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スピン相関の測定とベルの不等式

ドキュメント内 【PDF】J.J.サクライ『現代の量子力学(上)』 (ページ 101-105)

第 3 章 角運動量の理論

3.9 スピン相関の測定とベルの不等式

■式(3.8.29) 二項定理(3.8.28)はxyが交換するときに成り立つ関係である.式(3.8.29)ではa+a が交換することに注意してこれを適用し,

(D(R)a+D1(R))j+m= (

a+cosβ

2 +asinβ 2

)j+m

=∑

k

(j+m)!

(

a+cosβ2

)j+mk( asinβ2

)k

(j+m−k)!k! ,

(D(R)aD1(R))jm= (

acosβ

2 −a+sinβ 2

)jm

=∑

l

(j−m)!

(

acosβ2

)jml(

−a+sinβ2 )l

(j−m−l)!l!

としている.

■Wignerの公式(3.8.33)の導出について 式(3.8.29)におけるlについての和を,式(3.8.31):l=j−k−m を満たすmに関する和に制限すると

k

m

√(j+m)!(j−m)!

(j+m−k)!k!(k−m+m)!(j−k−m)(a+)j+m(a)jm

×(1)km+m (

cosβ 2

)2j2k+mm( sinβ

2

)2km+m

|0

となる.ここに現れたcosβ2,sinβ2,−1のベキが式(3.8.32a–c)に他ならない.これを式(3.8.30)の最右辺

m

d(j)mm(β) (a+)j+m(a)jm

√(j+m)!(j−m)!|0

と等置して,d(j)mm(β)に対するWignerの公式(3.8.33):

d(j)mm(β) =∑

k

(1)km+m

√(j+m)!(j−m)!(j+m)!(j−m)!

(j+m−k)!k!(j−k−m)!(k−m+m)!

( cosβ

2

)2j2k+mm( sinβ

2

)2km+m

を得る.

アインシュタインの局所原理とベルの不等式/量子力学とベルの不等式(pp.310–317)

■要旨 粒子の遠隔相互作用を仮定せず局所性の保証されたモデルを用いると,2粒子のスピンをある組合せ に見出す確率に対するBellの不等式へと導かれる(後述).一方,量子力学の予言はBellの不等式と両立しな いことが示される(後述).実験結果はBellの不等式を破っており,非局所性を容認する量子力学を支持する ものである.

ただし2粒子の相関を利用しても,光速度を超えて送ることができるのはランダムな情報だけであり,意味 のあるメッセージを送ることはできない.

■局所原理と Bellの不等式 (pp.310–314) 粒子の遠隔相互作用を仮定せず局所性の保証されたモデルに

E.P.Wignerのモデルがあり,これは以下のようにBellの不等式へと導く.このモデルでは3つの単位ベクト

a,ˆ ˆb,cˆの方向に関するスピンSの成分を測定すると必ず決まった符号,例えば Sa S·aˆ >0, SbS·ˆb<0, ScS·cˆ>0

が得られるような粒子を考える.そしてこのような粒子を(a+, b−, c+)型と呼ぶ.このとき全角運動量はゼ ロなので,もう一つの粒子は(ˆa−,ˆb+,cˆ)型に属する.粒子1の測定によらず粒子2のS·aˆ はあらかじめ 決まっているからEinsteinの局所原理は満たされている.ただしモデルにおいてもスピンの各方向成分が値 を同時に確定できる物理的実在であるとは考えられておらず,あくまで測定するのはSa, Sb, Scのうちの1成 分のみである.また,各方向a,ˆ b,ˆ cˆが互いに直交している必要はない.

さて,粒子1のスピンの第i成分S1iの測定結果から,粒子2のスピンの第i成分S2iの符号が S1i>0を測定 S2i<0,

S1i<0を測定 S2i>0

と決まることをこのモデルで再現するためには,粒子1と粒子2の種類が下表に挙げた組み合せのいずれか になっていなければならない.各組み合せの粒子対が全粒子対に占める割合を表のP1, P2,· · · とする.この とき

粒子1のスピンのaˆ方向成分をS1a>0に見出し,

かつ粒子2のスピンのbˆ方向成分をS2b>0に見出す確率は P(a+;b+) =P3+P4

粒子1のスピンのaˆ方向成分をS1a>0に見出し,

かつ粒子2のスピンのcˆ方向成分をS2c>0に見出す確率は P(a+;c+) =P2+P4

粒子1のスピンのcˆ方向成分をS1c>0に見出し,

かつ粒子2のスピンのbˆ方向成分をS2b>0に見出す確率は P(c+;b+) =P3+P7

となるので,Pi 0から導かれる自明な不等式

P3+P4(P2+P4) + (P3+P7) はBellの不等式と呼ばれる次の関係

P(a+;b+)≤P(a+;c+) +P(c+;b+) (33) を与える.

図26 θabcˆ2等分するようにa,ˆ ˆb,cˆを同一面内にとる

粒子1 粒子2 粒子対の割合 (a+, b+, c+) (a−, b−, c−) P1

(a+, b+, c) (a−, b−, c+) P2

(a+, b−, c+) (a−, b+, c−) P3

(a+, b−, c−) (a−, b+, c+) P4

(a−, b+, c+) (a+, b−, c−) P5

(a−, b+, c−) (a+, b−, c+) P6

(a−, b−, c+) (a+, b+, c) P7 (a−, b−, c−) (a+, b+, c+) P8

■量子力学とBellの不等式(pp.314–317) 量子力学を用いてBellの不等式(33)の各項を評価しよう.aˆと ˆb,ˆbcˆ,cˆとaˆの成す角をそれぞれθab, θbc, θcaとおくと

P(a+, b+) = 1

2sin2θab

2 , P(a+, c+) = 1

2sin2θca

2 , P(c+, b+) = 1

2sin2θbc

2 となるので,Bellの不等式(33)は幾何学的な条件

sin2θab

2 sin2θca

2 + sin2θbc

2

を与える.これは常には成り立たない.実際,図26のようにa,ˆ b,ˆ cˆを同一面内に θbc=θca≡θ, θab= 2θ, 0< θ < π

2 となるようにとった場合,これは

sin2θ≤2 sin2θ

2 cosθ 2 1

2 となり,この結果は0< θ < π2 に反している.

3.9 について

■BがSx±を得る確率 「もしAが粒子1のSzを正と決めたなら,明らかにBがSx+かSxかを得る割 合は50対50である」(p.308一番下〜p.309,l.1)ことを計算で見るには次のようにすれば良い.Aが測定に

図27 方向単位ベクトルa,ˆ ˆbxyz直交座標系

より選び出す状態は

|z+; ˆˆ z−⟩= 1

2(|x+ˆ +|xˆ−⟩) 1

2(|x+ˆ ⟩ − |xˆ−⟩)

である.Bが粒子2を測定してSx+とSxを得る確率の振幅は,12(|x+ˆ ⟩ − |xˆ−⟩)に左からx+ˆ |,⟨xˆ−| かけることによりそれぞれ1

2 である.

|aˆ−⟩ → |ˆb+と遷移する確率(3.9.10) P(a+, b+)について,粒子1のスピンのaˆ方向成分S1aを測定し たときS1a >0を得る確率は1/2であり,このとき粒子2のスピンがaˆ方向を向く状態が選び出され る.さらに粒子2のスピンのbˆ方向成分S2bを測定してS2b>0を得る確率を求めよう.

まず図27のように,2つのベクトルa,ˆ ˆbzx面内に含まれbˆがz軸正の向きを向くように座標軸を設定 する.粒子2のスピンがˆb方向を向く状態|α⟩にある系をy軸周りに角度ϕ≡π−θabだけ回転すると状態

が得られることに注目する.状態|α⟩に対応する2成分スピノルは χ=

(1 0 )

である.今考えている方向単位ベクトルn= ˆy周りの回転に対して,行列e·nϕ/2の式(3.2.45)は exp

(

−iσ· 2

)

=

(cosϕ2 sinϕ2 sinϕ2 cosϕ2

)

であり(これは回転角ϕではなく回転角ϕ/2の回転行列である),これを用いて状態に対応する2成分ス ピノルは式(3.2.46):

χ= exp (

−iσ· 2

) χ=

(cosϕ2 sinϕ2

)

と表される.この第1成分cosϕ2 が確率振幅⟨α|αなので,求める確率は cos2ϕ

2 = cos2

(π−θab

2 )

= sin2θab

2 : (3.9.10) である.

ドキュメント内 【PDF】J.J.サクライ『現代の量子力学(上)』 (ページ 101-105)