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薬剤ローテーション

ドキュメント内 平成29年度植物防疫研究課題の概要 (ページ 60-63)

山  本  敦  司

1 薬剤ローテーション

クラシカルな理論的研究では,ローテーション散布に は,「組合せる薬剤に交差抵抗性がないこと」と「使用 中止で感受性が回復すること」が二つの前提条件となる

(GEORGHIOU, 1983)。しかし現実的には,この2条件のハ

ードルは高すぎる。したがって,作物生産現場では理論 的な2条件を満たすことのみにはこだわらず,現場で使 用可能な作用機構の異なる複数の薬剤を,できるだけ長 期に確保するほうが得策とも言える(山本,2015)。

持続的な病害虫制御を見据えた薬剤抵抗性管理と新規の殺菌剤・殺虫剤の開発 345 岩手県のりんご栽培における殺ダニ剤の隔年ローテー

ションの事例では(鈴木,2010),1985年当時の新規殺 ダニ剤ヘキシチアゾクスとシヘキサチンを基幹剤として 隔年使用することが県防除指針で指導された。その結 果,両剤を隔年使用しても抵抗性発達は回避できない が,毎年連用した場合に比較すると発達の割合が非常に 穏やかであることは明らかであった。この隔年使用の指 導は現在でも継続されているが,新規薬剤が数年に一度 登録されないと,隔年ローテーション体系の維持は困難 であるとも指摘された。

IRACでは,ブロック式ローテーション法を推奨して いる。これを基本的な考え方とする事例を紹介する。オ ーストラリアのアブラナ科野菜栽培地帯で,コナガ対策 として実施されている事例である(BAKER, 2011;杉井,

2016)。この地域では,従来から官民合同体で地区防除 暦によるローテーション指導を実施し,IRAC作用機構 番号の商品ラベルへの記載も行われている。そのため,

生産者のローテーション防除の意識が定着していた。そ の結果,新規作用機構のジアミド系殺虫剤抵抗性による 極端な防除効果低下は,本系統の使用8年目でも認めら れていない。また,作用点変異G4946Eをマーカーとし た遺伝子診断でも,抵抗性遺伝子が低密度に維持されて いると確認された。

2 IPM技術との連携

生物的防除などのIPM技術を薬剤抵抗性管理に活用 できないだろうか。IPM技術が抵抗性発達を遅延させる 理論的研究や実証研究はないが,“不必要で過剰な”薬剤 を削減するアイデアと研究事例は多数報告されている。

害虫防除分野では,生物的防除資材の利用によって,

過剰な殺ダニ剤使用を削減した事例(柳田,2014,カブ リダニによるナミハダニ防除),天敵を賦活化する指導 事例(BAKER, 2011,BT剤を組込んだコナガ防除暦),お よびIRACによる天敵を組込んだ防除ガイドライン提案 もある。さらに,宮田(2011)が提案した「天敵と農薬 の併用の考え方」に基づき,農薬の天敵影響表(日本生 物防除協議会作成)を充実させながらIPM防除プログ ラムを普及している企業もある。さらに,薬剤抵抗性を 付与した天敵類,例えば昆虫病原性糸状菌(SHINOHARA et al., 2013)や寄生蜂(MATSUDA and SAITO, 2014;西東ら,

2016)等の報告もあり,その実用化も興味深い。

病害防除分野でも天敵微生物の菌類,細菌,弱毒ウイ ルスを利用した生物的防除は薬剤抵抗性管理に期待でき る(百町ら,2015)。また,イネいもち病の事例では,耐 病性遺伝子のマルチラインを利用することにより殺菌剤 の使用量を削減することに成功している(善林,2015)。

VI 次世代へつなぐ薬剤抵抗性管理

薬剤抵抗性管理のアクションを,どのようなタイミン グで実施すべきかを提案する。そのため,薬剤の開発普 及ステージと抵抗性発達の状況を踏まえた薬剤クラス分 類(PRMクラス,図―2)に応じて,薬剤感受性モニタ リングと薬剤抵抗性管理で実施する項目のモデルケース を示す(表―5)。

PRMクラスA:開発中の薬剤であり抵抗性発達はな い。事前の抵抗性リスクの予測が必要である。そのため,

次の項目を開始する。感受性ベースライン把握,抵抗性 検出法の開発,抵抗性の生理生態学的特性の解明,抵抗 性管理ガイドラインの素案。

PRMクラスB:新規の基幹防除剤または候補であり,

販売開始直後〜数年である。防除効果は安定しているも のの,抵抗性の兆しが現場の一部で散見される場合があ る。可能ならばこの段階で,PRMクラスAで提案した 研究が完了していれば望ましい。特に,抵抗性の遺伝様 式や適応度コスト等。それをベースに薬剤抵抗性管理ガ イドラインを組込んだ防除対策を開始する。

PRMクラスC:既存の基幹または補完防除剤。多く

の地域で防除効果が安定しているものの,抵抗性は局在 的に顕在化している。薬剤抵抗性管理ガイドラインを臨 機応変に見直し,継続実施する。感受性回復の実証的調 査も開始する。

PRMクラスD:既存の補完防除剤。抵抗性が広まり

つつあり,地区により防除効果の安定度が異なる。高頻 度の抵抗性遺伝子の検出結果を受けて,問題地区での使 用制限も止むを得ない。しかし,感受性回復による将来 の使用再開を見据えた使用制限が前向きである。

PRMクラスE:新規・既存の基幹または補完防除剤。

新規性の有無にかかわらず抵抗性リスクの低い作用機構 であり,抵抗性誘導剤やマルチサイト剤が相当する。そ して,クラスA〜Dの薬剤との体系使用を推奨する。

以上のような薬剤抵抗性管理のモデルケースを,各現 場で作物/薬剤/病害虫の組合せでカスタマイズするこ とを提案する。薬剤抵抗性対策を次世代へもつなぎ成功 へ導くために,新規の薬剤開発と薬剤抵抗性管理をあら かじめ“セットで考えておく”こと,科学的根拠に基づ いた薬剤抵抗性管理ガイドラインをベースに防除指針・

防除暦を作成し,農業生産者にも具体的で“使いやすく 普及”することも提案する。

お わ り に

最後に,“薬剤抵抗性発達の原因の一つは,ヒューマ

ンエラーである”と謙虚に自省する姿勢を忘れたくな い。持続的な病害虫制御に関して,薬剤を主体とした防 除暦,生物的防除資材を主体とするが薬剤も補完的に使 用するIPMプログラムのいずれも,薬剤抵抗性管理を プロアクティブに考える時代となる。そのため,関係す る組織・各位の連携を今まで以上に強くして現場への普 及に取組みたい。

引 用 文 献

1) BAKER, G. J.(2011): The 6th International Workshop on Manage-ment of Diamondback Moth and Other Crucifer Insect Pest:

241247.

2 Committee on Strategies for the Manegement of Pesticide Resis-tant Pest Populations1986: Pesticide Resistance, National Academy Press, Washington, D.C., 471 pp.

3) FRAC : http://www.frac.info

4 GEORGHIOU, G. P.1983: Pest Resistance to Pesticides, Prenum Press, New York and London, p.769792.

5) and C. E. Taylor(1977 a): J. Econ. Entomol. 70 : 319323.

6) (1977 b): ibid. 70 : 653658.

7 HIRATA, K. et al.2015: J. Pestic. Sci. 401: 2531.

8)百町満朗ら(2015): 日本植物病理学100年史,日本植物病理 学会,東京,p.140142.

9) IRAC : http://www.irac-online.org

10石田達也(2015: 植物防疫 6912: 820824 11) LALÈVE, A. et al.(2013): Environ. Microbiol. : 12282.

12) MATSUDA, K. and T. SAITO(2014): Crop Protection 55 : 5054.

13)宮田将秀(2011): バイオコントロール 15 : 2328.

14野田隆志(2015: 農業および園芸 901: 8995 15)能年義輝(2017): 植物防疫 71(2): 6973.

16)農薬工業会 : 2016農薬出荷実績.

17)日本植物防疫協会 : 農薬要覧19982016.

18 Phillips McDougall2016 a: AgriSer vice Ver.5.07 Products Section : 346 pp.

19) (2016 b): AgriFutura 198. 20)西東 力ら(2016): 植物防疫 70 : 294298.

21 SHINOHARA, S. et al.2013: FEMS Microbiol Lett 349 : 5460.

22) SPARKS, T. C. and R. NAUEN(2015): Pestic. Biochem. Physiol. 121 : 122128.

23)鈴木芳人(2012): 植物防疫 66 : 380384.

24鈴木敏夫(2010: 岩手農研セ研報 10 : 113126 25杉井信次(2016: 農林害虫防除研究会News Letter 37 : 7 26)田辺憲太郎(2013): 農薬時代 195 : 1824.

27)山本敦司(1998): 植物防疫 52(5): 215218.

28) (2012): 日本農薬学会誌 37(4): 392398.

29 2015: 農業および園芸 903: 320330 30)柳田裕紹(2014): バイオコントロール 18 : 7779.

31)善林 薫(2015): 日本植物病理学100年史,日本植物病理学会,

東京,p.146149.

表−5 薬剤の開発・普及ステージと薬剤抵抗性管理の実施タイミング

薬剤 薬剤抵抗性の状況 薬剤抵抗性管理

PRM クラス

開発普及ステージと ポジション

①レベル

②広まり

③防除効果

薬剤感受性

モニタリング アクション

A 開発中

(販売前)

①−

②−

③−

・抵抗性検出法の開発  (生物検定,遺伝子診断)

・感受性ベースラインの把握

〔抵抗性研究:開始〕

 ・作用機構,淘汰試験

 ・抵抗性機構,遺伝様式,適応度,等  ・理論モデルによる抵抗性発達予測

〔抵抗性リスク評価:開始〕

 ・薬剤リスク,病害虫リスク,栽培・防除リスク

〔抵抗性管理ガイドライン:開始〕

 ・素案作成 B 新規の基幹防除剤

(販売開始直後〜数年)

販売:伸長

①無〜低

②無〜兆し

③防除効果が安定

・継続実施  定点設定地区  防除の重要性が高い場所

〔抵抗性研究:完成〕

〔抵抗性リスク評価:完成〕

 ・抵抗性リスク評価表

〔抵抗性管理ガイドライン:完成〕

 ・防除基準・暦への普及 C 既存の基幹・補完防除剤

販売:横ばい〜増

①低〜中

②兆し〜局在

多くの地域で防除効果が 安定

・継続実施

抵抗性レベルによる防除効果 の変動を検証

〔抵抗性研究:継続〕

 ・感受性回復の実証的調査

〔抵抗性管理ガイドライン:継続・修正〕

 ・抵抗性レベルによる使用法調整 D 既存の補完防除剤

販売:横ばい〜減

①低〜高

②局在〜広範

地区により防除効果の安 定度が異なる

・継続実施

抵抗性の広まり程度と,感受 性回復をチェック

〔抵抗性管理ガイドライン:継続・修正〕

 ・問題地区での使用制限  ・再使用の可能性検討

E 新規・既存の 基幹・補完防除剤 販売:伸長〜横ばい

①−

無(抵抗性リスクが低い ため)

③防除効果安定

・継続実施 〔抵抗性研究:実施と完成〕

〔抵抗性リスク評価:実施と完成〕

〔抵抗性管理ガイドライン〕

 ・ADの剤との体系使用

ドキュメント内 平成29年度植物防疫研究課題の概要 (ページ 60-63)