第 9 章 微分積分の発展 141
10.11 本当のベクトルとは
よくある質問144 4次元の数ベクトルなんて,イメージでき ません... なぜ? 数を4つ並べただけですよ。
よくある質問145 それがどういう図形というか空間の中の 存在になるのかがわからないのです... そんなの考える必要あ りません。数ベクトルは「数を並べたもの」です。それだけ。
図形とかをイメージしたくなるのは,数ベクトルと幾何べクト ルをまだごっちゃにして考えているからです。たまたま2次 元や3次元のときは,幾何ベクトルと数ベクトルを区別せずに 使うと便利だったからそうしてただけです。4次元以上では, 幾何ベクトルのことは忘れて下さい。
4次元以上の数ベクトルは,もはや平面や空間の図形 を扱う道具ではない。それらとは全く異なる用途を持つ のだ。
例10.5 A君は, センター試験で,英語, 数学,国語, 理 科のそれぞれで, 120点, 130点, 90点, 80点という成績 をとった。それを順に並べると, a = (120,130,90,80) 点となる。これはA君の得点を表すベクトルである。
このような例も,立派な数ベクトルである。そこには もはや,「向き」とか「大きさ」は存在しない。A君が
「理系向き」とか「文系向き」みたいな意味での「向き不 向き」はあるかもしれないが(笑)。
よくある質問146 こんなの何の役に立つのですか? わざわ ざ「数ベクトル」にする必要や意義って何ですか? ... まあそ う言わずに。どう役立つかは,勉強していればそのうちわかる としか今は言えません。大事なことは,「ベクトル」を単に幾 何学の道具と思っていてはダメだということです。
さて, 4次元以上の数ベクトルについては,もはや「ベ クトルどうしのなす角」など定義もイメージもできな い。従って, 式(10.14)のような式で「内積」を考える ことはできない。しかし! 式(10.24)を見てみよう。「成 分どうしをかけて足す」ことならば, 4次元以上の数ベ クトルでもできるではないか! そう, 実は4次元以上の 数ベクトルは,そうやって定義するのである。
例10.6 A君が志望するB大学C学類は, 異様に英語 を重視するところで, 英語を2倍の点数で評価するが, なぜか理科には冷たくて, 0.5倍の点数で評価する。つ まり, B大学C学類の「センター試験の重み」は英語,
*8 数 ベ ク ト ル で は, 成 分 の 並 び 順 も 大 切 で あ る 。例 え ば (2,−1,4,3)と(2,3,4,−1)は違う数ベクトルである。
数学,国語,理科の順にc= (2,1,1,0.5)となる。この場 合, A君の得点は, B大学C学類では,
120点×2+130点×1+90点×1+80点×0.5 = 500点 となる。これはなんと,aとcの内積,つまりa•cでは ないか!!
よくある質問147 P39には,「数を適当な順番に並べた ものを数列という」と書いてあります。でも, P165には,「数 (スカラー)を並べたもの」が数ベクトルであるとも書いてあ ります。数列と数ベクトルってどう違うのですか?... 同じで す。強いて言えば,数がだんだんどのように変わっていくかと か,並べ方の規則性に関心があるときは数列と言うし,そうで ないときは数ベクトルと言います。
10.11 本当のベクトルとは
前節を読んで君は「結局ベクトルって何なんだ?」と いう気持ちになってしまっただろう。
実は,「ベクトルは向きと大きさを持つ量である」と いうの自体が嘘である。実際, 4次元以上の数ベクトル については, 向きや大きさを考えることはできないし, 意味が無い*9。
よくある質問148 なんでそんな嘘を教えたのですか? ... 大 人にならなければわからないことってあるじゃないでか? サ ンタさんとか笑。いきなり抽象的なことを教えられたら,頭が パンクしてしまうからです。
ならベクトルとは何だろう? それを知るには, 数ベク トルについてもう少し考えよう。
まず, 同じ次元の数ベクトルどうしは, 足すことがで きる(それぞれの成分どうしを足せばよい)。また,数ベ クトルをスカラー倍することもできる(それぞれの成分 をスカラー倍すればよい)。
さて,ここで幾何ベクトルに話を戻す。幾何ベクトル どうしも足すことができる(平行四辺形を描けばよい) し, 幾何ベクトルをスカラー倍することもできる(矢印 の長さを何倍かすればよい)。
このように, 「足す」ことと「スカラー倍する」こと ができる, というのが数ベクトルと幾何ベクトルに共通 する性質である。もう少し丁寧にいうと, 「2つのベク トルa,bと,任意のスカラーα, βに対して,
αa+βb (10.69)
*9いや,私は4次元空間がイメージできる! という数学者もいる らしい。数学者スゲー!!
のように, それぞれのベクトルをスカラー倍して足し あわせることができる(そしてその結果もベクトルにな る)。」という性質を, 数ベクトルも幾何ベクトルも持っ ている。このように,「スカラー倍して足す」ことができ るような量のことを,ベクトル(vector)と呼ぶのだ! そ して, 式(10.69)のように複数(3つ以上でもよい)のベ クトルをスカラー倍して足すことを 線型結合*10(linear combination)とか 一次結合 と呼ぶ。
● 問280 線型結合とは何か?
よくある質問149 線型結合ができるもの,といっても,幾何 ベクトルと数ベクトルしか思いつきませんが,他に何かありま
す? ... たくさんあります。例えば2次関数。2次関数のスカ
ラー倍は2次関数だし, 2次関数どうしの和も2次関数です。
だから2次関数はベクトルだ,と言ってもOKなのです。
よくある質問150 えっ...!? そんなムチャな。関数がベクト ルなのですか? ... はい,そうです。大学数学では関数をベク トルとして扱います。
よくある質問151 よくわかんないですが,関数をベクトル として扱うことに,何のメリットがあるのですか? ... 例えば
式(9.2)で学んだマクローリン展開を見てみましょう。これ
は,ある関数f(x)を, 1, x, x2,· · · という,「xnの形の関数」
をスカラー倍(f(n)(0)/n!倍)して足し合わせたものになって いますよね? これは, f(x)を1, x, x2,· · · で分解したものと 言ってもよいでしょう。それはあたかも,力のベクトルをいく つかの力のベクトルに分解するのと同じようなもの(と考え るの)です。他にも,関数を多くの三角関数の和(というか線 型結合)で表す手法があります。これを「フーリエ級数展開」
とか「フーリエ解析」と呼びます。関数をフーリエ解析した結 果のことを「スペクトル」と呼びます。具体的には,音や光と いった波や,振動現象などについて,スペクトルは重要な概念 です。様々な波長の光を使って果物や食品を検査したり,人工 衛星を使って地球の大気の二酸化炭素濃度を測ったり,という ことに,この手法は使われます。
その背景にあるのは, 音や光などの現象自体が, それぞれ 重ねあわせ(線型結合) できるという性質です(そしてその性 質は, 物理学の多くの基本法則が内包している性質です)。高 校物理で,音の「共鳴」や光の「干渉」を習ったでしょ? 複 数の音を重ねあわせたり, 複数の光を重ねあわせることで, 様々な現象が説明できるのでした。これを,その名もズバリ,
「重ね合わせの原理」と呼びます。「重ね合わせの原理」を使う ことで,個々の物理現象をベクトルととらえて,その線型結合 でより複雑な物理現象を理解したり再現したりできるのです。
例えば波に関する「ホイヘンスの原理」は「重ね合わせの原 理」の一種です。
実は,この「重ね合わせの原理」は,原子や分子の中の電子
*10「線型」を「線形」と書くこともある。どちらでもよい。
の挙動を表すときの中心的な原理です。「化学」で習うでしょ う。「シュレーディンガー方程式」とか「波動関数」という概 念の根本にあるアイデアです(それらを知りたければ「基礎数 学II」や「数理科学演習」をとりましょう)。
ベクトルは,この「重ね合わせの原理」を支える数学的な基 礎なのです。高校で平面や空間の矢印でベクトルの操作を学 んだのは,この「重ねあわせの原理」を理解して使いこなすこ とを将来の目標として, そのためのもっと抽象的で本質的な
「ベクトルの数学」を学ぶ前の準備運動でもあったのです。
ベクトルは, 君がこれまで思っていたよりも, ずっと ずっと広い概念であり, ずっとずっと多くの分野で使わ れる, 重要な概念であり重要な道具なのだ, ということ を心に留めておいてほしい。
演習問題
演習29 直線ax+by+c= 0と,直線外の点P(x0, y0) があったとする(a, b, c, x0, y0は任意の定数で,aとbの どちらかは0以外)。Pからこの直線への距離は,
|ax√0+by0+c|
a2+b2 (10.70)
で与えられることを示せ。ヒント: 点Pから直線へ下ろ した垂線の足を点Q(x1, y1)として, (x1, y1)を求める。
そのためには, −→
PQが直線の法線ベクトル(a, b) と平行 であることと, Qが直線上にあることを使う。そうして 求まったQの座標を使って, PQの距離を計算すれば OK。
演習30 外積の定理2を証明しよう。2つの空間ベク トル
a=
a1
a2
a3
, b=
b1
b2
b3
(10.71)
について,
(1) |a×b|2が次式になることを示せ(愚直に計算!):
a21b22+a21b23+a22b21+a22b23+a23b21+a23b22
−2(a1a2b1b2+a2a3b2b3+a3a1b3b1) (10.72) (2) 式(10.27)を使って, aとbが張る平行四辺形の面 積を計算せよ(愚直に計算!)。その結果を変形し,そ の2乗が式(10.72)に一致することを示せ。注: 式
(10.27)は「三角形」の面積。平行四辺形はその倍
であることに注意しよう。
10.11 本当のベクトルとは 167 演習31 a,b,cを任意の3次元の数ベクトルとする。
次式を示せ
a×(b×c) = (a•c)b−(a•b)c (10.73) ヒント: 成分を地道に計算する。かなりの計算量になるが,必 ずできると信じてがんばろう! なお, (a•c)bの(a•c)はス カラーなので,その後のbとの積は,ただのスカラー倍である (だから•や×は書いていない)。
問題の解答
(以下, ?は「解答丸写し」を防ぐための伏せ字。自分 で考えよう!)
答248
(1) 2a= 2(1,2) = (2,4)
(2) a−b= (1,2)−(2,3) = (−1,−1)
答249 2a= (2,4,−2)。3a−2b= (−1,8,1)。 答250 a =kbと置く(kは未知の定数)。これを成分 で書くと, (1,2,6) =k(x, y,−2)。各成分では, 1 = kx, 2 =ky, 6 =−2k。最後の式からk=−3。これを他の 式に代入し, 1 = −3x, 2 = −3y。従って, x =−1/3, y=−2/3。
答251略解(1)√
3 (2) 5 (3) 0
答252 aを平面ベクトル(a1, a2)とすると,
|αa|=|α(a1, a2)|=|(αa1, αa2)|
=√
(αa1)2+ (αa2)2=
√
α2(a21+a22)
=√ α2
√
(a21+a22) =|α||a|
aが空間ベクトルのときも同様(成分が1つ増えるだけ で同じ手順)。
答253
(1) |(1,0)|=√
12+ 02= 1 (2) |(−1/√
2,−1/√ 2)|=
√ (−1/√
2)2+ (−1/√ 2)2
=√
1/2 + 1/2 =√ 1 = 1 (3) |(1/√
3,1/√ 3,1/√
3)|
=
√ (1/√
3))2+ (1/√
3))2+ (1/√ 3))2
=√
1/3 + 1/3 + 1/3 =√ 1 = 1 (4) |(cosθ,sinθ)|=√
cos2θ+ sin2θ= 1 (5) |a/|a||=|a|/|a|= 1
答254 a•a=|a||a|cos 0◦=|a|2
答255a,bのなす角をθとする。a•b=|a||b|cosθ= 0,|a| ̸= 0,|b| ̸= 0より, cosθ= 0。よって, θ= 90◦ 答256 a•b=|a||b|cosθ ⇔ cosθ= a•b
|a||b| 答258 a•b= 1·2 + 2·3 = 8
答259 (1,2,−1)•(3,−4,5) = 3−8−5 =−10 答260式(10.17)を使って, cosθ= 1/√
5
答261 角AOBの大きさをθとする。OP=OAcosθ である。一方,a•eb =|a||eb|cosθである。
ところが, a の長さはOA で, eb の長さは1だから, a•eb = OA cosθとなる。これは, OPに等しい。
答262 bに平行で長さ1 のベクトルeb は, 問253 の(5)より, eb =b/|b|= (−1/√
10,3/√
10)。従って, a•eb = 2/√
10 =√ 10/5 答263
(1) 角AOBをθとする。式(7.48)において, a=|a|, b=|b|とすれば,s=12|a||b|sinθ。ここでsinθ=
√1−cos2θであり,式(10.17)より,
sinθ=
√
1−(a•b
|a||b| )2
である。従って, s=1
2|a||b|
√
1−(a•b
|a||b| )2
=1 2
√|a|2|b|2−(a•b)2
(2) |a|2 =a2+b2,|b|2=c2+d2,a•b=ac+bdを 前小問の結果に代入して,
s=
√(a2+b2)(c2+d2)−(ac+bd)2 2
=
√a2d2+b2c2−2abcd 2
=
√(ad)2−2(ad)(bc) + (bc)2
2 =
√(ad−bc)2 2
=|ad−bc| 2 (3) 前小問の結果から,
s=|1·4−2·3|
2 = |4−6|
2 = 1
答264 (3,−1)が法線ベクトルなので, 3x−y+c = 0 という形の方程式になる(c は定数)。ここで(1,2) を
代入すれば, 3−2 +c = 0より, c = −1。従って, 3x−y−1 = 0。
答265 (1,1)が法線ベクトルなので,x+y+c= 0とい う形の方程式になる(cは定数)。ここで(1,2)を代入す れば, 1+2+c= 0より,c=−3。従って,x+y−3 = 0。
答266 (1,2,−1)が法線ベクトルなので, x+ 2y−z+d= 0
という形の方程式になる(dは定数)。ここで(0, 0, 1) を代入すれば,−1 +d= 0より,d= 1。従って,
x+ 2y−z+ 1 = 0
答267
(1) nとaが垂直だから,n•a=p+q−3r= 0 (2) nとbが垂直だから,n•b=p+ 2q+r= 0 (3) 上の2つの式からqを消すと,p= 7r。上の2つの
式からpを消すと,q=−4r
(4) 前小問より, (p, q, r) = (7r,−4r, r) =r(7,−4,1)。 (5) 法線ベクトルを(7,−4,1) として, 平面を表す式 は7x−4y+z+d = 0と書ける(dは未知の定 数)。これに(0,0,1)を入れると, 1 +d= 0。よっ てd=−1。従って,求める式は7x−4y+z−1 = 0 答268
(a×b)•a=
a2b3−a3b2
a3b1−a1b3
a1b2−a2b1
•
a1
a2
a3
= (a2b3−a3b2)a1+ (a3b1−a1b3)a2+ (a1b2−a2b1)a3
=a1a2b3−a1a3b2+a2a3b1−a1a2b3+a1a3b2−a2a3b1
= 0
(a×b)•bについては解答略。
答269 結果だけ示す: (7,−4,1) レポートには計算過程 も書くこと。
答270略解を示す。レポートには計算過程も書くこと。
(1) a×b= (−2,1,−1)
平行四辺形の面積は,|(−2,1,−1)|=√ 6。 (2) a×b= (−1,−3,1)
平行四辺形の面積は,|(−1,−3,1)|=√ 11。
答271
b×a=
b1
b2
b3
×
a1
a2
a3
=
b2a3−b3a2
b3a1−b1a3
b1a2−b2a1
=
a3b2−a2b3
a1b3−a3b1 a2b1−a1b2
=
−a2b3+a3b2
−a3b1+a1b3
−a1b2+a2b1
=−
a2b3−a3b2 a3b1−a1b3 a1b2−a2b1
=−a×b
答272式(10.47)でbにaを入れると,a×a=−a×a。 右辺を左辺に移項して, 2a×a=0。両辺を2で割って 与式を得る。
答273略(成分に基づいて計算するだけ)。 答274
a=
a1 a2
a3
,b=
b1 b2
b3
, c=
c1 c2
c3
とする。
(pa)×b=
pa1
pa2
pa3
×
b1
b2
b3
=
pa2b3−pa3b2
pa3b1−pa1b3
pa1b2−pa2b1
=p(a×b)
従って式(10.54)が成り立つ。
(a+b)×c
=
a1+b1
a2+b2 a3+b3
×
c1
c2 c3
=
(a2+b2)c3−(a3+b3)c2
(a3+b3)c1−(a1+b1)c3 (a1+b1)c2−(a2+b2)c1
=
a2c3−a3c2 a3c1−a1c3 a1c2−a2c1
+
b2c3−b3c2 b3c1−b1c3 b1c2−b2c1
=a×c+b×c
従って式(10.55)が成り立つ。
答276 (1)
v(t) =r′(t) =(
(rcosωt)′,(rsinωt)′)
= (−rωsinωt, rωcosωt)
|v(t)|=|(−rωsinωt, rωcosωt)|
=rω|(−sinωt,cosωt)|=rω