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スピン 1/2 の系と有限回転

ドキュメント内 【PDF】J.J.サクライ『現代の量子力学(上)』 (ページ 68-72)

第 3 章 角運動量の理論

3.2 スピン 1/2 の系と有限回転

スピン1/2に対する回転演算子(pp.213–217) スピン1/2の系のスピン演算子











Sx= ℏ

2{(|+⟩ ⟨−|) + (|−⟩ ⟨+|)} Sy= i

2 {−(|+⟩ ⟨−|) + (|−⟩ ⟨+|)} Sz=ℏ

2{(|+⟩ ⟨+|)(|−⟩ ⟨−|)}

(3.2.1)

は角運動量の基本的交換関係を満たす(式(1.4.20)).よってDz(ϕ) =eiSzϕ/z軸周りの角度ϕの回転演 算子である.そこで状態|α⟩と回転後の状態Dz(ϕ)|α⟩に関してとったSの期待値S

Sの具体的表式(3.2.1)から,

ベーカー・ハウスドルフの補助定理を用い,角運動量の基本的交換関係だけから 調べると,実際,図21のようにSz軸周りに角度ϕだけ回転することを確かめられる.

また,系の2π回転後の状態は

Dz(ϕ= 2π)|α⟩=eiSzϕ/|ϕ=2π{(|+⟩ ⟨+|) + (|−⟩ ⟨−|)} |α⟩

={(eπi|+⟩ ⟨+|) + (eπi|−⟩ ⟨−|)}

=− |α⟩ であり,もとの状態|α⟩とマイナスの符号だけ異なる.

𝑥 𝑦 𝑧

𝜙

< 𝑺 >

𝑂

< 𝑺 >

図21 状態が|α⟩ →Dz(ϕ)|α⟩と変化すると,期待値Sz軸周りに角度ϕだけ回転する

スピン歳差運動 再考・2π回転を調べる中性子干渉法の実験(pp.217–220)

一様な磁場中のスピン1/2の系で時間発展演算子eiHt/は回転演算子eiSzωt/に他ならず,

スピンは歳差運動をする.

Dz(2π)|α⟩=− |α⟩における右辺の負号の存在は,負号のない系との干渉実験で確かめられる.

パウリの2成分形式(pp.220–223) スピン1/2の系に対して

2成分スピノル χ: |α⟩ .

=χ=

(+|α⟩

⟨−|α⟩ )

, Pauli行列 σk : (σk)aa′′=⟨a|Sk|a′′

/2 (a, a′′)成分に持つ行列(k= 1,2,3).

2成分形式での回転(pp.223–226)

|α⟩ →exp

(−iS·

)

|α⟩ ⇔ χ→exp

(−iσ· 2

) χ.

3.2 について

■「角運動量の交換関係(3.1.20)を実現する最小の次元数Nは,N = 2である」(p.213)について スピン 1/2の系は状態がN = 2個の固有ケット|+⟩,|−⟩によって張られるケット空間に属するという意味で,次元 数N = 2の系である.そしてこのような系では確かに,角運動量の交換関係(3.1.20)を満たす演算子(3.2.1) を作ることができる.

一方N = 1の系を,状態が観測量Aの唯一つの固有ケット|aから成る系と考えると,任意の演算子は

|a⟩ ⟨a|に比例するため,角運動量の交換関係(3.1.20)を満たさない.よって「角運動量の交換関係(3.1.20) を実現する最小の次元数Nは,N= 2である」.

■ベーカー・ハウスドルフの定理を用いた計算(3.2.7) 式(3.2.7)の計算は,帰納的に予想される関係 [Sz,[Sz,· · ·[Sz,

| {z }

2n個のSz

Sx]· · ·]]

| {z }

括弧のみ

=(iℏ)2n(1)nSx, (27) [Sz,[Sz,· · ·[Sz,

| {z }

2n+1個のSz

Sx]· · ·]]

| {z }

括弧のみ

=(iℏ)2n+1(1)nSy (28) を用いて実行できる.実際,式(27),式(28)は数学的帰納法にて証明できる.すなわち式(27)はn= 0で成 り立つ.あるnに対して式(27)が成り立つとすると式(28)が,したがって式(27)でn→n+ 1とした式が 成り立つ.

■式(3.2.10)の説明 「Szの期待値については,SzDz(ϕ)が交換するので変化がない」(p.215)ことを丁 寧に書くと

⟨Sz=⟨α|Sz|α⟩ → ⟨α|Dz(ϕ)SzDz(ϕ)|α⟩=⟨α|(Dz(ϕ)Dz(ϕ))Sz|α⟩=⟨Sz となる.

■ミュー粒子の磁気モーメント 「ミュー粒子の磁気モーメントは……e/2mµcと決定できる」(p.217下2

行,p.218,l.1)について,ミュー粒子が軌道角運動量を持たないとすれば,スピンに比例したスピン磁気モーメ

ントと考えられる.ℏ/2を除いたe/mµcがその比例定数なら電子のスピン磁気モーメントがµ= (e/mec)S である(p.3)のと同じである.

■磁場の変化の式(3.2.25) 式(3.2.25)は次のようにして得られる.磁場の変化B→B+∆Bに伴い経路B の中性子のスピン歳差運動角振動数がω→ω+∆ωと変化して干渉領域の強度の位相が山から山に移ったと すると

2π= (∆ω)T

2 = 1

2 gne∆B

mpc T,∆B= 4πmpc gneT となる.ここに

T = l

p/mp =lmp

k =mp

ℏ を代入すれば良い.

■Pauli行列の交換関係(3.2.35) Pauli行列の交換関係(3.2.35)は「角運動量の交換関係(3.1.20)を2×2の 行列として具体的に表したものと見ることができる」(式(3.2.35)の下2行)について,実際,式(3.1.20)より

⟨a|SiSj|a′′⟩ − ⟨a|SjSi|a′′=iℏεijk⟨a|Sk|a′′⟩,

∴∑

a′′′

⟨a|Si|a′′′⟩ ⟨a′′′|Sj|a′′⟩ −

a′′′

⟨a|Sj|a′′′⟩ ⟨a′′′|Si|a′′=iℏεijk⟨a|Sk|a′′ であり,これを両辺(ℏ/2)2で割ったものは交換関係(3.2.35)の(a, a′′)成分である.

同じ要領で演算子の関係(3.2.6):

eiSzϕ/SxeiSzϕ/=Sxcosϕ−Sysinϕ から行列の関係(3.2.48):

e3ϕ/2σ1e3ϕ/2=σ1cosϕ−σ2sinϕ を得る.

■式(3.2.36) Pauli行列の反交換関係(3.2.34)と交換関係(3.2.35)を辺々足してσjσiを消去すると σiσj =δij+ijkσk

を得る.これは式(3.2.36):

σ1σ2=−σ2σ1=3, etc.

をまとめたものである.

■回転演算子の行列表現(3.2.42) 式(3.2.42)は回転行列の(a, a′′)成分が

a

exp

(−iS·ˆ ℏ

) a′′

a

k=0

1 k!

(−iS·ˆ ℏ

)k a′′

=

k=0

1 k!

(−iϕ

)k

(⟨a|S·nˆ|a′′)k

exp (−iϕ

⟨a|S·nˆ|a′′ )

= exp (−iϕ

2

3 i=1

⟨a|Si|a′′/2 nˆi

)

= exp (−iϕ

2

3 i=1

i)aa′′ˆni )

= (

exp

(−iσ·ˆ 2

))

aa′′

となることから分かる.これによれば結局,回転演算子を行列表現にするにはS/σ/2と置き換えれば 良い.

■式(3.2.46)

|α⟩ → eiS·nϕ/|α⟩,

⟨a|α⟩ → ⟨a|eiS·nϕ/|α⟩=∑

a′′

⟨a|eiS·nϕ/|a′′⟩ ⟨a′′|α⟩

χa成分⟨a|α⟩が,⟨a|eiS·nϕ/|a′′(a, a′′)成分に持つ行列e·nϕ/2χにかけて得られるベク トルのa成分に変換されることを意味するから,式(3.2.46):

χ e·nϕ/2χ が成り立つ.

Sがベクトル変換の性質に従うこと 「ベクトル変換の性質に従うのは,σでなくχσχである」(p.224 下から4行目)のは,式(3.2.31):

⟨Sk= ℏ 2χσkχ よりSがベクトル変換の性質に従うことを意味している:

χσkχ

l

Rklσlχ) : (3.2.47),

⟨Sk⟩ →

l

Rkl⟨Sl: (3.2.11).

そして式(3.2.11)がz軸周りの回転に対して成り立つことを既に確かめた.

■状態|S·n; + スピンのn方向成分S·nの期待値がℏ/2である状態|S·n; +とはこの記号が表す通り スピンがnと平行になる状態である.それゆえ式(3.2.52)が対応する固有スピノルである.

σ·=χ: (3.2.50)

a′′

⟨a|S·n|a′′⟩ ⟨a′′|S·n; +=ℏ

2⟨a|S·n; +

S·n|S·n; += ℏ

2|S·n; +: (3.2.51).

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