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第 6 章 断面積およびエネルギーの測定 60

6.3 コンプトン散乱の微分断面積の測定

6.3.1 γ 線のエネルギーの角度依存性

図6.10–6.14は各角度θにおけるADC2次元プロットである。

図6.10: θ = 30のときのADC2次元プロット。ADC-1 Channel、ADC-2 Channelはそ れぞれNaI検出器1、NaI検出器2で測定されたエネルギーに対応する。

これらの2次元プロットの意味の説明を例としてθ = 45の場合の2次元プロットを用 いて、図6.15で行う。図6.15において黒枠で囲った部分はNaI検出器1で検出されたエ ネルギーとNaI検出器2で検出されたエネルギーの和が662 keVの部分である。この部 分はNaI検出器1に入射したγ線が散乱してNaI検出器2で吸収される過程に対応する (図6.16)。その理由は、γ線の全エネルギー662 keVが両検出器合わせて保存されている からである。

図 6.11: θ= 45のときのADC2次元プロット。

図 6.12: θ= 60のときのADC2次元プロット。

図 6.13: θ= 75のときのADC2次元プロット。

図 6.14: θ= 90のときのADC2次元プロット。

図 6.15: θ = 45のときのADC2次元プロット。赤い枠内のピークはγ線がNaI検出器 1で1度コンプトン散乱した後NaI検出器2で吸収されたことによる。黒枠内の計数は NaI検出器1で複数回コンプトン散乱した後NaI検出器2で吸収されたことによる。オ レンジ色の枠内の計数はγ線がNaI検出器1で1度コンプトン散乱した後NaI検出器2 でコンプトン散乱したことによる。

図 6.16: 図6.15において黒枠で囲った部分に対応する過程。NaI検出器1に入射したγ 線が散乱してNaI検出器2で吸収される過程に対応する。NaI検出器1での散乱は複数 回のコンプトン散乱を含む。全エネルギーが吸収されるため、NaI検出器1で検出された エネルギーとNaI検出器2で検出されたエネルギーの和が662 keVとなる。

図 6.17: 図6.15のオレンジ色の枠で囲った部分に対応する過程。NaI検出器1でコンプ トン散乱した後、NaI検出器2でもコンプトン散乱して検出器2の外へ出て行く過程に対 応する。γ線が一部どちらのNaI検出器にも入らず逃げるので、NaI検出器1で検出され たエネルギーとNaI検出器2で検出されたエネルギーの和は662 keVより小さい。

この黒枠の中にあるピーク部分(赤枠)はちょうど角度θでコンプトン散乱した場合に 対応する。それ以外の黒枠内の計数はγ線がNaI検出器1で複数回コンプトン散乱した 後、NaI検出器2で吸収された過程によるのであると考えられる。

図6.15のオレンジの枠内の計数は赤枠内の計数とNaI検出器1のエネルギーが同じだ が、NaI検出器2のエネルギーは赤枠内のものよりは小さい。この枠内の計数はγ線が NaI検出器1でコンプトン散乱した後、NaI検出器2でもコンプトン散乱して検出器2の 外へ出て行く過程に対応すると考えられる(図6.17)。

本研究ではγ線がNaI検出器1で一度コンプトン散乱して、NaI検出器2で吸収され る過程を調べたいので、図6.15の赤枠部分のピークに注目すれば良いことがわかる。各 角度θについてこのピークを抽出するために以下の操作を行った:

1. 図6.18のようにADC-1 Channel+ADC-2 Channelの1次元ヒストグラムを作成す る。このヒストグラムを作成することは図6.20のように2次元プロットを分割する ことに対応する。

2. 2つのNaI検出器でのエネルギーの和が662 keVとなる部分がピークとなるので、

その部分を決定する。この部分は、図6.15での黒枠にあたる。

3. 図6.19のように前に決定したエネルギー和が662 keVとなる部分からADC-1 Chan-nel - ADC-2 ChanChan-nelの1次元ヒストグラムを作成する。このヒストグラムは図6.21 のように2次元プロットを分割することに対応する。

図 6.18: θ= 45のときのADC-1+ADC-2 Channelのヒストグラム

図 6.19: θ = 45のとき、ADC-1+ADC-2 Channelのヒストグラムで定めたピークの範 囲内でのADC-1ADC-2 Channelのヒストグラム

4. 図6.19のピークの部分を決定する。このピークは図6.15での赤枠に対応する。

この方法によって決定したADC-Channelの範囲を表6.1に示す。決定されたピークの 範囲についてADC-1 Channel側もしくはADC-2 Channel側へ射影して、ピークエネル

図6.20: ADC-1+ADC-2 Channelのヒストグラムの2次元ADCプロットにおける意味。

黒い枠ごとに1 binとして分割されてヒストグラムとなる。黒い矢印はADC-1+ADC-2 Channelのヒストグラムでのx軸に対応する。データはθ= 45における測定結果。

表 6.1: 各角度θにおけるピークのADC Channelの値 角度θ () ADC-1 + ADC-2 channel ADC-1 ADC-2 channel

30 390 – 450 390 – 270

45 390 – 450 270 – 160

60 395 – 450 165 – 50

75 395 – 450 55 – 40

90 395 – 450 10 – 105

図6.21: ADC-1ADC-2 Channelのヒストグラムの2次元ADCプロットにおける意味。

黒い枠はADC-1+ADC-2 Channelのヒストグラムで定めたピークの範囲を示している。

ADC-1ADC-2 Channelのヒストグラムはこの黒い枠を赤い枠のように分割して1 bin としたヒストグラムである。黒い矢印はADC-1ADC-2 Channelのヒストグラムでのx 軸の方向を示している。データはθ = 45における測定結果。

図 6.22: NaI検出器で検出されたγ線のエネルギー。

ギーの平均値を求めることができる。エネルギーの平均値Emeanは次式で与えられる:

Emean =

iEini

ini

ただし、iは射影した1次元ヒストグラムでのbinの番号であり、Eini は各binでの エネルギーおよび計数である。各角度θについてピークのエネルギーの平均値を

ADC-1、ADC-2 Channelについて求めると図6.22のようになる。ここで、エネルギーの誤差

Emean は計数の誤差σniとエネルギー較正式p0+p1×Channeliの誤差を伝搬させて得 ている。エネルギーの平均値は、

Emean =

iEini

ini

=

i(p0 +p1×Channeli)

ini

=p0+p1

iChanneli·ni

ini であるから、その誤差は、

2Emean =σ2p0 + (∑

iChanneli·ni

ni

)2

σ2p1 +∑

i

p1

iChannel i·ni ini

∂ni

2

( ni)2

=σ2p0 + (∑

iChanneli·ni

ini

)2

σ2p1 +p21 (∑

iChannel2i ·ni (∑

ini)2 (∑

iChanneli·ni)2 (∑

ini)3

)

と求められる。

この図6.22からNaI検出器1で検出されたエネルギーと3.1節で求めたコンプトン散 乱における反跳電子のエネルギーがおよそ一致していることがわかる。NaI検出器2で 検出されたエネルギーとコンプトン散乱後の光子のエネルギーがおよそ一致しているこ ともわかる。

このことはγ線がNaI検出器1でコンプトン散乱したときに反跳電子に与えたエネル ギーがそのままNaI検出器1で検出されていることを示す。また、散乱された光子はNaI 検出器2で全吸収されるが、そのときのエネルギーがNaI検出器2で検出されているこ とも示す。NaI検出器1で検出されたエネルギーは理論値より20-30 keV程度ずれている が、エネルギー較正のズレなどがその原因として考えられる。

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