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プロパゲーターとファインマンの経路積分

ドキュメント内 【PDF】J.J.サクライ『現代の量子力学(上)』 (ページ 56-61)

第 2 章 量子ダイナミクス

2.5 プロパゲーターとファインマンの経路積分

と定まり,領域IIIの解(25)は

u(x)

π(2mV0)1/6 = 1 2√

|p(x)|exp (

1 ℏ

x x0

|p(x)|dx )

と定まる.これが接続公式(2.4.42)の意味するところである.

図16 各時刻tn=n∆t(n= 2,· · ·, N−1)における粒子の位置xnを指定して得られる,始点(x1, t1) と終点(xN, tN)を結ぶ経路

と仮定する.これは自由粒子に対して

⟨xn, tn|xn1, tn1=

m 2πiℏ∆texp

[ i

m 2

(xn−xn1

∆t )2

∆t ]

→δ(xn−xn1), ∆t→0

と規格化されている.このとき粒子の遷移振幅⟨xN, tN|x1, t1Feynmanの経路積分

⟨xN, tN|x1, t1= lim

N→∞

1 w(N1)/2(∆t)

dxN1· · ·dx2eiS(N,1)/

xN x1

D[x(t)]eiS[x(t)]/

で与えられる.右辺の経路積分には軌道の始点と終点を結ぶあらゆる経路が寄与する.しかし古典的極限 ℏ0では経路の変化に伴って位相が急激に変化するため,異なる経路からの寄与が打消し合い,例外的に作 用Sが停留値をとる(したがって経路の変化に伴ってゆっくりと変化する)古典的経路の近傍からの寄与だけ が残る.こうして古典論における最小作用原理が再現される

Feynmanの経路積分で表された遷移振幅⟨xN, tN|x1, t1Schr¨odinger方程式を満たすことが確かめら れる.

2.5 について

■波動関数の時間発展は決定論的 「……波動関数の時間発展は,系が乱されずにいる限り……決定論的であ

る」(p.149下から8〜6行)について,観測が系を乱すため,これは我々の直接知ることのできる観測結果が

確率的にしか予言できないことと矛盾しない.

■波動関数としてのプロパゲーター 「この二つの性質によって……プロパゲーター(2.5.8)は……波動関数と

なる」(式(2.5.10)の上)のは,プロパゲーターKがそのような波動関数の満たす微分方程式と初期条件を満

たしているからである.

■プロパゲーターの式(2.5.10) 式(2.5.10)を得るには (式(2.5.8)右辺) =∑

a

x′′

exp

[−iH(t−t0) ℏ

] a

⟨a|x= (式(2.5.10)右辺) と戻せば良い.

■式(2.5.15) 式(2.5.15)を得るには式(2.5.8)を連続的固有値pに対する表現 K(x′′, t;x, t0) =

dp⟨x′′|p⟩ ⟨p|x⟩eiEp′(tt0)/ に置き換えた後,式(1.7.32):⟨x|p= 1

eipx/を用いる.

■調和振動子の波動関数(2.5.17) 式(2.5.17)左辺 un(x)eiEnt/ は式(2.1.41)から得られる.これに un(x)の式(A.4.3)とEn =ℏω(n+ 1/2)を代入して式(2.5.17)右辺を得る.

■調和振動子に対するプロパゲーター(2.5.18) 式(2.5.18)について,プロパゲーターの式(2.5.8)を a →n, K(x′′, t;x, t0) =∑

n

(

un(x′′)eiEnt/ ) (

un(x)eiEnt0/ )

と見て波動関数の式(2.5.17)を代入すると K(x′′, t;x, t0) =

( π

)1/2

exp

[−mω(x2+x′′2) 2ℏ

]

eiω(tt0)/2

×

n

1 2nn!Hn

(√x

) Hn

(√x′′

)

eiωn(tt0) となる.そこで √

x ≡ξ,

x′′≡η, eiω(tt0)≡ζ として公式(2.5.19)を用い,

1−ζ2=1−e2iω(tt0)=eiω(tt0)(eiω(tt0)−eiω(tt0))

=2isin[ω(t−t0)]eiω(tt0) に注意すると

K(x′′, t;x, t0)

= (

πℏ )1/2

exp

[−mω(x2+x′′2) 2ℏ

]

(((((( eiω(tt0)/2

×exp [

mω(x2+x′′2) ℏ

] eiω(tt0)/2

√2isin[ω(t−t0)]

×exp

[ eiω(tt0) 2isin[ω(t−t0)]

{−mω

ℏ (x2+x′′2) + 2

xx′′eiω(tt0) }]

=

2πiℏsin[ω(t−t0)]exp

[ imω 2ℏsin[ω(t−t0)]

{−isin[ω(t−t0)](x2+x′′2)+eiω(tt0)(x2+x′′2)2xx′′

}]

=

2πiℏsin[ω(t−t0)]exp

[ imω 2ℏsin[ω(t−t0)]

{

(x2+x′′2) cos[ω(t−t0)]2xx′′

}]

: (2.5.18) を得る.

O Re Im

𝑖𝑅

d𝑡

d𝜃 = 𝐸 − 𝐸𝑎 𝑑𝑡/ℏ 𝑒𝑖 𝐸−𝐸𝑎′ 𝑡/ℏd𝑡

図17 積分G(E)˜ の図式解法

■式(2.5.20) 式(2.5.20)最後の等号は∫

d3x| ⟨x|a⟩ |2=⟨a|a= 1を用いる.

G(t)のLaplace変換(2.5.23) 式(2.5.23)では以下のようにG(t)の独立変数を−βと見る.

G(E) =˜

0

eE(β)G(t)d(−β) =−i

0

G(t) exp(iEt/ℏ)/ℏ. E→E+iε:(2.5.24)とすると求める積分は

G(E) =˜

0

eεt/ei(EEa′)t/dt

となる.『ファインマン物理学II』5-7にならって,これを次のように求める [2, pp.57–58].まずε= 0であ れば,これは複素平面における無限小の変位ei(EEa′)t/dtの和であり,変位を合計したベクトルの先端は円 周上を運動する(図17参照).円の半径をRとすると,中心はiRである半径Rは次のように求まる.各無限 小変位ei(EEa′)t/dtの長さは,対応する中心角をdθとしてRdθ = dtと表される.中心角dθは,無限小 変位ei(EEa)t/dtとこれに続く変位ei(EEa)(t+dt)/dtの成す角(E−Ea)dt/ℏに等しい.よって半径は

R=ℏ/(E−Ea) と定まる.

さて,ε̸= 0に対して因子eεt/によりベクトルの先端は回転しながら円の中心iRに近づくから,

0

eεt/ei(EEa′)t/dt=iR=i/(E−Ea)

となって式(2.5.25)を得る.これは結果的に,式(2.5.23)の積分上限に由来する不定eiを0とおいた結果 に一致する.

■式(2.5.26):K(x′′, t;x, t0) =x′′, t|x, t0 (2.5.26)は次のように見た方が容易だろう.Heisenberg表 示の基底ケットは観測量と 逆向きに 変化するため

|x′′, t⟩=eiH(tt0)/|x′′ DC←→ ⟨x′′|(eiH(tt0)/) =x′′|eiH(tt0)/

だからx′′, t|x, t0=x′′|eiH(tt0)/|xであり,式(2.5.10)よりこれはK(x′′, t;x, t0)である.

ま た ,eiH(tt0)/|x Schr¨odinger 表 示 の 状 態 ケ ッ ト と 見 れ ば ,こ れ と 基 底 x′′| の 内 積 で あ る

x′′, t|x, t0=x′′|eiH(tt0)/|xは波動関数だから(式(2.5.10)の下3行),仮定(2.5.40):

⟨xn, tn|xn1, tn1⟩ ∝eiS(n,n1)/

はp.139でψの位相を作用S(をℏで割ったもの)と見たことに合致する.ただしx′′, t|x, t0の次元は [x′′, t|x, t0] = [x′′,0|x, t0] = [δ(x′′x)] =L3

で波動関数の次元L3/2と一致しない.

■経路積分と古典的極限 p.160,l.10〜p.161,l.5は次のように考えれば良いだろう.現実に粒子はあらゆ る経路を通っている.そのおのおのが遷移|x1, t1⟩ → |xN, tNの確率振幅に寄与する(重ね合せ).ところで 古典的極限ℏ0では近似的に遷移振幅⟨xN, tN|x1, t1が古典的経路からの寄与だけで決まることになる.

よって古典的極限で粒子は古典的経路しか通っていない.

■「調和振動子に対して同様の比較」(式(2.5.42)の2行下) ⟨xn, tn|xn1, tn1の式(2.5.40)において,

x2(

xn−1+xn 2

)2

ではなくx2xn−122+xn2 と近似して

⟨xn, tn|xn1, tn1= [ 1

w(∆t) ]

exp [

i∆tm

2

{(xn2−xn12

∆t )2

−ω2xn2+xn12 2

}]

とする.一方,調和振動子に対するプロパゲーター(2.5.18)は,文字を置き換え∆tの1次までとると

⟨xn, tn|xn1, tn1=

m 2πiℏ∆texp

[ im 2ℏ∆t

{

(xn2+xn12) (

1(ω∆t)2 2

)

2xn1xn

}]

となる.2式の指数部分は一致し,やはりw(∆t)の式(2.5.44)を得る.

■規格直交性(2.5.43)

K(x′′, t;x, t0) =x′′|exp

[−iH(t−t0) ℏ

]

|x

lim

tt0K(x′′, t;x, t0) =x′′|x=δ3(x′′x) : (2.5.9) として確認済みである.

■規格化定数(2.5.44) 式(2.5.45a)はFresnel積分であり,∫

−∞

{√ m

2πi∆texp (imξ2

2∆t

)}

dξ= 1を意味す る.しかしこれだけでは{}内がδ(ξ)であると結論できない.式(2.5.45b):

eαx2

π/α →δ(x), α=iβ, β→ ∞

によれば結果的にδ(ξ)である.そして規格直交性(2.5.43)の十分条件 (2.5.45b)だけからw(∆t)の式が (2.5.44)で良いと分かる.

■重ね合せの原理 「(1)重ね合せの原理」(p.164,l.1,2)が確率密度の振幅に対する重ね合せ(2.5.31)のこと ならば,それは「(2)遷移振幅の合成の性質」(p.164)とx′′, t|x, t0が遷移振幅であるという仮定の中に含 まれていると言える.

⟨xN, tN|x1, t1に対する経路積分表式が Schr¨odinger方程式を満たすこと (pp.164–166) Feynmanの 経路積分 (2.5.49)は新しい仮定 (2.5.40):⟨xn, tn|xn1, tn1⟩ ∝ eiS(n,n1)/ を含んでいるから,これが Schr¨odinger方程式を満たすことは自明でない.逆にこれがSchr¨odinger方程式を満たすことを確認でき,さ らに⟨xN, tN|x1, t1xN

x1 D[x(t)] exp(i

S(n,1))

に対する(時間についての)初期条件が一致すれば,仮定

(2.5.40)の正当性が示されたことになる.

ドキュメント内 【PDF】J.J.サクライ『現代の量子力学(上)』 (ページ 56-61)