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栢  森  美  如

ドキュメント内 平成29年度植物防疫研究課題の概要 (ページ 47-53)

道総研十勝農業試験場 植物防疫基礎講座:

植物病原菌の薬剤感受性検定マニュアル2016

A

D E F

B C

図−1 PDA培地上での菌叢(20℃暗黒下で7日間培養)

AD:ジカルボキシイミド耐性M. fructicola,E:感受性M. fructicola,

F:感受性M. fructigena.

A,Bは分生子形成量が少ない菌株.CFM. fructigenaのように菌 叢周縁部に切れ込みがあり,生育が遅延している.

接種6日目

接種8日目

A B C

A B C

図−2 リンゴ果実に対する有傷接種での分生子形成様式(20℃,暗黒下で 6日間および8日間培養)

A:ジカルボキシイミド耐性M. fructicola,B:感受性M. fructicola,

C:感受性M. fructigena.

上記は一例であるが,耐性菌には生育が遅い菌株や分生子形成量が少 ない菌株が散見される.

(17)ジカルボキシイミド系薬剤耐性オウトウ灰星病菌(Monilinia fructicola) 333 周縁部に切れ込みを生じる。寒天培地から墨汁に似た特

徴的な匂いを発する。M. fructicolaと比較して菌糸生育 速度が若干遅く,PDA上では分生子形成はわずかである。

(2) リンゴ果実への有傷接種

PDA培地上で前培養したMonilinia属菌をコルクボー ラーで打ち抜き,リンゴ果実表面に同じ大きさ(あるい はやや大きい)のコルクボーラーで穴をあけ,寒天ディ スクを埋め込む。20℃の湿室に静置し,約1週間後に分 生子塊の形成状況を観察する(図―2,口絵②)。

M. fructicola:感染した部位は水浸状に変化することか

ら判断できるが,分生子塊は接種部位の周囲に局在する ことが多い。分生子塊は粉っぽく灰色を呈する。ただし,

ジカルボキシイミド系薬剤に対して耐性を獲得した一部 の菌株は分生子塊の形成が少なかったり遅れたりする。

M. fructigena:分生子塊は接種部位から遠く,水浸状

に変化した周辺部にも形成される。分生子塊はマット状 で,M. fructicolaに比較して白い。

(3) 遺伝子診断

CÔTÉ et al.(2004)が開発した種特異的プライマーが利 用できる(表―1)。プライマー配列のリバース側は3菌種 とも共通で,フォワード側が種ごとに異なるように設計

されている。原著によるとprimer MO368―8R/MO368―5 で 増 幅 さ れ る 種 はM. fructigenaM. polystoromaの2 種となっているが,これらの増幅産物のサイズには

23 bpの違いしかないので,増幅断片のサイズから判別

するのは困難である。近年,M. fructigenaの一部を独立

M. polystoromaに移すという提案があったが,日本国

内においては詳細に検討されておらず,本稿でも広義の

M. fructigenaとして扱っている。なお,増幅産物はM.

fructicolaは535 bp,M. fructigenaは402 bp,M. laxaは 351 bpであるので,multiplex―PCRによって容易に識別 できる(図―3)。

III 感受性検定方法 1 寒天希釈平板法

検定培地にはPDA培地を用い,オートクレーブ後に 所定の濃度の薬液を加用する。薬剤は市販のプロシミド ン 水 和 剤,イ プ ロ ジ オ ン 水 和 剤 を 用 い る。供 試 菌 を 20℃,4日間前培養したのち,菌叢周縁部を4 mmのコ ルクボーラーで打ち抜き,この菌叢表面が培地に接する ように置床する。その後,20℃で2日間培養し,菌叢直 径を計測して,50%生育阻害濃度(EC50)を求める。

表−1 Monilinia属菌を同定する特異的プライマー

菌種 プライマー名 プライマー塩基配列

M. fructicola MO368―10R 5―AAG ATT GTC ACC ATG GTT GA―3

MO368―5 5―GCA AGG TGT CAA AAC TTC CA―3

M. fructigena MO368―8R 5―AGA TCA AAC ATC GTC CAT CT―3

MO368―5 5―GCA AGG TGT CAA AAC TTC CA―3

M. laxa Laxa―R2 5―TGC ACA TCA TAT CCC TCG AC―3

MO368―5 5―GCA AGG TGT CAA AAC TTC CA―3 反応条件は95℃2分,(95℃15秒,60℃15秒,72℃1分)×35サイクル,72℃3分.

リバース側プライマーは共通.

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20

図−3 Multiplex PCRによる判別

Lane118:検定サンプル(5M. fructigena,ほかはM. fructicola),Lane19:Control(M. fructicola),Lane20:Control

M. fructigena.2010年北海道分離96菌株のうち,Lane51菌株のみがM. fructigenaであった.

検定濃度は,モニタリングが目的の簡易検定であれば 幅を持たせた希釈段階でも問題はないが,EC50の精度を 上げるには2倍ごとの希釈が望ましい。筆者はMIC(最 小生育阻止濃度)も検討したため01.02.03.97.8 15.631.262.51252505001,0002,000 mg/lで 実施したが,EC50だけを求めるのであれば0〜125 mg/l

の間で十分である。

イプロジオンではEC50が高い耐性菌でもMICが低い 菌株が存在する(木曽・山田,1998)。このため,ジカ ルボキシイミド系薬剤耐性菌の判別にMICは用いず,

EC50を用いることが適切とされる。

代表的な菌株の各濃度における生育割合を図―4に示し

120 100 80 60 40 20 0

120 100 80 60 40 20 0 2 7.8 31.2 125 500 0

EC50=0.16

EC50=8.22 EC50=3.73 EC50=0.11

0 2 7.8 31.2 125 500 120

100 80 60 40 20

0 0 2 7.8 31.2 125 500

120

100 80 60 40 20

0 0 2 7.8 31.2 125 500

120 100 80 60 40 20

0 0 2 7.8 31.2 125 500

120

100 80 60 40 20

0 0 2 7.8 31.2 125 500

EC50=3.81 EC50=2.36

プロシミドン濃度(mg/l) イプロジオン濃度(mg/l)

F201

(S)

M72

(M)

M171

(R)

菌糸伸長率

図−4 薬剤添加培地上におけるオウトウ灰星病各菌株の反応

R=耐性菌,S=感受性菌(ベースライン菌株)

40 35 30 25 20 15 10 5 0

0.000.10 0.110.20 0.210.30 0.310.40 0.410.50 0.510.60 0.610.70 0.710.80 0.810.90 0.911.0 1.12.0 2.14.0 4.1

40 35 30 25 20 15 10 5 0

0.000.10 0.110.20 0.210.30 0.310.40 0.410.50 0.510.60 0.610.70 0.710.80 0.810.90 0.911.0 1.12.0 2.14.0 4.1

EC50(mg/l)

EC50mg/l)

プロシミドン

(n=95)

イプロジオン

(n=95)

菌株数 菌株数

図−5 オウトウ灰星病菌(M. fructicola)に対するEC50の分布(2010年北海道分離株)

耐性菌はプロシミドンで16菌株(17%),イプロジオンで16菌株(17%)であり,

それぞれ同一の菌株であった.

(17)ジカルボキシイミド系薬剤耐性オウトウ灰星病菌(Monilinia fructicola) 335

た。EC50に大きな違いはないものの,イプロジオンのMIC 値は,M72株が500 mg/l以上,M171株では31.2 mg/l である。中には中程度の濃度で生育しないが,高濃度で 再び生育する菌株もあり,灰色かび病菌などでは,ポリ モーダル生育と呼ばれている(木曽・山田,1998)。

北海道で分離した菌株に対するEC50を並べると2峰 性を示した(図―5)。この結果からEC50が1.0 mg/l以上 を耐性菌とする。

一般に,ジカルボキシイミド系薬剤に属する薬剤に対 する耐性菌では交差耐性が認められると言われている。

本病原菌においてもプロシミドンとイプロジオン間にこ の現象が認められた(図―6)。2010年の北海道分離株で はプロシミドンのEC50が最大で8.22 mg/l,イプロジオ ンのEC50が最大で11.56 mg/lと範囲が狭く,近似曲線 を引くことはできないが,プロシミドンのEC50が1 mg/l 以上であれば,イプロジオンでもEC50が1 mg/lを超え ており,対数グラフの右上に耐性菌がすべてプロットさ れてくる。このことから,耐性菌をモニタリングする際 は,いずれか1剤による検定が可能である。またその際,

ポリモーダル生育を起こさないプロシミドンで実施する と判定しやすい。

2 生物検定

オウトウ灰星病は防除回数・防除薬剤が多く,実用場 面で防除効果が低下していても原因薬剤を特定できない ため,生物検定による検証が必要となる。

(1) 薬剤処理および接種用果実の準備

栽培中に散布される他の殺菌剤の影響を極力なくすた め,検定に用いる果実を生産する圃場では,薬剤散布を 制限する(筆者は幼果菌核病の防除も兼ねてフェンブコ ナゾール22%水和剤5,000倍液を接種の46日前に1回

のみ散布した)。なお,無処理区では健全果実の採取率 は著しく低いため,試験区の設定にあたり多めに樹数を 確保することが望ましい。

効果を判定する試験薬剤(プロシミドン50%水和剤,

イプロジオン50%水和剤)は,登録倍率(両薬剤とも 1,000倍)に希釈し,1週間間隔で6回散布した(5/24 31,6/7,14,21,28)。果実が熟すよりも早めに収穫(7/3)

し,収穫果実を水洗いすると裂果が生じやすくなるた め,そのまま以下の接種試験に用いた。

(2) 接種方法

接種源としてPDA培地上に形成された分生子を用い る。PDA上で分生子形成量が多い菌株を選ぶとよいが,

どうしても分生子が少ない菌株ではリンゴ果実上で培養 す る と 分 生 子 を 得 や す い。分 生 子 懸 濁 液 は1× 105conidia/mlに調整した。

接種後,高湿度条件で密閉することから,プラスチッ ク箱(衣装ケース)の中で作業すると効率がよい(図―7,

口絵③)。果実同士が触れないよう網目の台(例:試験 官立て)に果実を置床し,分生子懸濁液を噴霧接種する。

湿度が足りなければ霧吹きで加湿した後,密閉し,15℃ で7日間静置する。高湿度状態を保つために,途中で何 度か霧吹きで加湿する。

7日後に発病果数を調べ,発病果率,防除価を求める。

また,果実が圃場ですでに自然感染している可能性があ るため,菌の再分離を行い,改めて検定により薬剤の EC50を求める。

(3) 結果と考察

本検定方法を用いた試験結果を図―8に示した。プロ シミドンでは,M72,M171の2菌株とも薬剤の効果が ほとんど認められない結果となった。一方,イプロジオ ン で は,MIC値 が 異 な る 接 種 菌 株(M72500 mg/l,

0.01 0.10 1.00 10.00

0.01 0.10 1.00 10.00 100.00

S R

Iprodione EC50(mg/l)

Procymidone EC50mg/l

図−6 プロシミドンとイプロジオン感受性の相関関係

図−7 試験管立てに果実を並べて静置した例(M171株接 種:左上/プロシミドン処理,右上/イプロジオン 処理,左下/無処理)

M17131.2 mg/l)を用いたところ,M72に対する防除 価は0,M171では54と差異が見られた。ただし,本病 害の実防除を考えると防除薬剤には防除価90以上が求 められる。したがって,防除価が50台では十分に実用 的な効果があるとは言えず,両者とも耐性菌として扱う のが妥当である。

IV 検定上の留意点

感受性菌であればMonilinia属菌の種はPDA上での 培養性状や,リンゴへの有傷接種だけで同定が可能であ るが,ジカルボキシイミド系薬剤耐性菌は分生子形成能 が低いことがあるため,PDA上あるいはリンゴ果実上 の培養性状だけでの判別は困難となる。分生子形成が少 ない菌株については遺伝子診断による同定を推奨する。

V 今 後 の 課 題

ジカルボキシイミド系殺菌剤は,オウトウ灰星病の防 除薬剤として長く使用されてきた。2001年に実施した

耐性菌モニタリングで本剤に対する感受性低下が確認さ れなかったことから,重点防除時期で使用され,年に2

〜3回以上散布されるケースもあった。本剤耐性菌の出 現以降は,作用機構の異なる新規薬剤の登録拡大が進め られ,ジカルボキシイミド剤に依存しない防除体系を組 むことが可能となっている。ただし,新規系統である QoI剤やSDHI剤は耐性菌リスクが高いことから,ロー テーション散布を正しく行うとともに,各種薬剤につい て耐性菌のモニタリングを継続する必要がある。

引 用 文 献

1 CÔTÉ, M. J. et al.2004: Plant Dis. 88 : 12191225.

2) ELMER, P. A. G. and R. E. GAUNT(1994): Plant Pathol. 43 : 130 137.

3) HARADA, Y. et al.(2004): J. Gen Plant Pathol. 70 : 297307.

4栢森美如ら(2014: 北日本病虫研報 65 : 98100 5)木曽 皓・山田正和(1998): 植物防疫 52 : 2833.

6) LIM, T. H. et al.(1998): Korean J. Plant Pathol. 14 : 367370.

7) PENROSE, L. J. et al.(1985): Plant Pathol. 34 : 228234.

8 SZTEJNBERG, A. and A. L. JONES1978: Phytopathology News 12 : 187188.

0 50 100

無散布 プロシミドン イプロジオン

F201(S)

0 50 100

M72(R)

0 50 100

M171(R)

図−8 感受性が異なるオウトウ灰星病菌に対するジカルボキシイミド系薬剤の防除効果(カラムは発病度)

ドキュメント内 平成29年度植物防疫研究課題の概要 (ページ 47-53)