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I ナシ病害の発生状況
ナシ炭疽病(病原菌:Colletotrichum gloeosporioides)
はʻ豊水ʼやʻ新高ʼ等の葉に発生し,多発時には早期落葉 により樹勢や果実糖度の低下を引き起こす病害である。
初報告は1912年(黒澤,1912)と古いものの,その後,
目立った報告はなかった。しかし,2000年代に入り,
秋田県,北部九州地域,高知県,千葉県(深谷・高橋,
2000;田代ら,2000;矢野ら,2002;金子ら,2010)等 で多発生が報告され,再び問題となっている。大分県で は2006年に多発し,特に導入を推進していた新品種ʻ豊 里ʼで激しい早期落葉が発生した。
大分県でのQoI剤耐性菌は2012年に県内の一部地域 で確認され,発生の拡大防止のため防除体系の改善や QoI剤の使用制限等の措置が行われた。
II 検定材料の採取・分離・培養
耐性菌は園地内に偏在していることがあるので,検定 を行う罹病葉は圃場全体からまんべんなく採取し,1罹 病葉から1菌株を分離する。病斑は,常法により表面殺 菌後,PDA平板培地で25℃・暗黒条件下で培養し,生 育した菌そう先端部分を素寒天平板培地に移植する。さ らに数日培養を行った後,実体顕微鏡下で単菌糸分離を 行いPDA斜面培地で室温(25℃)保存する。なお,菌 そうは外観が多様なうえに,雑菌としてよく分離される アルタナリア属菌などと区別がつきにくいので,斜面培 地上で培養後,鮭肉色の分生子塊(図―1,口絵①)を確 認できた菌株を保存する。
III 培 地 検 定
1 検定培地
稲田(2009)の方法により,PDA培地を基本培地と
し溶解・滅菌後50〜60℃に冷まし,サリチルヒドロキ サム酸(SHAM)1,000 ppmと,アゾキシストロビンを 3,200 ppmから9段階に1/2段階希釈した溶液を添加し た培地を使用する。なおSHAMは培地に溶けにくいた め,事前に少量のアセトンや滅菌水で溶解した後,培地 に添加する。
2 検定方法
供試菌株をPDA平板培地で25℃・暗黒条件下で5日 程度培養し,伸長した菌叢先端部を直径6 mmのコルク ボーラーで打ち抜き,菌叢面を下にして検定培地に移植 する。25℃で4日間培養した後に菌叢伸長の有無を調査 し,各菌株の最小生育阻止濃度(MIC)を求める(図―2)。
本病原菌に対する最小生育阻止濃度(MIC)を調査し た結果,MICは0.39 ppm以下と3,200 ppm以上に分か れた(図―3)。これらの菌株を用いた接種試験および PCR―RFLP解析の結果,MICが0.39 ppm以下の菌株に 対しては,QoI剤は高い防除効果を示し遺伝子変異は認 められなかったが,3,200 ppm以上の菌株に対しては,
QoI剤の防除効果は低く遺伝子に変異(G143)が認め られた(データ省略)。このことから,ナシ炭疽病菌の QoI剤耐性菌の検定は,SHAM 1,000 ppmに加えアゾキ Methods for Detecting QoI Fungicide Resistance in
Colletotri-chum gloeosporioides (Japanese pear Anthracnose). By Hisayoshi WATANABE
(キーワード:QoI剤耐性菌,ナシ炭疽病菌,感受性検定法,生 物検定法)
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― QoI 剤(生物・培地検定)―
シストロビン剤を100 ppmになるよう添加したPDA平 板培地での菌叢伸長の有無によって,簡易な判定が可能 と考えられた。
IV 生 物 検 定 1 胞子形成法
胞子形成培地は井手・田代(2004)の方法により,蒸
留水1l,リン酸二カリウム(K2HPO4)1 g,硫酸マグネ
シウム(MgSO4)0.5 g,ペプトン5 g,ラクトース10 g, 寒天粉末30 gを溶解・滅菌後,斜面培地とする。
病原性を確認した供試菌株を上記の胞子形成培地に移 植し,蛍光灯を照射して25℃で7日程度培養して得ら れた分生子を,滅菌水で1×105個/mlに調製して懸濁 液とする。
2 室内での接種法
室内での接種には井手・田代(2004)による挿枝を使 図−2 検定培地における感受性菌と耐性菌の菌糸生育
状況(25℃ 4日間)
検定培地:アゾキシストロビン100 ppm(SHAM 1,000 ppm加用).上:耐性菌,下:感受性菌.
20
n=30
(0) (0) (0) (0) (0) (0) (0)
1.56 6.25 0.39
0.1< 25
MIC(ppm)
100 400 800 1,600 <3,200
18 16 14 12 10 8 6 4 2 0
菌株数
図−3 大分県におけるナシ炭疽病菌のアゾキシストロビン剤に対するMIC分布(SHAM 1,000 ppm加用)
25
20
15
10
5
0
なるみ 愛宕 新高 豊里 豊水 筑水
あけみずあきづき晩三吉 秋麗 愛甘水はつま
る 甘太 懍夏 幸水 新興 王秋 喜水 若光
ほしあか り
ゴールド二 十世紀 なつしずく 大分果
研2号 a
ab
abc abc bcd
bcd cd cd
bcd d cd d
d d d d (0)(0)(0)(0)(0)(0)(0)
平均病斑数︵
1㎠︶
図−4 室内接種におけるナシ各品種の炭疽病発病状況
同一英小文字を付した平均値間にはTukey―Kramer testにより有意差(5%)がない.バーは標準誤差を示す.
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用した方法もあるが,筆者は葉のみを使用して接種を行 った。
病斑の形成は品種間差が大きいので(図―4),ʻ豊水ʼ など発病しやすい品種を供試する。
炭疽病の発生が確認されていない圃場で,硬化が終了 した健全葉を採取し,水道水に6時間浸漬後,流水で洗 浄し,70%アルコールに1分間浸漬後風乾する。その後 ハンドスプレーを用いて供試葉の裏面全面に分生子懸濁 液を噴霧接種し,水道水で湿らせたキッチンタオルを敷 いたタッパ内に密封し,25℃で加湿条件を保つ(図―5, 口絵②)。接種5〜10日後に病斑数を計測するが,1枚 の葉でも病斑が偏在することが多いので(図―6,口絵
③),病斑の多い箇所2 cm×5 cmの範囲の病斑数を計 測する。
なお,供試する葉は,春先の硬化が終わる前や,晩秋 の老化したものでは病斑を形成せずに腐敗することが多 かったため,採取時に注意する必要がある。
3 殺菌剤の防除効果試験
薬剤の防除効果の判定については,筆者は次のような 試験を実施した。
(1) 室内での防除効果試験
2010年10月14日に場内圃場ʻ豊水ʼの新梢または花 そうの硬化した葉を採取し,前述した方法で洗浄とアル コール殺菌を行った後,表―1に示した供試薬剤(常用 濃度の70%)に1分間浸漬してから薬剤風乾直後に分 生子懸濁液を噴霧接種し,水道水を含ませたキッチンタ オルを敷いたタッパ内に密封して加湿状態を保った。5
日後に病斑が多く発生した部分の2 cm×5 cmの範囲の 病斑数から防除価を求めた(表―1)。本試験は,QoI剤 感受性菌のみを用いた試験であるため,耐性菌に対する QoI剤の防除効果を評価していないが,耐性菌であって も本法により感受性の把握が可能と考えられる。なお,
今回の試験では供試薬剤を常用濃度の70%で処理を行 ったが,新たに薬剤の効果判定を行う場合は常用濃度で 処理することが望ましい。
(2) 圃場での防除効果試験(室内接種)
場内圃場ʻ豊水ʼに,2010年9月9日と22日の2回,
アゾキシストロビン10%フロアブル(2,000倍)を動力 噴霧機で十分量散布した。10月6日(最終散布14日後)
に供試樹の新梢または果叢の硬化した葉を採取し,室内 での接種試験に供試した。ナシ炭疽病菌と同定された3 菌株(QoI剤耐性菌2菌株,QoI剤感受性菌1菌株)の 分生子を,各区5葉に噴霧接種し,25℃のタッパ内の湿 室条件で9日間保管し,発病を促した後,病斑が多く発 生した部分の直径2 cmの範囲の病斑数から防除価を算 出した。
その結果,3菌株とも無処理区での発病が認められ,
病原性が確認された。また,防除効果は,調査葉数が少 ないものの,QoI剤感受性菌の1―7株では防除価が99.6 で優れた防除効果が得られたのに対し,QoI剤耐性菌の 3―1株では7.6,3―2株では65.5と,QoI剤感受性菌株 に比べ防除効果が低かった(表―2)。これらの結果から,
本法によりQoI剤に対する感受性の把握が可能と考え られる。
図−5 炭疽病菌分生子を噴霧した後のナシ葉への接種状況 図−6 接種後のナシ炭疽病の病斑発現状況(品種:ʻ豊里ʼ)
V お わ り に
大分県では1998年にナシの防除にストロビルリン系 薬剤が導入され,12年後の2010年には本系統薬剤耐性 の炭疽病菌が初確認された。この間,ストロビルリン系 薬剤は無袋栽培ナシの梅雨期から収穫前防除のポイント となる薬剤に位置づけられ,炭疽病のほか,黒星病,輪 紋病,うどんこ病といった病害に対する同時防除薬剤と して県内で広く使用されてきた。
炭疽病のQoI剤耐性菌が確認された地域では,スト ロビルリン系薬剤の過度な連用が行われており,黒星病 など他の重要病害での耐性菌発生リスクも高まっている
と考えられている。
今後も産地での薬剤使用および耐性菌発生実態の把握 を行う一方で,各方面の多くの研究成果を,産地に適し た防除体系として生産者に提案し,新たな耐性菌の発生 を起こさない取り組みを強化していくことが大切である。
引 用 文 献
1)深谷雅子・高橋 功(2000): 日植病報 66 : 99(講要). 2)井手洋一・田代暢哉(2004): 同上 70 : 1〜6.
3)稲田 稔(2009): 植物病原菌の薬剤感受性検定マニュアルII,
日本植物防疫協会,東京,p.96〜99.
4)金子洋平ら(2010): 日植病報 76 : 282〜285.
5)黒澤良平(1912): 植物学雑誌 26 : 359〜360.
6)田代暢哉ら(2000): 日植病報 66 : 261〜262(講要). 7)矢野和孝ら(2002): 同上 69 : 72(講要).
表−1 室内試験でのナシ炭疽病菌に対する各殺菌剤の防除効果
供試薬剤 試験濃度
(倍) 供試葉数 調査
葉数 発病葉数 発病葉率
(%)
平均
病斑数 防除価 アゾキシストロビン10%F 1,400 11 8 0 0 0 100
ジチアノン42%F 1,400 12 12 0 0 0 100
無処理 13 9 7 77.8 41.9
a) F:フロアブル.
b) 貯蔵中に腐敗した葉は発病葉から除外した.
c) 防除価は平均病斑数より算出.
注)使用した菌株:ストロビルリン感受性.
a) b)
c)
表−2 ナシ炭疽病の各菌株を接種した葉でのアゾキシストロビン剤の防除効果(野外で薬剤を散布したナシ葉を供試)
菌株No. アゾキシストロビン10%F(2,000倍) 無散布
調査葉数 発病葉率(%) 平均病斑数 防除価 調査葉数 発病葉率(%) 平均病斑数
3―1 4 75.0 24.8 7.6 5 100 26.8
3―2 5 60.0 5.6 65.5 4 100 16.3
1―7 5 20.0 0.2 99.6 5 100 56.8
a) アゾキシストロビン100 ppm(SHAM添加)培地での菌糸伸長あり.
b) アゾキシストロビン100 ppm(SHAM添加)培地での菌糸伸長なし.
c) 防除価は平均病斑数より算出.
c)
a)
a)
b)