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微分の定義

ドキュメント内 /02/18 (ページ 78-81)

第 5 章 微分 65

5.2 微分の定義

前節では「関数f(x)のx=x0における微分係数」を aと書いたが, 慣習的にはaのかわりにf(x0)と書く。

というのも,aの値は点Pの位置(それはx0で指定さ れる)によって違うし, 関数が複数あるときにはどの関 数の話なのかをはっきりさせたいのだ。この記法を使え ば,たとえばg(x3)は,「関数g(x)x=x3における 微分係数」を意味する(わかりやすい!)。まとめると,

微分係数の定義(1)

関数f(x)のx=x0における 微分係数 をf(x0) と書き,以下のように定義する:

f(x0) := lim

∆x0

f(x0+ ∆x)−f(x0)

∆x (5.5)

これはどの教科書にも載っている有名な式である(高 校教科書では∆xのかわりにhという記号が使われる のが普通)。ところが,この式とは別の視点で「微分」の 本質に迫る考え方がある。それを説明しよう。

図5.1における「点Pでの接線」は,「(x0, f(x0))を 通り,傾きf(x0)の直線」という条件から,

y=f(x0) +f(x0)(x−x0) (5.6) という方程式で表される。そしてこの接線のグラフは, 点Pの近くでy=f(x)のグラフに重なっている(実際, この図で点Pから紙上の数mm程度の範囲では, 2つの グラフの線はほとんど重なっているではないか!)。

そこで,「点Pの近く」に限定すれば,式(5.6)は関数 y=f(x)とほとんど等しいと言えよう。つまり,次式が 成り立つ:

f(x)≒f(x0) +f(x0)(x−x0) (5.7)

”≒”は,「ほぼ(近似的に)等しい」という意味の記号

*1∆xを導入せず,(5.1)をそのまま使って

a= lim

x1→x0

f(x1)f(x0) x1x0

(5.4)

としてもよい。これは式(5.3)と同じ意味である。

だ。ここで,改めてx−x0= ∆xと置こう(この∆xは 先程に出てきた∆xとは無関係と考えてよい)。つまり x=x0+ ∆xである。これを代入すると,

f(x0+ ∆x)≒f(x0) +f(x0)∆x (5.8) となる。この状況をグラフで示すと,図5.3の上で,点S を点S’で近似するということである。

f(x0) f(x0+∆x)

x0 x0+∆x

x y

∆x y=f(x)

P

S S’

O

図5.3 y=f(x)上の点Sを,接線上の点S’で近似する。

さて, x=x0+ ∆xとx0が限りなく近い状況を考え よう。∆xを限りなく0 に近づけると,究極には∆xは 0になってしまいそうだが,その寸前で踏みとどまって,

「0ではないけれど,限りなく0に近い」という状態(極 限)を想定する。そのときの∆xを, 慣習的にdxと書 く(dxは別々の数ではなく, ”dx”でひとつの数を表 す)。この場合,式(5.8)は,以下のようになる:

f(x0+dx) =f(x0) +f(x0)dx (5.9) ここで, ”≒”だったところが”=”に変わってしまったこ とに注意しよう。それはこういうことである: ∆xが0 に近づくとき, 点Sが点Pに近づく際, 点Sと点S’も 互いに近づきあうのだが, それらは点P でガチャンと ぶつかりあうのでなく,互いに寄り沿いながら点Pに向 かって行く。すなわち, SやS’がPに近づくよりも速 く, SとS’が近づきあう。だから, 式(5.8)の左辺と右 辺の誤差(点Sと点S’の距離)は, ∆xが0に近づくよ りもずっと速く0に近づく。従って, 極限では, 誤差は 実質的に0になる, つまり”≒”だったところを”=”と書 いてよい,と考えるのだ*2

この「0ではないが, 限りなく0に近い」という仮想

*2このあたり,厳密には微妙なことが多い。しかし初学者は, りあえず∆xdxや,この後に出てくる∆f dfは,それ ぞれ互いに「同じようなもの」と思ってよい。形式的には, 限ではdになり,=になるのだ。

5.2 微分の定義 67 的な微小量dxを, 無限小 という。実際の数は, 0でな

い限り0との間に必ず有限な差が存在する。そのよう な現実の微小量を 有限小 という。これまでの話では,

∆xが有限小である。ちなみに, dxや∆xの”d”や”∆”

は, ”difference”つまり「差」とか「違い」を意味する

(ギリシア文字の∆は由来としては英語のDに相当)。

x=x0から「わずかに違うところ」としてx=x0+dx とかx=x0+ ∆xに着目するのだ。

さて,式(5.9)によると,微分係数f(x0)は,関数f(x) を「微小量dxの1次式」で近似した時の,dxの係数で ある。これは「接線の傾き」とは別の視点での答であり,

「微分とは何か?」に答える大切な考え方である。

よくある質問66 それって結局は「接線の傾き」と同じじゃ ないですか?... (この話題はちょっと高度なので読み飛ばし ても構いません)y=f(x)が,ひとつの実数xをひとつの実 数yに対応させる関数ならば,そのとおりです。しかし,xyがベクトル(複数の数の組み合わせ;後で学びます)の場合 は,図5.1のようなグラフを描くことはできないので,「接線」

や「傾き」は無意味になります。しかもこの場合, ∆xやdx がベクトルになり,「ベクトルで何かを割る」ことはできない

ので,式(5.5)が行き詰まります。しかし,そのような場合で

も,式(5.9)は素直に拡張できるのです。後で「全微分」とい

う概念を学ぶときに理解できるでしょう。

我々は, 式(5.9)も「微分係数の定義」として採用す

る。つまり,

微分係数の定義(2)

関数f(x)と微小量dxに関して, 次式を満たす数 f(x0)を,x=x0におけるf(x)の 微分係数 と定 義する:

f(x0+dx) =f(x0) +f(x0)dx (5.10)

よくある質問67 微分係数は既に式(5.5) で定義したのに, なぜ式(5.10)で定義し直すのですか? ... まず,世間的には式

(5.5)の方がよく使われる定義なので,それを最初に紹介しま

した。しかし,前の「質問」でも答えたように,式(5.10)の方 が拡張性が優れていますし,何よりも,これから説明しますが, 実用上は式(5.10)の方が使いやすいのです。

よくある質問68 なぜ世間では式(5.5)の方がよく使われる のですか? ... 実は,式(5.10)は厳密に考えると微妙な点があ るのです。「無限小」というのがそれです。数学者は厳密さを 何よりも大切にしますので,数学者目線で厳密な議論がやりや

すい式(5.5)を優先するのです。でも,我々は数学者になるわ

けではないので,より実用的な式(5.10)を主に使います。

● 問102 式(5.10)と式(5.5)をそれぞれ5回ずつ書 いて記憶せよ。

よくある質問69 微分って,もっと難しいことかと思ったら, 出てくるのは直線の式と傾きだけですね... そうです。直線の 式(1次関数)を中学高校でたくさん勉強したのは,微分の伏 線でもあったのです。

さて,式(5.8)と式(5.9)はそれぞれ以下のように書き 換えられる:

f(x0+ ∆x)−f(x0)≒f(x0)∆x (5.11) f(x0+dx)−f(x0) =f(x0)dx (5.12) ここでf(x0+ ∆x)とf(x0+dx)も,f(x0)からみれば

「わずかに違う」値であるので, これらとf(x0)との差 を,それぞれ∆fとdfと書こう。すなわち,

∆f :=f(x0+ ∆x)−f(x0) (5.13) df:=f(x0+dx)−f(x0) (5.14) と定義する。すると, 式(5.11)と式(5.12)はそれぞれ 以下のように書ける:

∆f ≒f(x0)∆x (5.15)

df=f(x0)dx (5.16)

これらは「∆f と∆xは(近似的に)比例する」「dfdxは比例する」という考え方を表す。複雑な関数f(x) でも, 特定のx0のすぐそばに限定すれば1次関数にな り, 微小量どうしは比例関係になり, その比例係数が微 分係数なのだ。

1次関数や比例関係は単純だから扱いやすいので, 難 しい問題も, 1次関数や比例関係の話に持ち込めばなん とかなる。その武器が微分である。

よくある質問70 微分と微分係数は同じもの?... 同じもの を指すことが多いです。本来は,微分はdxdfなどの微小 量のことです。でも多くの本で,微分係数や,このあと学ぶ導 関数を「微分」と呼びます。特に,「微分せよ」という指示は, ほぼ間違いなく微分係数や導関数を求めよという意味です。

ところで式(5.16)の両辺をdxで割れば, f(x0) = df

dx (5.17)

となる。この右辺を

d

dxf (5.18)

と書くこともある。この場合, dxd という記号は,「その 右側に来る関数を微分する」という意味である。

さて, ここで注意したい大切なことがある。微分の本 質は,その定義である式(5.5)と式(5.10)に全て込めら れている。なんと,そこには「グラフ」「接線」「傾き」な どの言葉は全く使われていなかった!要するに,グラフ は話をわかりやすくするためのもので, 本当は無くても かまわないのだ。

これは「抽象化」と言って,数学という学問の著しい 特徴のひとつである。発想の原点にグラフなどの具体的 なイメージがあっても, 数学の概念として定義するとき には, あえてイメージや具体性を消し去って, 抽象的な 数式と言葉だけで確立するのだ。これが抽象化である。

関数がどのようなグラフになるかが想像できなくて も, 式(5.5)や式(5.10)が適用できればその関数を微分 という数学で扱うことができる。それが抽象化の効用 である。抽象化された概念は,イメージを失うかわりに, 大きな汎用性を手に入れるのだ。

ただ, 初学者がいきなり式(5.5) や式(5.10) だけで

「これが微分係数だ」と教えられても, 理解できない。

だからグラフを使ったのだ。でも, グラフにとらわれ過 ぎると, 発想が限定されてしまう。それは自転車練習の

「補助輪」のようなものだ。補助輪をつけたままでは速 くは走れない。いつか自転車から補助輪を外すように, あるいは水泳を覚えるときにプールの壁や浮き輪から手 を離すように, 数学を学ぶ際はどこかの時点でイメージ から離れて, 定義に基づく抽象化を受け入れてこそ, 数 学の大きな力が手に入るのだ。

よくある質問71 結局,「微分とは接線の傾きである」と言っ たらダメなんですか?... 「定義」としてはダメなのです。数 学の論理では,そもそも「接線」の定義に微分が必要なのです。

さて, 関数f(x)の, 様々な点における微分係数を集 めてならべた関数を 導関数 (derivative)と呼び, f(x) と書く。微分係数や導関数を求めることを「微分する」

(differentiate)と言う。

では具体的にいくつかの関数を微分してみよう。以 後,簡単のため,定義式(5.10)のx0xと書き直す。

例5.1 関数f(x) = 2x+ 1を微分してみよう: f(x+dx) = 2(x+dx) + 1

= 2x+ 1 + 2dx=f(x) + 2dx

式(5.10)と較べると,dxの係数が導関数f(x)だから,

f(x) = 2 (5.19)

となる。(例おわり)

式(5.19)は, 以下のようにも書く:

(2x+ 1) = 2 (5.20)

式(5.20)の左辺のように, 何かの関数の微分(導関数) を表すには, その関数をカッコ( )で囲って, ダッシュ (’)をつける。あるいは,

d

dx(2x+ 1) = 2 (5.21)

のように,微分したい関数の前にd/dxという記号を書 いてもよい。

よくある質問72 導関数と微分係数の違いがよくわかりませ ん。... 導関数は関数。その1箇所での値が微分係数。たと えば例5.2で学ぶように,f(x) =x2という関数の導関数は f(x) = 2x。そいつのx= 3での値f(3) = 6が,「x= 3 における微分係数」です。

● 問103 p, qを任意の定数とする。一次関数f(x) = px+qを微分すると,f(x) =pとなること,つまり

(px+q)=p (5.22)

を示せ。特に, 定数関数y=qを微分すると, 恒等的に 0になること,すなわち次式を示せ:

(q)= 0 (5.23)

定数関数のグラフは, x軸と平行な直線なので, どの 場所でも傾きは0である。そのことからも,定数関数の 導関数が恒等的に0であることが納得できるだろう。

また, 一次関数px+qのグラフは, 切片q, 傾きpの 直線である。従って,どの場所でも傾きはpである。そ のことからも,px+qの導関数が恒等的にpであること が納得できるだろう。

例5.2 関数f(x) =x2を微分してみよう。

f(x+dx) = (x+dx)2

=x2+ 2x dx+dx2

=f(x) + 2x dx+dx2

5.3 数値微分 69

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