章では、11章までの研究の考察結果を基にスピーチスタイル教育の試案を記述した。
そこで、必要な教育が以下の点であることをまとめた。A)普通調と丁寧調、その他の言語 形式の運用規範を初級段階から確実に提示する。B)普通体の産出に抵抗がなくなるように 初級段階で運用練習を行う。C)中級では会話全般として自然なスピーチスタイルを身に付 ける練習を行う。D)中級段階で一度評価に影響する言語形式を規範から逸脱して使用しな いように指導する。E)上級段階では学習者のニーズに合わせて、特別丁寧調、スタイルシ フトを指導する。