第 3 章 コンプトン散乱 15
3.2 クライン-仁科の公式の導出
3.2.3 行列要素 M の計算
行列要素Mを計算する。コンプトン散乱の全散乱振幅Mは、
M=M1+M2 =e2u¯s(p′) [
ϵ/′∗ (p/+k/+m)
(p+k)2−m2ϵ/+ϵ/ (p/−k/′+m) (p−k′)2−m2ϵ/′∗
]
ur(p) (3.55) ここで、ϵ/=ϵµγµ, k/=kµγµである。
散乱前の電子の4元運動量をp= (m;0)、散乱前、散乱後のフォトンの偏極ベクトルを 実粒子であるから横成分のみ考え、さらに成分を実数にとって、それぞれϵ = (0;ϵ), ϵ′ = (0;ϵ′)とする。
このとき、以下の式が成立する:
ϵ·p= (0;ϵ)·(m;0) = 0 (3.56)
ϵ′·p= (0;ϵ′)·(m;0) = 0 (3.57)
ϵ·k= (0;ϵ)·(ω;k) = ϵ·k = 0 (3.58)
ϵ′·k′ = (0;ϵ′)·(ω′;k′) = ϵ′·k′ = 0 (3.59) ϵ·(p′ +k′) = ϵ·(p+k) =ϵ·p+ϵ·k= 0よりϵ·=−ϵ·k′ (3.60) ϵ′·(p′−k) = ϵ′·(p−k′) =ϵ′·p−ϵ′·k′ = 0 (3.61) ϵ·ϵ=ϵ′ ·ϵ′ =−1 (∵横成分偏極ベクトル(λ = 1,2)に式(3.24)を適用) . (3.62) このことから、
ϵ/p/=ϵµγµpνγν =ϵµpν(2gµν−γνγµ) = ϵ·p−p/ϵ/=−p/ϵ/ (3.63) ϵ′
/ p/=ϵ′µγµpνγν =ϵ′µpν(2gµν−γνγµ) = ϵ′·p−p/ϵ/′ =−p/ϵ/′ (3.64) ϵ/k/ =ϵµγµkνγν =ϵµkν(2gµν−γνγµ) =ϵ·k−k/ ϵ/=−k/ ϵ/ (3.65) ϵ′
/ k/′ =ϵ′µγµkν′γν =ϵ′µk′ν(2gµν −γνγµ) =ϵ′ ·k′ −k/ ϵ′/′ =−k/ ϵ′/′ (3.66) が得られる。
p+k =p′ +k′より、
(p+k)2 = (p′+k′)2
m2 + 2p·k+k2 =m2+ 2p′·k′+k′2
p·k =p′ ·k′ (∵式(3.22)) (3.67) であり、p−k′ =p′−kより、
(p+k′)2 = (p′−k)2
m2−2p·k′+k′2 =m2−2p′·k+k2
p·k′ =p′ ·k (∵式(3.22)) (3.68) である。
式(3.22)より、
(p+k)2−m2 =p2+ 2p·k+k2−m2 = 2p·k (3.69) (p−k′)2−m2 =p2 −2p·k′+k′2−m2 =−2p·k′ (3.70) であり、式(3.63)、(3.64)より、
(p/+m)ϵ/u(p) = (−ϵ/p/+mϵ/)u(p) =−ϵ/(p/−m)u(p) = 0 (3.71) (p/+m)ϵ/ u(p) = (′ −ϵ/ p′/+mϵ/′)u(p) = −ϵ/′(p/−m)u(p) = 0 (3.72)
が成り立つから、全散乱振幅Mは、
M=e2u¯r(p′) [ ϵ/′k/ ϵ/
2p·k + ϵ/k/′ϵ/′ 2k′·p
]
us(p) (3.73)
となる。式(3.42)を用いて断面積を計算するから、スピンについて平均をとった全散乱 振幅の2乗を計算する:
|M|2 = e4 2
∑
r,s
¯ ur(p′)
[ ϵ/′k/ ϵ/
2p·k + ϵ/k/′ϵ/′ 2k′ ·p
] us(p)
{
¯ ur(p′)
[ ϵ/′k/ ϵ/
2p·k + ϵ/k/′ϵ/′ 2k′·p
] us(p)
}∗
(3.74) ここで、
{u¯r(p′)γµγνγρus(p)}∗
=us(p)∗γρ†γν†γµ†u¯r(p′)∗
=us(p)∗γ0γ0γρ†γ0γ0γν†γ0γ0㵆γ0ur(p′) (∵(γ0)2 = 1を挟んだ)
= ¯us(p)(γ0γρ†γ0)(γ0γν†γ0)(γ0㵆γ0)ur(p′)
= ¯us(p)γργνγµur(p′) (∵式(3.20)) より、式(3.74)は、
|M|2 = e4 2
∑
r,s
¯ ur(p′)
[ ϵ/′k/ ϵ/
2p·k + ϵ/k/′ϵ/′ 2k′ ·p
]
us(p)¯us(p) [ ϵ/k/ ϵ/′
2p·k + ϵ/ k′/′ϵ/
2k′·p ]
ur(p′)
= e4 2Tr
[
(p/′+m)
{ ϵ/′k/ ϵ/
2p·k + ϵ/k/′ϵ/′ 2k′·p
}
(p/+m)
{ ϵ/k/ ϵ/′
2p·k + ϵ/ k′/′ϵ/
2k′·p }]
(∵(3.13式)) (3.75) となり、このトレースを計算すれば良い。
まず、kの2乗の項のトレースを計算する:
Tr[(p/′+m)ϵ/ k′/ ϵ/(p/+m)ϵ/k/ϵ/′]
= Tr[p/ ϵ′/ k′/ ϵ/p/ϵ/k/ϵ/′] +m2Tr[ϵ/ k′/ ϵ/ϵ/k/ϵ/′]
(∵mに比例する項は奇数個のγ行列のトレースであるから、式(3.19)より0)
= Tr[p/ ϵ′/ ϵ/k′ /p/k/ ϵ/ϵ/′] +m2Tr[ϵ/ ϵ/k′ /k/ ϵ/ϵ/′] (∵式(3.65)) (3.76) m2に比例する第二項は、k/k/がトレースに含まれているから0になる。実際、任意の行列 をA, Bとして、
Tr[Ak/k/B] = Tr[AkµγµkνγνB]
= Tr[Akµkν(2gµν −γνγµ)B] (∵式(3.15))
= 2kµkµTr[AB]−Tr[Ak/k/B]
=−Tr[Ak/k/B] (∵式(3.22)、kµkµ= 0)
より、
Tr[Ak/k/B] = 0 (3.77)
である。式(3.76)の第1項については、
k
/p/= 2k·p−p/k/ (3.78)
より、
Tr[p/ ϵ′/ ϵ/k′ /p/k/ ϵ/ϵ/′] = 2k·pTr[p/ ϵ′/ ϵ/k′ / ϵ/ϵ/′] + Tr[p/ ϵ′/ ϵ/p′ /k/k/ ϵ/ϵ/′]
= 2k·pTr[p/ ϵ′/ ϵ/k′ / ϵ/ϵ/′] (∵式(3.77))
= 2k·pTr[p/ ϵ′/ ϵ/(′ −ϵ/k/)ϵ/′] (∵式(3.65))
= 2k·pTr[p/ ϵ′/ k′/ϵ/′] (∵式(3.24)よりϵ/ϵ/= 2ϵ·ϵ−ϵ/ϵ/=−2−ϵ/ϵ/だからϵ/ϵ/=−1)
= 2(k·p)p′ρϵ′σkαϵ′β4(gρσgαβ +gρβgσα−gραgσβ) (∵式(3.18))
= 2(k·p)4{(p′·ϵ′)(k·ϵ′) + (p′·ϵ′)(ϵ′·k)−(p′·k)(ϵ′·ϵ′)}
= 8(k·p){2(p′·ϵ′)(k·ϵ′) + (p′·k)} (∵式(3.62))
= 8(k·p){2(k·ϵ′)2+ (p·k′)} (∵式(3.60)).
である。よって、まとめると、
Tr[(p/′+m)ϵ/ k′/ ϵ/(p/+m)ϵ/k/ϵ/′] = 8(k·p){2(k·ϵ′)2+ (p′ ·k)}. (3.79) 次に式(3.75)のk′2の項について考えると、この項は第1項のkをk′に置き換えたも のに等しい。実際、
Tr[ϵ/k/ ϵ′/′(p/+m)ϵ/ k′/ ϵ/(p′ /′+m)] = Tr[ϵ/k/ ϵ′/ p′/ϵ/ k′/ ϵ/p′ /′] +m2Tr[ϵ/k/ ϵ′/ ϵ′/ k′/ ϵ/]′
= Tr[ϵ/k/ ϵ′/ p′/ϵ/ k′/ ϵ/p′ /′]−m2Tr[ϵ/k/ k′/ ϵ/]′
= Tr[ϵ/k/ ϵ′/ p′/ϵ/ k′/ ϵ/p′ /′]
= 2(ϵ′·p′)Tr[ϵ/k/ ϵ′/ k′/ ϵ/p′ /′]−Tr[ϵ/k/ p′/ϵ/ ϵ′/ k′/ ϵ/p′ /′] であり、第1項は、
2(ϵ′ ·p′)Tr[ϵ/k/ ϵ′/ k′/ ϵ/p′ /′] = 2(ϵ′·p′)Tr[ϵ/(−ϵ/ k′/′)k/ ϵ/p′ /′] = 0 。
第2項は、
Tr[ϵ/k/ p′/ϵ/ ϵ′/ k′/ ϵ/p′ /′] =−Tr[ϵ/k/ p′/k/ ϵ/p′ /′]
=−2(k′ ·p)Tr[ϵ/k/ ϵ/p′ /′] + Tr[ϵ/p/k/ k′/ ϵ/p′ /′]
=−2(k′ ·p)Tr[ϵ/k/ ϵ/p′ /′]
=−2(k′ ·p)4{(ϵ·k′)(ϵ·p′) + (ϵ·p′)(ϵ·k′)−(ϵ·ϵ)(k′·p′)}
=−2(k′ ·p)4{2(ϵ·p′)(ϵ·k′) + (k′·p′)}
=−2(k′ ·p)4{−2(ϵ·k′)2+ (k′·p′)}
=−8(k′ ·p){−2(ϵ·k′)2+ (k·p)} (∵式(3.67)) 。 よって、
Tr[ϵ/k/ ϵ′/′(p/+m)ϵ/ k′/ ϵ/(p′ /′+m)] = 8(k′·p){−2(ϵ·k′)2+ (k·p)} (3.80) である。
最後に、k′·kに比例する項を計算する。
Tr [(p/′+m){ϵ/′k/ ϵ/}(p/+m){ϵ/ k′/′ϵ/}]
= Tr [p/ ϵ/′ ′k/ ϵ/p/ϵ/ k′/′ϵ/] +m2Tr [ϵ/′k/ ϵ/ϵ/ k′/′ϵ/] (∵γ行列を奇数個含むトレースの項は0)
= Tr [p/ ϵ/′ ′ϵ/k/p/k/′ϵ/ ϵ/] +′ m2Tr [ϵ/′ϵ/k/k/′ϵ/ ϵ/]′ (∵式(3.65)、(3.66))
= (Tr [p/ϵ/′ϵ/k/p/k/′ϵ/ ϵ/] +′ m2Tr [ϵ/′ϵ/k/k/′ϵ/ ϵ/]) + Tr [k′ / ϵ/′ϵ/k/p/k/′ϵ/ ϵ/]′ −Tr [k/ ϵ/′ ′ϵ/k/p/k/′ϵ/ ϵ/]′ (∵p′ =p+k−k′) (3.81)
まず、この式(3.81)の第1項を計算する。γ行列の交換関係より、
p /p/= 1
2{p/, p/}= 1
2pµpν2gµν =p·p=m2 (3.82) であるから、
Tr [p/ϵ/′ϵ/k/p/k/′ϵ/ ϵ/] +′ m2Tr [ϵ/′ϵ/k/k/′ϵ/ ϵ/]′
= 2(k·p)Tr [p/ϵ/′ϵ/k/′ϵ/ ϵ/]′ −Tr [p/ϵ/′ϵ/p/k/k/′ϵ/ ϵ/] +′ m2Tr [ϵ/′ϵ/k/k/′ϵ/ ϵ/]′ (∵式(3.78))
= 2(k·p)Tr [p/ϵ/′ϵ/k/′ϵ/ ϵ/]′ −Tr [ϵ/′p/p/ϵ/k/k/′ϵ/ ϵ/] +′ m2Tr [ϵ/′ϵ/k/k/′ϵ/ ϵ/]′ (∵式(3.63)、(3.64))
= 2(k·p)Tr [p/ϵ/′ϵ/k/′ϵ/ ϵ/]′ −m2Tr [ϵ/′ϵ/k/k/′ϵ/ ϵ/] +′ m2Tr [ϵ/′ϵ/k/k/′ϵ/ ϵ/]′ (∵式(3.82))
= 2(k·p)Tr [p/ϵ/′ϵ/k/′ϵ/ ϵ/]′
= 2(k·p)2(ϵ′·ϵ)Tr [p/k/′ϵ/ ϵ/] + 2(k′ ·p)Tr [p/ϵ/ϵ/ k′/′ϵ/ ϵ/]′ (3.83) とわかる。
この式(3.83)の第1項は、
4(k·p)(ϵ′·ϵ)Tr [p/k/′ϵ/ ϵ/] = 4(k′ ·p)(ϵ′·ϵ)4{(p·k′)(ϵ′·ϵ) + (p·ϵ)(k′·ϵ′)−(k′·ϵ)(p·ϵ′)}
= 16(k·p)(p·k′)(ϵ′·ϵ)2 (∵式(3.56)、式(3.57)) 。 第2項は、
2(k·p)Tr [p/ϵ/ϵ/ k′/′ϵ/ ϵ/] = 2(k′ ·p)Tr [ϵ/p/ϵ/ k′/′ϵ/ ϵ/]′
= 2(k·p)Tr [ϵ/ϵ/p/ϵ/ k′/′ϵ/′] (∵式(3.15))
=−2(k·p)Tr [p/ϵ/ k′/′ϵ/′] (∵ ϵ/)ϵ/=−1)
=−2(k·p)4((p·ϵ′)(k′·ϵ′) + (p·ϵ′)(ϵ′ ·k′)−(p·k′)(ϵ′ ·ϵ′))
=−8(k·p)(k′·p) (∵式(3.56)、式(3.57)) 。 である。よって、式(3.83)は、
Tr [p/ϵ/′ϵ/k/p/k/′ϵ/ ϵ/] +′ m2Tr [ϵ/′ϵ/k/k/′ϵ/ ϵ/] = 16(k′ ·p)(p·k′)(ϵ′ ·ϵ)2−8(k·p)(k′·p)
= 8(k·p)(p·k′){2(ϵ′ ·ϵ)2−1} (3.84) となる。
式(3.81)の第2項は、
Tr [k/ ϵ/′ϵ/k/p/k/′ϵ/ ϵ/] =′ −Tr [k/ ϵ/′k/ ϵ/p/k/′ϵ/ ϵ/]′ (∵式(3.65))
=−2(k·ϵ′)Tr [k/ ϵ/p/k/′ϵ/ ϵ/] + Tr [′ ϵ/′k/k/ ϵ/p/k/′ϵ/ ϵ/]′
=−2(k·ϵ′)Tr [k/ ϵ/p/k/′ϵ/ ϵ/]′ (∵式(3.15)
=−2(k·ϵ′)Tr [ϵ/k/ ϵ/p/k/′ϵ/′] (∵式(3.65))
= 2(k·ϵ′)Tr [k/ ϵ/ϵ/p/k/′ϵ/′] (∵ϵ/)ϵ/=−1)
=−2(k·ϵ′)Tr [k/p/k/′ϵ/′]
=−2(k·ϵ′)4((k·p)(k′ ·ϵ′) + (k·ϵ′)(p·k′)−(k·k′)(p·ϵ′))
=−8(k·ϵ′)2(p·k′) (∵式(3.57)、(3.59))
式(3.81)の第3項は、
−Tr [k/ ϵ′/ ϵ/k′ /p/k/ ϵ′/ ϵ/] = Tr [k′ / ϵ′/ ϵ/k′ /p/ϵ/ k′/ ϵ/]′ (∵式(3.66))
= 2(k′·ϵ)Tr [k/ ϵ′/ ϵ/k′ /p/ϵ/′]−Tr [k/ ϵ′/ ϵ/k′ /p/ϵ/ ϵ/k′ /′]
= 2(k′·ϵ)Tr [k/ ϵ′/ ϵ/k′ /p/ϵ/′] (∵Tr [k/ ϵ′/ ϵ/k′ /p/ϵ/ ϵ/k′ /′] = Tr [k/ k′/ ϵ′/ ϵ/k′ /p/ϵ/ ϵ/] = 0)′
= 2(k′·ϵ)Tr [ϵ/ k′/ ϵ′/ ϵ/k′ /p/]
= 4(k′·ϵ)(k′·ϵ′)Tr [ϵ/ ϵ/k′ /p/]−2(k′·ϵ)Tr [k/ ϵ′/ ϵ′/ ϵ/k′ /p/]
=−2(k′·ϵ)Tr [k/ ϵ′/ ϵ′/ ϵ/k′ /p/] (∵式(3.59))
= 2(k′·ϵ)Tr [k/ ϵ/k′ /p/]
= 2(k′·ϵ)4((k′·p)(ϵ·k) + (k′·ϵ)(k·p)−(k′·k)(ϵ·p))
= 8(k′·ϵ)2(k·p)
である。ゆえに、まとめると、式(3.81)は、
Tr [(p/′+m){ϵ/′k/ ϵ/}(p/+m){ϵ/ k′/′ϵ/}] = 8(k·p)(p·k′)(2(ϵ′·ϵ)2−1)−8(k·ϵ′)2(p·k′) + 8(k′·ϵ)2(k·p) (3.85)
行列要素Mの計算は、以上をまとめると、
|M|2 = e4
8(p·k)28(k·p){2(k·ϵ′)2+ (p′·k)}+ e4
8(p·k′)28(k′ ·p){−2(ϵ·k′)2 + (k·p)}
+ e4
4(p·k)(p·k′)(8(k·p)(p·k′)(2(ϵ′·ϵ)2−1)−8(k·ϵ′)2(p·k′) + 8(k′·ϵ)2(k·p))
=e4
[2(k·ϵ′)2+ (p′·k)
p·k +−2(ϵ·k′)2+ (k·p)
k′ ·p + 2{2(ϵ′·ϵ)2−1)− (k·ϵ′)2
p·k + (k′ ·ϵ)2 p·k′ }
]
=e4 [p·k′
p·k + k·p
k′ ·p+ 4(ϵ′ ·ϵ)2−2 ]
となる。さらに、
p·k = (m;0)·(ω;k) =mω, (3.86) p·k′ = (m;0)·(ω′;k′) = mω′ (3.87) より、
|M|2 = =e4 [mω′
mω + mω
mω′ + 4(ϵ′·ϵ)2−2 ]
=e4 [ω′
ω + ω
ω′ + 4(ϵ′·ϵ)2−2 ]
図 3.5: 光子の波数ベクトルk, k′と偏極ベクトルϵλの関係。偏極ベクトルϵ1、ϵ2、波数 ベクトルkをもつ入射光子が散乱角θでコンプトン散乱されて、偏極ベクトルϵ′1、ϵ′2、波 数ベクトルk′となる。その影響でϵ2とϵ′2は変わらないが、ϵ1は角度θだけ方向の違うϵ′1 になる。
とわかる。断面積は式(3.42)で与えられているから、
dσ dΩ
LAB
= 1
64π2m2ee4 (k′
k )2[
ω′ ω + ω
ω′ + 4(ϵ′·ϵ)2−2 ]
(3.88)
= e4 64π2m2e
(ω′ ω
)2[ ω′
ω + ω
ω′ + 4(ϵ′·ϵ)2−2 ]
. (3.89)
光子の偏極方向について平均をとると、
dσ dΩ
LAB
= 1 2
∑
λ,λ′
1 64π2m2ee4
(ω′ ω
)2[ ω′
ω + ω
ω′ + 4(ϵλ·ϵ′λ′)2−2 ]
(3.90)
= 1
64π2m2ee4 (ω′
ω )2
2 [
ω′ ω + ω
ω′ +∑
λ,λ′
(ϵλ·ϵ′λ′)2−2 ]
. (3.91) 入射する光子と散乱される光子での偏極ベクトルは図3.5となる。偏極ベクトルϵ1、ϵ2、 波数ベクトルkをもつ入射光子が散乱角θでコンプトン散乱されて、偏極ベクトルϵ′1、 ϵ′2、波数ベクトルk′となる。その影響でϵ2とϵ′2は変わらないが、ϵ1は角度θだけ方向の 違うϵ′1になる。そのため、
ϵ2·ϵ′2 = 1
ϵ1·ϵ′1 =|ϵ1||ϵ′1|cosθ= cosθ であるから、
dσ dΩ
LAB
= 1
32π2m2ee4 (ω′
ω )2[
ω′ ω + ω
ω′ + (1 + cos2θ)−2 ]
. (3.92)
ここで、式(3.92)を自然単位系からSI単位系に変換し、一般に用いられる式に直す。微
分散乱断面積は距離の2乗の単位であるから、 1
m2e の項について、
1
m2e → ℏ2c2 [MeV2·cm2]
m2ec4 [MeV2] = ℏ2
m2ec2 (3.93)
e4 → e4[C4]
ϵ20[C4/(MeV2·cm2)]ℏ2c2[MeV2·cm2] (3.94) とすれば、SI単位系に直る。式(3.92)の e4
32π2m2e において、
1 32π2
1
m2ee4 → 1 32π2
( ℏ2 m2ec2
) ( e4 ϵ20ℏ2c2
)
= e4
32π2ϵ20m2ec4 である。さらに、古典的電子半径re= 4πϵe2
0mec2 を用いれば容易に表せて、
e4
32π2ϵ20m2ec4 = re2 2 となる。ω′
ω は、コンプトン散乱で散乱された光子のエネルギーhν′が式(3.6)で与えられ ているから、
ω′
ω = hν′ hν
= 1
hν
mec2(1−cosθ) + 1.
= 1
α(1−cosθ) + 1 となる。ここで、
α= hν
mec2 (3.95)
である。ゆえに、式(3.92)の最後の項は、
ω′ ω + ω
ω′ + (1 + cos2θ)−2 = 1
1 +α(1−cosθ) + (1 +α(1−cosθ)) + (1 + cos2θ)−2
= (1 + cos2θ) + 1−1−α(1−cosθ) +α(1−cosθ) +α2(1−cosθ)2 1 +α(1−cosθ)
= 1 + cos2θ+ α2(1−cos2θ) 1 +α(1−cosθ). したがって、式(3.92)はSI単位系で、
dσ dΩ
LAB
= r2e 2
[ 1
1 +α(1−cosθ) ]2[
1 + cos2θ+ α2(1−cos2θ) 1 +α(1−cosθ)
]
. (3.96)
である。
最後に入射光子のエネルギーが662 keVのときのコンプトン散乱の微分断面積を図3.6 に示す。その特徴は次のようにまとめることができる。前方散乱(θ <90◦)での微分断面 積は後方散乱(θ <90◦)での微分断面積に比べて最大で8倍程度大きいことがわかる。前 方散乱では微分断面積が大きく変化しているのに対して、後方散乱では微分断面積はほ とんど一定である。前方散乱ではθが小さいほど微分断面積は大きくなり、θ = 0◦で最 大、θ = 90◦で最小である。一方、後方散乱ではθが大きいほど僅かだが微分断面積は大 きく、θ = 180◦で最大である。
図3.6: 入射光子のエネルギーが662 keVのときのコンプトン散乱の微分断面積。前方散 乱(θ <90◦)での微分断面積は後方散乱(θ <90◦)での微分断面積に比べて大きいことが わかる。前方散乱では微分断面積が大きく変化しているのに対して、後方散乱では微分 断面積の変化量は少ない。前方散乱ではθが小さいほど微分断面積は大きくなる。一方、
後方散乱ではθが大きいほど僅かだが微分断面積は大きくなる。