第 9 章 微分積分の発展 141
11.12 ベクトルの線型変換
行列の乗算のルールで, 2次元の列ベクトルに,左から 2次正方行列を掛けると,結果は, 2次元の列ベクトルに なる。例えば,
A= [1 2
0 1 ]
, x= [2
3 ]
(11.93) とすれば,
Ax= [1 2
0 1 ] [2
3 ]
=
[1×2 + 2×3 0×2 + 1×3 ]
= [8
3 ]
となる。このような操作は, 列ベクトルを別の列ベク トルに変換する操作であるとみなすことができる。そ こで, このように, 列ベクトルに正方行列を左から掛け ることで別の列ベクトルにする操作のことを, 線型変換 (linear transformation)とか 一次変換 と呼ぶ*15。
さて, 列ベクトルを, 平面上の位置ベクトルとみなせ ば, 列ベクトルの線型変換は, 平面上の点を移動させる
*15大学数学では,線型変換をもっと一般的・抽象的に定義し直す。
11.12 ベクトルの線型変換 183 ことに相当する。例えば,
A=
[−1 0
0 1
]
(11.94) とすれば,行列Aによる線型変換は,点(x, y)を,
[−1 0
0 1
] [x y ]
= [−x
y ]
(11.95) というふうに, 点(−x, y)に移すことがわかる。これは, x座標の正負を逆転するという操作であり,つまり,y軸 に関する対称移動である。
● 問302 以下の行列であらわされる線型変換は,平面 上の点をどのように移すか?
(1)
[1 0 0 1 ]
(2)
[1 0 0 −1
] (3)
[−1 0 0 −1
]
(4)
[0 1 1 0 ]
(5)
[2 0 0 1 ]
(6)
[1 0 0 0 ]
● 問303 前問の, (2), (3), (4)の行列は, いずれも, 2 乗したら単位行列になる。なぜだろうか? 平面上の線型 変換という観点から考察せよ。
次に,平面上の点を回転するような変換を考えてみよ う。極座標(P.109)を考えると, ある点Pの座標(位置 ベクトル)は,
[x y ]
=
[rcosθ rsinθ ]
(11.96) と表現できる。ここでrは原点OからPまでの距離で あり,θはx軸からOPまでの角度(左回り)である。さ て,この点を,左にαだけ回転すると,当然ながら, その 座標は,
[rcos(θ+α) rsin(θ+α) ]
(11.97) となる。加法定理(P.104)を使ってこれを変形すれば,
[rcosθcosα−rsinθsinα rsinθcosα+rcosθsinα ]
=
[xcosα−ysinα ycosα+xsinα ]
=
[cosα −sinα sinα cosα
] [x y ]
となる。すなわち,以下の行列: [cosα −sinα
sinα cosα ]
(11.98) が,「回転という線型変換」を表す行列である。
よくある質問171 回転の行列をなかなか覚えられません。
どこがcosでどこがsinでどこにマイナスがつくのかとか。...
式(11.98)ですね。記憶に自信がないときは,試しにα= 0
を代入してみると良いのです。角度0の回転とは,何もしな いことですから,そのときこの行列は単位行列になるはずです (実際,そうなるでしょ?)。sinとcosを間違えてたら,一発で わかります。
● 問304 以下のような,座標平面上の点の移動を表す 行列を,それぞれ求めよ:
(1) x軸に関して対称移動。
(2) 原点に関して対称移動。
(3) 原点を中心として,角π/4だけ左回りに回転。
● 問305 式(11.98)の行列をAとする。以下を求め
よ:
(1) detA (2)A−1 (3)A2
演習問題
演習32 ある2次正方行列Aが, 2つの固有値λ1, λ2
を持つとき, det(A) =λ1λ2であることを証明せよ。ヒ ント: λ1, λ2のそれぞれに対応する固有ベクトルがある はずで,それを並べてできる行列をPとすると,P−1AP は対角行列になる(対角化!)。その両辺の行列式を考え よう。特に, det(P−1AP)を,式(11.38)と式(11.44)を 使って簡単にしてみよう。
演習33 式(11.91)の行列式を考える。
a=
a1
a2
a3
, b=
b1
b2
b3
, c=
c1
c2
c3
とする。
(1)
(a×b)•c (11.99)
は, det(B)に一致することを示せ。
(2) このことを利用して,|det(B)|は,a,b,cが張る平 行六面体(互いに平行な菱型3組からできる立体。
豆腐を斜めにひしゃげたような形)の体積に等しい ことを示せ。
(3) a=bまたはa=cまたはb=cのとき, det(B) = 0であることを示せ(ヒント: 計算しないでも示せ る!)
この性質は, 「2次の行列式が平行四辺形の面積を表す」
ことの3次への拡張版だ,ということに気づいただろう か? このように, 行列式は, 面積や体積のようなものを 表すのだ。このことは, いずれ, 複数の変数による積分
(面積分や体積分)で使う。1変数による積分について 学んだ「置換積分」が, 面積分や体積分では, 行列式を 使って表されるのである(ヤコビアンという。興味のあ る人は調べてみよ)。
演習34 3次正方行列Bについて,
(1) 第1 列と第2 列を入れ替えてできる行列をB′ と する。
detB′=−detB (11.100)
であることを示せ。
(2) 第1列と第3列の入れ替えや,第2列と第3列の入 れ替えでも,行列式は符合が逆転することを示せ。
(3) 同様のことが行についても成り立つことを示せ。す なわち,行列Bの任意の2つの行を入れ替えてでき る行列の行列式は符合が逆転することを示せ。
このような,列の入れ替え(又は行の入れ替え)によっ て符合が逆転する,というのは, 2次や3次だけでなく, もっと大きな行列式にも成り立つ。いわば, 行列式の本 質的な性質(のひとつ)である。このことは, 化学にお いて, 分子内の電子の挙動を表現するときに使われる。
それがなぜなのかは, 今はわからなくてよい。電子は行 列式と相性が良い, ということは頭の片隅に置いておこ う。勉強を続けていれば,そのうち,「ああ, こういうこ とだったのか!」と,わかるときが来るだろう。
よくある質問172 数学に我々のイメージが追いつけるのか 疑問... だから数学はイマジネーションを鍛える学問でもあり ます。
問題の解答
答281 (1) 2A=
[ 2 4
−2 2 ]
, A−B=
[−1 2
−2 0 ]
(2) AB=
[4 2
−1 1 ]
, BA= [2 4
0 3 ]
従って,AB̸=BA。 (3) 略解: 左辺=右辺=
[3 2 0 2 ]
(4) 略解: 左辺=右辺= [6 3
1 0 ]
(5) (AB)C=
[ 4 2
−1 1
] [3 1 1 −2
]
=
[14 0
−2 −3 ]
,
A(BC) =
[ 1 2
−1 1
] [6 2 4 −1
]
=
[14 0
−2 −3 ]
従って, (AB)C=A(BC) (6) A(B+C) =
[ 1 2
−1 1
] [5 1 2 −1
]
=
[ 9 −1
−3 −2 ]
,
AB+AC=
[ 4 2
−1 1 ]
+
[ 5 −3
−2 −3 ]
=
[ 9 −1
−3 −2 ]
従って,A(B+C) =AB+AC
答286 detA= 1×1−2×(−1) = 3。detB= 2×1− 0×1 = 2。
答287 detE= 1
答288両者は全く違う。行列は,数を格子状に並べたも の。行列を構成する個々の数を行列の成分という。行列 式は行列の成分に関する,ある種の多項式。
答289aとbで張られる平行四辺形の面積は, det
[21 19
8 9
]
= 21×9−19×8 = 37
この平行四辺形の半分がaとbを2辺とする三角形だ から,この三角形の面積は, 37/2
答290行列Aを A=
[a b c d ]
とすると, detA=ad−bc。一方,Aの第1行と第2行 を入れ替えた行列A′は次のようになる,
A′ = [c d
a b ]
11.12 ベクトルの線型変換 185 この行列式は, detA′ =cb−da=−(ad−bc)となる。
これは−detAに等しい。
答291
det(AB) = det
[ap+br aq+bs cp+dr cq+ds ]
= (ap+br)(cq+ds)−(aq+bs)(cp+dr)
=acpq+adps+bcqr+bdrs
−(acpq+adqr+bcps+bdrs)
=adps+bcqr−adqr−bcps (detA)(detB) = (ad−bc)(ps−qr)
=adps+bcqr−adqr−bcps 従って, det(AB) = (detA)(detB)
答292式(11.41)の行列をBと置く。
AB= [a b
c d ] 1
detA
[d −b
−c a ]
= 1
detA [a b
c d
] [ d −b
−c a ]
= 1
detA
[ad−bc ab−ab cd−cd ad−bc ]
= 1
detA
[detA 0
0 detA
]
= [1 0
0 1 ]
=E (BA=Eとなることはここでは省略。各自,確かめよ) 従って, 定義より,行列BはAの逆行列である。
答293 A−1=
[1/3 −2/3 1/3 1/3
]
, B−1=
[ 1/2 0
−1/2 1 ]
答294
(1) 式(11.38)より, det(AB) = (detA)(detB)。ここ で, A, B はともに正則行列なので, detA ̸= 0か つdetB ̸= 0である。従って, (detA)(detB)̸= 0。 従って, det(AB)̸= 0。従って,ABは正則行列。
(2) (AB)(B−1A−1) =A(BB−1)A−1=AEA−1
=AA−1 =E。従って, B−1A−1はABの逆行列 である。
答295 AA−1 =Eだから, detAA−1 = detE = 1で ある。一方, detAA−1 = (detA)(detA−1)。これらの 2つの式を組み合わせると, (detA)(detA−1) = 1。こ の両辺をdetAで割ると, detA−1= 1/detA。 答297 この行列をAとすると, その特性方程式は, 式
(11.67)より,
det(A−λE) = (2−λ)(3−λ)−1×2
=λ2−5λ+ 4 = (λ−1)(λ−4) = 0
となる。これを満たすのは, λ = 1と, λ = 4である。
これが固有値である。では固有ベクトルを求めよう。ま ず,λ= 1のとき,
(A−λE)x= [1 1
2 2 ] [x
y ]
= [0
0 ]
(11.101) となる。これを満たす解は無数にあるが,代表的に,
[x y ]
= [ 1
−1 ]
(11.102) としよう。これが,固有ベクトルのひとつである。
次に,λ= 4のとき, (A−λE)x=
[−2 1 2 −1
] [x y ]
= [0
0 ]
(11.103) となる。これを満たす解も無数にあるが,代表的に,
[x y ]
= [1
2 ]
(11.104) としよう。これも, 固有ベクトルのひとつである。以上 より,行列Aについて,
固有値が1のとき,固有ベクトル [
1
−1 ]
固有値が4のとき,固有ベクトル [
1 2 ]
である*16。
答299 (略解: 本来は固有値と固有ベクトルを求める過
程も書くこと。) [2 1
3 2 ]−1[
−1 2
−6 6 ] [2 1
3 2 ]
= [2 0
0 3 ]
(11.105) または,以下のようにしてもよい:
[1 2 2 3
]−1[
−1 2
−6 6 ] [1 2
2 3 ]
= [3 0
0 2 ]
(11.106)
答300
*16ただし,固有ベクトルはこれらを何倍かしたもの(0倍以外)で もかまわない。
(1) (略解)λを固有値とすると,Aの特性方程式は λ2−1.7λ+ 0.7 = (λ−1)(λ−0.7) = 0 となり, λ= 1,0.7。それぞれに対応する固有ベク トルは,代表的に,
[1 2 ]
, [ 1
−1 ]
である。これを並べた行列をP とすると, P=
[1 1 2 −1
]
(11.107) これによって,
P−1AP = [1 0
0 0.7 ]
(11.108) (2) 略。
(3)
(P−1AP)n= (P−1AP)(P−1AP)· · ·(P−1AP)
=P−1AP P−1AP· · ·P−1AP
=P−1AA· · ·AP
=P−1AnP となる。一方,前小問より,
(P−1AP)n = [1 0
0 0.7 ]n
=
[1 0 0 0.7n
]
(11.109) 従って,
P−1AnP=
[1 0 0 0.7n
]
(11.110) 従って,
An=P
[1 0 0 0.7n
] P−1
=· · ·= 1 3
[1 + 2×0.7n 1−0.7n 2−2×0.7n 2 + 0.7n ]
(4) n= 3とすると, [b3
f3
]
=A3 [b0
f0
]
=
[0.562 0.219 0.438 0.781
] [80 20 ]
= [49.34
50.66 ]
である。従って,裸地と森林がほぼ同面積(50 km2 程度)になると予想される。
(5) (3)の答えでn→ ∞とすると,Anは [1/3 1/3
2/3 2/3 ]
(11.111)
に収束する。従って, [bn
fn
]
→
[1/3 1/3 2/3 2/3
] [80 20 ]
= [100/3
200/3 ]
≒ [33
67 ]
従って, 裸地33 km2,森林67 km2と予想される。
答301
(1) 0 (2) −1 (3) −2 (4) 略
(5) 13 (6) −13 (7) 略
答302
(1) 同じ点に移動(というか,そもそも,移動させない)。 (2) x軸に関して対称な点に移動。
(3) 原点に関して対称な点に移動。
(4) 直線y=xに関して対称な点に移動。
(5) x方向だけを2倍に拡大。
(6) x軸に下ろした垂線の足に移動。(射影)
答303 (2), (3), (4)は, いずれも, 線または点に関する 対称変換なので, 2回繰り返すともとに戻る。従って,そ れらをあらわす行列を2乗したものは単位行列になる。
答304 (1)
[1 0 0 −1
] (2)
[−1 0 0 −1
] (3)
[ 1
√2 −√12
√1 2
√1 2
]
答305
(1) detA= cos2α+ sin2α= 1 (2)
[ cosα sinα
−sinα cosα ]
(11.112) 注: これは,角(−α)の回転をあらわす行列である。
(3) (計算過程は省略) [cos 2α −sin 2α
sin 2α cos 2α ]
(11.113) 注: これは,角2αの回転をあらわす行列である。
187
第 12 章
論理・集合・記号
ここで学ぶ内容の多くは,ある意味,直感的に「当たり前」
のことである。しかし,当たり前のことが,数学では,注意深 く選ばれ,注意深く定義されていることに注意してほしい。こ れらの「当たり前」のことを土台にして数学が構築され,それ を土台にして,現代科学が構築されているのだ。
12.1 条件と命題
例えば以下のようなものを,条件(condition)と呼ぶ:
• 整数nは4の倍数である。
• 整数nは偶数である。
• ある人は筑波大生である。*1
条件は, 正しいとか正しくないとかの議論, つまり真偽 の議論の対象にはならない。ある人は筑波大生である, と言われても, 「ふーん, それで?」と思うだけだ。とこ ろが, 条件を適当に組み合わせれば, 真偽が問われる発 言になる。それを 命題(proposition)という。
「命題」は,多くの場合, 2つの条件p,qについて,「p ならばqである」という形で表現できる。
例12.1 • 整数nが4の倍数ならばnは偶数である。
という命題は,
条件p: 「整数nは4の倍数である」
条件q: 「整数nは偶数である」
の2つの条件について, 「pならばqである」という形 の主張になっている。ちなみに, この命題は真である。
(例おわり)
命題は,一見すると「pならばqである」という形には なっていないものも多い。そのような場合は, 適宜, 言 葉を補って読み替える必要がある。
例12.2 • 4の倍数は偶数である。
*1ここで言う「ある人」とは,特定の人をさしているのではない。
誰でもよいから筑波大生のひとりを想定するのだ。
という命題は, 一見すると「pならばqである」とい う形にはなっていないが,実は上の例12.1で考えた,
• 整数nが4の倍数ならばnは偶数である。
と同じことである。(例おわり)
例12.3 • 筑波大の学生は優秀である。
という命題は,
• ある人が筑波大の学生ならば,その人は優秀である。
と同じことである。ちなみに, この命題が真か偽かは, 判定が難しい。そもそも「優秀」とは何かという議論や, それ以上に, 君の努力にかかっているのだろう!(例お わり)
さて,数学では,命題の「ならば〜〜である」を二重線 の矢印”=⇒”で表現することになっている。
例12.4 上の例12.1, 例12.3の命題は, それぞれ以下 のように表現される:
• 整数nが4の倍数=⇒nは偶数
• ある人が筑波大の学生=⇒その人は優秀 (例おわり)