第 9 章 微分積分の発展 141
9.10 関数と無次元量
既に学んだように, sinxは,以下のように無限次の多 項式でマクローリン展開できる:
sinx= x 1!−x3
3! +x5 5! −x7
7! +· · · (9.54) ここで, もしxに何らかの次元があれば, 困ったことに なる。実際,xがもし「長さ」という次元を持ち, mとい う単位で表されるなら,x3はm3という単位を持つ。と ころが, mという単位を持つ量とm3 という単位を持つ 量を足すことはできない(異なる次元の量は足せない)。 従って, 式(9.54)の右辺が意味を持つのは, xが無次元 量(単位を持たない量)であるときに限る。従って,現実
的には, sinxのような関数の引数(関数に入れる数, つ
まり独立変数)は, 無次元量でなければ意味がないので ある。そこで, 現実的な問題を扱う科学では, このよう な関数の引数を無次元にするために, 何らかの定数を掛 けたり割ったりして,つじつまをあわせる必要がある。
例9.11 P.110では, 単振動の式:
x(t) =x0cos(ωt+δ) (9.55) を学んだ(tは時刻, ωは角速度,δは適当な定数)。既に 学んだように, cosθもθに関する無限次の多項式でマ クローリン展開されるので,引数θは無次元量でなくて はならない。ところがtは「時間」という次元を持ち,
「秒」などの単位で表される。そこで, それを無次元に する(単位を消す)ために,ωという係数が必要なのだ。
このことから,ωが「1/時間」の次元を持ち, s−1などの 単位で表されるということがすぐわかる。同様にδも無 次元量である(「初期位相」と呼ばれる)。(例おわり)
もちろん, ωは角速度という, 明確な意味を持つ量で あり, 単なるつじつまあわせの為だけに存在するのでは ない。しかし,数学的な形式と,量の次元(単位)の整合 性だけに着目しても, このようにいろいろなことがわか るのである。
9.10 関数と無次元量 151
● 問247 以下の関数で,xが無次元量でなければ意味 を持たないものを選び, その理由を述べよ。 ヒント: 1 は無次元量である。(7)についてはP.137の式(8.192) にも留意せよ。
(1) x2 (2) 1/x (3) 1 +x
(4) 1/(1−x) (5) tanx (6) expx (7) lnx
演習問題
演習26 あるお菓子は半径Rの球形をしており,中の 方が甘い。お菓子の中の砂糖の濃度をCとすると,Cは 中心で最大値C0をとり, 表面で0である。中心から表 面までは,Cは中心からの距離rに関する一次関数で表 されるとする。このお菓子に含まれる砂糖の全質量を表 す式を導け。それは,このお菓子と同じ形・大きさで,砂 糖が濃度C0で均一に存在するような別のお菓子に含ま れる砂糖の全量の何倍に相当するか? ヒント: 中心から 半径r,厚さdrの球殻に含まれる砂糖の質量は? それを 足し合わせれば(すなわち積分すれば)よい。
演習27 テーラー展開を直接せずに(式(9.11)などを 使って),次式を示せ:
1
1 +x = 1−x+x2−x3+x4−x5+· · · (9.56) ln(1 +x) =x−x2
2 +x3 3 −x4
4 +· · · (9.57) 1
1 +x2 = 1−x2+x4−x6+x8− · · · (9.58) arctanx=x−x3
3 +x5 5 −x7
7 +x9
9 − · · · (9.59) 1−1
3 +1 5 −1
7+1
9 − · · ·= π
4 (9.60)
ヒント: 式(9.56)は,式(9.11)をちょっと工夫。式(9.57)は
式(9.56)の両辺を不定積分してx= 0でつじつまが合うよ
うにすれば出てくる。式(9.56) のxに x2 を代入すると式 (9.58)。式(9.58)の両辺を不定積分してx= 0でつじつまが 合うようにすれば式(9.59)。式(9.59)の両辺にx= 1を代入 すると,式(9.60) (x= 1は,もとの式(9.11)の収束半径のぎ りぎり端っこであって,内側ではないが,式(9.59)の収束半径 の内側には入っている)。
演習28 テーラー展開を直接行なって, 式(9.56), 式 (9.57),式(9.58),式(9.59)を示せ。
問題の解答
答222 式(9.2) で, x2 以降の項を無視すると, 線型近 似の式に一致する。すなわち, 式(9.2)は, 線型近似の 式に,さらに高次の項を付け加えたものと見ることがで きる。
答224 f(x) = exと置くと, f(0) = e0 = 1, f′(0) = e0 = 1, f′′(0) = e0 = 1, · · · であるので, これらを式 (9.4)に代入すると,
ex= 1 0!+ 1
1!x + 1
2!x2+ 1
3!x3+ 1
4!x4+ · · ·
= 1 0! + x
1! + x2 2! + x3
3! + x4 4! + · · ·
f(x) = sinxと置くと, f(0) = sin 0 = 0, f′(0) = cos 0 = 1, f′′(0) = −sin 0 = 0, f′′′(0) = −cos 0 =
−1, f′′′′(0) = sin 0 = 0 · · · であるので,式(9.4)より sinx= 0
0!+ 1 1!x+ 0
2!x2+(−1) 3! x3+ 0
4!x4+ 1
5!x5 + · · ·
= x 1! − x3
3! + x5 5! − x7
7! · · ·
f(x) = cosxと置くと, f(0) = cos 0 = 1, f′(0) =
−sin 0 = 0, f′′(0) = −cos 0 = −1, f′′′(0) = sin 0 = 0, f′′′′(0) = cos 0 = 1 · · · であるので,式(9.4)より, cosx= 1
0!+ 0
1!x +(−1) 2! x2+ 0
3!x3+ 1
4!x4+ 0 5!x5 · · ·
= 1 0! − x2
2! + x4 4! − x6
6! + · · ·
答225式(9.7)の両辺をxで微分すると, (ex)′= 0 + 1
1!+2x 2! +3x2
3! +4x3 4! + · · ·
= 1 0!+ x
1!+x2 2! +x3
3! · · ·=ex 式(9.8)の両辺をxで微分すると,
(sinx)′= 1 1!−3x2
3! +5x4 5! −7x6
7! + · · ·
= 1 0!−x2
2! +x4 4! −x6
6! + · · ·= cosx 式(9.9)の両辺をxで微分すると,
(cosx)′ = 0−2x 2! +4x3
4! −6x5 6! + · · ·
=−x 1!+x3
3! −x5
5! + · · ·=−sinx 答226式(9.7)にx= 1を代入すれば与式を得る。
答227f(x) = 1/(1−x)とする。
(1)合成関数の微分によって, f(x) = (1−x)−1
f′(x) = (−1)(1−x)−1−1(1−x)′= (1−x)−2 f′′(x) = (−2)(1−x)−2−1(1−x)′ = 2(1−x)−3 f(3)(x) = 2(−3)(1−x)−3−1(1−x)′
= 2×3(1−x)−4 ...
f(n)(x) =· · ·=n!(1−x)−(n+1)
となる。これらにx= 0を代入して,f(0) = 1,f′(0) = 1,f′′(0) = 2,f(3)(0) = 3!,f(4)(0) = 4!,· · ·,f(n)(0) = n! となる。これを式(9.2)に代入すると, 次式が成り 立つ:
f(x) = 1 +x+2 2x2+3!
3!x3+4!
4!x4+· · ·+n!
n!xn· · ·
= 1 +x+x2+x3+x4+· · ·+xn+· · ·
(2)x= 2とすると,左辺=1/(1−2) =−1だが,右辺は 1 + 2 + 4 + 8 +· · · であり,無限大に発散する。従って この式は成り立たない。
(3)式(3.95)でr=xとすると, 1 +x+x2+· · ·+xn=
∑n k=0
xk= 1−xn+1
1−x (9.61) となる。ここでnが無限大に行くときを考える。右辺 の分子のxn+1は, |x|<1のときであれば, 0に収束す るので, 右辺は1/(1−x)に収束する。|x| >1であれ ば, xn+1 は発散する(1 < xなら正の無限大に発散す るし, x <−1なら正負に振動しながら正か負の無限大 に発散する) ので,右辺は収束しない。x=−1ならば, xn+1は1と−1の間を振動するので, 右辺は収束しな い。x= 1なら右辺の分母が0になるので式(9.61)は 無意味になる。以上のことから,式(9.61)の右辺が収束 する(もしくは意味を持つ)のは|x|<1のときだけで ある。
答228z=a+biとする(a, bは実数)。
z=a+bi (9.62)
z=a−bi (9.63)
これらの辺々を足せば, z+z= 2a
従って, a= (z+z)/2となる。すなわち式(9.13)の第 1式が成り立つ。一方,式(9.62)から式(9.63)を辺々引
けば,
z−z= 2bi
従って, b= (z−z)/(2i)となる。すなわち式(9.13)の 第2式が成り立つ。
答229 (1)(2)略。
(3)eiπ = cosπ+isinπ=−1 + 0i=−1。 従って,eiπ+ 1 = 0。
答230
eiα×eiβ = (cosα+isinα)(cosβ+isinβ)
= cosαcosβ+i(sinαcosβ+ cosαsinβ) +i2sinαsinβ
= cosαcosβ−sinαsinβ+i(sinαcosβ+ cosαsinβ) 一方,
ei(α+β)= cos(α+β) +isin(α+β) 実数部と虚数部をそれぞれ比べて,与式を得る。
答231f(x) =eix, g(x) = cosx+isinxとする。
f′(x) =ieix=i(cosx+isinx) =icosx−sinx g′(x) =−sinx+icosx
従って,f′(x) =g′(x)。 答232
eix= cosx+isinx (9.64)
e−ix= cosx−isinx (9.65)
辺々を足せば,
eix+e−ix= 2 cosx 従って,
eix+e−ix
2 = cosx (9.66)
一方,式(9.64),式(9.65)より, eix−e−ix= 2isinx 従って,
eix−e−ix
2i = sinx (9.67)
9.10 関数と無次元量 153 答233
(sinx)′=
(eix−e−ix 2i
)′
=ieix+ie−ix 2i
= eix+e−ix
2 = cosx cosの微分も同様(略)。
答234 (1)
cos3x=
(eix+e−ix 2
)3
= e3ix+ 3eix+ 3e−ix+e−3ix 8
= e3ix+e−3ix
8 + 3×eix+e−ix 8
= 1
4×e3ix+e−3ix
2 +3
4×eix+e−ix 2
= cos 3x+ 3 cosx 4
従って, cos 3x= 4 cos3x−3 cosx。 (2) 略(上と同様)。
答235 図9.5のとおり。注: (2)は原点対称。(5)は90 度だけ左回り。
-3 -2 -1 1 2 3 4
-3 -2 -1 O 1 2 3Re
Im
z
−z
1+z z−i iz
z2
1/z
図9.5 問235の答。
答236 (1)
√2 exp (π
4i )
(2) 2 exp
(π 6 i
) (3)
exp (3π
2 i )
(4)
√1 2+ i
√2 (5)
−2
(6)
1 +√ 3i
答237
(1) ei7π/12 (2) e−iπ/12 (3) ei3π/4 (4) eiπ/2 (5) 8eiπ
答238 (1)z =r1eiθ1, w=r2eiθ2とする(r1, r2, θ1, θ2 は実数。r1とr2は0以上)。式(9.26)と式(9.29)より, 絶対値と動径は同じである。従って,|z|=r1,|w|=r2 である。
zw=r1eiθ1r2eiθ2=r1r2eiθ1eiθ2 =r1r2ei(θ1+θ2) (9.68) この最後の項を極形式とみれば, その動径はr1r2であ る。絶対値と動径は同じなので, |zw|=r1r2 =|z||w|, すなわち式(9.33)が成り立つ。(2)は略。
答239複素数z, wについて,
(1) z=reiθとする。eiαz =rei(θ+α)となる。これは もとのzに対して, 偏角がαだけ増えた式なので, 複素平面上では,原点を中心にαだけ左向きに回転 することに対応する。
(2) z=reiθ =rcosθ+irsinθだから, z=rcosθ−irsinθ
=r{cos(−θ) +isin(−θ)}=re−iθ
答240
(1) 複素平面にiをプロットすると, 動径1, 偏角π/2 であることは明らかなので, 極形式で表現してi= eπi/2。
(2) 前問の結果の両辺をi 乗すれば, ii = (eπi/2)i = eπi2/2=e−π/2。
(3) ii=e−π/2≒e−1.5708≒0.2079。
答241 (1) ∂f
∂x = 2x, ∂f
∂y = 2y (2) ∂f
∂x =yexpxy, ∂f
∂y =xexpxy (3) ∂f
∂x = x
√x2+y2, ∂f
∂y = y
√x2+y2
(4) ∂f
∂x =− x
(x2+y2)3/2, ∂f
∂y =− y (x2+y2)3/2
答242∂f /∂x=yexp(xy)より,
∂
∂y
∂f
∂x = exp(xy) +xyexp(xy) また,∂f /∂y=xexp(xy)より,
∂
∂x
∂f
∂y = exp(xy) +xyexp(xy) よって,
∂2f
∂y∂x = ∂2f
∂x∂y = exp(xy) +xyexp(xy)
答243
(1) ∂2f /∂x2=−(ey+e−y) cosx (2) ∂2f /∂y2= (ey+e−y) cosx (3) (1)(2)より明らか。
答244
(1) ρ=P/RT に値を代入しρ= 44.08 mol m−3。 (2) ρ= 43.96 mol m−3。
(3) それらの差をdρと書くと,
dρ = 43.96 mol m−3 − 44.08 mol m−3 =
−0.12 mol m−3。 (4)
∂ρ
∂P = 1
RT, ∂ρ
∂T =− P RT2 従って,全微分公式から,
dρ= ∂ρ
∂PdP + ∂ρ
∂TdT = 1
RTdP − P RT2dT
(5) dT=1 K, dP=1 hPa=102 Paとして上の式に代入 すると,dρ=−0.12 mol m−3。
答245
∫ 2
−2
(∫ 3
0
(x2+xy)dx )
dy=
∫ 2
−2
[x3 3 +x2y
2 ]3
0dy
=
∫ 2
−2
( 9 + 9y
2 )
dy= [
9y+9y2 4
]2
−2= 36
答246 位置(x, y, z)にある, 体積dx dy dzの直方体の 中に含まれる砂糖の量dSは, C dx dy dz。これを積分
して, S=
∫ c 0
∫ b 0
∫ a 0
C dx dy dz
よくある質問127 定義を覚えることに違和感があります。
数学は暗記科目じゃないと思う。... 私も昔はそう思っていま した。そして膨大な時間を無駄にしました。高校までの数学 は,定義にこだわらなくても,素朴な直感でなんとかなるので, パズル脳のある人は「考えるだけ」でやっていけます。でも, 大学になると,素朴な直感では太刀打ちできない数学が出て きます。直感よりも先に,定義と論理が最大の武器になるので す。まず定義を覚え,定義に沿って例を考え,定義に基づいて 問題を解き,わからなくなったら定義に戻る。そうやって定義 を頭に馴染ませるうちに,定義がよく出来ていることを理解す る。その地道な繰り返しが,君の直感を磨くのです。
よくある質問128 すべてはすべての定義であるだけな気が してなりません。... そんなことないですよ。例えば,三角関 数の加法定理は何かの定義ではなく,三角関数の定義と三平方 の定理から論理的に導出できる定理です。
よくある質問129 工シスの友達にリメディアルを見せたら,
「マクローリン展開のとこに剰余項がないじゃん!」って言わ れました。剰余項ってなんですか? ... マクローリン展開を有 限の項数で打ち切る時に生じる誤差です。無限個の項を考え るなら不要。でも,それがほんとうに収束するかどうかは,剰 余項の性質によって決まります。それが「収束半径」の背後に あるのです。
よくある質問130 中高生のときとか,「数学なんてなんで勉 強するのかわからない」っていう友達はたくさんいましたが, いろんなところで使われてるんだぞと,当時の彼らに教えてや りたいです。... 「2次方程式なんか実生活では使わない」と か,多くの人がよく言うよね。君が知ってる数学は2次方程式 だけなんか?ってかんじだよね。
よくある質問131 数IIIをやっていないのでテストができ ません。... もう高校時代は終わったのだから「XXXをやっ ていないから」というのはやめましょう。やっていなければ, 今,やればよいのです。高校で数IIIをやった人も,それなり の苦労や努力をしたのです。
155
第 10 章
線型代数学 1: ベクトル
第1.15節(P.10)で学んだように,平面や空間の中で,大き さと向きをもつ量をベクトルと呼ぶ。本章では,ベクトルにつ いて,より深く学ぼう。
10.1 ベクトルの書き方
ベクトルを記号で表すには,上に矢印のついた記号か, 太字アルファベットを使う約束だった。ここで, ベクト ルを記号と座標で表す時の書き方を確認しておこう: 例10.1 ベクトルの記号と座標の書き方
正しい: a= (2,−1) (10.1)
正しい: b= (x, y) (10.2)
間違い: a= (2,−1) (10.3)
間違い: a(2,−1) (10.4)
間違い: b= (x, y) (10.5)
間違い: b= (x,y) (10.6)
間違い: b= (x,y) (10.7)
式(10.3)は細字のaがダメ。式(10.4)は=が入ってい ないのがダメ。式(10.5)は細字のbがダメ。式(10.6) は成分まで太字で書いたところがダメ(ベクトルといえ ば何でもかんでも太字で書けばよい, というものではな い)。式(10.7)は全部ダメ。(例おわり)
よくある質問132 なぜベクトルは太字や上付き矢印で書く
のですか? ... スカラーと区別するためです。スカラーとベク
トルは, 本質的に違う量です。例えばa, b, cがスカラーの場 合,ab=cなら,両辺をbで割って,a=c/bとできますね(b は0でないとする)。ところが,aがスカラーでb,cがベクト ルの場合,ab=cだからといって,a=c/bとしてはいけな いのです(理由は後述)。「ベクトルでの割り算」は許されない のです。そのように,ベクトルはスカラーとは違った扱いをす る必要があるために,「要注意記号」として,太字や上付き矢 印で書くのです。