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薬剤抵抗性発達を予測するシミュレーションモデル 薬剤抵抗性の遺伝子頻度が各種防除条件下で空間的,

ドキュメント内 平成29年度植物防疫研究課題の概要 (ページ 66-69)

野  田  隆  志 中  島  信  彦

5 薬剤抵抗性発達を予測するシミュレーションモデル 薬剤抵抗性の遺伝子頻度が各種防除条件下で空間的,

経時的にどのように増減するかを推定するには,シミュ レーションモデルを使った検証が有効である。そこで薬 剤ローテーションや混用が抵抗性の発達遅延に及ぼす効 果の評価や抵抗性の顕在化を予測するために必要なサン プリング精度の決定,さらに薬剤抵抗性管理を踏まえた 防除手段の選択に必要な抵抗性発達リスクレベルの評価 基準を決定するため,害虫別の課題と協力して研究を実 施している。

III QoI剤耐性イネいもち病菌対策マニュアルの策定

ミトコンドリア電子伝達系に作用するストロビルリン 系殺菌剤(QoI剤)は,野菜の各種病害のほか,長期残 効型の育苗箱処理剤としてイネのいもち病防除に広く使 用されてきた。しかし,耐性菌の出現が各地で報告され るようになったため,耐性遺伝子の解析と遺伝子診断技 術に基づいた耐性菌対策ガイドラインが日本植物病理学 会殺菌剤耐性菌研究会から公表され2014年6月に改訂 されている(http://www.taiseikin.jp/guidelines/)。本プ ロジェクトでは,このガイドラインの考え方を踏まえ て,QoI剤耐性イネいもち病菌発生の高精度モニタリン グ技術,発生・伝搬を予測するシミュレーションモデル の開発を行い,耐性菌の発生程度が異なる地域における 耐性を考慮した防除体系の研究を,害虫研究に先駆けて 実施した。

モニタリング調査では,QoI剤の使用中止後に耐性菌 株分離率が低下するデータが得られており(稲田・菖蒲,

薬剤抵抗性対策研究の取り組み状況と期待される成果 351

2015;石井,2015),適応度コストが確認できれば将来

的に再使用も可能となるかも知れない。SSRマーカーを 用いた耐性菌遺伝子型プロファイリングの結果による と,少なくとも北部九州地域では,一つのクローナルグ ループの耐性菌が分布しており,種子で発生拡大した可 能性が高いことがわかった。また,薬剤耐性イネいもち 病菌変動予測モデルのソフトウェアを作成し,パラメー タの感度分析を行ったところ,QoI剤の使用面積の制限 や種子消毒の徹底が耐性菌対策として有効であることが わかった。さらに統計データの解析から抵抗性発達には オリサストロビン(箱処理剤)の普及(=累積使用面積 率)が関係していることが示唆され,「QoI剤使用面積 の管理」が耐性菌対策上のポイントとなるため,対策を 講じるうえでは種子流通範囲を管理区域に設定すること が基本になる。QoI剤以外の各種薬剤の防除効果を調べ たところ,耐性菌発生条件下でも他系統薬剤はいずれも 有効であった。3年間にわたって行われた防除体系の構 築と実証試験の結果を踏まえると,以下の組合せの対策 を講じることにより,耐性菌発生地域でも高い防除効果

が得られると考えられる:①購入種子の使用,②種子消 毒の徹底(ベノミル加用),③他系統の育苗箱処理剤,

④葉いもち初発時の防除,⑤穂いもちの適期防除。課題 の取りまとめを担当した農研機構中央農業研究センター は,これらの研究成果を基に図―2に示したフローチャ ートに基づくQoI剤耐性イネいもち病菌対策マニュア ル を 策 定 し て ホ ー ム ペ ー ジ で 公 表 し て い る(http://

www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/pub2016_or_later/

laboratory/narc/073008.html)。

お わ り に

薬剤抵抗性プロジェクトは,平成28年度で終了した 耐性いもち病菌の課題を除いて,現在薬剤抵抗性管理ガ イドライン案の実証段階に入っている。遺伝子診断法に ついては,今後複数の主要薬剤について抵抗性リスクレ ベルを同時にモニタリングできる遺伝子診断法の開発が 見込まれ,講習会などを通じて全国の病害虫防除所,普 及センター等で活用されることが期待される。遺伝子診 断による薬剤抵抗性系統検出の最大の長所は,抵抗性害

図−2 いもち病菌の薬剤耐性菌管理のためのフローチャート

①発生量と使用面積のデータを分析することにより耐性菌発生リスクを把握す る.②モニタリング調査結果から判定される耐性菌拡大リスクに基づき対策案を 提示する.

対象剤使用 面積割合

耐性菌発生 状況 管理区域の設定

殺菌剤の使用実態

モニタリング調査

全面的使用中止

代替防除体系

モニタリング継続

使用継続 経過観察 一定面積未満

一定面積以上

耐性菌検定法

限定的に検出 検出なし

高頻度で検出

使用再開の判断へ 部分的使用中止

情 報 収 集 と

発 生 予 測

モ ニ タ リ ン グ と 耐 性 菌 検 定

リ ス ク 評 価 と 耐 性 菌 対 策

虫が発生していることをいち早く検出し,被害が拡大す る前に対策を講じる時間を確保できるようになることで ある。抵抗性の遺伝子診断法による調査技術が普及すれ ば,生物検定法による感受性検定や発生予察と同レベル の調査項目に位置づけることが可能になるだろう。

本プロジェクトで開発する薬剤抵抗性管理ガイドライ ン案は,実証試験の結果を踏まえてプロジェクト期間中 に基本ガイドラインの策定を終わる予定であるが,実際 に運用するためには薬剤ローテーションに取り入れる剤 の選定や使用頻度・間隔,代替防除技術の組み込み等,

地域の栽培体系に合わせたカスタマイズが必要になる。

また新規剤の上市や病害虫の発生実態の変化に応じてガ イドラインを継続的に改良していくことも重要である。

将来的には,IPM防除体系の重要パーツとして,薬剤 抵抗性管理の考え方を組み込むことにより,抵抗性発達 の大幅な遅延が実現することを期待したい。

引 用 文 献

1)浅野美和ら(2016): 第60回日本応用動物昆虫学会大会講演要

旨集 : p.17.

2 GUO, L. et al.2014: Sci. Rep. 4 : 6924.

3) HIRATA, K. et al.(2015): J. Pestic. Sci. 40 : 2531.

4)今村剛士・國本佳徳(2016): 奈良農研開セ研報 47 : 3436.

5)稲田 稔・菖蒲信一郎(2015): 植物防疫 69 : 545548.

6 IRAC2012: IRAC Susceptibility Test Method 005.

http://www.irac-online.org/methods/nilaparvata-lugens-nephotettix-cincticeps-adults/

7)石井貴明(2015): 植物防疫 69 : 549553.

8石川隆輔ら(2015: 21回農林害虫防除研究会講演要旨集 : p.12.

9)國本佳範・今村剛士(2016): 関西病虫研報 58 : 1316.

10)松村正哉(2015): 植物防疫 69 : 1317.

11松浦 明ら(2016: 60回日本応用動物昆虫学会大会講演要 旨集 : p.19.

12)中村有希ら(2016): 同上 : p.18.

13)日本植物防疫協会(2016): 農薬要覧,日本植物防疫協会,東京,

774 pp

14)坂田和之ら(2016): 第60回日本応用動物昆虫学会大会講演要 旨集 : p.233.

15)武澤友二(2012): 北日本病虫研報 63 : 184188.

16 TSUJIMOTO, K. et al.2016: Appl. Entomol. Zool. 51 : 155160.

17) UCHIYAMA, T. and A. OZAWA(2014): ibid. 49 : 529534.

18)内山 徹・小澤朗人(2016): 植物防疫 70 : 309312.

19) ら(2016): 第21回農林害虫防除研究会講演要旨集 : p.10

ドキュメント内 平成29年度植物防疫研究課題の概要 (ページ 66-69)