第 3 章 角運動量の理論
3.7 角運動量の合成
のとき以外0になる*17.
Clebsch-Gordan係数はユニタリー行列を形成することを基底の規格直交性から証明できる.したがって各
Clebsch-Gordan係数を実数にとると,直交行列を形成する.
クレプシュ・ゴルダン係数に対する漸化式(pp.287–294)
√(j∓m)(j±m+ 1)|j1j2;j, m±1⟩
=J±|j1j2;jm⟩
=(J1±+J2±) (∑
m1
∑
m2
|j1j2;m1m2⟩ ⟨j1j2;m1m2| )
|j1j2;jm⟩
=∑
m1
∑
m2
(√
(j1∓m1)(j1±m1+ 1)|j1j2;m1±1, m2⟩ +√
(j2∓m2)(j2±m2+ 1)|j1j2;m1, m2±1⟩)⟨j1j2;m1m2|j1j2;jm⟩ よりClebsch-Gordan係数に対する漸化式
√(j∓m)(j±m+ 1)⟨j1j2;m1m2|j1j2;j, m±1⟩
=√
(j1∓m1)(j1±m1+ 1)⟨j1j2;m1±1, m2|j1j2;jm⟩ +√
(j2∓m2)(j2±m2+ 1)⟨j1j2;m1, m2±1|j1j2;jm⟩
が得られる.これはJ± の複号に応じた2つの漸化式である.これを用いると,適当なClebsch-Gordan係 数から始めて,(m1, m2)で指定される全てのClebsch-Gordan係数⟨j1j2;m1m2|j1j2;jm⟩を求めることがで きる.
クレプシュ・ゴルダン係数と回転行列(pp.294–297)
• Clebsch-Gordan係数(3.7.69):
Dm(j11m)1′(R)Dm(j22)m2′(R) =∑
j
∑
m
∑
m′
⟨j1j2;m1m2|j1j2;jm⟩ ⟨j1j2;m1′m2′|j1j2;jm′⟩Dmm(j)′(R) の導出.
• 式(3.7.69)を用いて,公式(3.7.73):
∫
dΩYlm∗(θ, ϕ)Ylm1
1 (θ, ϕ)Ylm2
2 (θ, ϕ) =
√
(2l1+ 1)(2l2+ 1)
4π(2l+ 1) ⟨l1l2; 00|l1l2;l0⟩ ⟨l1l2;m1m2|l1l2;lm⟩ を導出.
3.7 について
■{s, m}表示のとり得る値(3.7.14) Sz=S1z+S2zなので両辺を状態ケットに作用させて得られる固有値 について
m=m1+m2= 0,±1 (31)
*17後者は角運動量Jを矢印で表される幾何学的な対象と見なし,さらにJ2の固有値jがその大きさに対応すると考えたときに期待 される 三角不等式 である.
である.交換関係(3.7.11)よりS が実際に角運動量となるからS2の固有値はs(s+ 1)ℏ2の形(p.278一番 下)になり,このsを用いて
m=−s,· · ·, s (32)
である.式(31)よりmは整数だから,式(32)におけるsもまた整数である.後の式(3.7.38):
|j1−j2| ≤j≤j1+j2
は今の場合0≤s≤1となり,これを満たす整数sはs= 0,1に限られる.例えば状態|++⟩では式(31)よ りm= 1なので式(32)においてs= 1でなければならず,式(3.7.15a):
|s= 1, m= 1⟩=|++⟩ を得る.このように{s, m}表示のとりうる値(3.7.14)が分かる.
■|s= 1, m= 0⟩の式(3.7.15b)の導出(3.7.18) 式(3.7.18)について詳しく述べる.式(3.5.40)で j→s= 1, m= 1
と置くことにより,式(3.7.17)の左辺は
S−|s= 1, m= 1⟩=√
2ℏ|s= 1, m= 0⟩ となる.一方,式(3.5.40)で
j→s1, s2= 1/2, m→m1, m2= 1/2→+ と置くことにより,式(3.7.17)の右辺は
S1−|+⟩ ⊗ |+⟩+|+⟩ ⊗S2−|+⟩=ℏ(|−⟩ ⊗ |+⟩+|+⟩ ⊗ |−⟩) =ℏ(|−+⟩+|+−⟩) となる.これらを等置して式(3.7.18),式(3.7.15b)を得る.
■「(3.7.15)の右辺に現(わ)れる係数は,……」で始まる段落(p.280) S2の{|m1, m2⟩}を基底に用いた 行列表示X は対角的でないのに対し,{|s, m⟩}を基底に用いた行列表示X′は行列要素が⟨s′m′|S2|sm⟩= s(s+ 1)ℏ2δss′δmm′ ゆえ対角的である.ここで式(1.5.13):X′=U†XU におけるXとX′を結ぶユニタリー 行列U の行列要素は式(1.5.7)より⟨m1m2|sm⟩ (これはp.284のClebsch-Gordan係数の表記にならえば
⟨1
2 1
2;m1m21
2 1 2;sm⟩
)である.よって変換係数を求めるにはXの全成分を明らかにし,これを対角化するU を具体的に求めれば良い.
■「この組の演算子は互いに交換する」(p.283,l.4,5)について J2がJz,J12,J22と交換するのを言えば十 分である.このうちJzと交換することは,全角運動量J が交換関係(3.7.26)を満たすためその名の通り角運 動量なので[J2, Jk] = 0:(3.5.2)が成り立つことから分かる.J12,J22と交換することは,式(3.7.29)および [J1k,J12] = 0を用い
[J2,J12] = 2J2z[J1z,J12] + [J1+,J12]J2−+ [J1−,J12]J2+= 0
と示される.J2の式(3.7.29)自体はJ1+J2−+J1−J2+= 2(J1xJ2x+J1yJ2y)から理解される.
■式(3.7.32)の第1式[J2, J1z]̸= 0について J2の式(3.7.29)を用いると [J2, J1z] = [J1+, J1z]J2−+ [J1−, J1z]J2+
であり,これは
−ℏ(J1+J2−−J1−J2+), または 2iℏ(−J2xJ1y+J1xJ2y) と表される.
■Clebsch-Gordan係数は直交行列を作ること 式(3.7.41)は次のように導ける.
δm1m1′δm2m2′ =⟨j1j2;m1m2|j1j2;m1′m2′⟩ (∵{|j1j2;m1m2⟩}の規格直交性)
=∑
j,m
⟨j1j2;m1m2|j1j2;jm⟩ ⟨j1j2;jm|j1j2;m1′m2′⟩
=∑
j,m
⟨j1j2;m1m2|j1j2;jm⟩ ⟨j1j2;m1′m2′|j1j2;jm⟩ (∵⟨j1j2;jm|j1j2;m1′m2′⟩ ∈R).
以上でClebsch-Gordan係数が直交行列を作ることを証明したことになる.実際,(m1, m2)→a,(j, m)→b, 与えられたj1, j2に対するClebsch-Gordan係数をCab,これが作る行列をCとして式(3.7.41)を書き改め
ると (
∑
b
Cab(tC)ba′ = )∑
b
CabCa′b=δaa′
となってこれがC−1=tCを意味していることが見やすくなる.
式(3.7.42)も同様に
δjj′δmm′ =⟨j1j2;jm|j1j2;j′m′⟩
= ∑
m1,m2
⟨j1j2;jm|j1j2;m1m2⟩ ⟨j1j2;m1m2|j1j2;j′m′⟩
= ∑
m1,m2
⟨j1j2;m1m2|j1j2;jm⟩ ⟨j1j2;m1m2|j1j2;j′m′⟩
と導ける.上の記法でこれは ∑
a
(tC)baCab′=∑
a
CabCab′ =δbb′
であり,C−1=tCのもう一通りの表現になっていることが分かる.
■式(3.7.42)⇒規格化条件(3.7.43)
式(3.7.42)の根拠 δjj′δmm′ =⟨j1j2;jm|j1j2;j′m′⟩
⇒ 規格化条件 1 =⟨j1j2;jm|j1j2;jm⟩ と見ることができる.なお,
式(3.7.41)の根拠 δm1m1′δm2m2′ =⟨j1j2;m1m2|j1j2;m1′m2′⟩
⇒ 規格化条件 1 =⟨j1j2;m1m2|j1j2;m1m2⟩ も言える.
■漸化式(3.7.49)の導出 k= 1,2に対して√
(jk∓mk′)(jk±mk′+ 1)にmk′=mk∓1を代入すると
√{jk∓(mk∓1)}{jk±(mk∓1) + 1}=√
(jk∓mk+ 1)(jk±mk)
となるので,式(3.7.46)右辺において左から⟨j1j2;m1m2|をかけたときにゼロでない寄与をする項を具体的 に書くと
√(j1∓m1+ 1)(j1±m1)|j1j2;m1m2⟩ ⟨j1j2;m1∓1, m2|j1j2;jm⟩ +√
(j2∓m2+ 1)(j2±m2)|j1j2;m1m2⟩ ⟨j1j2;m1, m2∓1|j1j2;jm⟩ となる.
■禁止される点(m1, m2) 「(m1+ 1, m2)に対応する点はm1≤j1により禁止されるので,漸化式はここでA をBのみに関係づける」(p.289)について,漸化式(3.7.49)における禁止される点に対応するClebsch-Gordan 係数は
⟨j1j2;m1+ 1, m2|= 0 により消えると考えられる.
■jの値(3.7.53) 整数lに対してml =−l,· · ·, lは整数であり,ms=±1/2なのでm=ml+msは半整 数となる.よってm=−j,· · ·, jにおけるjは半整数でなければならない.
これを踏まえて 三角不等式 (3.7.38):
l−1 2
≤j≤l+1 2
を考える.l >0のとき,これはl−12 ≤j≤l+12となり,これを満たす半整数jは j=l±1
2 に限られる.l= 0のとき,これはj= 12(半整数)になる.
■(ml, ms)平面 式(3.7.51):
|m1| ≤j1, |m2| ≤j2, −j≤m1+m2≤j で表される領域に含まれる点は,図25のようにj =l+12 に対しては
(ml, ms) = (
−l,±1 2
) ,· · ·,
( l,±1
2 )
の2(2l+ 1)個あり,j =l−12 に対しては右上の点( l,12)
と左下の点(
−l,−12)
が除かれる.よって後で言及 されているように,「mlとmsが共に最大値……j=l+12のときに限る」(p.292).
■式(3.7.55) ml+ms=mにおいてms= 1/2を考えているので,
ml=m−1 2 である.
図25 許容される点(ml, ms)
■直交行列(3.7.61) Clebsch-Gordan係数が直交行列を作ることについては,既にp.286で論じられている.
■式(3.7.60)第1式右辺第2項の係数sinαが正であること 「すべてのj=l+12 状態は……正でなければ ならないといえる」(p.293)について,
⟨
ml=m+1
2, ms=−1 2
=⟨· · ·|
と略記する.慣習に従ってJ−の行列要素を正と決めると,各mの値 m=mk =l+1
2 −k, (k= 1,2,· · ·)
に対して ⟨
· · ·
j=l+1 2, mk
⟩
=
⟨
· · · J−
j=l+1 2, mk−1
⟩
≥0 となる.
■Clebsch-Gordan 係数(3.7.63)までのまとめ これまでの流れを整理する.まずj = l+ 12 に対して,
(ml, ms)平面上の右上の点に対応するClebsch-Gordan係数(3.7.58):
⟨ l,1
2 l+1
2, l+1 2
⟩
= 1
から始めて,上の列に並ぶ点(ms= 1/2を持つ)に対応するClebsch-Gordan係数(3.7.57)を得た.
次にこれが下の列に並ぶ点(ms=−1/2を持つ),およびj =l−12に対する上下の列に並ぶ点(ms=±1/2 を持つ)のClebsch-Gordan係数と合わせると直交行列(3.7.61)を作ることから,全Clebsch-Gordan係数 (3.7.63)を得た.
■スピン角関数(3.7.64) これは式(3.7.60):
j=l±1 2, m
⟩
=±
√
l±m+12 2l+ 1
ml=m−1
2, ms=1 2
⟩ +
√
l∓m+12 2l+ 1
ml=m+1
2, ms=−1 2
⟩
において
ml=m∓1 2
⟩
→
⟨ θ, ϕ
ml=m∓1 2
⟩
=Ylm∓1/2(θ, ϕ), ms=±1
2
⟩
→
( ⟨ms= 12ms=±12⟩
⟨ms=−12ms=±12⟩)
=
(
1 0 )
≡χ+ (ms= 1/2に対して) (
0 1 )
≡χ− (ms=−1/2に対して)
と置き換えたものであり,
L2の固有値 l(l+ 1)ℏ2, S2の固有値 1
2 (1
2 + 1 )
ℏ2=3 4ℏ2, J2の固有値 j(j+ 1)ℏ2,
Jzの固有値 (ml+ms)ℏ= {(
m∓1 2
)
±1 2
}
ℏ=mℏ
に属する固有関数である.ここから式(3.7.65)のL·Sの固有値が式(3.7.66)のように計算できることが分 かる.
■式(3.7.72)の導出 Clebsch-Gordan級数(3.7.69)において
j1→l1, j2→l2, m1′→0, m2′→0, (したがってm′→0) とすると
Dm(l11)0(R)Dm(l22)0(R) =∑
l,m
⟨l1l2;m1m2|l1l2;lm⟩ ⟨l1l2; 00|l1l2;l0⟩Dm0(l)(R)
となる.ここにDm0(l) とYlm∗の関係(3.6.52)を代入し,和をとられる添字をl→l′, m→m′と改めると
√ 4π 2l1+ 1
√ 4π 2l2+ 1Ylm1∗
1 (θ, ϕ)Ylm2∗
2 (θ, ϕ) = ∑
l′,m′
⟨l1l2;m1m2|l1l2;l′m′⟩ ⟨l1l2; 00|l1l2;l′0⟩
√ 4π
2l′+ 1Ylm′ ′∗(θ, ϕ) を得る.各Clebsch-Gordan係数が実数であること(p.286)に注意して両辺の複素共役をとると式(3.7.72)を 得る.
■式(3.7.73)の導出 式(3.7.72)の右辺にYlm∗(θ, ϕ)をかけて全立体角で積分すると
∑
l′,m′
√
(2l1+ 1)(2l2+ 1)
4π(2l′+ 1) ⟨l1l2; 00|l1l2;l′0⟩ ⟨l1l2;m1m2|l1l2;l′m′⟩
∫
dΩYlm∗(θ, ϕ)Ylm′ ′(θ, ϕ) となる.ここで球面調和関数の直交性(3.6.70):
∫
dΩYlm∗(θ, ϕ)Ylm′ ′(θ, ϕ) =δll′δmm′
を用いてl′, m′に関する和をとると式(3.7.73)右辺を得る.